四宮総司は変えたい   作:もう何も辛くない

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さすがに会長可哀想かなとも思いましたが、まあいっかと開き直って投稿する事にしました。


白銀御行は見上げたかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は十五夜だ!月見するぞー!!」

 

 総司はここまでテンションの高い白銀を見るのは初めてだった。いや、色々と振り切れた白銀は何度も見てきたのだが、純粋に楽しそうにテンションが高くなる白銀を、初めて見たのだ。

 

 生徒会室にいる他の面々も一人を除いて同じで、うさぎを歌いながら踊る白銀を目を丸くして見ている。

 ただ先程言ったが、一人だけ他の面々とは違う反応をしていた。

 

「恥ずかしい…」

 

 生徒会室のソファに座る中等部の女子生徒、白銀圭だけは赤くなった顔を両手で覆ってポツリとそう呟いた。

 

 彼女は今日、総司に勉強を教えてもらいに来たのだがその結果、兄の醜態が晒される場面に出会すという何とも言い難い事態になってしまった。

 

「突然どうしたんですか会長…。テンション高いですね…」

 

「いやなに、今夜は中秋の名月!こんな日に夜空を見上げないなど人生の損失だぞぅ!」

 

「ごめんなさい千花姉、皆さん。兄は星が物凄い好きで、良く星空鑑賞してるんです。十五夜の天気が良い事にテンションがバカになってるんです」

 

「兄に対して何て口の聞き方だ圭ちゃん!だが許そう!今日の星空指数に免じてな!」

 

「…ホント恥ずかしい」

 

 また圭が両手で顔を覆ってしまった。何というか、少し同情してしまう。

 

「でも急すぎません~?」

 

 かぽっ、とうさ耳を頭に装着しながら言う藤原。

 

 いや、そのうさ耳はどこから出した。四◯元ポケットでも持っているというのか。実は藤原はドラ◯ちゃんだったのか?

 というか可愛すぎる。危ない。もしこれが猫耳だったら総司の意識は途切れていたかもしれない。

 

「まあいいじゃないですか。僕は乗りますよ」

 

「石上?」

 

 藤原やかぐやの様子からあまり乗り気ではなさそうという印象を受ける中、石上が口を開いた。

 しかし意外だ。石上が同意するとは。最近は日中こそ残暑で厳しいものの、夜になれば秋らしく肌寒い気温となっている。

 その中で外に出ようという白銀の提案に賛成するとは。

 

「もうすぐこの生徒会も解散…。皆で無茶できるのも、これで最後かもしれないんですよ」

 

 石上が賛成した理由は単純だった。何だかんだ石上も生徒会が気に入っていたのだ。

 そんな生徒会ももうすぐ解散を迎える。そうなれば、今までのようにこのメンバーで毎日集まる機会は当然少なくなってしまう。

 残り少ない日数で、少しでも思い出を残したいのだろう。

 

 しんみりと、どこか寂寥感のある空気に生徒会室が包まれる。

 

 

「俺と圭さんは生徒会じゃないけどな」

 

 直後、総司が一言簡潔に告げる。総司の一言に続いて圭がこくこくと頷く。

 

 しんみりとした空気が霧散し、代わりに微妙な空気が生徒会室を包んだのだった。

 

「というか圭ちゃん何でいるの?」

 

「聞くの遅くない?総司さんに勉強教えてもらいに来たの」

 

「そんなの俺が教えてやるのに」

 

「兄さんより総司さんの教え方の方が解りやすいの」

 

「…」

 

 白銀は心に八十三のダメージを受けた。

 白銀は部屋の隅っこでいじけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 六時までには日没が終わり、辺りがすっかり暗くなるまでそう時間は掛からなかった。

 現在の時刻は七時。生徒会メンバー+総司と圭は学園の屋上に集まった。

 

「わーっ!意外と星見えますねー!」

 

「月のある南西側が東京湾だから都会の灯りも比較的少ない。ロケーションも悪くない」

 

 うさ耳を着けた藤原が目を輝かせて夜空を見上げる。

 

 総司も夜空を見上げて星空を眺める。あまりこうして意識して星空を見た事はなかった総司。綺麗だとは思うが、さすがに星空を見るだけというのは退屈な気がする。

 さすがに思いっきり今のロケーションを利用するだけしてやろうとほくそ笑むかぐや程ではないが。

 

「おっもちぃ♪おっもちぃ♪」

 

「お、藤原は餅を持ってきたのか」

 

「はいっ。私は花より団子、月よりお餅です!」

 

 一体どこに持っていたという疑問は問うまい。携帯コンロに水の入った鍋を載せ、ご機嫌に歌を歌いながら沸騰を待っている藤原。

 

「…?」

 

「…」

 

「…」

 

 不意にかぐやと目が合った。パチパチと瞼を開閉させてウィンクするかぐや。

 総司はかぐやのアイコンタクトを受け取る。

 

「ここじゃ風が当たる。藤原、そっちの影でやったらどうだ?」

 

「あ、それもそうですね!それじゃあ行ってきまーす!」

 

 まず一人目の隔離成功。

 かぐやの意思、白銀との二人きりの空間を作るには後二人、石上と圭をどうにかしなければならないのだが──────

 

「…僕も火の側で暖まりますね」

 

 冷たい風に体を震わせた石上は総司が何をするまでもなく勝手に藤原の所へ行ってしまった。

 これで残り一人だが。

 

「俺もあっちに行くけど、圭さんはどうする?」

 

「あ、はい。それじゃあ私もご一緒させてください」

 

 総司が誘うと圭は乗ってきた。これで任務完了である。

 心の中でかぐやへ健闘を祈り、総司は藤原、石上と圭と共に合流した。

 

「おぉ~、こっちは暖かいな」

 

「はい~!あ、圭ちゃんもこっち来たんですね~」

 

 藤原はしゃがんで未だお湯の沸騰を待ち、石上はゲームをしていた。

 月見はどうした月見は。

 

「千花姉、何か手伝う事ある?」

 

「いえ、ただお餅入れて煮るだけですから。二人とも向こうで月を見てて良いんですよ?」

 

「俺は石上と同じで寒いの嫌だからな。餅が煮終わったら皆で見ようと思う」

 

「私も総司さんと同じです。それに…、今のおに…兄さんは面倒臭いから相手したくないんでここにいます」

 

 圭の台詞に総司と藤原が、ゲームしている途中の石上も顔を上げて圭の方へと向く。

 

「面倒臭いって…。いや確かにやけにテンション高いなとは思ってたけどさ」

 

「はい。兄って子供の頃の夢が天文学の博士だったくらいに天文好きなんですよ。だから、その…。毎年十五夜の日はテンションが振り切れて…」

 

「へぇ~。会長って子供の頃は天文学を学ぼうとしてたんだ」

 

 圭の口から初めて聞く白銀の過去が語られる。

 確かにあの様子を見れば天文学を志すのも不思議ではない。というより圭の台詞が過去形だった事の方が意外ですらある。

 

「…あれ、そういえばかぐやさんは?」

 

「かぐやならまだ向こうにいるけど?」

 

 ふと辺りを見回し出す圭。かぐやを探していたようで、総司が圭の問いに答える。

 

 すると、みるみる圭の表情が微妙なものへと変貌していく。

 

「圭ちゃん、どうかしたの?」

 

「いえ…。十五夜の日の兄はテンションが振り切れてると言いましたが…。そのせいか、他人との距離感が物凄く近くなるんです」

 

 圭は過去の出来事を語り出す。それはまだ小さい頃、といっても兄妹互いに思春期には入っていた頃である。

 十五夜に圭と白銀は二人で月見をしていたらしい。そして圭は不意に白銀にこう聞いたそうだ。

 

 『秋の四辺形ってどれ?』と。すると白銀は圭の肩を抱き寄せ、夜空に指を指しながら説明を始めたのだという。

 確かに互いに向ける視線の始点が近ければ近いほど指が指す方が解りやすい。とはいえ思春期に入っていた圭。いくら相手は兄とはいえ男。異性である。というか兄だからこそ、といった方が正しいのかもしれない。

 

 圭は白銀を張り倒してしまったという。

 

「まあ、こんな事がありまして…。もしかしたら、兄がかぐやさんに迷惑掛けてないかと…」

 

「いやいや、確かに会長のテンションは振り切れてましたけど、あの四宮先輩にそんな事する程愚かじゃないですよ」

 

「…だといいんですけど」

 

「そうだよ圭ちゃん。それに会長がそんな事したのは妹相手だからだと思うよ?さすがにかぐやさんにまでしませんよ~」

 

「…」

 

 石上と藤原が二人して、さすがにかぐやにはしないだろうと断言するが、圭の表情は冴えない。

 総司も二人と同じ意見である。圭の場合は家族という事もありそこら辺の抵抗感が薄かったのだろう。だがかぐや相手はそうではない。

 

「なら、覗いてみるか?」

 

「「「え?」」」

 

「かぐやと白銀を」

 

 総司が出した提案に三人が振り向く。少しの間考えた後、三人はこくりと頷いた。

 

 総司達が影から顔を出し、二人の方を見る。そこでは──────白銀がかぐやの肩を抱き、シートの上に二人が寝転んでいた。

 

「「──────」」

 

「「えぇ…」」

 

 あんぐりと口を開けて呆然とする総司と圭。マジか、と言わんばかりに微妙な表情になる藤原と石上。

 

「…総司さん、本当にごめんなさい。兄が本当にごめんなさい」

 

「…別に圭さんが謝る事じゃないさ。それより今は」

 

「はい、解ってます」

 

 藤原、石上の視線を受けながら、二人は足を踏み出す。

 重い足取りで歩みを進める二人は、かぐやと白銀のすぐ後ろで立ち止まった。

 

「ん?二人とも、どうした?」

 

「そ、総司っ…!圭っ…!」

 

 白銀に肩を抱かれるかぐやは顔を真っ赤にしていた。一方の白銀の瞳は輝いていた。それはもう純粋に。

 

「──────」

 

 それを目の当たりにし、総司は我に返り、そして悟る。白銀はただ純粋に、かぐやに天体について知って貰いたいだけなのだと。何の下心もない、子供の如き瞳は総司を正気へと戻した。

 

 というより、あの瞳で下心を持ってたら本当に総司は誰も信じられなくなる。

 

「圭ちゃん、今回は…」

 

 許してあげよう、と続けるつもりだった。だが、その台詞を言い切る事ができなかった。

 

「この、バカ兄があああああああああ!!!」

 

「ぐほぉぉぉぁぁぁああああああああ!!!」

 

 その前に圭が白銀の腹目掛けて踵落としを食らわせていたからだ。

 

「かぐやさんに何て事してるのよ!ほんっと信じらんない!天体好きもいい加減にしろ!」

 

「ぐっ、うぁっ、け、けいちゃ、なんで、おこって、…」

 

「…大丈夫か、かぐや」

 

「…恥ずかしかった」

 

 圭が白銀に制裁を与えている間にかぐやを起こす。まだ顔が赤いままだが、瞳には正気が残っている。これなら大丈夫だろう。

 

「みなさーん、お餅が煮えましたよー。圭ちゃんもそこまでにして、お月見始めましょー」

 

 すると丁度良くというべきか、藤原が鍋を持ってこっちにやってくる。その後ろからは石上がついてきている。もうゲームはしていない。

 

 藤原は人数分の皿にそれぞれ餅を盛り、総司達に渡す。

 そうして、生徒会のお月見はスタートしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 その後、月といえばかぐや姫、という藤原の発言から白銀の暴走が始まったのはまた別の話。

 そして先程のものよりも激しい圭の制裁が白銀に与えられたのもまた別の話である。




会長唯一の救いは飽くまでテンション振り切れによる暴走であると藤原達に思われている事。かぐやが好きだとは気付かれていない事。
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