四宮総司は変えたい   作:もう何も辛くない

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久々の藤原回です


藤原千花は呼ばれたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総司は人の美醜で態度を変える女ってどう思う…?」

 

「糞だと思う」

 

「──────」

 

 かぐやの質問に答えたらかぐやが落ち込んだ。理由はさっぱり解らない。

 

「総司様。ド直球すぎます」

 

 首を傾げる総司に早坂がそう言った。総司は早坂の方へと振り向く。

 

「でも実際糞だろ。イケメンには良い顔してそうじゃない奴には態度悪い女とか。ああいうの見ると潰したくなるよな」

 

「潰したくなる…」

 

「総司様、そこまでにしてあげてください。かぐや様のライフはもうゼロです」

 

「?今の話とかぐやがどう関係してるんだ?」

 

 すでにお解りの事と思うが、総司は今かぐやの部屋にいる。恒例となったかぐやの呼び出しを受け、部屋に来てみれば始まったのはこの話題である。

 

 かぐやの問いかけに正直に答えただけなのに、かぐやはどんどんダメージを受けていく。

 訳が解らない総司に早坂が経緯を説明してくれた。

 

 要するに、白銀が健康さを取り戻したという話らしい。生徒会長の仕事が丸ごとなくなり、その分を睡眠時間に回せるようになった白銀は十分に睡眠が摂れるようになり、結果あの常時寝不足で鋭かった目付きが信じられないくらい柔らかくなったそうだ。

 

「…白銀の目付きの悪さが好きだったのか」

 

「別に好きじゃないわよ!ただ…ただ、あの目付きの悪さがちょっぴり可愛らしいと思ってただけよ!」

 

 なるほど、かぐやは白銀の目付きの悪さが気に入ってたらしい。そんな事本人に言えば絶対に否定するだろうが。

 というより、たった今否定された。

 

「総司も早坂も大馬鹿よ!二人して私が会長の事を好きだ好きだって…!言っておきますけどね!私は確かに会長のお人柄は好ましく思っていますが、恋愛的な意味でそういう訳ではありませんから!」

 

 かぐやがぷんすか怒りながら大声で続ける。

 一方、総司の隣では大馬鹿と言われて少々ムカッとした様子の早坂が口を開いた。

 

「…そうですね。人の美醜で態度が変わる程度の気持ちなんですから、かぐや様の言う通り好きでも何でもない様ですね」

 

「え…、あの、判れば良いのだけれど」

 

 あっさりと早坂が認めた事に戸惑ったか、かぐやがおずおずと早坂に返事を返す。

 しかし早坂はそこで言葉を止めなかった。

 

「もし付き合ってたりしたらどうせすぐに冷めて破局。結婚しても離婚。未来のない関係になってたでしょうね」

 

「…」

 

「おい早坂」

 

「所詮恋に恋してた程度の事。偽物、紛い物ですよ」

 

「早坂、ブレーキ踏め早坂」

 

「たかが外見が変わったくらいで冷める気持ちなんてその程ど…」

 

「…」

 

 止まらない早坂だったが、ふと今のかぐやの様子を目に留めるとすぐに言葉を止めた。

 

「…なんで、そんなこというの…?」

 

「あ、はい、もう止めます」

 

 絶望した表情で涙を流すかぐやにため息を吐く早坂。

 

「まったく…。そんな顔するなら好きじゃないとか言わないでくださいよ」

 

「好きじゃない!好きじゃないけど…、仮に好きだとしたらちゃんと本物の愛だから!!」

 

「「仮って何?」」

 

「だから!仮にこの気持ちが恋だったとしたらって事よ!」

 

「…いや恋だろ、それ」

 

「違うわよっ!」

 

 結局その後も総司&早坂陣営とかぐやとの論争は平行線が続き、結論が出ぬままかぐやがおねむになった事で終息を迎えた。

 

 その翌日。いつも通りに授業を熟し、放課後を迎えた秀知院学園。

 

「それで、私に相談って何ですか、総司君?」

 

 総司は放課後に帰ろうとする一人の生徒を呼び止め、中庭に呼び出していた。その生徒とは──────

 

「あぁ。色々と考えたんだが、お前が一番適任だ。藤原」

 

 中庭にあるいくつものベンチの中の一つに、二人は並んで座っていた。一人は当然総司、もう一人は藤原である。

 

 昨日、かぐやが眠ってしまい論議を続けられなくなった総司と早坂はかぐやに布団を掛けてからそれぞれの部屋へと戻った。

 そして今日の朝、朝食の席でかぐやに言われたのだ。今回の件について、誰でも良いから女子に話し、その感想を聞いて欲しいと。当然、その話がかぐやの事であるのはぼかせという指令付きで。

 その後、誰に相談するのが適任かと考えた総司は色々と相手を思考した結果、藤原という結論を出した。というより、藤原以外そんな事を相談できる相手がいなかった。

 一応圭という選択肢も浮かんだが、相手がまだ中学生という事を考慮すれば藤原が適任だろうと考えたのだ。

 

「これはな、俺の知り合いの話なんだが…」

 

 早速総司は昨日かぐやから聞いた事を話し出す。

 気になる相手の見た目がガラリと変わった事、それを見て気持ちが一気に冷めてしまった事、相手の見た目が変わった程度で冷めてしまう気持ちなど真実の愛ではないのではないかと悩んでいる事。

 それらの話を悩んでいる人物がかぐやである事だけ隠して藤原に伝える。 

 

「…一応聞きますが、それは総司君の話ではないんですよね?」

 

「?あぁ、勿論」

 

「もう一度聞きますよ?本当に総司君の話ではないんですよね?」

 

「だからそうだって。何だよ急に」

 

 総司が話し終えると突然真顔になった藤原がずいっと顔を寄せ、そんな事を聞いてきた。

 何故そんなに真剣な様子で聞いてくるのだろうか。まさか、バレたのか?

 

 内心の動揺を表に出さず、総司は表情を変えずに返事を返す。

 すると藤原は打って変わって、にぱーっと明るい笑顔を浮かべた。

 

「そうですか!なら良かったです!それでえっと…、真実の愛は何なのかって話でしたっけ?」

 

「そこまでバッサリ聞いてはいないが、まあ要約すればそうだ」

 

「ぷぷっ、総司君の知り合いさんは高校生にもなってそんな事が気になるんですね」

 

 ぷーくしゅくしゅと笑う藤原。

 おいかぐや、笑われてるぞ。高校生にもなってとか言われてるぞ。

 

「真実の愛なんて簡単ですよ。美女と◯獣みたいに外見に囚われない愛の形こそが真実の愛。相手の姿が変わったくらいで冷めちゃう愛なんて最低!偽物ですよ!」

 

「…うん。だよな、普通そうだよな」

 

 今回、かぐやが総司にこんな事を聞いてくるよう頼んだのは何も真実の愛が何なのかを知りたい訳ではないと総司は考えている。いや、そういう思惑もあるのかもしれないが。

 だが実際は、かぐやの気持ちも真実の愛なのだと肯定してくれる相手を探しているのだ。そうなればかぐやは自身の気持ちは偽物ではないと安心できる。無意識の内にそう思っているのだと総司は予測している。

 

 だから本当はここで話を終えてはダメなのだ。まだ藤原からの肯定を得ていない。だがこれ以上食い下がれば藤原に違和感を持たれるだろう。何故こんなにも、と。

 

「その子に伝えてください。あなたの気持ちは愛ではありません。もっと外見だけでなく中身も見てあげてください。あなたが見てきた物と違う物が見えるはずです。もしかしたら、それが切っ掛けで本当に好きになるかもしれませんね」

 

「…うん、解った。伝えておくよ」

 

 百パーセント善意で答えてくれた藤原には本当に申し訳ないが、その答えをそのままかぐやに伝える訳にはいかない。何故なら、もしそのまま伝えたらかぐやが再起不能になる可能性があるからだ。

 

「ありがとう。悪いな藤原、こんな事に時間とらせて」

 

「…」

 

 しかし藤原には感謝しかない。こんな下らない事に付き合わせ、時間をとってしまった。なのに嫌な顔一つせず、朗らかな笑顔で話に付き合ってくれた。

 

 だというのに、総司がお礼を言った途端、藤原は頬を膨らませた。明らかに不満ありありといった顔である。

 

「…どうした」

 

「…総司君はどうして私の事は下の名前で呼んでくれないんですか?」

 

「へ?」

 

 てっきり、やはりこんな事に付き合わされて不満だったのかと思った。しかし、藤原の口から出てきたのは意外な言葉だった。

 

「何だよ急に」

 

「急にじゃないですよっ!私と総司君は中等部から大分付き合い長いんですよ!?なのに圭ちゃんは名前で呼んで私は苗字で…、不公平ですっ!」

 

 うがーっ、と捲し立てる藤原に戸惑う総司。

 本当に何故藤原が怒っているのか解らない。確かに藤原は苗字で、圭は名前で呼んでいるがそれが何で藤原が怒る事に繋がるのか。

 

「総司君!何でですか!?」

 

「いや、何でって言われても…。圭さんは苗字で呼んだら白銀と区別つかなくなるし」

 

「なら御行君を名前で呼べば良いじゃないですか!」

 

「いや、今更あいつを名前で呼ぶのはな。もう苗字で呼ぶのが癖になっちまった」

 

「うぅ~…、納得いきませ~んっ!」

 

 本当に解らない。何でこんなにも藤原は怒り狂っているのか。

 しかし、その怒りを鎮める方法は何となく想像が付いていた。

 

「なら、藤原も名前で呼ぶか?」

 

「へ──────?」

 

 間の抜けた声が藤原から漏れる。その声を聞き、総司の内心でもしかして間違えたか、という一抹の不安が過る。

 

「嫌ならそのままにするけ「いえ!是非!名前で呼んでください!」近い」

 

 総司が言い切る前に藤原がずいっと顔を寄せながら遮った。それはもう満面の笑顔で。

 

「ほら、総司君!早く!」

 

「は?」

 

「名前で私を呼んでください!Hurry up!」

 

「…千花」

 

「──────」

 

 何がそんなに嬉しいんだか。藤原…千花は、目を瞑って噛み締めるように天を仰ぐ。

 

「…」

 

 ただ名前で呼んだだけだというのに、ここまで喜ばれると少々恥ずかしく感じてしまう。

 総司は堪らず立ち上がった。

 

「話は終わったし、もう帰るな?」

 

「あっ、待ってください総司君!校門まで一緒に行きましょう!」

 

 立ち去ろうとする総司を慌てて追いかけた千花は、総司の隣まで行くといつもよりも若干近い距離感で総司と並んだ。

 

「…何か近くないか」

 

「えー?そんな事ないですよー?」

 

 ふふん、と鼻で笑いながらご機嫌に、千花は総司と並んで歩く。総司はその様子を見て何も言えなくなり、ため息を吐くしかなかった。

 

 二人のその距離感は、外に待たせているそれぞれの車に乗るべく別れるまで、ずっとそのままだった。




ちなみに総司と藤原が話しているのと同時期に、早坂がリアルな恐怖を抱いてたりしてます
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