四宮総司は変えたい   作:もう何も辛くない

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友達が結婚しました
そうか、もうそんな歳なのか俺…


四宮かぐやは誘いたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「あ~~~あ」」

 

「…」

 

「「あ~~~~~あ、あ~~~~~~~あ」」

 

 夜も更けた時間帯。東京都港区、四宮別邸のかぐやの部屋にて、二人の声が響き渡っていた。

 その声には隠し切れない呆れの念が籠められており、ベッドに腰を下ろして縮こまるかぐやは罰の悪そうな顔をして黙り込んでいた。

 

「やっちまったなかぐや。これで暫くは白銀からデートに誘われなくなったぞ」

 

「ズバッと断っちゃったんですから、仕方ないですね」

 

 そんな小さくなるかぐやを見下ろし、容赦なく罵声を浴びせる二人は総司と早坂。

 

 どうしてこんな状況になったのか、それには少し時間を遡る必要がある。

 

 それは今から数時間前、授業が終わり放課後に入り、生徒会室にてかぐやと白銀が仕事をしていた時の事。

 秀知院学園の近くにはもう一つ、公立の高校があるのだが、その高校の文化祭ももうすぐ行われる。正確には、秀知院の文化祭よりも先に行われるのだ。

 

 そこで、白銀は勇気を振り絞った。偵察という名目で、かぐやを文化祭デートに誘ったのだ。自然を、軽いノリを装って。

 しかしそれが災いした。自分がデートに誘われたと気付かず、かぐやがズバッと断ってしまったのだ。すぐに気付いても時既に遅し。別の話題へと移ってしまったという。

 

 そして、冒頭のあの台詞に繋がる。かぐやの話を聞いた総司と早坂のリアクションが、冒頭のあれである。

 

「仕方ないでしょう!今までの会長を考えてみてください!天と地が引っくり返っても自分からデートなんて誘わない人でしょ!?脳が理解するまでに時間が掛かっちゃったの!」

 

「気持ちは解るがかぐや、その言い種は少し白銀が可哀想だぞ」

 

「まあ確かに、言われてみれば…。何でしょうね、心境の変化でもあったのでしょうか」

 

「早坂も酷い」

 

「じゃあ、総司様は会長さんがデートに誘った事を意外に思わないのですか?」

 

「いや思うけど。滅茶苦茶意外だけど。明日の天気が槍になるんじゃないかってちょっと怖いとすら思ってるけど」

 

「貴方が一番酷いわよ総司」

 

 総司が一番屑だった。

 

「とにかく総司!早坂!どうにか時間を戻す方法を探して!!」

 

「私達はドラ◯ちゃんとド◯えもんじゃないのでちょっと…」

 

「相当錯乱してんな」

 

 そんなタイムマシンに乗りたがるのび◯君みたいな事を言われても、無理なものは無理である。それでもやれというのなら、世代交代しながら百年あれば出来るだろうか?

 …無理な気がするが。

 

「まあ、さ。なあ?」

 

「はい。私もそう思います」

 

「…何よ」

 

「いえ。会長は勇気を振り絞って誘ってくれたんです。次はかぐや様から誘えば良いんじゃありませんか?」

 

「…」

 

 かぐやの表情が引き締まる。視線を下に向けて俯き、何か考え込んでいる様子。

 

「──────」

 

 直後、顔が真っ赤に染まった。恐らく、自分からデートに誘っている姿を想像したのだろう。

 しかし、かぐやは何も言わない。いつもなら『そんな事出来る訳ないでしょう!?』と怒鳴っている所で、かぐやは踏み留まる。

 

 かぐやは本気だ。

 明日、かぐやは白銀をデートに誘う。

 

 

 

 

 

 

 

 そして翌日。授業も終わって放課後。かぐやと白銀が生徒会室に向かっているであろう頃、総司は中庭のベンチに座っていた。

 傍らの鞄から取り出した黒く四角い機械の電源を付け、機械に接続されたイヤホンを耳に着ける。

 

 イヤホンから聞こえてくるのは大勢の人達の会話の声と足音。どうやら調子は良好らしい。総司は満足そうに口許を緩ませる。

 

「何をしてるんですか?」

 

 総司の神経がイヤホンから聞こえる音に注がれる中、頭上から呼び掛けられたのが微かに耳に届いた。

 見上げると、そこに立って総司を見下ろしていたのは早坂だった。

 

「珍しいですね、総司様が放課後に中庭で過ごしているなんて。…音楽でも聞いているんですか?」

 

「違うぞ?」

 

「え?…それ、イヤホンですよね?」

 

「うん」

 

「音楽を聴いてるんじゃないんですか?」

 

「うん」

 

 早坂が首を傾げる。

 まあ、イヤホン着けた人を見たら普通音楽を聞いているのだと思うだろう。しかし、総司が聞いているのは音楽ではない。

 

「早坂も聞くか?」

 

「え?」

 

 総司は左の耳からイヤホンを外し、早坂に差し出しながら問いかけた。

 早坂は一瞬呆けた顔をして、一拍置いてから頷いた。総司からイヤホンを受け取り、総司が開けたスペースに腰を下ろしてからイヤホンを着けた。

 

「…?」

 

 早坂が、総司が聞いているものと同じ音を聞く。イヤホンから聞こえてきたのは扉を開けた様な音。

 

 総司は思う。どうやら、()()()()()()()()()()()

 

「…総司様、これはまさか」

 

「ん?」

 

「盗聴器、ですか?」

 

「正解」

 

「おい」

 

 早坂の表情に影が差した。それも当然だろう。主人に盗聴を仕掛ける等、使用人として見過ごす事は出来ない。たとえ、主人の兄が相手だとしても。

 

「何をしてるんですか」

 

 始めと同じ台詞だが、言葉に籠められた迫力が違う。ついでに言うなら早坂から黒いオーラが吹き出ている。

 だが、総司は揺るがない。

 

「だって気になるじゃん。あのかぐやが男をデートに誘うんだぞ?」

 

「…」

 

 吹き出るオーラが収まった。どうやら、様子が気になるのは早坂も同じらしい。

 

「…聞こうぜ」

 

「…はい」

 

 そして、早坂は悪魔の囁きに身を委ねてしまった。

 

 二人はイヤホンから聞こえてくる音に集中する。

 

 何か木製のものを叩いたような音。室内を歩く足音。何気ない世間話。

 

 二人の表情が一変したのは、直後の事だった。

 

『こないだの北高文化祭の件なのですが…』

 

「「──────」」

 

 顔を見合わせる二人。遂にかぐやが仕掛けた。

 二人は拳を握り、心の中で声援を送る。愛する妹が、主人が、想いを遂げる事を祈って。

 

『学園の代表足る者、やはり偵察に行くべきなのでしょうね!』

 

「「…」」

 

『…』

 

「「…え、終わり?」」

 

 何という事か、次はいよいよ誘いの台詞に続く、と思われた所でかぐやは言葉を止めてしまった。まさか、これで誘ったつもりだろうか。

 

「言葉が足りない!」

 

「かぐや様…」

 

 総司は膝に拳を振り下ろし、早坂が頭が痛そうに額に掌を当てる。

 

 先程のかぐやの台詞では、白銀はこう言われたと思うだろう。北高の文化祭の偵察には行くべきだ。だから、一人で行ってこい、と。

 多分、同じ立場なら総司もそう思う。

 

 きっと、かぐや自身はかなり勇気を振り絞ったつもりなのだろう。しかし、これでは足りない。これでは誘った事にはならない。

 

『こんちゃーっす』

 

「「っ!」」

 

 あと少し、もう一押し、かぐやの背中を押す何かがあれば。

 そう切望する二人の耳に、希望の声が届けられる。石上だ。生徒会室に石上がやって来たのだ。

 何というタイミング、頼むからかぐやの…どうせなら白銀のでも良い。何か勇気が出る話題を頼む。

 

『ちょっと聞いてくださいよ。さっき滅茶苦茶面白い場面見ちゃって』

 

 すると石上が話し出す。

 

『さっき、廊下で文化祭デートに誘ってる奴いたんですよ』

 

「「っ!!」」

 

『しったらにこやかに断られててっ』

 

「「…」」

 

 何というタイムリーな話題、これは勝つる。そう力が籠った直後の叩き落としだった。総司は背凭れにもたれ掛かり、早坂はがくりと前へと脱力する。

 

 ダメだ、これではかぐやと白銀の勇気は大幅に減ってしまう。

 

 頼む、誰でもいい。二人に救いの手を差し伸べて。

 総司と早坂の思いはどこまでも一緒だった。

 

『こんにちは』

 

「「っ…」」

 

 続いて生徒会室に入ってくるメンバー。今度は伊井野だった。二人の目に力が籠る。

 

 しかし、先程の石上の話題からの流れ。そして伊井野の性格。二人は最早嫌な予感を感じ取っていた。

 

『ちょっと聞いてください。さっき凄く酷い場面見ちゃって…。女子を文化祭デートに誘う男子がいたんです。公衆の面前で異性交遊を持ち掛けるなんて信じられませんよね!私、ばっちり、取り締まってやりました!』

 

「「……」」

 

 二人の目が絶望に染まった。終わった、そうとさえ思った。これでかぐやと白銀の勇気がゼロになってもおかしくない。

 

 万事休すか、そう思われた時、三度扉が開く音がした。

 

『こんにちはー』

 

「「──────」」

 

 入ってきたのは千花。この時、もう二人は諦めていた。これは帰ったらかぐやのフォローをしてやらなくてはダメだと思い始めていた。

 

『藤原は文化祭好きだよな!』

 

『えっ、何ですか突然』

 

『誰が北高の偵察に行くかって話だ!』

 

「「──────」」

 

 しかし、まだ諦めていない者がいた。白銀である。いや、もしかしたらかぐやもまだ諦めていないかもしれない。

 

 だとしたら、早々に自分達が諦めるのは何と情けない話か。総司と早坂は顔を見合わせ、こくりと頷き合う。

 こうなったらとことん付き合おうではないか。最後の最後まで諦めない。かぐやと白銀に声援を送り続けよう。心の中で。

 

『あー、そっか!明日は北高の文化祭でしたよね!私、去年行きましたよ~』

 

「「!」」

 

『楽しかったか!』

 

『ええ、すっごく楽しかったですよ?』

 

「「!!」」

 

 二人の顔が綻ぶ。これは来た。これまでの流れはこの時までの序章、これからが本当の勝負だったのだ。諦めなかったかぐやと白銀への神からのプレゼントなのだ。

 

『でも、少し残念な事もありました…』

 

『残念な事?』

 

 しかし、どこまでも神は総司と早坂を、そしてかぐやと白銀を弄ぶ。

 

『お祭り気分で受かれてたのか、ナンパが凄く多かったですねー』

 

『最低ですね!』

 

『かぐやさんが行ったら大変な事になると思います!かぐやさんは絶対に行かない方が良いですよ!』

 

「「ばかあああああああ…!」」

 

 二人は頭を抱えた。

 何という、何という事をしてくれたのか。上げて落とされる、これはダメージ倍増だ。

 かぐやと白銀のライフはもうゼロどころかマイナスの域に至ってるのではなかろうか。

 

 さすがに、さすがにこれは──────

 

『でも…、男の人がいればナンパされませんよね?』

 

「「──────」」

 

 総司と早坂はまだ解っていなかった。かぐやの今回の作戦にかける思いの大きさを。決意の大きさを。

 かぐやは諦めない。それに釣られるように、白銀も力を取り戻す。

 

『そ…そうだ!女一人で行くからそうなるんだ!一人は良くない!』

 

 どんな逆境に立たされようと諦めない。ずっと片方を貶め、嵌めようとしてきた二人は今、繋がろうとしているのかもしれない。

 

 総司と早坂は、ただその時を待つ。

 

『そうですよね!こういう時、男の人って頼りになりますから!』

 

『色々見て回るから体力のある男がいると便利だぞ!そんで一人で行くより二人の方がより幅広くリサーチ出来る!』

 

『『だったら!!』』

 

『だったら会長と石上君で行ってくるのはどうですか?』

 

 ぶつっ

 

 何かが切れる様な音がした。これは形容ではない。物理的にそんな音がした。

 

 総司と早坂がまるで打ち合わせていたかの様に同時に耳からイヤホンを外す。そして総司が早坂からイヤホンの片方を受け取り、コードを畳んで鞄の中へしまった。

 

「さて、帰るか早坂」

 

「はい、帰りましょう」

 

「今日はかぐやを誉めてやろうな。あいつは頑張ったよ」

 

「はい、誉めましょう」

 

「…千花にアホって送っとこ」

 

「…私も送っておきます」

 

 二人の背中から哀愁が漂っていた。神は何故、あの二人にあんな仕打ちをするのか。

 

 流石に、かぐやと白銀が哀れでならない総司と早坂であった。

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