初め、ここら辺の話は飛ばすつもりでした。
ですが単行本のこの話を読み直してると今回のネタが降ってきました。
今回の話を読んで貴方は笑いますか?それとも悶えますか?
私は書いてて微笑ましく思いながら悶えてました。
今日も今日とて学校に行き、授業を熟し、いつも通りの日常を過ごす。
夕食を済ませ、お風呂から上がり、部屋へと戻ってきたかぐやは何をしているかというと。
「お見舞い、花火大会、誕生日、月見。これだけイベントがあって進展がないってどういう事ですか」
早坂から説教を受けていた。いや、その言い方は少々大袈裟かもしれないが、早坂に呆れられている事はかぐやにも簡単に悟れた。
「生徒会ももう解散するのに。ホントダメダメですね。どうしてここまで下手を打てるんでしょう」
早坂の言う事は一理あるとかぐやも思う。あれだけイベントがあって白銀に告白させられないというのは、自身に至らなさがあったのは事実なのだろう。
だがさすがに余りにド直球な早坂の言い方には不満があった。
「じゃあ何。早坂なら会長を落とせるというの?」
「まあ、恐らく」
「──────」
何かが切れる音がした。
「言ったわね!?ならやってみなさいよ!」
かぐや、キレる。
「私にかかればどんな男もイチコロって言うなら会長を落としてみなさいよ!」
「イチコロとは言ってないです」
怒りの余り周囲が見えていないかぐや。早坂の訂正はこれっぽっちも耳に届いていない。
「他人事だと思って簡単に言ってくれますけどね!実際やってみれば私の苦労も判るってものですよ!」
「イチコロとは言ってないですよ」
「えぇ、口では幾らでも言えますからね!大体早坂だって総司を落とせてないじゃないの!」
「…」
「私を花火大会に送り出した時、どうせ二人で花火見たんでしょう!?貴方だって総司とのイベントがあったのに落とせてないじゃないの!よくもまあその様で私の事を言えたわね!」
「──────」
何かが切れる音再び。
「私は使用人としての立場が制約になってます。かぐや様の様に自由にアプローチできる訳ではないんですよ」
「ふんっ、そんなの言い訳よ!その程度の事に遠慮してる時点で私に物を言う資格なんてないと知りなさい!」
「全部相手からの行動に期待して自分から動こうとしないかぐや様に言われたくありません。私に物を言いたいならまず自分から会長にアプローチしてみたらどうです?」
「そんなの出来るわけないでしょ!」
「一応聞きましょう。どうしてです?」
「そんな事したらまるで私が会長の事好きみたいじゃないのよ!」
「…ぐうの音も出ない程その通りじゃないですか」
違うわよ!とぎゃいぎゃい騒ぐかぐや。
この時、完全にかぐやは我を失っていた。
「解りました!もうこうなったらこれしか方法はありません!」
「…何をするつもりですか」
かぐやはベッドから降りたかと思うと、机の上に載った携帯を手に取る。
「総司に聞きます!私と早坂、どっちが正しいと思うか!」
更にこんな事まで言い出す始末。早坂は一瞬、余りの事に硬直してしまう。
そのタイムラグがかぐやに行動を許してしまう。
「っ、ちょっ、かぐや様!それはっ…!」
「何よ!もう第三者の意見を聞くしかないでしょう!?」
「正気ですか!?」
「これ以上ないくらい冷静よ!」
早坂はもう言葉では止められないと悟る。ならば残る手段はただ一つ、力ずくである。
早坂がかぐやに飛び掛かる。目を見開き驚いた様子を見せながらもかぐやは反応し、半身になって携帯を握った方の腕を後ろに下げる。早坂の狙いには気付いているらしい。
完全に必死である。早坂はかぐやの肩を掴み、携帯を奪い取ろうと腕を伸ばす。
一瞬、携帯の画面が見えたが、もうほとんどの文が完成している。あの僅かな時間でここまでタイピングするとは何という早業か。
「くっ、ぬっ、ぐぬっ」
「くぅっ」
呻きながら腕を伸ばす早坂と抵抗するかぐや。
やがて二人の争いは規模を広げていく。
腕を伸ばすだけでは駄目だというのなら、他の方法で隙を生むしかない。早坂はかぐやの肩を掴んでいた手を離すと、その手でかぐやの腕を力一杯引き寄せる。
「っ!」
しかしその策は上手くいかなかった。かぐやはそれにも反応し、両足を踏ん張ってその場に留まる。
ならばと早坂はしゃがみこみ、左足を回してかぐやの足下を狙う。
「きゃっ」
これは成功。早坂に足を払われたかぐやは体勢を崩す。
──────殺った!
確信し、早坂は携帯へと手を伸ばす。
だが早坂は忘れていた。かぐやは何に対しても才能溢れる天才だという事を。
「なっ」
体勢を崩したかぐやは体を反転して払われた足を床に着けて踏ん張る。その勢いのままにしゃがみ、早坂の足を払い返す。
しかしこれに早坂は反応。かぐやの足払いは早坂の跳躍によって空振りに終わる。
「…」
「…」
沈黙が流れる。睨み合う二人。そして──────
「「っ!」」
二人が飛び込んだのは同時だった。
「うるせぇぞ!少し静かに…昭和の喧嘩!?」
直後かぐやの部屋に入ってきたのは総司。二人の騒ぎは総司の部屋までしっかり伝わっていたらしい。
さすがに煩すぎたのか、入ってきた総司の顔は怒りに満ちていた、のだが。かぐやと早坂の喧嘩の様子を見てただ事ではないと思ったか、怒りの表情を収めるとすぐに二人の仲介へと向かった。
「で、何があった」
今、総司の目の前には床に正座した二人の少女がいる。一人は総司の妹であるかぐや。そしてもう一人はそのかぐやのお付きである早坂だ。
二人の頭には揃って同じ大きさのたんこぶができており、総司に拳骨を落とされたのが容易に察する事が出来る。
さて、二人の喧嘩を仲介し、鉄拳制裁ではあったが一応二人を落ち着かせた総司は改めて二人に喧嘩の理由を問う。
「「だって早坂(かぐや様)が…っ」」
「はいそこで睨み合わない」
ここまで二人がいがみ合うのは久し振りである。というかあそこまで激しく取っ組み合っているのを総司は初めて見た。相当な理由があったのだろう。
「互いの不満な所じゃなく喧嘩になった経緯を教えろよ。ほら、喧嘩になった切っ掛けは何だ。どんな話をしてた」
「…かぐや様と会長について話していました」
「それで早坂が私に言ったのよ!何でこんなにイベントがあったのに会長を落とせないのかって!」
冷静に答える早坂。ふんすふんすと息を荒げながら大声で語るかぐや。
「だから私は言ってたのよ!早坂だってそ「あああああああああああああああ!!!」」
「…」
かぐやが更に続けようとした時、早坂がかぐやに飛び掛かったり
総司は腕を組んで目を瞑る。総司の前では再び繰り広げられている昭和の喧嘩。
「…痛い」
「暴力に訴えすぎだと思います」
「自業自得だ。あと早坂、今のお前には言われたくない」
数秒後、二人の頭には一つ目のたんこぶの上に二つ目のたんこぶが重なっていた。
かぐやは涙目で俯き、早坂は無表情で総司を見上げて訴えてきた。その訴えはあっさり一蹴されたが。
「…早坂は喧嘩の理由を教えたくないのか?」
「…」
ふと総司は早坂に問い掛けた。早坂は何も答えず黙り込んでしまう。
その沈黙を、総司は是であると判断する。あの様子を見れば一目瞭然だ。理由は解らないが、早坂は喧嘩の理由を語りたくない。
それが総司にだけなのか、それとも誰にも言いたくないのかは定かではないが。
「…はぁ」
総司はため息を吐く。
嫌がるのなら無理に聞くつもりはない。だがこの優しさに甘えてまた同じ事を繰り返されても堪らない。
「次は無理矢理にでも聞くからな。そんで強制的に解決させてやる」
「…ありがとうございます」
とりあえず今回はこれくらいで許してやる事にする。それが正しいのか否か、もし間違ってたら先程言った通りにするだけだ。
「…かぐや?」
ここで総司はふと気付く。
先程からかぐやが何も喋っていない。総司はかぐやに視線を向け、苦笑を浮かべた。
「ったく、こいつは…」
かぐやは正座をしたまま眠りの世界へと舟を漕いでいた。こくこくと頭を揺らし、すーすーと寝息を立てている。
何とふてぶてしい事か。
「早坂はそっち支えろ。俺はこっちから持ち上げる」
「はい」
総司は右から、早坂は左からかぐやの肩を持ち上げてベッドに運ぶ。ベッドに寝かせたかぐやに早坂が布団を掛けて電気を消す。
物音を立てぬよう静かに歩き、二人はかぐやの部屋から出た。
何も言わずに廊下を歩く二人。もうすぐ廊下の分かれ道で二人が別れる、という所で総司は口を開いた。
「もしかしてさ。早坂って好きな人いる?」
「っっっ!!!?」
今まで見た事のない早坂の動揺っぷりだった。
何故総司がそう思ったのか、それは先の早坂によって途切れたかぐやの台詞である。
何で会長を落とせないのかという台詞に言い返したのだろうかぐやの言葉。あの時、かぐやは『早坂だって』と続けた。その後は早坂の妨害によって聞けなかったが。
早坂だって。この一言が意味するの、
そしてそれはどうやら正しかったらしい。早坂が面白いくらいに動揺している。顔を真っ赤にして口を開閉させている。
「マジか…。いや、早坂にも春が来たか…」
「あ、その、ちが…」
「で?相手は誰なんだよ?」
「…」
あれ?おかしいぞ?さっきまで顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしてたのに何故か顔の赤みが引いてその上ジト目で睨んでいるぞ?
「…ホント、兄妹揃ってアホですね」
「アホ!?」
思わぬ一言を喰らい、後退る総司。一方の早坂はため息を吐いてから廊下の分かれ道を左に進んでいく。
「あ、待て早坂!まだ話は…」
「大丈夫ですよ」
慌てて早坂を呼び止めようとする総司。
すると早坂は立ち止まり、振り返った。
ふわり、とスカートが揺れる。早坂の顔には、花が咲き乱れたと錯覚する程の綺麗な笑顔が浮かんでいた。
「私の好きな人は、とても素敵な
「──────」
そう言い残し、今度こそ早坂は立ち去っていく。
どこか足取りがご機嫌そうなのは総司の気のせいか。
どちらにしても、総司は呆気にとられてその場から動けずにいた。
「…何なんだよ、全く」
本当は早坂が好きだという男の名を聞き出し、その男について調査するつもりだった。それで早坂を任せるに値する男であれば問題なし、そうでなければ総司直々に動くつもりだった。
だが、あんな顔をされたら何も出来ないではないか。
「まあ、早坂を信じるしかないか」
とにかくこうなったら早坂の男を見る目を信じるしかない。
「…」
脳裏に先程の早坂の笑顔が過る。
何となくむず痒く感じ、頭をガリガリと掻きながら総司は部屋へと戻っていくのだった。
昭和の喧嘩。解らない人は、
かぐや様 昭和の喧嘩
で画像検索してからこの話を読み直しましょう。
ネタバレにはならないと思いますが、気にするという人は昭和の喧嘩だけで検索してもどういう情景か解ると思います。