四宮総司は変えたい   作:もう何も辛くない

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この二人が実際に会うのは初めてですね。
いや、設定上では初めてではないのですが。


四条帝は愚痴りたい

 全国統一模擬試験。それは大学受験を視野に入れた学生達がこぞって参加する戦争である。たかが学力テスト等とバカにする事なかれ。試験を受けた生徒の成績を詳細に分析し、同じ試験を受けた全生徒の中でどの位置だったか、順位すら出されてしまう、恐ろしい行事なのだ。

 

 そんな全国模試が今日、行われる。ここ、秀知院学園も例外ではない。

 この学園では生徒の約半数が内部進学を希望するため希望者限定という形で行われる。そしてその希望者の中に、四宮総司の名前もあった。

 

 普段過ごしている教室とはまた別のクラスの教室で、いつも使っている机の位置とはまた別の机で。総司は席につき、ただその時を待つ。

 

 机の上にはシャープペンと替えの芯、消しゴム、そして初めに行われる科目、数学ⅠAの問題用紙と解答用紙だけが置かれている。

 その他には何もない、当然机の中にも物は入っていない。残りの所持品は机の足下の鞄の中だ。

 

「──────」

 

 集中力を研ぎ澄ます。静まり返った教室には時計の針が動く音しかしない。

 

「っ」

 

 チャイムが鳴る。瞬間、総司のみならず教室にいる、いや全ての模試参加者の手が動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いーやー、旨い。超旨い。何で他人の金で食う蟹ってこうも格別なんだろうな、帝?」

 

「…ホント、何でだろうな。俺も知りてぇんだけど、総司?」

 

「あーそうか、お前は知りたくても無理なのか。今日の支払いお前持ちだもんなあっはっはっは!」

 

 それはそれは機嫌良く高らかに笑う総司と、それはそれは不機嫌そうに今にも舌打ちしそうな様子の帝は、とある飲食店の個室にいた。

 二人はテーブルを挟んで対面して座り、二人の間のテーブルにはたくさんの蟹料理が並んでいた。

 

「旨い!いやー旨い!これが勝利の味ってやつなのかな?」

 

「…次は潰す」

 

「んー?聞こえんなぁ~♪」

 

 帝を煽る煽る。しかしそれも仕方ない。何故なら、総司は今回の勝負にて勝ちを収めたのだから。たった三点の差でも、勝ちは勝ちだ。

 

「くそっ…、あの糞教師がリスニングのやり直しさえしてくれてれば…!」

 

「言い訳は見苦しいぞ帝君。素直に敗けを認めたまえ」

 

「がああああああああうぜええええええええ!!!」

 

 模試から十日後、結果が二人の手元に届いた。

 800点満点中、総司が797点、帝が794点という凄まじいレベルの高さの争いを繰り広げた。の、だが、帝の方では何やらトラブルがあったらしい。

 

 何でも英語のリスニング中、途中でノイズが奔ったらしい。その事に教師は気付かずスルー。帝はその音声に関わる大問の最後の問題を落としてしまったのだ。配点が4点の問題を。

 

「いやぁー、負け犬の遠吠えを聞くのはきもちーなー」

 

「つぶす、ぜったいにつぎのしけんはつぶす、つぶす、つぶす…」

 

「あっはっはっは」

 

 帝の怨念が籠った呟きも総司の耳には届いても心には届かない。それは楽しそうに笑いながら総司は蟹飯を堪能する。

 

「まあ負けたのは仕方ない。いや、あのごみ教師は後々左遷させるけど、それはまあいい」

 

「…ま、お前が家でどんな扱いされたかは想像つくよ」

 

「そうなんだよ!マジふざけんなよあいつら!総司との勝ち負けだけじゃなく点数見ろよ!てめぇら全員俺と同い年で同じ様な模試受けてこれより上の点数とれんのかってんだよあぁ!?」

 

 拳を握った両手でテーブルをダンダン叩きながら声を荒げる帝。帝は総司とは違って本邸に住んでいるため、周囲の声がほぼ直接届く。

 だから、四宮に負けた帝を嘲る声はさぞ神経を逆撫でしている事だろう。

 

「マジでいつまで根に持ってんだ直接被害に遭ってない奴等がねちねちねちねちよぉ!てかお前らが憎くて憎くて仕方ない四宮に追い付くために今まで何してきたと思ってんだ!てめぇらも同じ穴の狢だろうがよぉ!?」

 

「いつも以上に荒れてんなぁ、帝」

 

「それを自分達は四宮とは違うとか本気で思い込みやがって…!なーにが四宮に負ける程度では四条は任せられんな、だ!今からてめぇら全員蹴落としてやろうか!?」

 

「お、マジでやんなら協力するぞ?」

 

 帝が言った事を想像し、少し総司がワクワクしたのは内緒。

 

「…マジで屑だよあいつら。同じ屑でも自分や自分の先人がしてきた事を自覚してる分、お前の親父の方がマシにすら見える」

 

「そりゃどうも」

 

 四宮と分離してからの四条はそれは物凄い勢いで成長した。しかし、その成長によってどれだけのものを食い潰してきたか。

 あれだけの成長スピード、決して純粋な手だけで成し得るものでは断じてない。何かを犠牲にし、何かを壊し、何かを害し続けなければ不可能だ。

 

 帝が口にした同じ穴の狢、とはそういう事である。四宮もまた、何かを食い潰しながら成長してきた家だ。それを、四条は癌と呼ぶ。なら、四宮と同じ事をした四条は一体何なのか。

 

「…早く何とかしないとやべぇわ。この前の親父達との会話でマジで思った」

 

「…さっきも言ったが、行動起こすのなら協力するからな。勿論、対価はたんまり貰うけど」

 

「解ってるよ。あの時の約束くらい覚えてるっつの」

 

 怒鳴った事で少しは落ち着いたか、帝は冷静さを取り戻し、総司と軽口を叩き合う。

 

 あの時の約束。それは二人が初めて対面した時に交わした約束。

 

『もうやだこんな糞家系』

 

『ならお前が跡継ぎになって変えればいいじゃん』

 

 目から鱗が出た気分だった。あの頃の総司は次期後継者として選ばれておらず、それどころかまだ黄光が跡継ぎとして有力視されていた頃だった。

 

 あぁ、確かにそれなら四宮を変えられるかもしれない。そう思った総司は帝と約束したのだ。自分達がそれぞれの家で上に立ち、体系を変え、両家の仲を修正してやる、と。

 

 そして約束から一年後、総司は雁庵から次期当主と指名されたのだ。

 

「…それでよ、一つ考えたんだよ」

 

「あ?」

 

 互いが互いと交わした約束を思い出し、決意を改めて固めた。その直後、帝が口を開いた。

 

「こんな事まだ無理だし、時間が掛かるのも解ってる。相手の気持ちだって考えなきゃならんし、難しいだろうけどさ。周りに俺達の意志を見せつけるにはこれが手っ取り早いと思う」

 

「何だよ」

 

 前置きが長い帝に早く本題を言えと促す総司。

 そして帝は、自身が抱いた考えを口にする。

 

「──────」

 

 それを聞いた総司は目を見開き、少しの間固まったまま返事を返せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋敷の前に止まった車を降り、短い階段を上って扉を開ける。辺りはまだ明るいが、太陽は沈みかけ、その周りは茜色に染まっている。

 昼過ぎに帝と会ってからすっかり話し込んでしまった。試験の結果を言い合い、その結果によって起こる両家での扱いを話し、愚痴られ、そして──────

 

「…さて、俺はどうすべきなのかね」

 

 足を止め、ふと呟く。脳裏に過るのは帝の台詞。

 自分達がどうしていくか、その意志表示にはもってこいの考えといえた。しかし、しかしだ。総司にとっては複雑であると言わざるを得なかった。

 

「お帰りなさいませ、総司様」

 

 思考の渦に呑まれながら廊下を歩いていると、自身の左側、すぐ傍から声がした。驚きそちらを向くと、見えたのは綺麗な金髪。視線を僅かに下ろすと総司の顔を見上げる早坂の顔。

 

「あぁ、ただいま」

 

「どうかされましたか?何か考え込んでた様でしたが」

 

「いや、別に何でもないさ」

 

「声を掛けるまで、こんな近くにいる私に気付かないのにそれはちょっと信じられないのですが」

 

「…」

 

 ですよね、と内心で呟く総司。さすがに何でもないで納得してくれるとは思っていない。しかし、かといってあの話の内容を伝える訳にもいかない。

 

「…何でもないって事にしておいてくれないか?」

 

「…」

 

 早坂のじと目が総司の胸に刺さる。何しろつい先々週だ、総司と早坂がちょっとした仲違いを起こしたのは。

 それからまだそう経っていないのにこの男、また早坂に隠し事をしようとしている。

 

 早坂のじと目はまだ続く。さすがにダメか、と。早坂には話しておくべきなのか、と総司が考え出したその時だった。早坂が大きくため息を吐いた。

 

「解りましたよ。そういう事にしておいてあげます」

 

「え?…あれ?」

 

「何ですか。話したくなったんですか?」

 

「いや、そうじゃないけど…」

 

 あまりにもあっさりと、早坂は引いた。引いてくれるにしても、もっとこうガミガミとあれやこれや言われると思っていた総司。

 

「どうせ聞いたって話してくれないのでしょう?」

 

「…」

 

「どれだけ食い下がっても話してくれないのでしょう?」

 

「…」

 

「…この総司」

 

「おい、聞こえたぞ。人の名前を勝手に悪口にすんな」

 

 いや、早坂には言おうという考えは浮かんでいたのだが、以前の経緯もあって早坂の台詞を黙って聞いていた総司だった。

 しかしさすがに最後の一言は看過できなかった。

 

「お前ちょっと最近俺への当たり強すぎない?」

 

「総司様。胸に手を当てて最近の、正確には二週間程前の私への扱いを思い出してください」

 

「その節は大変申し訳ありませんでした」

 

 素早い総司の掌返し。芸術点もかなり高い見事な掌返しだった。

 そんな美しい掌返しも早坂には響かない。

 

「あぁそうだ。その話で思い出しましたよ」

 

「何が?」

 

「埋め合わせですよ。してもらうと言いましたよね?」

 

 確かに早坂は総司に埋め合わせをしてもらうと言った。それも埋め合わせカウンター分の埋め合わせを一度に一気にしてもらう、と。

 

 埋め合わせカウンターがどれだけ貯まってるのか総司には解らないが、きっとそれ相応の埋め合わせを早坂は希望するのだろう。

 それこそ、自分の一日の仕事を全部やってほしいとか、勿論それは例えだが、それくらいのきつい──────

 

「明日、私の仕事がオフなんです。なので明日一日私を甘やかしてください」

 

「…は?」

 

 事を課されるのだろうと総司は思っていた。だが、早坂の口から出てきたのは思わぬ言葉だった。

 

「甘やかす、って…どうやって?」

 

「それは総司様が考えてください」

 

 甘やかすと言われても曖昧で具体的にどうすれば良いか解らない。なので早速、早坂に聞いてみたのだが聞き流されてしまった。

 

「いや考えてと言われても…」

 

「考えてください」

 

「…」

 

 食い下がってみるも、駄目。

 

 甘やかす。本当にどうすれば良いのか。頭を撫でまくれば甘やかすという事になるのだろうか?

 

(…違う気がする)

 

 確かにそれも甘やかしてると言えば甘やかしてるのだろうが、早坂が求めているのとは違う気がする。いや、早坂が求めている甘やかし方がどんなのか総司にはさっぱりなのだが。

 

「それじゃあ、楽しみにしてますね。明日、総司様に甘やかされるのを」

 

「あ、おい…」

 

 にっこり、と総司に笑いかけてこの場から去っていく早坂。

 結局、どうすれば良いのだろうか。

 

「…かぐやにでも聞いてみるか」

 

 初めは赤木に聞こうと考えが出たのだが、女子の事は女子に聞いた方が良い気がする。いや、良いに決まってるだろう。

 

 という事で、今日は珍しく総司がかぐやを呼び出し作戦会議をする事と相成るのだった。

 

「総司、貴方が好きなパンツってどんなの?」

 

「変態、帰れ」

 

 相成る、はずだった。作戦会議は一分も経たず終わりを迎えたのだった。

 変態と言われて憤慨するかぐやと何で怒られてるのか解らない総司、二人の口論だけで会話は終わり、答えが出ぬまま総司は明日を迎える事となる。




四条に関しては独自設定ですが…、色々とヤバい事やってそうと読んでて私は思いました。少なくとも表沙汰には出来ない事。そうでないと数十年で四宮と肩を並べるとかできないと思います。

それと…早坂甘やかしは次回に続く!
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