四宮総司は変えたい   作:もう何も辛くない

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この回でキャラ崩壊のタグを回収します。まあ、あのキャラクターはまだ詳しく描写されていないため、キャラ崩壊もないのですが、念のためにタグを付けています。


四宮○○は仲良くしたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すでに何度も言っているが、総司にとって夏休みは繁忙期である。日曜日を除いた週六日は全て仕事に忙殺され、勉強する事すら出来なくなる日が発生するくらいである。

 

 そんな総司は今、自分の意思とは関係なく震えていた。

 PCにある一つの情報を…、いや、それは少し語弊がある。PCに何もない事を見て総司は体を震わせていた。

 

 総司はカレンダーを見る。今日は日曜日でない事を確認する。視線を外す。もう一度見る。結果は変わらない。視線を外す。もう一度見る。結果は変わらない。

 

「…」

 

 今度は総司は自分の頬を引っ張り始めた。

 痛覚はある。つまり、これは夢ではない。日曜日でないのに、仕事がない。

 

「何で!?」

 

 動揺する総司。実は、これまで何度か何故か仕事が送られて来ない事はあった。そういう時は決まって理由があった。

 

 ある時は素直に総司に休みが与えられたから。

 ある時は仕事以外に総司にやらせたい事があったから。

 そしてある時は──────

 

「総司様。お入りしてよろしいでしょうか」

 

 扉をノックする音。そして扉の向こうから総司を呼ぶ声。その声は、余り総司にとって聞き馴染みのない声だった。

 

「入れ」

 

 先程の動揺を抑え、扉の向こうにいるであろう人物に声をあげる。

 

 扉がゆっくりと開かれる。そこに立っていたのは二人の男女だった。

 白髪の老いた男と、男とは違い若い女。どちらもスーツを身に纏い、総司に対して礼をとっていた。

 

「失礼します。雁庵様がお呼びです。かぐや様と共に、京都の本邸までお越しください」

 

 そしてある時は──────仕事を寄越す本人が、何らかの用事で総司を呼び出す時である。

 

「そうか、解った。下がれ。これから着替える」

 

 総司が言うと、二人の使用人は何も言わずにお辞儀を残して部屋を去った。

 総司はすぐにクローゼットから黒の正装を取り出してベッドの上に放る。

 

「…また何て悪いタイミングで呼び出すんだよ」

 

 部屋着を脱ぐべく裾に手をかけ、総司はポツリと呟いた。

 思い出すのは昨日の夜に見せたかぐやの笑顔である。明日、つまり今日。藤原姉妹と白銀妹と四人で買い物に往くのだと、物凄くウキウキした笑顔で語っていたかぐや。

 そんなかぐやを見て、買い物には参加しない総司もつられて嬉しくなったものだ。

 

 きっと、あの使用人達は今頃かぐやにも総司と同じ事を伝えているはずだ。かぐやのあの無邪気な笑顔が、失望に染まっている頃だ。

 

「…糞親父が」

 

 どういう意図があるにせよ、さすがに一言言ってやらねば気が済まない。総司は固く決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 京都にある四宮本邸。京都市上京区に位置し、その中でも京都御所と程近いという位置に屋敷を構えている。

 東京ドーム数個分の面積を誇る敷地の多くは庭が占めており、庭の中心に四宮の屋敷が建てられている。

 

 東京から車で約七時間。すっかり日は暮れ、辺りは暗くなり始めている。そんな時刻にようやく本邸に着いた総司、かぐや、お付きとしてついてきた赤木と早坂は本邸に勤める使用人に案内された部屋にて父であり四宮当主、雁庵が来るのを待っていた。

 

「何て顔してんだよ」

 

「…総司」

 

 この部屋に案内されてからすでに一時間が経過していた。その間、ずっと緊張感に満ちた固い顔をしているかぐやに総司は声を掛ける。

 

「ったく、呼び出した本人が遅刻とかマジ腐ってるよな。よっ、と…。ほら、かぐやも足崩せよ」

 

「…」

 

 明るい声でかぐやに話し掛けながら、正座を解いて胡座をかく総司。

 しかしかぐやの表情は優れないまま。正座もそのまま、総司に声を掛けられて上げた顔も再び俯かせてしまう。

 

「…」

 

「っ」

 

 その時だった。僅かに開いた襖の外から、ゆっくりと足音が近付いてくる。

 総司は黙ってそちらを向き、かぐやは俯いたまま息を呑んだ。

 

 足音は近付いてくる。それと同時に、何か棒状の物が床を突くような、そんな音も近付いてくる。。

 

「お…お父様…っ」

 

 襖の隙間から、真っ白の着物を着た老人が見えた。老人は黙って部屋の前を横切ろうとして、そこでかぐやの声を聞いて立ち止まった。

 

 この老人こそ、総司とかぐやの父であり四宮家当主、四宮雁庵である。

 

「ああ、居たのか」

 

 雁庵はかぐやの呼び掛けに短くそう答えた後──────

 

「総司。今すぐ私の部屋に来い。かぐや。ご苦労だった」

 

 簡潔にそう言い残して去っていく。再び鳴り出す床が軋む音。

 

「──────」

 

 かぐやは立ち去る父に、何も言う事が出来ない。何故自分を呼び出したのかを聞く事も。本当は来たくなかったと本音を言う事も。

 かぐやは尻込みしてしまう。

 

「こんな場所まで呼び出して、かぐや様にはそれだけですか。…くたばれ糞爺」

 

「…」

 

 かぐやと静かな怒りを露にする早坂を見回してから、総司はため息を吐いて立ち上がり、雁庵が見えた方から部屋を出る。

 

「きゃっ!そ、総司?」

 

 だが部屋を出る前に、またまた俯いてしまったかぐやの頭を撫で回した。グシャグシャと髪を掻き乱されたかぐやは短い悲鳴を上げてから、不思議そうに総司を見上げる。

 

「すぐ戻ってくるから。赤木、お前はかぐやと早坂と待ってろ」

 

「承知しました」

 

 かぐやに笑顔で一言掛けてから、総司はついてこようとした赤木に二人と待つよう命じてから今度こそ部屋を出る。

 

 先に戻った雁庵の姿はすでになく、総司は先程雁庵が歩いていった方へと歩き出す。

 

 縁側を歩いていき数十秒、総司はとある障子の前で立ち止まると腰を下ろして正座をする。

 

「お父様、総司です」

 

「入れ」

 

 中からしゃがれた男の声がしてから、総司はゆっくりと障子を開ける。正座のまま膝歩きをし、部屋に入ってから背を部屋の主に向けないようにして、先程開けた障子を閉める。

 

「…」

 

「…」

 

 部屋の主、雁庵は部屋の中央で座布団の上に正座をして総司を待っていた。雁庵の前にはもう一つ、座布団が用意されている。そこに座れという事だろう。

 

 総司はそこまで移動し、改めて座布団の上に正座をして雁庵の言葉を待つ。

 皺にまみれながらも威厳があるその顔を上げ、雁庵はまず第一声を口にした。

 

「早坂の娘にくたばれ糞爺とか言われたんじゃが。酷いと思わんか?」

 

「事実だろうが」

 

「爺はそうじゃけど、糞は余計と思わんか?」

 

「思わん」

 

「…末の息子が反抗期で辛い」

 

 威厳は一体どこへやら。その口から出てくるのは世間が四宮雁庵に抱くイメージからは掛け離れた台詞の数々。

 すっかり慣れた総司はため息一つで済むが、仮にこの場にいるのが総司ではなくかぐやならば、恐らく信じられぬ余り気絶していた事だろう。

 

「大体かぐやは今日友達と遊びに行く予定だったんだぞ。何で今日呼び出したんだよ」

 

「え、何じゃそれ。早く報せてくれれば後日にしたのに」

 

 目を丸くする雁庵。もう何度目かのため息を吐く総司。

 

「あんたさ。かぐやと仲直りしたいんなら早く本音で話せよ。今回だって俺だけじゃなくかぐやも呼んだのは顔を見たかったからなんだろ?」

 

 そう、そうなのである。この四宮雁庵という男は親バカなのである。それも総司とかぐやの母に瓜二つのかぐやをかなり溺愛している。

 

 それなのに、実際にかぐやを前にするとあの態度である。それは何故か。

 

「そんな事出来る筈なかろう」

 

「…一応聞こうか。何でだよ」

 

「そんな事をしたらワシがかぐやと仲良くしたくて堪らないみたいじゃろうが!」

 

「…ホント、何でこんな似た者親子が擦れ違ってんだろ」

 

 何処かで聞いた事のある台詞である。

 そう、この雁庵とかぐやはかなり似ている。外見ではなく、中身が。

 意地っ張りで、されどどこかポンコツで。無論、そのポンコツっぷりを表には全く出さない雁庵とそうではないかぐやの差はあるが。

 事実、雁庵がこんな風に本音で話すのは今では総司だけである。それ以外には完璧に猫を被っているのだ。

 

「実際そうだろうが。もう今日の内にかぐやと話せよ」

 

「嫌じゃ。かぐやが来ない限りワシゃ動かんぞ」

 

「…めんどくさ」

 

「おい、親に向かって何て言い草だ」

 

 腕を組み、完全に意固地になった雁庵に聞こえない様に呟いたつもりだった。だが、今の総司よりも離れた所にいた早坂の呟きすら耳に捉えるこの男の地獄耳からは逃れられなかった。

 

 まあ、総司は無視するだけなのだが。

 

「で?父様が動く気ないのはもう解ったから。本題に入りましょうよ」

 

「…仕方ないのう。じゃあ、まずはこれだ」

 

 先程までの緩んだ表情を引き締めた二人の間に流れる空気が冷えていく。

 そこから始まったのは、四宮家当主と次期当主による意見交換だった。

 

 あまり売上が奮わないある子会社の経営に介入するか否か。

 四宮の系列に加わりたいと申し出ているある会社を受け入れるか否か。

 四宮とは別のグループとのパイプを更に繋げるか否か。

 

 残念だが、すぐに戻るというかぐやとの約束は守れなさそうだ。思いの外白熱する二人の論戦は長い間続き、気付けば時計が一時を差すまで二人は話を止めなかった。

 

「む…。もうこんな時間か」

 

 先に時間に気付いたのは雁庵だった。時計を見上げ、そう口にする。続いて総司も時計を見上げ、今の時刻を目にしてからぐるぐると腕を回して肩を解す。

 

「大方方針は固まった。これでいくが、それで良いな?」

 

「ん。文句はないぞ」

 

 雁庵に返事を返してから、総司は体を伸ばす。さすがに長時間正座のままというのは相当きつい。それでも慣れている分、以前よりはずっとマシだが。以前の総司なら、足の痺れでしばらく立ち上がれなかっただろう。

 だが今は違う。今はたとえ足が痺れていても立ち上がれる様になった。別に足が痺れなくなった訳ではない。それについてはもう総司はどれだけ慣れても無理だと諦めた。

 

「総司」

 

 もうこれで話は終わった。立ち上がった総司は部屋を出ようと障子の取っ手に手を掛け…た所で雁庵に呼ばれた。

 

「相馬が動き出した事は、もう掴んでいるな?」

 

 振り返った先には、鋭い視線を総司に注ぐ雁庵。

 総司はそんな雁庵に表情一つ変えず、一度頷いた。

 

「あぁ。ただ、それが兄上の指示なのかそれとも独断なのか、そこまではまだだけど」

 

「そうか。そこは私もまだ掴んではいない。まあ、掴んでいても教える気はないが」

 

 自分の力で何とかしろ、という雁庵の声が声に出さずとも聞こえてくる。四宮家の当主になるのならば、四宮を変えるつもりでいるのなら、その程度自分で何とかして見せろ、と。

 

「解ってるさ。…それより父様。さっき早く報せろって言ってたから今言うけど、二十日にかぐやは生徒会のメンバーで祭りに行くからな」

 

「…そうか」

 

 その会話を最後にして、総司は部屋を出る。雁庵からの返事は小さく短いものだったが、これでまた急な呼び出しでかぐやが友人との外出が出来なくなる、なんて事はないだろう。

 

 総司はこの時、そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

「なりません」

 

 だが、現実とは残酷なものである。




はい、○○に入る二文字は雁庵でした。
さすがにタイトルに雁庵って載せちゃうとネタバレにも程があるので伏せておきました。

という訳で、この小説でのご当主のキャラはこんな感じで進めていきます。

追記)
四宮本邸の場所についてですが、完全な私による独自設定です。公式設定ではありません。もし何か公式にて四宮本邸の場所を示す設定があって、それが私が書いた場所と違っていたらメッセージで教えてください。感想でだと規約違反なので。
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