四宮総司は変えたい   作:もう何も辛くない

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四宮総司は思い出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「珍しいな。四宮が休み時間に勉強してるなんて」

 

「バカ、お前忘れてんのか?もうすぐ全国統一模試があるんだぞ」

 

「あー、それで…」

 

 現在、秀知院学園は午前の授業を終えて昼休みを迎えていた。思い思いの休み方で貴重な時間を過ごす生徒達。

 ある者は友人と会話、ある者は一人で読書、ある者は机に伏して睡眠、またある者は騒がしく廊下へと出ていく。

 

 そんな中、窓際の机で一人、ひたすらノートにペンを走らせる生徒がいた。そう、総司である。

 何者も寄せつけない集中力でただ一心にノートと問題集に向き合っている。

 ペンが止まる気配は一向にない。それはつまり、総司が何らかの問題で迷い、解き詰まっていないという事。

 総司が使っている問題集は超難関大学を目標にしている高校生の多くが使用している人気の問題集。当然、目標が高い高校生が使用しているのだ、そこに載っている問題は全てレベルの高いものとなっている。

 

 そんな問題集に載っている問を、総司は止まる事なく解きまくる。もう、勉強する必要などないとすら思えるほどに。

 しかし、総司も人間だ。何度も繰り返さなければ、やがて忘れてしまう。そして一度でもそうなってしまえば、奴との差はあっという間に追い付けない程にまで広がってしまう。

 

「そういやもうすぐ生徒会選挙だよな。四宮は立候補しねえのかな?」

 

「…」

 

 総司の人並外れた聴力がその言葉を聞き取る。直後、初めて総司の手が止まった。

 

「てかぶっちゃけ、白銀が会長やんの気に入らねぇ。あいつ混院だろ?俺、前の選挙で違う奴に入れたんだけどなー。あいつ当選しちまったんだよなー」

 

「まあ、な。俺も白銀がまた会長やるのはちょっと複雑だ」

 

「てかさてかさ?何で四宮は会長やんねぇの?確か中一ん時に会長当選したよな?あれから立候補してねぇけど」

 

「いや、それは四宮の後継者として忙しくなったからだろ?」

 

「あー、そうか…。いやでも後継者として指名されたのは中学卒業してからだろ?なら何で…」

 

 ガタッ、と椅子が動く音がした。ただそれだけの事で総司について話してた二人が、周囲の教室にいた生徒達が震え、同じ方向に視線を向ける。

 

 視線の先には、椅子から立ち上がった総司がいた。総司はそのまま歩き出す。先程まで総司の事について話していた二人に向かって。

 

「あ、え、いや…」

 

「ち、違うんだ四宮!俺達はただ…」

 

 慌てて言い募る二人。総司は黙ったまま歩き続ける。

 そして──────

 

「え…」

 

「あ」

 

 何も言わぬまま、総司は二人の横を素通りし、廊下へと出ていった。

 二人は呆然としたまま、先程まで総司がいた方を眺める事しか出来ぬまま。

 あれだけ騒がしかった教室は、総司がただ立ち上がり、廊下に出ていっただけで静けさに包まれたのだった。

 

 

 

 

 

 一方、教室から出た総司は廊下をただ宛もなく歩いていた。別に何か目的があって廊下に出た訳じゃない。ただ、あそこに居るのが堪らなくなった。逃げたようなものだ。

 

「…会長、か」

 

 すでに言っているが、総司は中等部にいた頃、一度だけ生徒会長に就任した事がある。

 選挙での得票数は驚異の九十%超え。秀知院始まって以来の最多得票率だった。それ程までに総司は生徒達の畏怖を集めていた。

 生徒会長となった総司は様々な学校行事を成功させ、生徒達の敬意を更に集めた。教師の誰もが総司の堂々たる姿を見て、来年もまた会長は決まりだと疑わなかった。

 

 だが、それはただの鍍金だった。輝かしく、薄っぺらい金を剥がせば何という事はない。そこにはただの現実があった。

 

『ふざけんな!誰もが皆、てめえみたいに出来る訳ねぇだろうが!』

 

 総司はそれを無能と切り捨てた。

 

『あんた、天才って言われてるみたいだけど少し違うみたいね。他人の気持ちを全く察せられない。そこに関しては凡人以下よ』

 

 総司はそれを不要と切り捨てた。

 

 その結果、総司は独りになった。独りで生徒会の仕事を請け負い、進め、成功を納めた。亀裂を誰にも悟られず、周囲には華々しい結果だけを見せ続けてきた。

 そうして総司に残ったのは、空しさだけだった。

 

「なに黄昏てんだ」

 

 気付いた時、総司は中庭の上で繋がる連絡橋まで来ていた。そこで立ち止まり、ずっと過去の事を思い出していた。

 背後から話し掛けられたのはそんな時だった。

 

「龍珠」

 

「はっ、さすがのお前も気になって見に来たのか。随分妹思いな事だな」

 

「は?」

 

 振り返った総司の視線の先にいたのは一人の女子生徒。

 まず入る特徴はその目付きの悪さだ。だが、その目付きの悪さでも掻き消せない美貌は、多くの男子生徒を魅了した。

 まあ、魅了された男子生徒は例外なく全員ぶった切られたが。物理的にではなく。

 

 彼女の名前は龍珠桃。某反社会的団体トップの孫娘。秀知院四大難題美女の一人に数えられている。

 

「何言ってんだ?かぐやがここで何かするのか?」

 

「あ?おめぇ知らないで来たのかよ」

 

 龍珠の言っている事が理解できず聞き返すと、龍珠は表情を顰めながらも説明してくれた。

 

 何でも授業の合間の休み時間中、白銀がかぐやを中庭に呼び出したそうだ。かぐやとこれからの話をするために。

 

「学校中噂になってんぞ。白銀が四宮妹に告るってな」

 

「…これから」

 

 白銀がかぐやを、これからの話をするために呼び出した。

 確かにこれは白銀がかぐやに告白するために呼び出したと考えるのは自然な流れだが、どうも総司には引っ掛かった。

 

 だって、あの白銀が、かぐやに告白する?どうも総司には信じられなかった。何か心境の変化でもあったのだろうか?

 

「しかし龍珠、お前も可愛いとこあるんだな。白銀の恋路が気になんのか?」

 

「あ?てめぇふざけた事言ってっとぶっ殺すぞ?私がここに来たのは白銀の弱味が握れねぇかと思ったからだ。大体あいつが告白?ハッ、あのチキン坊やがそんな事出来る訳ねぇだろ」

 

 随分な言い草だった。というか白銀に対する暴言がヤバい。

 

「弱味?」

 

「…そこは聞き流せ」

 

「お前、白銀に何か弱味握られてんの?」

 

「そんなんじゃねぇ。ただ、あいつには恩がある。…あるんだが、あいつがそれで調子に乗らねぇ様にこっちも手札を持っとくべきだと考えた。それだけだ」

 

 よく解らないが、総司が知らない何かが白銀と龍珠の間にはあるらしい。高一の、まだ前々生徒会長が現役だった頃、二人は生徒会で一緒だった。その時に何かあったのだろう。

 

「…来たな」

 

「…」

 

 二人が見下ろす先、中庭に入っていく三人の生徒の姿があった。

 その内の二人は勿論、かぐやと白銀。そして何故かもう一人、藤原がその場についてきていた。

 

 龍珠が窓を開ける。これで耳を澄ませば外の会話を聞く事が出来る。何故か周りは静寂に包まれているため、割りとかぐや達から距離が離れているが大丈夫だろう。

 

 かぐやと白銀の会話が始まる。白銀は周囲を見回しながら何やら戸惑っている。それを見て総司も周囲を見回し、ぎょっとする。

 

(そういや龍珠が言ってたな。学校中の噂になってるって…)

 

 何故か連絡橋、もっと言えば総司と龍珠の周りにだけはいないが、中庭が見下ろせる場所には多くの生徒の姿が見られた。今、この瞬間を見るために来たのだろう。

 

 かぐやが緊張した面持ちで白銀の言葉を待つ。白銀はまごまごしてかぐやに言葉を掛けられないでいる。

 そこで動き出したのは藤原だった。

 

「会長!私じゃなくかぐやさんを選んだんでしょう!?だったらもっとしっかりしてくださいよ!!」

 

 白銀の顔がとんでもない風になったのが見えた。そして周囲の生徒は反応を示す。

 やれ三角関係か、やれ生徒会室痴情のもつれか、やれ藤原は総司様が好きだったんじゃ、など。

 

 最後については後々問い詰めるとしよう。噂の源を絶つために。

 

「…おい四宮。これはまさか」

 

「あぁ。俺もそう思う」

 

 龍珠の声に総司が頷く。どうやら白銀の告白するにはらしくない態度を見て龍珠も察したらしい。

 

 今、二人の視線の先ではかぐやと白銀が見つめ合っていた。

 その光景を見て、二人はおっ、と目を見開いた。

 まさか、()()()()()()()()()、というちょっぴりの期待を込めて白銀に視線を送る。

 

 だが、残念ながらその期待は裏切られる事となる。

 

 白銀はかぐやの耳元に口を寄せ、小声で何かを伝えた。その直後、かぐやの瞳から一瞬ではあるが何かに絶望したが如くハイライトが失われた。

 周囲の生徒は気付いていないだろうが、総司と龍珠には見えていた。

 総司は苦笑いを浮かべ、龍珠はため息を吐きながら頭を掻く。

 

「やっぱチキン坊やのままか。少し期待してたんだがな」

 

「そう言うなよ。初めからそんなつもりで呼び出したんじゃなかっただろうから」

 

 けっ、と吐き捨てる龍珠を総司が宥める。

 

 結局白銀のその声は聞こえてこなかったが恐らく、かぐやを呼び出した理由は──────

 

「選挙の応援演説、か。まあそれに関しては成功したみたいだな」

 

「選挙、ね」

 

 白銀が立候補した選挙の応援演説をかぐやに頼むためだろう。そしてその頼みをかぐやは受け入れたようだ。

 二人は今、小声でされたやり取りの内容を知りたい生徒達から逃げている。

 

「…何だよ」

 

「お前さ、今なら出来んじゃねぇの」

 

 走っていくかぐやと白銀を目で追いかけていた総司だったが、隣からの強い視線を無視し続ける事は出来ず、振り向いて問い掛けた。

 龍珠は、総司の問いに問いで返した。

 

「何がだよ」

 

「会長」

 

「…」

 

 総司は目を丸くする。まさか、龍珠からそんな事を言われるとは思わなかった。

 

「んだよ」

 

「いや…。お前からそれを言われるとは思わなかった」

 

「は?嫌味か?」

 

「それ、むしろ俺の台詞なんだけど」

 

 ただでさえ鋭い目付きを更に鋭利にして総司を睨み付ける龍珠。一方の総司は全く堪えた様子は見られず、やや演技ぶって両手を広げながら言い返す。

 

「…今のお前ならやれるんじゃねぇかって思ったんだよ。あの頃から、だいぶ変わったからな」

 

「…」

 

 龍珠にそれを言われると何だか感慨深い。龍珠も被害者の一人だからだ。そんな龍珠からあの頃から変わった、と言われたのは他の誰に言われるよりも総司の胸に響いた。

 

「人間、そうそう変われねぇよ。俺の根っこの部分はあの頃のままだ」

 

「…」

 

「大体お前、俺を殺す気か?今、生徒会長の仕事が降ってきたら睡眠時間消えるんだが?文字通り」

 

「まあ、お前にその気がねえんなら強要はしねぇよ」

 

 総司の台詞を聞き終えた龍珠は、もう用はないとここから立ち去る。

 総司もそれに続いて歩き出す。

 

「おい」

 

「ん?」

 

「ついてくんな」

 

「そんな事言われても、俺も教室そっちだし」

 

「五分空けてからにしろ」

 

「遅刻するんだが」

 

 軽口を叩きながら自分の教室へと向かう二人。

 文句を言われながらも、総司は次の授業に遅刻する事なく、教室へと戻る事が出来たのだった。




選挙編はヒロインとのイチャイチャは控えめになる予定です。多分、確約は出来ない。
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