四宮総司は変えたい   作:もう何も辛くない

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四宮総司は変わりたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「あぁ。お帰り」

 

 ムスッと、機嫌が悪そうに帰って来たかぐやとすれ違ったのは、区切りの良い所まで仕事が進み、外の空気でも吸いに行こうと総司が部屋の外へ出て、少ししてからだった。

 

 玄関の方から歩いて来たかぐやは普段着けているリボンを外していた。

 外は寒いのだろう、かぐやの頬が赤くなっている。やっぱり、外に行くのは止めようかなと総司は思った。

 

「外へ行くつもり?」

 

「そのつもりだったけど…寒い?」

 

「冬なのだから、当然でしょう」

 

「だよな」

 

 うん、おとなしく部屋に戻ろう。それで、赤木を呼んでコーヒーを入れて貰おう。

 総司はそう考えた。

 

「…総司」

 

「ん?」

 

 踵を返し、総司が部屋へ戻ろうとした、その時だった。

 かぐやに呼び止められ、総司は振り返る。

 

 かぐやは鋭い眼差しを真っ直ぐ総司に向けている。

 

 もしかしたら、かぐやの機嫌が悪いのは自分のせいなのか、とここ最近の行動を思い返す総司。

 しかし、思い当たるものは何もない。心当たりがあれば、何か言われるよりも先に謝るつもりだったのだが、ないものは仕方ない。総司は次のかぐやの言葉を黙って待つ。

 

「藤原さん、泣いていたわよ」

 

「…そうか」

 

 かぐやの言葉に対し、簡潔に返事をする総司。

 

「怒ってるのは、それが理由か?」

 

「違う。…何も思わない訳じゃないけれど、総司が出した答えが()()であるなら、私は何も口出ししない。私が今、怒っているのは別の理由」

 

 かぐやが怒っているのは千花との事が原因か、と思いきやどうやら違うらしい。

 

 総司から視線を外して、「本当、どうして私の周りの男は意気地が─────」なんて呟いているかぐや。

 

 何を言っているのか、今日、かぐやに何があったのかさっぱり分からず、総司は首を傾げた。

 

「…会長との事は今は関係ないわね」

 

「白銀と何かあったのか」

 

「貴方には関係ない事よ」

 

 どうやら白銀と何かあったらしい。

 昨日はあんなに嬉しそうに白銀との進展を話していたのに、今日は一体どうしたというのやら。

 かぐや自身、話すつもりはないようで、それなら総司も無理に聞こうとは思わない。

 

「総司。私は、貴方が藤原さんをフった事に怒ってはいないわ」

 

「そうか」

 

「でもね。それで貴方が答えを出した気になっている事が、私は気に入らない」

 

「どういう意味だ」

 

 かぐやが言わんとしている事が、総司には理解出来ない。

 

「そうね。貴方には分からないでしょうね。藤原千花という女の子を─────貴方を好きになった女の子達を()()()()()()()()貴方には、絶対に分からない」

 

 更に続くかぐやの言葉。それを聞き、考える。

 

 見ようとしていない、とはどういう意味なのか。

 

「…総司。貴方は藤原さんに告白された時、何を考えたの?」

 

「何を、って─────「当ててあげましょうか?」っ…」

 

「自分には藤原さんと恋仲になる資格がない、といった辺りでしょうか。…本当、こんなくだらない理由でフラれた藤原さんが可哀想ね」

 

 何も言い返せない。何故なら、かぐやが言った事は何も間違いじゃない、まさにそう考えて、総司は千花をフったのだから。

 それでも、一つだけ、言い返さなければ気が済まない台詞があった。

 

「くだらないだと」

 

「えぇ。何が資格がない、ですか。貴方はただ、藤原さんの気持ちと向き合わずに逃げた臆病者です」

 

「…」

 

 かぐやに徹底してこき下ろされる総司。だが、自分でも理由は分からないのだが、()()()という単語が、妙に胸に嵌る感覚がしてならなかった。

 

「貴方は藤原千花という女の子を見てきたと言えますか?藤原さんと一緒に過ごす日々を、想像した事がありますか?」

 

「…」

 

「ないでしょうね。貴方は藤原さんをただの友達としか─────いいえ、それすらも疑わしい。いつか貴方が四宮の当主になればいずれ会わなくなる、そこらの人間と殆ど同じように見ているんですから」

 

「っ、そんな事─────「ないと言えますか?」…」

 

 かぐやに問い詰められ、言葉を失う。()()、と即座に答えられなかった、もうそれが答えなのだろう。

 

「フラれて泣く程に愛されて、その気持ちを言葉で伝えられて、なのに貴方は()()()()()という戯言を言い訳に、彼女の気持ちにすら向き合わなかった」

 

「…」

 

「だから藤原さんが可哀想だと言ったんです。…何しろ、勇気を振り絞ってした告白が、考えなしに振り切られたのですから」

 

「…俺は」

 

「告白をされてから貴方は、藤原さんともし付き合ったらどうなるだろう、とは考えませんでしたか?藤原さんの告白を断ったらどうなるのか、とは考えませんでしたか?…考えなかったでしょう?何故なら、()()()()の未来に、藤原千花がいるという設定を貴方はしていなかったから」

 

 あぁ、その通りだ

 秀知院を卒業して、いずれ入るどこかの大学も卒業して、それから四宮を継いで。

 その先の未来に、藤原千花はいない。もし彼女がいたら、なんて未来を、総司は想像すらもしなかった。

 

 恋人としてじゃなくても良い。友達として、大人になってからも付き合いがあったって可笑しくないのに。

 総司は初めから、藤原千花を、友達とすらも思っていなかった─────

 

「…違う」

 

「なんですって?」

 

 筈がないだろう。

 

「確かに、俺は千花と─────白銀や石上、伊井野…圭さんとの付き合いがどこまで続くのかなんて考えた事はなかった。高校を卒業してから、あいつらと交流があるなんて…していきたいとも思っていなかった」

 

 そこはかぐやの言う通りだった。四宮総司の未来に、今いる掛け替えのない友人達はいない。

 彼らが総司の周りにいる未来を、総司は考えた事すらなかった。

 

 だが、一つだけ、ハッキリと違うと言える。

 

「俺は、あいつらを友達だって思っている」

 

「…総司の未来に、皆はいなかったのに?」

 

「そこを言われると言い返せないが─────それなら、こうだ。たった今から、俺は本当の意味で、あいつらを友達と思えるようになった」

 

「それじゃあ結局、私の言葉は正しいという事になりますね」

 

「…それもそうだな」

 

 つくづく総司は思う。四宮総司という男は、どうしようもない屑野郎だと。

 それを今、かぐやにこれ以上なくハッキリと、突きつけられている。

 

 …そんな自分を変えたいと、総司は今、生まれて初めて思えていた。

 

「…やっと、ですか」

 

「かぐや、お前─────」

 

「時間を戻す事は出来ませんが、まだ挽回できる事はたくさんありますよ。精々頑張るんですね」

 

 先程までの凍り付く様な冷たい顔とは打って変わり、柔らかい笑顔を浮かべるかぐや。

 その表情の変化を見て、総司はまんまと自分が嵌められていた事を悟る。

 

 ここまで見事に誘導されたのは久し振りで、しかもその相手がかぐやだとは。

 悔しいという感情は湧いてこない。むしろ、愚かな自分に大切な事を気付かせてくれて─────今の自分を変えたいと思わせてくれた事に、総司は感謝を覚えている。

 

「ありがとう、かぐや」

 

「…いつも貴方には助けられてますから。このくらい当然です」

 

「そうか。それよりかぐや、顔赤いけど、大丈夫か?」

 

「うるさいわね!仕事があるんでしょう?とっとと部屋に戻りなさい!」

 

 総司が素直にお礼を言うと、微かに頬を赤らめて照れるかぐや。

 

 ()()()()()()()()()だけど、やっぱりどのかぐやも可愛いものだ。

 

 総司は改めて、かぐやへの感謝と、これからもこの可愛い妹を守らなければと決意も添えて、もう一度お礼を口にした。

 

 お礼を言いながら掌をかぐやの頭に乗せると、コンマ数秒後に勢いよく手を払いのけられたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんていう経緯もあり、四宮総司は十六年の人生で、初めて自分を変えようと考えるようになる。

 

 四宮総司()を壊し、新たな四宮総司を築き上げる。かぐや以上に四宮の教育が染み着いた総司には、極めて困難であるなんて、考えるまでもない。

 それでも、総司は変える事が間違っているとは思っていないし、諦めるつもりも毛頭なかった。

 

 その一方で、総司にはやらなければならない事があった。

 藤原千花との関係の修復である。

 

 総司自身にそのつもりはなくとも、現在総司と千花の間にあった友好の線は断絶している。

 

 ()()()()にとって、()()()()は必要な存在である。

 それを伝えたいのだが、考えれば考える程、その難しさを総司は実感させられていた。

 

 つまり、何が言いたいのかというと─────かぐやとの会話からすでに三日。その間、()()()()()()

 

 ─────だって、俺には千花が必要だとか、そのまま言ったらただの告白じゃん!俺は別に千花を女の子として好きな訳じゃない…。ていうか、どう伝えたって、俺がただの屑に成り下がっちまう!

 

 というのが理由である。

 

 何しろ総司は、千花の告白を断ったばかり。そして、千花はそれによって耐え難い程の心の傷を負っている。

 そんな千花に総司が何を言おうとも、第三者から見たら最低野郎にしか思えない光景になってしまう。

 

 ─────まずい…。何をどう切り出しても千花を泣かせる未来しか見えない…。何だこれ…。

 

 ただ、これからも友達としてよろしくと言いたいだけなのに。いや、それですら言葉の凶器となる事は総司にも分かってはいるが、それでも千花との関係が終わる方がもっと嫌だ。

 

 千花に断られたならば仕方ない。それでも、何もせず関係が消滅するのだけは御免だった。

 

 総司は何も行動に移せずにいたが、何も考えていなかった訳ではない。

 しかし、どうすればいいのか、どうすれば少しでも千花を傷つけずに済むのか、それが分からないままただ時間が過ぎていった。

 

 もう、藤原千花を傷つけない事など、出来る筈がない。それを分かっていながら、総司は理想を追い続けていた。

 

 本当は一日中、千花との仲直りの方法について考えていたかった。ただ、総司の立場がそれを許してはくれない。

 満足に思考に集中出来ない。時間は有限で、その時間の中で総司には他にもやらなければならない事がある。

 

 総司個人で留まらない、もっと多くの人を巻き込む、放棄すれば多くの人間が路頭に迷う事だってあり得る。

 四宮の後継者としての仕事が、総司の思考を阻害していた。

 

「どうすりゃいいんだか…?」

 

 とにかく、授業も終わった以上、もう学園に留まる理由はない。

 

 生徒会の手伝いも、暫くは頼まれる事はないだろう、と総司は考える。総司と千花の現在の状態は、もう向こうに伝わっているだろうから。

 

 そう思い、生徒玄関へ降りる階段の方へ足を向けた時だった。

 

 窓の外でちらりと光る、赤いランプ。視線を向ければ、学園の敷地内に救急車が入り込んでいた。

 

 総司が何事か、と思ったその直後、マナーモードのスマホがバイブを鳴らす。

 バイブのパターンから、メッセージが来たと察した総司はアプリを起動して届いたメッセージを確認。

 

「かぐや…?」

 

 メッセージの送り元はかぐやだった。どうしたのかと、かぐやの名前をタップしてメッセージを表示する。

 

「─────」

 

 そこに書かれた内容を見て、総司は足を止める。

 その内容に驚くのと同時に、やはりそうなったか、と納得もしていた。

 

『会長が倒れた』

 

 そこには敷地内に救急車が入ってきた理由と、気を張り続けてきた白銀に限界が訪れた事を総司に伝えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さらりと省かれる早坂…。
ま、まあ、総司にとって早坂は家族も同然だし?仕方ないね?…ね?
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