四宮総司は変えたい   作:もう何も辛くない

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リスクなくして成功はないと思うんですよ。リスクを冒してこそ大きな成功を掴めると思うんです。なのでこれは仕方のない事なんです。

つまり何が言いたいのかというと、我慢できませんでした。圭ちゃんが可愛すぎるのが悪い。


白銀圭は諦めない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウインドウショッピング~!今日は秋物しこたま揃えちゃいますよ~!」

 

 髪を二つのヘアゴムで纏めてピッグテールにした女の子、藤原千花の妹である藤原萌葉がテンション高めで両手を広げて言う。

 

 いや、揃えたらそれはウインドウショッピングとは言わないのではなかろうか。というツッコミは藤原にとられてしまう。

 萌葉は藤原のツッコミを流しつつくるくると踊っている。

 

 街中にあるとある場所。若者が待ち合わせ場所として良く使うその場所に彼女らは来ていた。

 人数は四。その内二人は藤原千花、萌葉の姉妹。そして残る二人は四宮かぐやと白銀圭の四人である。

 

 今日彼女らが集まったのは、元々は夏休み中に予定していたが、かぐやの事情でお流れになってしまったウインドウショッピングをするためである。

 恐らく、ウインドウショッピングはそう時間が経たない内に終わりを迎えそうだが。

 

(ようやくこの日が来た…!)

 

 移動を始める四人。

 その中で、かぐやは前方を歩く圭の背中に視線を向けた。

 

 かぐやはこの日を待ちわびていた。これは圭と仲良くなる絶好のチャンスである。それと同時に、かぐやは圭からある事を聞こうと考えていた。

 

 今日の日付は九月七日。この二日後である九月九日にはかぐやにとって、何事よりも優先して行わなければならない事があるのだ。

 九月九日、すなわちその日は、白銀御行の誕生日である。かぐやは何としても、白銀の誕生日を祝わなければならないのだ。

 他人の誕生日を祝うのに最も手っ取り早い方法は、プレゼントを渡す事だ。しかしかぐやは白銀がどんなプレゼントを欲しているか計りかねていた。

 

 そこで、目の前にいる白銀圭である。

 白銀の妹である彼女ならば、どんなプレゼントを贈るべきか解るはず。

 

 圭ともっと親しくなる。圭に白銀への誕生日プレゼントのアドバイスをもらう。二つの目的を胸にいざ、かぐやのウインドウショッピング(笑)が始まった。

 

 しかしかぐやの思惑は全く進まなかった。

 

 移動中は圭の隣は藤原がキープし、以降もかぐやは積極的に圭の傍へ行く事は出来ず、時間だけが過ぎていく。

 デパートに着いてからはゲームセンターで遊び、プリクラを撮り、小物を見て、カフェでお茶をした。

 

 その間、特に何もなかった。

 

(上手くいかないわね…)

 

 かぐや達はある洋服店へ来ていた。だがかぐやの服は全て使用人が用意したものであり、自分で服を買った事のないかぐやには勝手が解らない。

 かぐやは店を出て、店の前のベンチに腰を下ろして三人の買い物を待つ事にした。

 

「──────」

 

 かぐやがベンチに座ってすぐだった。綺麗な長い銀髪が、かぐやの視界の横で揺れたのは。

 

(横顔…、会長にそっくり)

 

 かぐやの隣に腰を下ろしたのは圭だった。優雅な仕草で髪をそっとかき上げるその姿は美しく、同性のかぐやですら見惚れてしまう程だった。

 更に仕草だけではなく、圭の横顔が想い人と良く似ている所もまた目を奪われる要因となっていた。兄妹なのだから当然ではあるのだが。

 

「あの…」

 

「は、はい!どうかしましたか、妹さん!」

 

 圭の横顔に見惚れている最中、不意に声を掛けられたかぐやはついテンパってしまう。

 

「妹さん?」

 

「あっ、何て呼べば宜しいでしょうか?白銀さんだと会長と区別つきませんし…」

 

「圭で良いですよ。年上なんですから」

 

「じゃあ、圭さん」

 

「圭」

 

「圭ちゃん…」

 

「圭」

 

「け、圭…」

 

「はい」

 

 押しの強さに負け、下の名前での呼び捨てをする事となってしまった。別に嫌ではないしむしろ望む所なのだが、もっと段階を踏んで仲良くなるつもりだったかぐやは戸惑ってしまう。

 ただでさえ、人の下の名前を呼び捨てするなんて総司以外では初めてだというのに。

 

「あの、かぐやさん、と呼んで良いですか?」

 

「あっ、はいっ。勿論」

 

「それでは、かぐやさん。私、かぐやさんに聞きたい事があるんです」

 

 呼び捨てし合う仲にまで進展した事に喜ぶのも束の間、圭が自分に聞きたい事という何かに意識を切り替え、耳を傾ける。

 

「はい。何でしょう?」

 

「その…、いきなりこんな事聞くのは変だと思われるかもしれませんが…。四宮…総司さんについて聞きたくて…」

 

「総司?に、ついてとは…」

 

 果たして圭が聞きたい事とは、と構えたかぐやだったが、予想外の質問が掛けられ、つい首を傾げてしまう。

 

「はい。その、好きなものとか趣味とか、そういう事を…」

 

「…」

 

 何故そんな事を?と聞き返しはしなかった。それがしてはならない事だとかぐやは悟った。

 頬を赤く染め、必死に言葉を絞り出した圭の質問に素直に答えるべきだとかぐやは感じ取ったのだ。

 

「総司の好きなもの、趣味ですか…」

 

 口許に手を当てて考える。総司の好きなものはすぐに思い付いた。しかし、総司の趣味。これについてはかぐやですら良く解らない。

 というよりまず第一に、総司に趣味に割く時間なんて無いのだ。かぐやも多忙な毎日を送っているが、総司はそれ以上である。そんな総司が、趣味を持っているとすら思えない。

 

「総司は辛いものが好きですよ。たまに激辛ラーメンを食べに行ってるくらいですし」

 

「辛いもの…、ラーメン…」

 

「それと趣味ですが…、申し訳ありません。総司の趣味は私でも解らないの。何しろ総司は毎日忙しいですから。もしかしたら、私の知らない趣味があるのかもしれませんが…」

 

「いえ、謝らないでください!」

 

 総司は辛いものが大好物である。何なら、辛党が行き過ぎて甘いもの、特にケーキ等のお菓子は苦手ですらある。

 そしてかぐやの言う通り、授業がない且つ仕事のスケジュールに余裕がある日限定で行きつけのラーメン屋に行っているのも事実である。

 ただ、行きつけのラーメン屋があるのは本当だが、他の激辛料理を出す店にも総司が足を運んでいる事はまだかぐやは知らない。

 

 そして総司の趣味については良い答えを出せない事を謝る事しか出来ない。

 頭を下げて謝罪するかぐやに、圭は慌てたように両手を振る。

 

「本当は本人に自分で聞くべき事なのに、その勇気がない私が悪いんですから…。かぐやさんが謝る事じゃありません」

 

「圭…」

 

 目を伏せ、しょんぼりと落ち込む様子を見せる圭。

 可愛い、という率直な感想は呑み込み、かぐやは笑顔を浮かべて圭に声を掛ける。

 

「圭。あなたもしかして、総司の事が…」

 

「っ!わ、解ってます!私なんかが好きになって良い相手じゃない事は!でも…「何を言ってるの?」え?」

 

 かぐやが言い切る前に発した圭の台詞が、かぐやの予想が正しい事を証明した。

 しかし、どうやら圭は勘違いをしている様だ。かぐやは圭の台詞を遮って口を開く。

 

「好きになっちゃいけない相手なんていません。圭、貴女は総司の事が好きなのね?」

 

「か、かぐやさん…。私は…」

 

「…」

 

「…はい。好き、です」

 

 両手で拳を握り、握った拳を両膝に置いて縮こまる圭。恥ずかしそうに頬を染める姿はかぐやの頭をピンク色に染めるには充分すぎる威力だった。

 

 だが可愛いという素直な感想は胸に秘める。

 

「圭。私はね、他にも総司の事を好きな人達を知ってる。それもその人達は私にとって、とても大切な人達なの。だから、貴女だけに肩入れは絶対に出来ない」

 

「…」

 

「でもね、もし貴女がそんな程度の事で諦めるつもりなら、私は全力で止めるわ」

 

「かぐやさん…」

 

 かぐやの信念の籠った視線から、圭は目を逸らさなかった。先程まで揺れていた表情は、決意に満ち、唇は引き締まる。

 

 どうやら、もう圭に言うべき事はないらしい。

 

「かぐやさーん!圭ちゃーん!お待たせしましたー!」

 

「お姉ちゃん、待ってー!」

 

 藤原が店から出てきたのは二人の会話が丁度一段落した時だった。しかし出てきたのは藤原だけで、萌葉はまだ店の中の様だ。

 

 萌葉はすぐに店から出てきたが、不自然な程に荷物を持っていた。そして藤原は全く荷物を持っていなかった。

 

「どうしたのお姉ちゃん…?いきなり『嫌な予感がします!』とか言ってお金だけ置いてお店出ちゃって…」

 

「…何ででしょう?」

 

 首を傾げる藤原。どうやら勘で新たな恋敵の出現を察知したらしい。

 

(この子は…、本当に読めないわね…)

 

 一筋の汗を流すかぐや。藤原との付き合いは長いが、未だに藤原の全容を掴めていないし、これから先掴める気もしてこない。

 普段は天然でゆるふわでポンコツなのに、時に屋敷を歩く早坂の仕草だけで正体を見抜く観察眼を発揮する。

 本当の藤原は一体どちらなのだろうか。

 

(…まあ、どっちも本当なのでしょうけど)

 

 疑問の答えは簡単に出た。両方本当である。それでこそ、藤原千花なのだ。明らかに矛盾のある答えだが、かぐやには妙にしっくり来た。

 

「さあ、次のお店に行きましょう!」

 

 そう高らかに告げながら歩き出す萌葉に続くかぐや達。

 

 そうして、彼女達のウインドウショッピング(笑)は続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かぐやが藤原姉妹と圭と一緒に遊びに行ったその翌日。いつもの時間にかぐやと共に登校する総司。送迎車から降り、正門から学園の敷地内に入る。

 

「かぐや…。いい加減機嫌直せよ」

 

「…」

 

 だが二人には一つ、いつもと違う点があった。

 そう、かぐやの機嫌が悪いのである。

 

 昨日、藤原達と遊びに行ったかぐやはほくほく顔で帰ってきた。どうやら相当楽しかったらしい。その日の夕食で、また遊びに行こうと約束したと嬉しそうに教えてくれた。

 なのに今日になってこの機嫌の落ちようである。

 

 聞いてみたら、何やら早坂に悪戯されたらしい。その内容は恥ずかしがって教えてくれなかったが。

 何だかんだ単純なかぐやである。ここまで引き摺るという事は、早坂は相当かぐやに効く悪戯をしたのだろう。何をしたかは知らないが。

 

「総司くーん!かぐやさーん!おはようございますー!」

 

 さて、どうやってこの可愛い妹の機嫌を直そうかと考えていた時、背後から二人を呼ぶ声がした。二人は立ち止まって振り返る。

 

「藤原。おはよう」

 

「おはようございます、藤原さん」

 

 こちらに駆け寄ってくるのは藤原。柔らかい笑顔を浮かべる藤原は二人の前で立ち止まった。

 

「んー?どうかしたんですか、かぐやさん?顔が怖いですよ?」

 

「…いえ、別に。何でもありませんよ」

 

 かぐやが藤原に笑顔を向ける。機嫌が完全に直った訳ではないのだろうが、藤原の笑顔に毒気を抜かれたのだろう。藤原の笑顔を見てると何故だが癒されるのだ。

 

「そうだ総司君!かぐやさんに聞きましたか?昨日の事」

 

「ん、あぁ。凄く嬉しそうにかぐやが話してくれたよ」

 

「え?本当ですか!?」

 

「総司!」

 

 恥ずかしげに総司を一喝するかぐや。嬉しそうにかぐやが何て話していたかを総司に問う藤原。

 

「四宮先輩!」

 

 そして、前方から聞こえてくる少女の声。三人が同時に、同じ方向へと視線を向ける。

 

 視線の先に立っていたのは綺麗な長い銀髪を靡かせる、中等部の制服を着た女子生徒。

 

「あ、圭ちゃん!おはよう殺法!」

 

「はい!おはよう殺法返し!」

 

(え、何その挨拶。殺法付ける意味あんの?普通におはようで良くない?)

 

 謎の挨拶を交わす藤原と女子生徒。総司はその女子生徒に見覚えがあった。

 

「えっと…、確か、そう。白銀の妹の…圭さん、だっけ?」

 

「あ…はいっ。圭、で良いですよ」

 

「そうか、それなら圭さん」

 

「圭です」

 

「?圭さん」

 

「圭」

 

「…圭さん?」

 

 何故かかぐやがジト目で見てくる。あと、何故かため息を吐く圭も総司にはよく解らなかった。

 

「…圭ちゃん?どうして高等部に?何か用があるんですか?」

 

「はい、そうなんです。四宮先輩にお願い事があるんですが…」

 

「…あ、俺に?かぐやじゃなく?」

 

「はい。かぐやさんじゃなく、その…総司さんに」

 

 初め、圭が言う四宮先輩はかぐやを指していると思っていたのだが、圭の視線が自分を向いているのに気付く総司。

 

「あの、授業で解らない所があって…。教えてもらえないでしょうか…?」

 

「うん、別に良いけど…。白銀に聞いた方が早いんじゃないか?」

 

「そうですよ圭ちゃん?総司君は忙しいんですから、あまり時間をとっちゃ駄目ですよ?」

 

「…でも千花姉は前に総司さんに勉強見てもらってたんだよね。中等部まで噂届いてるよ」

 

「…」

 

「…」

 

 何故か睨み合う藤原と圭の二人。

 

 あれ、二人って仲良いんじゃないの?さっきあんなに楽しそうに謎挨拶を交わしてたのに。どうしてこうなった?

 

「本当、何と罪深い…。総司、貴方の事ですからね?」

 

「何故だ」

 

 更にかぐやに見捨てられた。先に行きます、と歩いて行ってしまった。待って、見捨てないで。助けてくれ。

 総司の心の叫びはこれっぽっちもかぐやに届かなかった。

 

「ふ、二人とも落ち着け。こんな所で喧嘩するな、な?」

 

「総司君はどうするんですか?」

 

「そうです。総司さんが選んでください。私に勉強を教えてくれるかくれないか」

 

「…」

 

 いや、本当にどうしてこうなった。マジで誰でも良いから助けてくれ。

 

 かぐや。白銀。石上。早坂。赤木。父様。何ならこの状況から救ってくれるなら黄光兄上でも良い。相馬でも許す。

 

 しかし現実は無情。誰も総司を助けてくれない。

 

「…放課後、こっちの生徒会室で良いか?」

 

「…はい。今日のところはそれで許してあげます」

 

 え、生徒会室じゃ不満なの?何が?どこが?あと、また、来るつもりなのだろうか。

 

「圭ちゃん…」

 

「千花姉。私、負けないから」

 

「うぅ~…、ただでさえ強力なライバルが…また増えるなんてぇ…」

 

 何の事かさっぱり解らないが、とにかく今のうちに逃げる…のは何だかしちゃいけない気がして総司は二人の会話が一段落つくまで待つ事にした。

 

 結局、三人は予鈴五分前になるまでそこに居続けたのだった。

 

 




手が勝手にこう書いていた。後悔はしていない。
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