四宮総司は変えたい   作:もう何も辛くない

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体育祭編開始です


少女達は邂逅する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体育祭。学校によって形式が違う行事であり、とある学校では球技大会が、とある学校では小中と行われる運動会と似た形式の体育祭が、或いはその両方が行われる学校もある。

 ここ、秀知院学園の体育祭は二番目の形式で行われる。門は開かれ、見学は自由。生徒の親族だけでなく、その友人やまたは全く関係ない人も見に来る体育祭は毎年物凄い盛り上がりを見せていた。

 

「さて…。これで俺の午前のプログラムは終わった訳だ」

 

「お疲れ様でした」

 

「いや、全く疲れてないんだけどな?」

 

 グラウンドの端に設置された赤と白のテント付近にて、総司は鯉ダンスを踊る三年達の姿をぼうっと眺めながら赤木と話していた。

 

 この鯉ダンスの前のプログラム、二年男子全員によるソーラン節を踊り終えた総司は、それで午前に参加するプログラムを終えた。

 残る総司が参加するプログラムは200m走、棒引き、選抜リレー。見事に全て午後のプログラムに集中している。

 

 つまり何が言いたいかというと、暇なのだ。この空いた時間に話をする親しい友人なんていない。一応同じ組にはかぐやと早坂がいるが、総司と違って午前に出場する競技がある。

 

「…さて、もう予想はついてるが恒例行事として聞いておこう。何でお前がいるの?」

 

 それはそれとして、総司は赤木に一つ、聞かなければならない事があった。

 それは、何故ここに赤木がいるのかである。赤木とて多忙の身。特に今日は総司が体育祭という事を考慮されて仕事が休みの日である。当然、そのツケはこの男に回ってくる。

 こんな所で油を売ってる場合ではないはずなのだ。

 

「仕事です」

 

「…何でカメラ?」

 

 しかし、赤木は至って冷静に仕事で来たと告げる。カメラを手にしながら。

 

「御当主からの命です。総司様とかぐや様の様子をしっかり、たくさんカメラに収めてこいと」

 

「…」

 

 額に掌を当て、天を仰ぐ。

 これは毎年の事。多忙故、京都からここまで来られない雁庵の代わりというべきか、赤木は体育祭、そして文化祭に来ては総司、かぐやの競技の様子や文化祭に出展する作品や出し物の様子をカメラに収めている。

 

「総司くーん!」

 

 内心が呆れに満ち、天を仰ぎ続ける総司の耳に明るい少女の呼ぶ声が届く。

 視線を下ろし、声がした方へと振り向く。そこには体操着姿の千花が、後ろに眼鏡を掛けた男性を伴ってこちらに駆け寄っていた。

 

「おう。スパイか?」

 

「えへへー。総司君が出る競技を全部負けてくださいって頼んだらどうしますか?」

 

「一昨日来やがれ」

 

「やっぱり」

 

 赤い鉢巻を巻いた千花と軽口を叩き合う。先程の会話から解る通り、総司と千花は敵チーム同士である。だからといって険悪な雰囲気になったりはしないが。

 

「いやぁ~、今年は晴れましたね~」

 

「だな。去年は…寒かったもんな」

 

 現在は十一月。日中でも冬の刺すような寒さが感じられる事がちょくちょくあるという時期になってきた。そんな時期に行われる体育祭だが、今年の様に温かくなる年もあれば、去年の様に寒くなる年もある。

 去年は本当に酷かった。競技に出る生徒は半袖短パンの体操着を着るのだが、寒いせいで皆が震えていた。まあ最終的には体育祭の熱気によって常時半袖短パンのままでいる生徒も出てきたのだが、そういった生徒のほとんどが次の日に風邪を引き、体育祭の片付けに出られないという事態に陥った。

 

 しかし今年は晴れ、ポカポカと陽気な暖かさがある。競技を熟した者は暑さすら感じてるのではないだろうか。

 この十一月という時期に、生徒のほとんどが半袖短パンの格好で歩いている。目の前の千花もその一人だ。

 

 薄着の白い体操服に紺色の短パンという服装が千花のボディラインを浮かび上がらせる。普段の制服ですら押し上げ目立つ豊かな胸が今の格好だと更に──────

 

(カット)

 

 思考を切る。これ以上はいけない。というかデジャブを感じる。前にもこんな事があった気がする。

 

「失礼。もしかして、君が四宮総司君かい?」

 

「…そうですが。貴方は千花さんの御父様ですね?」

 

「あぁ。藤原大地です、宜しく」

 

 眼鏡を掛けた清潔な印象を受ける男性は千花の父、藤原大地。彼の父、すなわち千花の祖父と同じ政治家の道を歩み、同僚、国民共に信頼度は厚い。いずれ総理大臣に選ばれるだろうと今の段階から言われている程である。

 

「君とは是非会ってみたかったんだよ。千花がよく君の話をしているからね」

 

「お、お父様!」

 

「…」

 

 ニッコリと笑いながら、なのに威圧感を感じさせる顔で総司を見据えながら言う父に千花が慌てた様子で言い寄る。

 一方の総司は何故威圧されたのか解らず内心首を傾げている。

 

「…はぁ」

 

「おい、今バカにされた気がしたぞ」

 

 直後、背後から聞こえる赤木のため息の声。完全に総司をバカにしたその声に総司はグリン、と首を回して赤木を睨み付ける。

 

「…」

 

「…何か?」

 

「いや…。千花の話を聞いて解ってはいたんだけどね。こうして面を向き合ってみると、改めて君やかぐや君が四宮としては異常に見えてしまう」

 

「…」

 

 千花は首を傾げているが、やはりこの男は四宮の実態を知る一人である。だからこそ、総司とかぐやに違和感を覚えて仕方ないのだろう。

 何しろ、四宮が普通に行事に参加し、楽しんでいるのだから。

 

「かぐやはともかく、俺も本質の部分は四宮ですよ」

 

「だろうね。そうでなくては君が次期当主に選ばれる筈がない。…それでも、君が他の四宮とは違う事だけは間違いないよ」

 

 やはり父娘だ。政治家らしい狡猾さだけでなく、千花の様な柔らかな包容力というべきか、そういった一面も持っている。

 だからだろうか、つい喋りすぎてしまった。こんな話は千花に聞かせるべきではない。まあ、千花は何が何だか解らず大地に何の話なのか無邪気に問い掛けているのだが。

 

「そうだ。さっきかぐや君や白銀君にも言ったが、君も是非うちに遊びに来てくれ。無論、時間が空いた時に、だよ?」

 

「…はい。それでは、いずれ皆でお邪魔させてもらいます」

 

「楽しみにしているよ。…君とは個人的に話したい事もあるしね」

 

 威圧感再び。遊びにおいでと誘われたのは良いのだが、最後の威圧と共に掛けられた言葉で総司は一気に行きたくなくなった。

 本当に威圧される理由が総司には解らない。何故なら、四宮総司(鈍感系主人公)だから。

 

「総司君と話したいコトって何でしょうね?」

 

「…さあ?」

 

 千花と一言二言交わしてからその場から離れていく父の背中を見ながら、千花が総司に問いかける。そんな事を聞かれても総司にはさっぱり解らない。何故なら(以下略

 

「あっ、私もうすぐ出番です!」

 

「そういや、障害物競走に出るんだっけか」

 

「はい!それじゃあ総司君!応援よろしくお願いします!」

 

「俺、白組なんだけど?」

 

 抗議の言葉は無視された。千花は笑顔で手を振り、障害物競走に出る生徒達の集団へと入っていく。その姿を見送ってから、総司はふとある事に気が付く。

 

「あれ?赤木は?」

 

 赤木がいない。キョロキョロと辺りを見回していると、観客の最前列でカメラを連写する赤木の姿を見付けた。

 カメラのレンズの先には、100m走で一位をとったかぐやの姿が。

 

「…」

 

 何か居たたまれない気持ちになった。自分の付き人が妹をカメラで連写する姿に居たたまれない気持ちになった。

 いくら父の命令とはいえ…、総司はそっとその場から離れる。

 

 グラウンドから少し離れ、丁度グラウンドを見渡せる位置で総司は立ち止まる。周囲から競技を見つめる観客と観客の間から見える競技の様子。

 

「総司様」

 

 背後から声を掛けられる。涼やかな少女の声が誰のものか、振り返らずとも総司には解る。

 

「競技は大丈夫なのか?」

 

「はい。先程の100m走で午前の部で出る競技はなくなりました」

 

 総司の隣まで来た少女は総司の言葉に返事を返す。ここで総司は初めて少女の方へと振り向いた。

 

 金色の髪をサイドにまとめ、体操服を着た早坂がそこに立っていた。早坂はグラウンドの方を眺めていたが、総司が振り向いた事に気付き、早坂も総司の方へ視線を向ける。

 

「総司様は…午後に出る競技が集中してるんでしたね」

 

「あぁ。お陰で暇で仕方ない」

 

「それなら御友人と…すみません、いないのでしたね」

 

「おい、今のわざとだろ。泣くぞ」

 

 ペコリと頭を下げる早坂。しかし、総司には解る。わざと早坂は地雷を踏み抜いたのだと。

 

「…書記ちゃん、頑張ってますね」

 

「おい、話題を逸らすな」

 

 グラウンドでは二人三脚が終わり、障害物競走が始まっていた。総司もグラウンドに視線を向けると、千花がバランスをとりながら平均台を渡っているのが見えた。

 

「おぉ、千花一位じゃないか」

 

「──────」

 

 平均台を渡り終え、その後の障害も越えて何と千花は一位でゴールした。嬉しさのあまりピョンピョン跳び跳ねながら近くにいたかぐやに報告している。

 その後、何故かキョロキョロと辺りを見渡しているが…、もしかして自分を探しているのでは?という考えが浮かんだ直後、千花と視線が合った。千花は嬉しそうに笑みを浮かべて手を振り…、総司の隣にいる早坂を見て固まった。

 

「?」

 

 突然どうしたのか、首を傾げる総司。そうこうしている内に一位をとった生徒が立つ場所へと連れていかれる千花。その間もこちらに視線を向けたままだった。

 

「どうしたんだ、千花の奴?」

 

「…総司様」

 

「ん?どうしたはやさ…か?」

 

 千花の様子を気にするのも束の間。低い声で早坂に呼ばれる。振り向いて見れば、早坂は無表情で、かつ迫力を感じさせる表情で総司を真っ直ぐ見据えていた。

 

「書記ちゃんの事、名前で呼んでるんですか?」

 

「そうだけど」

 

「…ちっ」

 

「何で舌打ちした?」

 

 総司は早坂の質問に答えた。しかし早坂は総司の質問に答えない。忌々しげにグラウンドの方を睨んでいる。

 

(え、何で?訳が解らない。何でいきなり早坂不機嫌になった?)

 

 これが解らないからこいつは四宮総司(鈍感系主人公)なのである。

 

「総司さん!」

 

「あ…、圭さん?」

 

「っ」

 

 更に直後、遠くの方から大きく総司を呼ぶ声がする。振り向けば、こちらに大きく手を振る圭の姿があった。

 圭は笑顔でこちらに駆け寄ってくる。

 

「総司さん、こんにちは」

 

「あぁ、こんにちは。今日は白銀の応援か?」

 

「…まあ、それもありますよ、はい」

 

「?」

 

 圭に微妙な顔をされた。何故?

 

「総司さんが出る競技って何ですか?」

 

「俺?俺は後200m走と棒引きと選抜リレーだけど?」

 

「…見事に午後に集中してるじゃないですか」

 

「はっはっは、言うな」

 

 また微妙な顔をされた。まあ今回に関しては先程と違って理由は明らかだが。

 

「それで、総司さん。そちらの方は?」

 

「ん?こちらの方は…知り合いだ」

 

「お知り合い、ですか?」

 

「うん、知り合い」

 

「ただの?」

 

「ただの」

 

 総司が出る競技を教えてもらった圭は次に総司の隣にいる早坂について聞いてきた。

 千花の時とは違い、まだ圭は早坂について何も知らない…はず。なのに、そのはずなのに、何で圭は早坂と鋭く睨み合っているのだろう。

 

「…白銀圭です」

 

「早坂愛」

 

「言っておきますけど、負けませんから。貴女にも、千花姉にも」

 

「それはこっちの台詞」

 

「…」

 

 口を挟めない。ツッコミたい事は山ほどある。早坂のギャル擬態はどうした、とか、何でここまで雰囲気悪いんだ、とか、突然千花の名前が出るのは何でだ、とか。

 

 なのだが、二人の迫力に口を挟めない。誰でもいいから助けてくれ、と総司は心の中でSOSを発する。

 

「総司君!やりました!私一位とりましたよ!」

 

「千花…!?」

 

 救世主現る。雰囲気ゆるふわな千花ならばこの空気を変えてくれるかもしれない。総司はそう期待を込めて振り返った。

 

「ごふっ」

 

「「なっ」」

 

 駆け寄ってきた勢いそのままに総司は千花に抱き付かれた。その様子を見て早坂と圭が絶句する。

 

「えへへー、誉めてください~」

 

「いってぇ…。おい千花、いきなりなに「千花姉!総司さんから離れてぇ!」」

 

「書記ちゃん、さすがにそれはちょっと尻軽が過ぎるんじゃないかな?かな?」

 

「」

 

 おかしい。空気が悪化した。早坂と圭の形相が更に黒くなった。

 圭は千花の腕を引っ張り総司から引き剥がそうとし、早坂は背後に黒いオーラを発しながら千花を睨んでいる。

 

「わあああああん!圭ちゃん、離してください!まだ総司君からご褒美貰ってないんですよ~!」

 

「そんなの私があげるから!ほら、売店のカレーパン奢ってあげるから!」

 

「何なら私が焼きそばも追加で奢ってあげましょうか?」

 

 どうして、どうしてこうなった。圭に続いて早坂も千花の腕を掴み、そのまま二人は千花をどこかへ連行していく。

 

「おーい、そっちは売店じゃないんだけど…」

 

 総司の声は届かない。千花が二人の拘束から逃れようともがいていたが、今の自身の状況に楽しさを覚えたのか、急に抵抗を止めた。

 

「…まあ、静かになったし良いか」

 

 千花が来てから更に雰囲気が悪くなった時はどうなるかと思ったが結果オーライ。千花は総司の期待通り救世主の働きをしてくれた。

 

「さて…。ジュースでも買いに行くか」

 

 騒いでいたら喉が渇いてきた。別にたくさん競技に参加した訳じゃないが、喉が水分を欲していた。総司は欲望の向くままに売店へと足を向ける。

 

 その姿を、観客達の中から見る視線には気付かぬまま。

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