四宮総司は変えたい   作:もう何も辛くない

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早坂回ですが、イチャイチャはありません
ギャグのつもりで書きました


早坂愛は往く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは別段いつもと変わらない日常だった。当番が割り当てられた場所の掃除を終え、帰ろうとした時だった。

 

「…っ!」

 

 スマホのバイブが鳴った。すぐに収まったため、通話が掛かってきた訳ではない。いつもなら帰ってから目を通していただろう。

 しかし今回は何故か、気まぐれに総司は届いたメッセージを開いていた。

 

 メッセージの送り主は千花だった。そしてそのメッセージの内容を見て、総司は弾かれた様に駆け出した。

 

「かぐや!」

 

 いつもならノックして返事を待ってから入っている生徒会室に遠慮なしに駆け込む。室内に入ってきた総司に集まる視線を無視し、床に倒れて胸を押さえるかぐやに駆け寄る。

 

「かぐや!大丈夫か!?」

 

「そ、そうじ…?」

 

「…意識はある。ただ脈拍が早すぎる。…白銀!救急車は!?」

 

「とっくに呼んである!」

 

「そうか!ならAEDを持ってきてくれ!何かあった時、すぐ使える様に!」

 

「わ、解った!」

 

 白銀が生徒会室を出てからAEDを持って戻ってくるまで一分も掛からなかった。そして、伊井野が呼んだという保険医も白銀が戻ってきてからすぐにやって来た。

 

 総司と保険医が簡単にかぐやを診る。が、特に異常はない。無論、ここまでかぐやが苦しんでいるのだ、異常がないはずがないのだが。

 しかしこの場で出来る診察は飽くまで簡潔なもの。それでは解らない何かがかぐやの身に起きている。

 

「うぅ…くっ…」

 

「かぐや…っ」

 

 苦しそうに顔を歪めるかぐやを見ている事しか出来ない。総司もまた顔を歪める。

 しかしそれはかぐやの様に苦しさからではない。何も出来ない自分への不甲斐なさ、怒り。ギリッ、と噛み締めた白い歯から音が鳴る。

 

「っ、先輩!救急車が!」

 

 まだかぐやの意識はある。脈拍も異常な早さこそ変わらないもののしっかりある。心停止の可能性はない。大丈夫だ。

 そう自分に言い聞かせながら、やってきた救急隊員と共に、ストレッチャーに乗せられたかぐやに付き添って総司は救急車へと乗り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 救急車に乗り込んでから、総司はすぐに救急隊員にかぐやの症状を説明した。しかし、かぐやの様な症状は初めてだったようで、救急隊員達はかぐやの処置をどうするか少しの間迷っていた。

 当たり前だ。かぐやに起きている症状は恐らく“頻脈性不整脈”、簡単に言えば脈拍が早い方の不整脈だ。だがこの場合、倒れる程の症状となると大抵は失神、或いは目眩と意識レベルが低下する。

 だがかぐやの場合は意識はハッキリしている。総司の言葉に返事も出来る。なら、この症状は何なのか。

 

 後になって思い返すと、もうここで答えは出ていたのだと思う。

 

「それは恋の病です」

 

 その後落ち着きを見せたかぐやと遅れて病院にやって来た早坂と共に診察室に向かう。

 そこで、世界の名医十選にも選ばれる程の名医は、至って冷静に、かぐやに起きた症状の名を口にした。

 

「…そんな名前の心臓病があるのですか?」

 

「いえ。ただ好きな人にドキドキする感情の事です」

 

「お医者様でもご冗談を仰るのですね」

 

「いえ。冗談ではないのです」

 

 早坂の顔がゆっくりと下を向く。総司の頬がまるで種を口一杯に咥えたハムスターの如く膨らむ。

 

「でしたら何ですか!?私は恋のドキドキで倒れて救急車で運ばれたと!?」

 

「はい。私も医者を三十年やって初めての出来事に少し動揺しています」

 

「ぶふっ」

 

 いけない、つい噴き出してしまった。だって仕方ないだろう。あの世界的な名医が動揺した症例が恋の病とか。その上、あの異常な脈拍の早さが、白銀に対して胸をドキドキさせた結果とか。

 

「総司?何が面白いのかしら…?」

 

「いや、別に」

 

「何よ!言いたい事があるなら言いなさいよ!」

 

「…余り田沼先生に迷惑掛けるなよ」

 

「どういう意味よ!」

 

 総司の言葉とは裏腹に、かぐやは何度も食い下がった。もう答えは出ているというのに。誰かに恋をされる事はあっても、誰かに恋をするなどあり得ない、そう言って。

 

 しかしかぐやが何度否定しようとも真実は変わらない。学校の活動で特定の人物の事を考えると脈動が速くなる。今日、髪に付いていたゴミを白銀が取り、その際に手が頬に触れたタイミングで胸にキュンキュンとした痛みが走った。

 

「それはね…恋だよ」

 

「違うって言ってるでしょう!?絶対心臓の病気です!今まで人生でここまで胸が苦しくなったのは初めてなんです!」

 

「じゃあ初恋なんじゃないかなぁ?」

 

「そうです。この子、初恋なんです」

 

「総司は黙ってて!」

 

 怒られた。

 

「かぐや様…。私、外で待ってますので…終わったら呼んでください…」

 

「早坂!?」

 

「私だってこの病院使ってるのに…。もう来れないですよ…」

 

「あー、早坂。大丈夫だ、田沼先生達は気にしないさ」

 

「なっ、なんなのよ…」

 

 総司は完全にこの状況を面白がっているが、早坂はそうではなかった。顔を真っ赤にし、主人の醜態を恥じまくっていた。

 まあ、気持ちは解らないでもない。総司は早坂の肩をポンポンと叩いて励ます。そんな二人を見てかぐやは頭の上に疑問符を浮かべる。

 

 何故早坂は恥ずかしがっているのか、その理由がかぐやには本気で解らないのだ。

 

「とにかくもっとちゃんと調べてください!」

 

「あー、かぐや。お前が本当に恋の病に掛かってるかどうかは置いといて、別に何か重大な病気とかじゃないんだ。そうですよね?」

 

 総司がかぐやに待ったをかけた。さすがにこれ以上、何も問題がない者に医師の時間を割かせる訳にはいかない。それに、早坂がまた恥ずかしい思いをする。

 総司としては面白いから良いが、あの恥ずかしがり様からもう早坂は限界だろうと察せられる。

 

「えぇ。診察した結果、体に欠陥は特に見当たりませんでした」

 

「ほら、先生もこう言ってるんだ。なら今日のところは帰ろう」

 

「で、でも…。あんなの私初めてだったのよ?あんなに胸が痛くて、息も出来なくなって…」

 

「ですからそれは恋です。初恋です」

 

「…」

 

 折角かぐやの怒りが少し収まったのに。何とか説得できそうな空気になってたのに。先生が言い放った言葉はかぐやを硬直させた。

 

「…すまん、早坂。まだまだ我慢させる事になりそうだ」

 

「も、もうやだ…」

 

 活火山が噴火した。どうやらまだ帰れそうにないらしい。とにかく、まだまだ恥ずかしい思いをする事になりそうな早坂に、総司は謝罪しておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤブよヤブ!絶対にヤブ!私が恋!?そんなのあり得ないわ!」

 

「世界の名医に何て事を」

 

「総司も総司よ!私はただ事実を言ってるだけなのに何が面白いのかしら!」

 

「かぐや様が事実を言ってると思っているから面白かったんだと思いますよ」

 

「早坂!貴女はどっちの味方なの!?」

 

「とりあえず今回に関してはかぐや様の味方ではないのは確かです」

 

「早坂!?」

 

 かぐやは荒れていた。あの後、最先端設備を駆使しての検査を行うも結局異常はなく、世界の名医がかぐやに下した診断は、恋の病だった。

 

 その結果にかぐやは納得がいかず、帰ってきてからもこうして荒れているのだ。

 

「大体私が本当に恋に落ちていたとしても矛盾があるわ!」

 

「何がでしょう?」

 

 かぐやの憤慨は続く。こうしたかぐやの怒りは決して珍しいものではないが、それでもいつも以上の怒り具合に早坂の疲労は貯まっていく。

 かぐやとのやり取りは楽しいし、この時間は早坂にとって掛け替えのないものだが、それでも疲れるという現実は変わらない。

 

 しかし──────

 

「貴女は倒れてないじゃない!」

 

「は?」

 

「私が倒れた原因が恋によるものだというのなら、貴女が倒れてないのはおかしいわ!」

 

「…」

 

 色々と吹っ飛んだ。疲労も、何もかも。

 

「えっと、かぐや様?何を仰っているのですか?」

 

「私が会長にドキドキして倒れたというのなら、貴女が総司にドキドキして倒れてないとおか「ああああああああああああああああああ!!!」」

 

 速攻でかぐやの口を手で塞いだ

 かぐやの部屋から総司の部屋までそこそこ離れてはいるが、かぐやの大声は総司の部屋まで届く。現に以前、総司は部屋で喧嘩する早坂とかぐやを止めに来た事があった。二人の騒ぐ音と声が聞こえたと言って。

 

 もしかしたら、今のかぐやの大声も総司の部屋まで届いているかもしれない。早坂はそう直感し、すぐにかぐやの口を塞いだ。

 少々、間に合わなかった気もするが。

 

「な、何を言い出すんですかっ」

 

「ぷはっ!だってそうでしょう!?恋のドキドキで倒れるのなら貴女だって倒れてないのはおかしいでしょう!?」

 

「いや、意味が解りません。その理論はおかしいです」

 

「おかしくないわよ!」

 

「いえおかしいです」

 

「おかしくないっ!!」

 

 冷静さを取り戻した早坂がかぐやと言い合う。

 

「…確かに私も、その…、総司様の傍にいると胸がドキドキしたりはします。ですが、普通はそれで倒れたりしません。かぐや様がおかしいんです」

 

「なんですって!?」

 

 早坂とて恋する乙女。恋の対象が傍にいれば胸の鼓動が高鳴るのは当然だ。

 しかし、しかしだ。その高鳴った鼓動が行き過ぎて倒れるのは恐らく世界広しといえどかぐやだけだろう。早坂は

自信を持って言える。

 

「いいえ貴女がおかしいのよ早坂!倒れる程ドキドキしたいのならそれは恋じゃないわ!貴女の想いはその程度なの!?」

 

「かぐや様…」

 

「早坂!本当に総司が好きなのなら、愛してるのなら、貴女も倒れなさい!」

 

「かぐや様、論点がずれています。そして言ってる事が無茶苦茶です」

 

「さあ早坂!総司の事を考えなさい!そして私と同じシチュエーションを思い浮かべなさい!」

 

「…」

 

 早坂は思う。あぁ、これはダメだと。これは自分の手には負えないと。誰かに助けを求めないと、と。

 

 しかし早坂は助けを呼べない。何故なら、今のかぐやは何を言い出すか解らないからだ。

 

 仮に助けを呼ぶとして、一番手っ取り早いのは総司だろう。総司と協力すれば今のかぐやでも落ち着かせられる自信はある。

 だが、落ち着かせる最中にもしかぐやが──────

 

『総司、貴方はどう思う!?早坂は貴方に倒れる程ドキドキしないそうよ!?』

 

 なんて言い出したら。

 その時には早坂はこの部屋の窓から身を投げるだろう。その自信が早坂にはあった。嫌な自信だが。

 

「かぐや様、落ち着いてください。そして自分が何を言ってる自覚してください」

 

 だから、早坂は独りで奮闘するしかないのだ。強大な相手に独りで立ち向かうしか道はないのだ。

 

 そして早坂愛は往く。かつてない程困難な戦いへと、身を投じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日

 

「早坂…、疲れてるのなら休んで良いんだぞ?」

 

「いえ…、大丈夫ですので…。気にしないでください…」

 

 早坂は総司に本気で心配されるのだった。




早坂VSアホかぐや(BGM戦い◯とき)
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