四宮総司は変えたい   作:もう何も辛くない

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四宮兄妹の憂鬱

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『明日は早坂を名代として送る。お前とかぐやは早坂と共に三者面談を受けろ』

 

「はい」

 

『…ついでに聞いておくが、お前は行きたい大学はないのか?』

 

「いえ、特別行きたい大学はありません。強いて言うなら、東大に行こうかな、と」

 

『そうか。…かぐやについては何か聞いてないのか?』

 

「…ご自分でお聞きすれば良いのでは?」

 

『それはできん』

 

「…一応聞きます。何故です?」

 

『そんな事を聞けば、儂がかぐやの事を気になって仕方ないみたいじゃろうが!』

 

 波乱づくしの期末試験を終えてから、もう一週間が過ぎた。

 総司は満点で一位、かぐやは三位、二人の間に二位の白銀、三人の下に眞妃と上位四人の顔ぶれ、順番は変わらず。

 勉強会に参加した早坂、千花は前回の試験より更に順位を上げ、圭は中等部二年でトップの成績を叩き出した。試験の順位発表が行われた日に、メッセージで写真を添付して報告してくれた。

 一年組では伊井野が変わらず一位、そして石上が前回から順位を二十位上げるという快挙を達成。何かやる気を出す切っ掛けでもあったのだろうか?

 

 そして先程も言ったが、期末試験が終わってから一週間。明日、二年生は三者面談を行う日となっている。その際の打ち合わせを総司は雁庵と、電話を通して行っていた。

 本来なら総司とかぐやの父親である雁庵が来るべきなのだがそれは出来ず、代わりに京都にいる早坂の母が来る事になった。

 

 しかし雁庵も総司とかぐやの進路は気にしている様で、総司には直接、かぐやには総司を通して把握しようとしている様だ。

 

「…マジでめんどくせぇ」

 

『何か言ったか?』

 

「マジでめんどくせぇ」

 

『せめて誤魔化さんか!』

 

 相変わらずかぐやには踏み込んでいけない雁庵にため息を吐く総司。

 

(ホント、かぐやのあのアホっぷりは父親譲りだよな。俺には遺伝しなくて良かった)

 

 なんて、ため息を吐きながら自分の事を棚に上げているこの男もまた父の血を存分に継いでいる事を忘れてはならない。

 

「俺も詳しく把握してないぞ。かぐやの進路が知りたいんなら直接聞けばいい」

 

『息子が冷たくて儂ゃ寂しいぞ…。完全に敬語消えとるし…』

 

「暖かくしてほしかったらかぐやにも少しは親らしい事をしてやれ。電話してやるだけでもきっと喜ぶぞ」

 

『…考えておく』

 

「…」

 

 これは電話しないパターンである。

 

 雁庵がかぐやを毛嫌いして関わろうとしないのなら総司も雁庵に何らかのアプローチが出来たのだが、そうではない。照れ臭いから関われない。こんなの、どうやって解決すれば良いのか。第三者が解決できる範囲を越えている。

 

「マジでこのアホ…」

 

『今、アホって言ったか?』

 

「言った」

 

『お前最近儂の事舐めとらんか?儂も怒るぞ?』

 

「事実に怒るなよ」

 

『…明日から仕事の量を倍「お父様は天才でございます。阿呆などではございません」…その掌の返しっぷりも少々腹立つんじゃが』

 

 こうして話しているといつも思う。何で、これをかぐや相手には出来なくなるのだろうと。何でかぐや相手には下らない意地を張ってしまうのだろうと。

 

『とにかく、明日の事は伝えたぞ。かぐやにも伝えておけ』

 

「ん」

 

 そのやり取りを最後に通話が切れ、約十分の短い親子の会話が終わった。

 

「さて、かぐやには…メッセで良いか」

 

 かぐやに雁庵からの伝言を伝えに行こうと立とうとして、わざわざかぐやの部屋に直接行くのも面倒臭いとスマホを再び起動、アプリを立ち上げてかぐやに送るメッセージを打つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、放課後に予定通り、三者面談が始まった。もうすぐ番が来る総司とかぐやは廊下に並んで立って順番を待っていた。

 二人の傍らにはもう一人、付き人である早坂もいるのだが、何故か彼女の機嫌が悪い。

 

(おかしいな。早坂はマザコンだから母親が来るって楽しみにしてるとばかり…、あれ?そういや俺、代わりに来る人が奈央さんだって言ったっけ?…まあいいや)

 

 ちなみに総司の不安通り、かぐやと早坂には代わりの者が来るとしか伝えていなかった。しかしそれはそれで早坂の面白い反応が見られそうだと総司は黙っておく事にする。

 

「総司、代わりの人は誰なのか聞いていないのですか?」

 

「聞いてない」

 

「…何で少し食い気味なんですか」

 

 危ない。まるで示したかの様にかぐやが問い掛けてきたために総司も僅かだが動揺してしまった。お陰でかぐやの言う通り食い気味な返答になってしまったが、かぐやは総司を問い詰める様子はなく、早坂の方へと向いた。

 

「奈央さんが来るんでしょうか?」

 

「ママ?ママは来ないですよ。忙しい人だし、冷たい人だし、娘に興味ない人だから」

 

(来るよ?)

 

 壁に寄り掛かりながら平然とした風を装いながら、実のところ必死に笑うのを我慢している総司。

 その時、総司とかぐやはこちらに歩み寄ってくる一人の女性を見つける。

 未だに母への不平を呟く早坂をじっと見つめながら、その女性は更にこちらへ向かってくる。

 

「体育祭にも来なかったし、私の進路なんてどうでもいいと思って…」

 

「思ってないわよ」

 

 早坂の傍で立ち止まった女性は、早坂の言葉を遮るように口を挟んだ。

 

「──────」

 

 目を見開き、一瞬硬直してから早坂は勢いよく声がした方へと振り向いた。

 

「ママっ!」

 

 まさかのママ呼びである。

 そう、この女性こそ早坂の母親、早坂奈央である。

 

「ご無沙汰しております。若様、かぐやお嬢様。僭越ながら、本日は私が雁庵様の名代を務めさせて頂きます」

 

「あぁ、よろしく」

 

「よろしくお願いします、奈央さん」

 

 奈央が総司とかぐやの方を向き、一礼してから挨拶をする。総司は一瞥しながら、かぐやはにこりと微笑みながら奈央の挨拶に言葉を返した。

 

 その一方、早坂はというと。

 

「ママ…。かぐや様の為に来たんだ…。別に私の為じゃ…」

 

 不貞腐れていた。ぷいっとそっぽを向いて頬を膨らませている。

 

(マジでこいつ、奈央さんが来るとキャラ変わるよな。散々俺とかぐやをアホアホ言ってるけどこいつも大概だよな)

 

 ぐしぐしと頭を撫でられ、奈央に窘められる早坂を眺めながらそんな事を思う。

 不満げな表情を保ってるつもりなのだろうが、隠しきれない嬉しさが漏れている。僅かににやけているのが総司にもかぐやにも丸わかりである。

 

「じゃ…じゃあ、今日は一緒に晩御飯も…?」

 

「ええ。今日は名代ですから。四人で美味しい物を食べに行きましょうか」

 

「うんっ!」

 

 つい数十秒前まで不機嫌だった早坂の機嫌が天元突破した瞬間である。

 

「わたし、やきにくかおすしがいい!」

 

 心なしか、口調がアホになってる気さえする。

 

「ママは河豚刺しがいいわ」

 

「…最近出来た中華料理屋に行きたい」

 

「総司様、激辛料理が食べたいのならお一人でお願いします」

 

「…」

 

 (´・ω・`)←総司

 

 面談が終わった後、外食する流れだったから行きたい店を言っただけなのに、先程まで機嫌MAX状態だった早坂にじと目で睨まれてしまった。

 

 最近、激辛マニアには堪らない料理を出す中華料理屋が出来たという噂を総司はキャッチしていた。その激辛料理の正体は麻婆豆腐、店名は…忘れてしまったが、いつか時間が出来たら行こうと思っていた。

 奈央の台詞を聞いてチャンスと思っていたのに、早坂め。

 

「やあかぐやちゃん、調子はどう?」

 

 その時だった。渋く低い男の声がかぐやを呼んだ。

 振り返ると、かぐやがいた場所にもう一人、声から受ける印象通りの渋いおじ様がいた。

 

(…誰かに似てる気がする)

 

 あの目付きの悪さ、どこかで見た気がしてならない。とても最近、身近にあの目付きの悪さを見ていた気がしてならない。

 

「ええ…。健康そのもので…」

 

「違う違う、そうじゃない。御行とその後どうなのって話。キスとかした?あ、もしかしてもっと…「してません!」」

 

(御行…。あ、この人、白銀の親父か)

 

 ずっと苗字で呼んでいたため気付くまで少し間が空いたが、この男は白銀御行の父親らしい。そう言われれば、かなり白銀に似ている。いや、白銀が白銀父に似ているのだが。

 

「む?」

 

「え?」

 

 不意に、白銀父の視線が総司の方へと向いた。白銀父は総司からかぐやへ、かぐやから総司へと視線を行き来させてから、再び総司の方へと向いて口を開いた。

 

「君はかぐやちゃんの関係者かね?」

 

「はい。かぐやの兄の総司です」

 

「そうか。総司君…、そうじ…?」

 

「?」

 

 何故だろう。総司の名前を聞くと、白銀父は何かを思い出そうとする様に視線を上げる。間違いなく、総司と白銀父は今が初対面である。それとも、総司が覚えていないだけで何処かで会った事があったのだろうか。

 

「…あー、あぁー、なるほどなるほど」

 

「??」

 

 総司には知る由のない事だが、この時白銀父は白銀家にて見たある光景を思い出していた。それは、一週間程前に掛かってきた圭からの電話から起きた出来事である。

 その電話の内容とは、四宮家にお泊まりしたいというものだった。電話を受けた父はそれを承諾、しかし妹思いの兄はその許可を渋っていた。

 たった今まで父の何処かで引っ掛かっていた。何故突然、圭がお泊まりしたいと言い出したのか。これまで友人の家に泊まった事はあるが、その際は必ず前日までには報告していたのに。そして何故、兄は圭が泊まる事を渋っていたのか。

 

 父はもう一つ、ある光景を思い出す。ある日、圭が信じられないくらい機嫌が良く、兄の小言に怒りも見せず、しかし何故かずーっとスマホとにらめっこしていた。

 父は、そのスマホの画面を圭の背後から盗み見た。圭のスマホはメッセージアプリを起動しており、そこにはとある相手のユーザー名が載っていた。

 圭の頭で隠れてフルネームは見られなかったのだが、この時父は確かに見たのである。()()という二文字を。同時に悟る。この可愛い娘にも、春が来たのだと。

 

「総司君」

 

「はい?」

 

「娘とはどこまでいったのかな?」

 

「…はい?」

 

 そして今日、父は娘の想い人と邂逅を果たすのである。

 

 一方、そんな白銀父の内心などさっぱり知らない総司は言葉の意味が解らず混乱していた。

 

「ちょっ、何を聞いてるんですか!?」

 

「ん?いや、父として娘のこい「少し黙っていてください!」」

 

「…あー」

 

 慌てるかぐやと平然としている白銀父。この二人の会話を聞いて総司はようやく先程の言葉の意味を察した。

 つまり、まあ、あれである。()()いう事なのだろう。この質問には答えず聞き流す事にする。いや、第一にどこまでと聞かれても何もないのだが。

 

「ふむ…つまり、圭を焚き付ければ良いって事だな」

 

「いや、そういう訳じゃ…あぁもうそれで良いです…」

 

 どうしてそこで諦めるんだもっと頑張れよもっとぉ!

 と、心の中で声援を送る。その声援は決して届く事はないのだが。

 

「…そういえば、かぐやちゃんのご両親は?一度正式に挨拶しなきゃと思っていたんだ」

 

「何で挨拶…」

 

 話題が変わった会話を耳にして、総司はふと思う。もし、雁庵自身がここに来ていたら、恐らく白銀父と出会っていたのだろう。そして、白銀父と挨拶を交わしていたのだろう。

 

「…」

 

 容易に思い浮かぶ。白銀父が赤裸々にかぐやと白銀の関係について話し、その話に黙って耳を傾ける父の姿が。

 

(あ、来なくて正解だわ。かぐやのためを思うなら来いよとか思ってたけど、かぐやのためを思うなら来るべきじゃなかったわ)

 

 容易に思い浮かぶ。白銀の命を奪わんと疾走する父の姿が。本当に今日、雁庵がこの場にいないで良かったと総司は本気で安堵した。

 

「総司様、総司様」

 

 総司の肩がちょんちょんと叩かれる。振り向けば、いつの間にか早坂が傍まで近づいてきていた。

 

「…ん、早坂?どうした?」

 

「あれ。放っておいて良いんですか?」

 

「あれ?どういう…」

 

 何の用かと問い掛けると、早坂はかぐやと白銀父がいる方を指差しながら逆に問い返してきた。

 疑問符を浮かべながら、総司は早坂が指差す方へと視線を向ける。

 

「かぐや様。折角ですしこのお方にも同席して頂きましょう」

 

「は?」

 

「ええっ」

 

「総司様もよろしいですか?」

 

「いやよろしくないですけど」

 

 気付いたら物凄い方向に話が進んでいた。何がどうなったら白銀父も面談に参加するなんて事になるんだ。

 

「四宮かぐやさんの保護者の方──────」

 

「「はーい」」

 

「ええーっ!!」

 

「あ、マジで行くの?俺の面談にも?」

 

 かぐやの番がやって来る。教室から呼ばれる声に返事を返しながら教室へと入っていく奈央と白銀父。そして、呆然と立ち尽くすかぐや。

 

「…総司」

 

「お前のせいだぞ。終わりだよ、俺達の三者面談」

 

「私のせいにしないでよぉ!」

 

 容赦なく罵声をぶつける総司と、罵声を浴びて涙目になるかぐや。

 しかし、二人とも憂鬱な心情は一緒だった。

 

「もう…、いってきます…」

 

「がんばれ」

 

 戦場へと赴くかぐやの後ろ姿を見送る。総司はその背中に向けてエールを送るのだった。

 

「次は総司様ですけどね」

 

「言うな。忘れさせろ」

 

 なお、現実逃避は早坂がさせてくれませんでした。総司は早坂に言い返してから、両手で頭を抱えたのだった。

 

 たかが三者面談がこんなにも憂鬱になるとは思わなかった総司であった。

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