四宮総司は変えたい   作:もう何も辛くない

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今更ですが、30万UA突破しました。最高記録です、ありがとうございます。
これからもこんな駄作に付き合って頂けると嬉しいです。m(_ _)m


四宮総司は兄である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

 あぁ悲しい、悲しすぎる。あわや涙が出そうになるくらい、総司の心は今、悲しみに満ちていた。

 

 総司が今いる場所は学園の敷地内、校舎裏の小さな脇道。そこで足を止め、こっそりと建物の影に身を隠しながら向こう側を見つめていた。

 

「うううううううーっ!あうあうあううあああああああああーっ!」

 

 そこには、両目に涙を溜めながら奇声を発する一人の少女がいた。

 

 奇声、と聞けば大半の人物がマイナスのイメージを持つだろう。総司も例には漏れず、奇声を発する人が近くにいれば気持ち悪いと、傍に寄りたくないと思ってしまう。

 

 しかし、今の総司は違った。近づきたくないとは思っているが、気持ち悪いとは思っていない。というより、思えない。

 何故なら、目の前で奇声を発する一人の少女、この光景があまりに、あまりに悲しすぎるからだ。

 

(何があった…。いや、()()関連だとは思うけど、本当に何があった眞妃さん…!)

 

 許されるなら、今すぐにでも彼女に歩み寄り慰めてあげたい。しかしそれは出来ないし、何より()()()してはいけない事である。

 

 何が起こったのかも大体想像がつく。眞妃のあの発狂っぷりは恐らく、柏木と田沼のあのシーンを見たのだろう。総司が実際にその場面を目にしていないため断定は出来ないが、可能性は高い。

 

(不憫だ…、不憫すぎる…ん?)

 

 溢れそうになる涙を耐えながら眞妃を見守る。大声を上げ終えた眞妃は力尽きた様に地面に倒れ込んだ。いや、正真正銘精魂尽き果てたのだろう。口許から魂が抜けている気がする。

 

 その時だった。総司がいる場所とは眞妃を挟んで反対側から歩いてくる二人の男子生徒を見たのは。

 並んで歩いてくるのは白銀と石上である。二人は楽しげに話していて倒れている眞妃に気付いている様子はない。

 

(…まずい。いや、これはある意味チャンス、なのか?)

 

 一瞬、眞妃の醜態が見られる、まずいと内心で過るもこれはもしかしたらチャンスになるかもしれない。

 ここで白銀と石上が眞妃に気付けば、こんな様子の眞妃を放っては置かないだろう。そうして、何であんな所に倒れてたんだという話になって、眞妃がこれまでの出来事を話して──────他人に悩みを打ち明けるというのは想像以上に気持ちが軽くなる。それに白銀も石上は親身になって聞いてくれるだろう。

 …石上は少し心配ではあるが。いや、眞妃を雑に扱うとかそういう風に思っている訳ではなく、こう、石上は変な方で想像力が豊かだから。

 

 とにかく、このまま見守り続ける事にする。総司は視線をそこに向け続ける。

 

「ん?何か踏ん…ええーっ!?」

 

「バカーーーーーーーーっ!」

 

 見守り続ける事が出来なかった。倒れた眞妃に気付かぬまま歩き続けた白銀と石上。その結果、白銀が眞妃の頭を踏んでしまった。

 堪らず飛び出す総司。白銀と石上に任せようという思惑は呆気なく頓挫したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ、何であの時飛び出してしまったのだろう。完全に失敗した。いやでもあんなの飛び出すに決まってるだろう。神様も何て残酷な仕打ちを受けさせるんだ。失恋した人に想いの対象だった男と親友のディープキスシーンを見させたりそれによって傷心中の眞妃を白銀に踏ませたり。

 

(あんなの見せられたら飛び出るって。多分かぐやでも俺の立場なら飛び出るわ、多分)

 

 必死に内心で言い訳する総司。その正面には総司を睨み付ける眞妃がいる。

 

 現在、総司達は生徒会室に居る。総司と眞妃はテーブルを挟んで対峙する形でソファに座り、白銀と石上は眞妃にお茶を淹れている。

 

 何でこんな事になっているのかというと、まあこれまでを見ていたら解ると思う。倒れていた眞妃を白銀達と一緒にここまで運んだのである。

 そして正気に戻った眞妃が総司を見て、こうなった。生徒会室の雰囲気は最悪である。

 

「…こうして顔を合わせて話すのは初めてですね、おじ様」

 

「そう、だな。そういえばそうか」

 

 総司は帝から眞妃の話を色々聞いていたためそんな感じはしないのだが、眞妃は違う。勿論、会った事自体はある。しかし、話した事はない。

 因みに話は変わるが逆も然りだ。総司からかぐやの話を聞いて色々知っている帝だが、かぐやと実際に会話した事はない。

 

「おじ様のお噂は耳に入ってますよ?四宮の業績をバンバン上げているそうじゃないですか」

 

「別に大した事はしてないさ。四条の方こそ調子良いじゃないか。そろそろ国内進出狙ってるのか?」

 

「ふふ、それを貴方に言うと思います?」

 

「「…」」

 

 白銀と石上が完全に硬直してしまっている。先程までとは違い、剣呑な雰囲気を隠そうともしないまま話す総司と眞妃に戸惑っているのだ。

 

「あの、お茶です…」

 

「あら、ありがとう。えっと…」

 

「…あ、石上優です。…それで、貴女は?」

 

「…私を知らないなんて、不調法者ね。まあいいわ、教えて上げる」

 

 眞妃が胸を張り、手を当てながら高らかに告げる。

 

「私は四条眞妃。正統な四宮の血を引く者よ」

 

「四宮…、え?じゃあ総司先輩達と親戚という事ですか?」

 

「ええそうよ。総司とかぐやは正真正銘私の親族。二人は私の再従祖叔父と再従祖叔母にあたるわ」

 

「え、あ、そうですか。遠いんですね」

 

 多分石上は再従祖叔父と再従祖叔母がどの位置にあたるのか解らないのだろうが、響きで色々と悟ったらしい。

 

 石上の言う通り、かなり遠い。

 

「それで?四条はあんな所で何してたんだ?」

 

 白銀が問い掛ける。

 

 あ、まずい。どうしよう。興味ないフリして出ていくべきか。

 そんな迷いをしてる時点で時すでに遅し。

 

「そんな事も解らないの!?私はあそこで…あそこで…ほんと…何してたんだろね…」

 

「え?え!?」

 

 ポロポロと涙を流す眞妃に戸惑う白銀と石上。そして、菩薩の様な表情になる総司。

 仕方ないだろう、どんな表情をすれば良いというのか。笑えば良かったか、泣けば良かったか。否、無表情が最善の選択である。

 

「何がしたいんだろね、私…」

 

「全然解らない!」

 

「お願いです!説明してください!」

 

 眞妃がこれまでの経緯を話し始める。総司がこの場にいるというのに。相当動転しているらしい。

 まあ、知っての通り総司は既に眞妃の周囲で起きた事を熟知しているのだが。

 

「つまり、四条はあいつが好きという事か」

 

「はぁー?好きとかじゃないわよ!馬鹿にしないでちょうだい!…まあ、向こうから告白してきたら付き合う事を考えないでもないけど」

 

 ツンデレを極めている発言が眞妃の口から飛び出す。と同時に総司は白銀の表情が引きつったのを見逃さなかった。

 恐らく、それはそれは何とも馴染み深い台詞だった事だろう。そして、胸に刺さる台詞だった事だろう。

 

 総司は僅かに頬を膨らませた。怒っているからではなく、笑いを堪えるために。

 

「いやちょっと待ってください。それはただの甘えでしょう」

 

 ここで石上が口を開いた。石上に三人の視線が集まる。

 

「好きなら自分から告白するべきじゃないですか?向こうも同じ気持ちだったら永遠に結ばれないですよ?」

 

「…」

 

「そうやって人は後悔するんです。あの時こうしておけば良かったって。あの頃に戻りたいって。そんな哀れな人間になりたいんですか?」

 

「──────」

 

 白銀の心がかなり傷ついたのは言うまでもない。そして総司の頬が更に膨らんだのも言うまでもない。

 

「…勘違いしてるみたいね石上。別に私は翼君の事なんて好きじゃないわ」

 

「いや好きでしょ。好きじゃない人なら付き合っても良いなんて言いませんよ。後、あの人翼っていうんですね」

 

「好きじゃないわよ」

 

「いやどう見ても好きでしょう?」

 

「好きじゃないって!」

 

「そう言いながら好きなんでしょ!」

 

「…うん」

 

「あっ、思ったより素直で可愛いなこの人!」

 

 先程までとは打って変わってしおらしくなる眞妃。その姿はあまりに可愛らしく、石上と白銀はそのギャップにグッと来たらしい。

 総司もその例に漏れず、どころか石上と白銀以上に胸にキュンキュン来てしまった。

 

(まずい。何だこの覚えのある感覚は。…今すぐ眞妃さんの頭を撫で回したい)

 

 重症だった。総司は必死に暴走しそうな内なる自分と闘っていた。

 

「それなら略奪でもするのか?相手は彼女持ち、それもその彼女はお前の親友。これまでの関係が木っ端微塵に壊れるが」

 

「…四宮の次期当主ともあろう男が、野蛮なこと。一人の男を巡ってどろどろの愛憎劇?そんなはしたない事をこの私がするとでも?」

 

 雑念を振り切り、眞妃に険悪な感情を抱いてる風を装って問い掛ける。総司の問い掛けに、眞妃は絶対零度の視線を向けながら返す。

 また部屋の温度が下がっていく。総司と眞妃を中心に、白銀と石上を巻き込んで。

 

「学生のおままごとの恋愛ごっこが長続きする筈ないわ。どうせあの二人もすぐに別れる。私はただお茶を飲みながら待てば良いの。…そう、別に彼が誰と付き合おうと関係ない」

 

 眞妃の視線がずらされる。直後、眞妃はうずくまりながら嗚咽を漏らし始める。

 

「最後に私の傍にいてくれたら…。それで十分…」

 

「…相当参ってんなこれ」

 

 先程は総司がこの場にいる事を忘れていたで片付けられるが今回は無理だ。思い切り会話の相手である総司の前で眞妃は泣き出してしまった。

 

「…じゃあ、四条は別れさせる工作とかはしないのか」

 

「渚は大事な友人だしね。そういうのをするつもりは今のところないわ。多少の憂さ晴らしはするけど」

 

 涙を引っ込め、再び尊大な態度を取り戻す眞妃。もうその態度に白銀も石上も騙されないが。この短時間に眞妃のか弱い面を見すぎてしまったが故に、その態度もどこか微笑ましくすら感じてしまう。

 

「僕…何だか同情してきました」

 

「石上?」

 

「待つのって辛いですよね、僕なら耐えられない」

 

「あはは!か弱い人間だ事!私はアンタと違って鋼の心を持ってるから全然平気よ!」

 

「すごい…」

 

 石上が尊敬の念が籠った視線を眞妃に向ける。眞妃がその視線に調子を良くして更に態度を大きくさせる。

 

「だって今頃、いつか二人で行きたかったデートスポットで遊んでたりするんですよ?」

 

「──────」

 

 眞妃の中で時が止まった。少なくとも、総司と白銀にはそう見えた。

 

「初めて二人で遊園地に行っても、彼は『元カノと来た事あるけど』なんて思う訳じゃないですか。手料理を振る舞っても元カノの味と比べられて。初めてのキスも妙に手慣れてたり、ホテルの場所もバッチリ把握してて…」

 

「石上。おい、石上」

 

「そうだな。後は、あれだな。彼の部屋に遊びに行ったらまだ元カノと続いてた時の名残が残ってたりな。捨てられないで残ってた元カノとのツーショット写真が机の中に入ってたり、カレンダーに自分とのじゃないデートの約束がメモされてたりとか」

 

「総司まで!おい二人とも!」

 

 石上に総司が続く。そして白銀も、なんて事はなく、白銀は慌てた様子で総司と石上を止めようとしていた。

 

「やめてよ…そんなこといわないでよ…ひどい…」

 

「…」

 

「あ、これは僕が悩んでる事でして!先輩を傷つけるつもりじゃなかったんです!」

 

 石上はともかく、総司としてはちょっとした悪戯心のつもりだった。しかし効果は想像を越えて絶大だった。

 謝罪の言葉はないが、内心では途徹もない罪悪感に苛まれてたりする。

 

「そういえば渚、週末デ◯ズニーに行くって言ってた…。ミ◯コスタのハーバービューのテラス席を予約したとも…。もう彼とミラ◯スタ泊まれないわ…」

 

 わなわなと両手を震わせ、声を震わせながら友人との会話を思い返している眞妃。

 

「他人を顧みない自己愛の権化…。男を誑かすしか能のないヘンテコヘアピン女…絶対に許さない…」

 

(うっわ、すっげぇ既視感のある顔と聞き覚えのある台詞)

 

 ハイライトを失くす眞妃の目を見ながら総司は物凄いデジャブを覚えていた。

 

 何故だろうと考える内に話は進む。奥手だった筈の翼が壁ダァンとかいう技を誰かに吹き込まれたせいで柏木とデキたやら、その技を教え込んだ奴の皮を剥いで鞣すやら。

 

 その時、白銀が震えていたのはきっと気のせいだろう。総司は気付かなかった事にする。

 

「もう四の五の言うの止めたわ!略奪?上等よ!絶対に彼を射止めてやるわ!…二人とも…協力、してくれるわよね」

 

「緩急が強すぎる!」

 

「てか、それとなく俺を除外するのな」

 

 こういう態度の緩急が強すぎる場合はどちらかが演技、或いはどちらも演技というパターンが殆どだが眞妃の場合はどちらも本気である。

 だからこそ、白銀も石上も流される。相談相手に選ばれていない総司は別だが。

 

(別に相談くらい乗るけどなー。まあ、眞妃さんのプライドが許さないんだろうけど…ん?)

 

 仲間外れにされた事をちょっぴり寂しがっていると、生徒会室の扉が開かれる。その音に振り向く全員の視線が、部屋に入ろうとするかぐやの姿を捉えた。

 

「あら、こんばんは。おば様?」

 

「眞妃さん…。おば様は止めてと言っているでしょう?同い年なんですから」

 

「続柄上そうなってるのだから仕方ありません。目上の者は敬えと教わっているので…」

 

「そうですね。分家は本家を敬うのが筋ですよね…」

 

 総司と眞妃が話していた時と同種の空気が部屋を包む。

 

「あれが噂の本家末家論争ってやつ?」

 

「恐ろしいっすね」

 

「あれはかなりマシな方だ。というより可愛いもんだろ、姉妹喧嘩みたいで…」

 

「いや、姉妹喧嘩にしては殺気に満ちすぎてるんですが…」

 

 総司は言いながら、初めて今代の四条の当主と会った時を思い出していた。許されるのなら今この場で殺してやりたい、そんな目で見られたのを今でも覚えている。

 

 そしてそれと同時に、やけに眞妃の仕草や台詞が可愛く思えたのか、その理由も総司の中で判明した。

 

(そっか。姉妹喧嘩してるって思えるくらい二人が似てるんだ)

 

 かぐやと眞妃。二人はとても似ていた。好きな相手に告白しようとせず告白させようとする所。打たれ弱く、涙脆い所。ツンデレな所。大切な友人に向けて呪いの言葉を吐く所。

 少し考えるだけで共通点がこんなにも出てくる。

 

「会長…。どういう事ですか…?可愛かったんですか?眞妃さんが?」

 

「い、いや!その、だな!」

 

「四条先輩はツンデレっぽいところが可愛かったです」

 

「不調法者は黙ってて!」

 

(ほら、不調法者なんて言っちゃってさ)

 

 改めて見れば見るほどかぐやと眞妃が似た者同士に見えて仕方がない。

 かぐやは勿論そうなのだが、かぐやに似ている眞妃も兄という立場で可愛く思えてしまう。血縁上、兄ではなく叔父に近いのだが。

 

「総司、何を笑ってるの?」

 

「え?」

 

「まさか貴方まで眞妃さんが可愛かったなんていうんじゃないでしょうね?」

 

「いや、可愛かったぞ。かぐやに似てたから」

 

「…誰が私に似てたんです?」

 

「眞妃さんが、かぐやに、似てた」

 

「…総司。今から少しお話しましょうか」

 

 にっこりと微笑むかぐや。しかしその微笑みは黒く染まっており、その笑みを見た白銀は苦笑を浮かべ、石上は尋常じゃない程震え出す。

 

 生徒会室にて説教が始まった。まあ、総司が考えを改めるつもりが微塵もなかったため効果は皆無だったが。しかし眞妃と似ているなど認められないかぐやの説教は千花がやって来るまで続いた。

 

「同族嫌悪」

 

「黙りなさい!」

 

 なお、説教が終わってからも微笑ましい兄妹喧嘩は夜まで続いたという。

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