四宮総司は変えたい   作:もう何も辛くない

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 今回は完全オリジナル回です。そしていつも以上に短いです。
 藤原は出ません。早坂もほんのちょこっとしか出ません。ですが後々に繋がるフラグがありますので流し読みでも良いので目を通す事を推奨します。


四宮総司は対する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりです総司様、かぐや様。お二人とも大きくなられて…」

 

「それはそうでしょう。相馬さんと前に会ったのは何年前だと思ってるんですか」

 

 あはは、と笑い声がガラスに囲まれたインナーテラスに響き渡る。

 隣同士で席に座る総司とかぐやの机を挟んで正面には、白髪が混じった壮年の男が同じ様に席に座っていた。

 

 相馬稔。四大財閥には劣るものの、日本トップクラスの規模を誇る相馬グループの会長。

 実家と本社は大阪にあるのだが仕事で東京に来たようで、今日はここ四宮別邸に住む総司とかぐやに挨拶に来たという訳だ。

 

「しかし…、かぐや様はまた随分とお美しくなられましたな。これでは同じ学園の男共は放っておかないでしょう」

 

「いえいえそんな…。私なんてまだまだです。秀知院には私よりも可愛く美しい女性はたくさんいらっしゃいますわ」

 

「…」

 

 かぐやと相馬のやり取りに黙って耳を傾ける。

 よくもまあこの女はそんな言葉を吐けるものである。昨日、自分とメッセージのやり取りが出来る事がメリットなんて言い切った癖に。

 

「総司様は近頃のお調子はどうなのです?学園と普段の習い事に加えて、お父上の仕事もお手伝いなされているとか」

 

「それは何とかやれていますよ。父も私が処理できるギリギリの量を見極めているようで」

 

「おぉ、それはそれは…」

 

 いや、本当に図ったようにギリギリを攻めてくるのだ。勿論、ちゃんと休めるよう量が少ない日もあるのだが、多い時は本当に徹夜寸前に終えられるよう調整されている。

 

(本当に鬼だよあの人は)

 

 外向けの笑顔はそのままに、内心で静かに父への殺意を燃やす。いつか必ず、仕返しをするともう何度したか解らない誓いを立てながら。

 

「お待たせしました。本日の御夕食でございます」

 

「おぉ、待っておったよ。もう我慢の限界だ」

 

 テラスに早坂が台車を押して入ってくる。その台車には三人分の前菜料理が載せられていた。

 早坂は三人それぞれの前に皿を置き、一礼してから台車を押して去っていった。

 

 それからは三人、話を弾ませながら料理に舌鼓を打つ。前菜の後にスープ、魚料理、肉料理と順番に出てくるフルコース料理は、総司とかぐやが京都の本邸からこの別邸に移る際に雁庵が選び送った選りすぐりのシェフ達が作る物。三ツ星の評価を受けた料理にも劣らない美味を以て、三人を唸らせる。

 

「長らくお顔を合わせずにいましたが…、堂々としていらっしゃいますな」

 

 相馬がそう口にしたのは、フルコースの最後の品であるコーヒーを飲んでいた時だった。

 

「しかし、総司様はまだお若い。周囲からの重圧等はお気になったりしませんか」

 

 その台詞は余りに唐突で、それと同時に余りに想定通りのものだった。

 思わず吹き出そうになる笑いをこらえ、総司は口に付けていたカップをテーブルに置き、総司も口を開く。

 

「何を仰りたいのでしょう?」

 

「いや、御気分を悪くさせたのならば申し訳ない。しかし、先程総司様は何とかやれている、と仰られましたが、やはりお若いその身には今の生活はお辛いのではないかと」

 

「…」

 

 総司は閉じていた両目を開け、真っ直ぐに相馬の両目を見据えた。直後、総司の強い視線を受けた相馬の体が僅かに震える。

 

「ご心配痛み入ります。ですが、その心配は無用なものです」

 

 総司の目は、相馬の唇の端が僅かにひくついたのを捉えた。

 

「しかしですな…」

 

「相馬さん。はっきりと仰られないとお分かりになりませんか」

 

「…何がでしょう」

 

「それでは、私から一つ進言を。…他人の心配をするより、まずは御自分の心配をした方がよろしいのではないでしょうか」

 

「っ…」

 

 完全に相馬の頬が引き攣った。

 

「若輩者の私ですら知っていますよ。最近、売上が落ちているそうですね」

 

「くっ…」

 

「私の心配をなさる前に、まずはそちらの方を何とかするべきではないのでしょうか?」

 

 もう、相馬が抱く総司に対する敵意を隠す事すら出来ていない。そしてその敵意を、総司は笑顔で受け止める。

 どちらが強者でどちらが弱者か、年齢という差を鑑みても明らかである。

 

 総司は相馬の視線も何のその、そっちのけでのんびりコーヒーを口にする。隣のかぐやもまるで対面に誰もいないかのごとく、空になったカップの縁を紙で拭いたりしている。

 

「…どうかなさいましたか?顔色が悪いようですが」

 

「…えぇ。少し気分が悪くなってきました」

 

「あぁ、それは大変だ。是非ともこちらで休んでいかれては如何です?」

 

「いえ、それには及びません。しかし、大変失礼なのですが、今日のところはこれでお暇させて頂けませんか」

 

「そう、ですか…。相馬さんとはもう少しお話していたかったのですが、仕方ありませんね」

 

 相馬の皮肉には気付かない振りをして、少々大袈裟に驚いた動作をしてから宿泊の誘いの言葉を掛けるも断られる。その返事に対して残念そうな表情を浮かべて返してやると、相馬の目が細まった。

 どうやら総司の丁寧な言葉遣いの中に含まれた皮肉に気が付いたらしい。まあ、その方が総司にとっては都合が良いのだが。

 

 首に巻いたナプキンをテーブルに置き、三人は部屋を出る。部屋の前に待機していた早坂に客人のお帰りの旨を伝え、使用人を集めさせる。

 

「では、私はこれで…。大変美味しい御夕食でした」

 

「そうでしたか。シェフにそう伝えておきます」

 

 別れ際、総司と相馬はそう言葉を交わし、互いに一礼し合ってからリムジンに乗り込んだ相馬を見送る。

 

「…良かったのですか。あそこまで挑発して」

 

 かぐやが口を開いたのは、相馬が乗ったリムジンが走り去り、見えなくなった時だった。総司は相馬のリムジンが走っていった方を向いたまま、口を開く。

 

「むしろ、もうちょっとあのおっさんの神経を逆撫でしてやりたかったんだけどな。逃げられた」

 

「…」

 

 かぐやの呆れが籠った視線が向けられる。その視線は完全スルー。

 

「しかし、相馬が俺が若いからーとか言い出した時はマジで笑いそうになって焦ったよ。…それを考えると、ある意味手強かったのか?」

 

 結局あっさり撃退する事が出来た相馬だったが、何だかんだあの時は焦ったものだ。こちらに絶対的な相手に対する手札があったものの、隙を見せたらどうなるか解らない。

 総司が相手にしているのは、そういう輩達なのだから。

 

「…総司」

 

「ん?」

 

 先程までとは違う、気遣いが籠った声が総司を呼ぶ。

 振り向けば、深紅の瞳が真っ直ぐに総司を見上げていた。

 

「私は、何があっても貴方の味方ですから」

 

「…」

 

「手助けが必要な時は絶対に言いなさい」

 

 かぐやの言葉に笑顔を返す。そして、かぐやの頭に掌を乗せて──────

 

「ち、ちょっと!何するんですか!こらっ、止めなさいっ!」

 

「大丈夫だって、安心しろ。かぐやは今のまま、白銀との下らない意地の張り合いを楽しんでれば良い」

 

「く、下らないとは何ですか!こら総司!待ちなさいっ!」

 

 ぐしゃぐしゃと頭を撫でられたかぐやが顔を上げるともうそこには総司はおらず、屋敷の方へと歩いていた。かぐやは慌てて追いかける。

 

 ギャーギャーと言い合う兄妹の微笑ましい口喧嘩が敷地内に響き渡る。

 

 そんな二人のやり取りを、ブルーの瞳はじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あの、こぞうっ」

 

 リムジンの後部座席。血が滲むほど拳を握り締め、ギリッ、と音が出る程に歯を噛み締めるこの男は相馬稔。

 相馬は車のミラー、先程まで自分を見送っていた四宮総司が映っていた場所を睨み付けていた。

 

「覚悟していろ…。いずれ、貴様をこの私が叩き落としてやる」

 

 総司に対するこの男の憎悪は限界まで達していた。只でさえ、懇意にしていた四宮の長男から次期後継者を奪い取り、加えてあの自分に対する態度である。

 たかだか高校生が、20も生きてない餓鬼が、相馬を四大財閥に割って入るのではと言われるまで発展させたこの相馬稔を見下した。

 

「だが、奴の能力は本物だ…。奴が事業に関わり始めてからの四宮の業績を見ればそれは明らかだ…」

 

 しかしその恐ろしいまでの才能は相馬も認めざるを得ない。今の自分の力だけでは、あの忌々しい餓鬼を上回る事は出来ない。

 

 それでも、いずれ四宮総司と対峙するという選択肢は変わらない。変えられない。あの憎たらしい顔を絶望に染め、頭を垂れさせてやる。

 そんな光景を幻視しながら、相馬は溜飲を下げていく。

 

 その憎悪が自身の社会的寿命を早めているとも知らぬまま、相馬の機嫌は戻っていくのだった。




もう何も辛くないは出てこない(後書きネタが)
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