四宮総司は変えたい   作:もう何も辛くない

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この回の文字数、3344字。

別に何て事はありません。ただ綺麗な並びだな~と思って前書きに載せただけですよ?(すっとぼけ)


藤原千花は会いたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 九月一日。この日を彼女はどれだけ待ち望んでいた事か。

 夏休みが楽しくなかった訳ではない。家族で行った旅行は楽しかったし、生徒会メンバーで見た花火は一生の思い出として胸に刻まれた。

 

 だが一つ。一つだけ物足りなかった。

 この夏休み中、一度もある人物に会えなかった事である。

 その人物とは友人で、でも彼女はその人物に対して友人以上の感情を抱いていて。

 休み中、何度かメッセージのやり取りをした。旅行で撮った写真を送ると、楽しそうだな、と返事が来て。たったそれだけの事で心踊らせた。

 

 しかし、一ヶ月の間その彼とは一度も顔を合わせる事はなかったのである。生徒会メンバーで行くと約束した夏祭りでもしかしたら、と期待していたのだが結果彼は来ず。

 結局夏休みの間、その人物とは会えず仕舞いに終わってしまった。

 

 そして今日。夏休みが終わり、新学期が始まる日。本来は、夏休みが終わってしまった現実に絶望する多くの学生が死屍累々で登校する中でこの少女、藤原千花はうっきうきで胸踊らせながら登校するのである。

 

 学校の敷地内に入ってから、藤原は視線を周囲に巡らせ始める。無論、彼、すなわち総司の姿を探すためである。

 

「いない、かぁ…」

 

 しかし総司の姿は見当たらない。総司、かぐやの登校時間は毎日大体同じなのだが、登校途中の道路状況等の理由で前後する事はある。

 まだ来ていないか、はたまたすでに教室にいるか、藤原は登校中に総司に会う事は出来なかった。

 

 ならばと総司のクラスの教室に突撃しようかとも一瞬考えるが、朝礼の時間を考えればたとえ総司に会ったとしても、ゆっくり話す時間はない。

 

 やむを得ず、藤原は朝に総司に会う事を諦めたのだった。

 

 ならばと藤原は昼休みを狙う。この時間ならば時間の余裕はたっぷりあるし、お弁当を一緒に食べようと誘えば自然な流れで二人の時間が作る事が出来る。

 

 筈だった。

 

「千花ちゃん!一緒に食べよー?」

 

「え…」

 

 それはいつも一緒にお昼を食べている友人達からの誘いだった。いつもならば飛ぶが如く勢いで誘いを受け、一緒に食べている所。

 だが今日は──────

 

『ごめんなさい!今日はもう約束してる人がいて…』

 

『そっかぁ…。それなら仕方ないね。今度は一緒に食べようね?』

 

 完璧な流れである。藤原は友人が多い。藤原の言葉を疑う余地はない。

 

「──────」

 

 しかし藤原は思い直して動かそうとした唇を止める。以前のある出来事を思い出したからだ。

 

 そのある出来事とは、総司と二人で行った勉強会中に起こった事である。初め、藤原と総司は図書館で勉強をしていたのだが、その姿を見られ、ちょっとした騒ぎになったのである。

 

 今、総司を昼食に誘い、もし二人でお弁当を食べている所を見られたら?瞬く間に話は広がり、当然友人達の耳にも入るだろう。

 そうなれば、どうなるか。

 

『え?千花ちゃんが言ってた人って総司様の事だったの!?』

 

『そういえば前に千花ちゃんと総司様が二人で勉強してたって噂を聞いたけど、もしかして…』

 

『千花ちゃん…。もしかして、総司様の事…』

 

 ラブ探偵と自称し、他人の恋話に首を突っ込みまくった女が思う事ではないが、恥ずかしい事この上ない。さすがに駄目だ。これはまずい。

 

「…はいっ!一緒に食べましょう」

 

 了承するまで少し間が空いてしまったが、友人達は藤原を怪しむ素振りも見せず机の位置を移動し始める。

 

 結局、藤原は昼休みにも総司に会う事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も藤原は総司に会う事はなく放課後を迎える。藤原はもう、我慢の限界だった。

 帰りのホームルームを終えるとすぐに教室を出て、総司のクラス、E組の教室がある方へと視線を向ける。E組の教室前ではすでに生徒が教室から出てきており、早い者は階段を降りていく姿まである。

 

「っ」

 

 藤原はすぐに駆け出した。生徒会の一員として、学校のルールを率先して守らねばならない立場ではあるが、時に人にはルールよりも優先しなければならなくなる場合がある。

 藤原にとってそれは今なのだ。

 

 総司はたまに生徒会を手伝いに来てくれるが、それは何らかの行事の前など、どうしようもなく生徒会が忙しくなる時だけだ。まあ行事の前でなくとも来てくれる時もあるが、決して頻度は多くはない。

 そして今、生徒会には急ぎの仕事はない。ならば総司が放課後にとる行動はほぼ一つ。帰宅である。

 

 階段を急いで駆け降りる。走る藤原を何事かと驚いた様子で生徒達が視線を送ってくるが、構わない。藤原は総司が向かったであろう生徒玄関へとひたすらに急ぐ。

 

「っ、総司君!」

 

 一階へと降りて正面が生徒玄関である。藤原はその姿を見つけ、立ち止まる。

 

 下駄箱の扉を開け、外靴を取り出そうと手を伸ばした総司が藤原の方へと振り向く。

 大声で名前を呼ばれた事に驚いたのか、それとも息を切らして自分を見る藤原の様子に驚いたのか、はたまたその両方か。動きを止めた総司は目を見開いていた。

 

 藤原は再び、先程よりはスローペースではあるが走り出し、総司の前で立ち止まる。

 

「はぁ…はぁ…。そ、総司君…」

 

「おう。…大丈夫か?」

 

「は、はい…」

 

 藤原は運動能力が低い訳ではないのだが、さすがに三階から一階まで全力疾走で駆け降りるのはきつかった。

 藤原は両膝に手を突いて、必死に息を整える。そんな様子を見た総司が心配そうに声を掛ける。

 

 藤原の息が整うまで総司は黙って待ってくれた。

 改めて藤原は顔を上げ、総司に口を開──────

 

「…藤原?」

 

 さて、何と話し掛ければ良いのだろうか。

 いや、藤原も今日一日過ごす中で総司に話し掛ける方法を何パターンか考案していた。

 していたのだが、悲しい事に全て忘れ去ってしまったのだ。総司の姿を見た瞬間に。

 

 夏休みの間、総司に会えない日々を送っていた藤原。そんな藤原は今日、この瞬間、総司の姿を見つけてテンションがガンアゲでキマってしまったのだ。

 記憶が飛んでしまうのも無理はない。ないといったらないのである。

 

「え、と…。あの…」

 

 話し掛けたは良いものの、言葉が出てこない。これは中々にきついものがある。特に想いを寄せる相手の前だと。

 とにかく何か言わなければ。首を傾げる総司を見て更に焦る藤原。だからだろうか。暴走する思考は藤原の本音を抑える事が出来なかった。

 

「夏休みの間、会えなくて寂しかったです」

 

「…」

 

「…」

 

 黙り込む総司。自身が言った事を自覚し同じく黙り込む藤原。

 藤原の顔がみるみる内に赤く染まっていく。

 

 何を、何を言っている。これではまるで告白の様ではないか。藤原の思考が更に混沌と化す。

 どうする。どうすればいい?考える藤原だが、彼女は解っていなかった。目の前の男は、四宮総司(鈍感系主人公)なのだ。

 

「そういや、夏休み中藤原とは会わなかったな。てか俺は全くと言って良いほど外に出てないけど」

 

「…」

 

 呑気にあっはっは、と笑う総司をしらーっとした目で見る藤原。

 

「…何でせうか藤原さん」

 

「いいえ、何でもありません」

 

 いや、こんな形で気持ちを知られずに済んだのは幸いなのだが、ここまで見事な完全スルーを披露されるとそれはそれで複雑である。

 

「これは喜ぶべきなんでしょうか。それとも怒る所なんでしょうか…。うぅ~…」

 

「…あの、やっぱ何か悪い事した?」

 

 再び藤原に問い掛ける総司。とにかくあんな形で告白してフラれるという最悪の結果だけは避けられたのだからと藤原は自分を納得させる。

 これで良いのだ。これで。

 

「いえ、何でもないですよ?それより総司君はもう帰るんですか?」

 

「あぁ。今日はちょっと早めに帰らなきゃならん」

 

「そうですか…。それなら生徒会室に一緒には行けませんね」

 

 本当はもっと引き留めて話がしたい。しかし総司には総司の事情がある。特に、四宮家の次期当主としての仕事があるのだから、個人の感情で邪魔をしてはならない。

 

「…後一ヶ月で生徒会も解散だからな。暇があったら顔を出すよ」

 

「本当ですかっ?」

 

 総司の言葉に、両手を上げてわーいと喜ぶ藤原。

 

「約束ですよ、総司君?」

 

「あぁ。約束は守る」

 

 今日の藤原と総司の交流はここまでだった。二人はまた明日、と挨拶を交わして別々の方向へと歩き出す。

 

 もう、朝のような虚無感は胸に無かった。藤原は満たされた気持ちを胸に、スキップしながら生徒会室へと向かう。

 

 これは、藤原がかぐやに撃墜される十分ほど前のお話である。




もう何も辛くないは殴りたい(鈍感系主人公を)part2
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