もんむす・くえすと!ぱらどっくす×ゼノバース   作:ジョーカー:ゼノ

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領主リリィ

「ごめんくださーい!」

「オッス!」

 

 二人の呼びかけに応じ、奥から女性が来た。緑髪の綺麗なお姉さん……身に纏っている格式の高いドレスは、身分の高さを表しているのだろう。

 

「待っていたわ……私がこの村の領主であるリリィ・メーストルよ」

 

 物腰穏やかで、礼儀正しい。とても市民の弾圧や武力衝突を扇動するような暴君には見えなかった。

 

「私に話を聞きたいのでしょう? それじゃあ、こちらへどうぞ……」

 

 リリィに連れられ、ルカ達は応接室へ案内される。リリィが奥の椅子に座り、その向かいに座ったのはサラだった。ルカ達は立ち聞きだ。

 

 議論は、すぐに始まった。

 

「悪いけれど、すぐ本題に入るわ。まずは、この村の男性達を私的に処刑した疑いについて……」

「村の者達から、話は聞いたでしょう? この村の男達は、女性に苛烈な暴力と虐待を働いてきたの。それを因習で正当化し、弾圧を続け……この村の女の大半は、20歳になる前に死ぬのよ。そんな悲惨な現状を打破するには、力しか無いわ……私達は、自分の身を守っただけよ」

 

 おおむね、村で聞いた話。改めて聞いてもゲンナリするような事だが……サラは、顔色を変えずにリリィの方へ向いていた。

 

「どんな事情があろうとも、私刑は私刑よ。法治国家において、それは許されないわ」

 

 その言葉を聞いたリリィは、失笑する。

 

「法治国家を気取る連中が、今まで何をしてきたの? この村では、男女の平均寿命に30歳以上もの差があったのよ」

「男女の平均寿命が30歳以上……? いったい何をしたら、そんなに……」

「…………」

 

 その言葉に、ソニアも絶句する。ヴィクトリーは眉間に皺を寄せ、腕を組んだ。

 

 リリィの目は、鋭くサラを睨めつけていた。

 

「中央の人間は、それを確実に把握していたわよね? 把握していたのに、何も……ずっと何の手も打たなかったわ」

「地方行政権は、サバサ憲法の第5条で保障されているから……中央政府が強制的に介入すれば、それは憲法違反に……」

 

 サラの言葉を遮るように、リリィは舌打ちをする。

 

「ええ、確かに法律的には地方自治権の侵害ね。虐待の多くも、民事への国権不介入で片付けられるわ……多くの因習は、思想の自由で保護されているし……何より、訴える者が居なければ事件にもならない……」

 

 そこまで何とか静かに言ったが……次の瞬間、机を勢いよく叩いた。

 

「この村の女達に、正当な司法手続きなんて出来たと思う!? 家に閉じ込められ、外に出られず、暴力を受け続けた女達が! 私だって、領主の娘だからチヤホヤされてたとでも思うの! 逆よ! 生贄同然だったわ、ずっとね……! 結局、法は暴虐を行ってる者達を守ったのよ!」

 

 声を荒らげ、息を切らしながら言うリリィ。トラウマを想起しながら、感情の瀑布を言葉に乗せているのだ。

 

「私達に必要なのは、現状を打ち破る事のできる力だった! この屋敷に残された蝕魔導の書物を、独学で学び……そして力を手にして、ようやく村の女達は救われたのよ」

「………………」

 

 サラは複雑な表情をして、黙り込む。3秒ほどして、口を開けた。

 

「あなた達の境遇は、同情に余りあるわ。そして中央政府の非は非常に大きい……ここで私情を述べるなら、あなた達の行動は黙認したい……でも私は、法で動かなければならない立場なの」

「法治国家の精神に則って考えるなら……今のあなたに、司法権はあるのかしら? 女王を退位し、議会制に移行の最中……実質的に、民間人にあたるわよね?」

「ええ、その通りね……あくまで司法に通報する一市民、という立場でしかないわ」

 

 悔しいが、ここで腐敗したサバサを取り戻すための女王退位が裏目に出てしまった。サラも今や王権を放棄した、ただの剣士……一般人だ。

 

 追撃をかけるように、リリィは厭らしく笑う。

 

「それに、この村で男達が虐殺されたという事だけど……私は力を与えただけで、何も指示はしてないわ。彼女達は、自分達の意志で現状を打破したのよ。己の命を守るため、仕方なく……ね」

「…………」

 

 ヴィクトリーは何か言いたげに、組んでる手の片方で口元を隠している。まぁ、議論に夢中な彼女らには気付きようがない訳だが。

 

「これは、事実上の正当防衛よ。個別的な正当防衛の集積であり、集団的虐殺にはあたらない」

「それは無茶よ……あくまで首謀者としての責任は問われるわ」

「それで……それを法廷で証明できるのかしら? 法治国家である以上、立証しなければならないわよね」

 

 告発する以上は、証明する必要があり……それには証拠が不可欠だ。だが、今からそれを掻き集めるのはほぼ不可能に近いだろう。

 

「………………」

「ともかく……あなたに何の法的権限もない以上、出頭には応じられない。それでも客人として(ぐう)したのは、理解して欲しかったからよ。私達がどんな境遇にあったか……そして、何をしないと生きられなかったか……それでも、私を訴えるというならご自由に。ただ、独立自治権や民事不介入の壁は厚いわよ……あなたの父親が、結局私達を救えなかったようにね。法律は、今度は私達の味方になるわ。それでも私を捕らえるなら、正当な訴状を持って出直すのね。今は何の権限もない、元女王の一般市民さん」

 

 煽りを込めた表情で、リリィはサラに言う。彼女は冷静に頷き、立ち上がった。

 

「……そうさせてもらうわ。しばらく後の事になりそうだけど。この村で何が行われてきたか、全て明らかにするべき……その上であらゆる情状酌量を鑑み、正当な判決を期待するわ」

「全く……」

 

 ようやく、アリスが口を開いた。腕を組んで、偉そうにリリィを見る。

 

「あんまりサラをいじめてやるな。事件当時はまだ子供、この一件に責任を持てる立場じゃない。そして、用件は元女王をやり込めるだけとは思えんな。旅人としての我々に、何か話があるのではないのか?」

「ええ……あなた達に取引を持ちかけたいの。知っているとは思うけど、私達に反抗する者達がいるのよ。ルシアという魔導師率いる、暴力的な一派。彼女達は、蝕魔導の力を世界に広げたくないそうよ。ルシアも元々は私の同志で、力を与えられた者だけれど……この力を危険なものと見なし、秘匿しようとしているのよ。ついに先日には、武力攻撃に踏み切ってきたわ。そこであなた達に、ルシアを倒してきて欲しいのよ」

「反乱軍のリーダーを倒すのが、取引だって……?」

「何と取り引こうとしてんだ?」

 

 ルカとヴィクトリーは、一緒になってリリィに疑問を向ける。

 

「もちろん取引である以上、見返りはあるわ。この私が、あなた達の旅に同行してあげる」

「それ、私達の仲間になるって事……?」

「ええ、その通りよ……世界には、まだまだ虐げられた者達がいるわ。力を持たないがゆえ、人間としての尊厳どころか、生命が危険に晒されている者達が……」

 

 リリィはそう言いながら、表情に影を落とす。

 

「聞こえるかしら、そうした者達の悲鳴を……私にも聞こえるのよ、助けを……そして力を求める声が。私は、そういう者達の嘆きに応えてあげたいの。現状を打破するための、蝕魔導という力を授ける事でね……」

「虐げられている人を救うために旅を……? それ、本当に……?」

 

 ソニアは引き気味に、リリィに聞いてみる。すると彼女は自らの髪を掻き潰すように頭を抑えた。

 

「だって、ほら……今も聞こえるでしょう、子供の泣き声が……こんなに大きな声で泣いているのに、あなたには聞こえないの? ほら、そこからも……あそこからも……! 泣いてる、みんな泣いてるでしょう……!? この泣き声が聞こえなくなるまで……それまで、私は弱者を救済し続けなければならないのよ!」

「…………」

 

 ヴィクトリーは、またしても何か言いたげだが……空気を読んで口を固く結んでいる。

 

「この村に居る者は、全て私が救ったわ。でも、外の世界からの泣き声は止まないのよ。それを全て止めるために、私は近く村を出るつもりでいたの。そこに、今回の反乱騒ぎなのよ……ルシアさえ居なくなれば、私も旅に出られるわ。虐げられた者達を救い、力を与える旅にね。あなた達も、これまで弱者を救ってきたのでしょう? ならば、あなた達と私は同じなのよ……だから、ルシアを倒してきて。そうすれば私も、あなた達と共に行くわ。別にルシアを殺さなくてもいい……黙らせるだけでいいの。この村に混乱をもたらさないようになれば、それでいいのよ」

 

 どうやら、そういう訳らしい。弱者救済の旅に出るために、反乱軍のリーダーを倒す……それが、リリィがルカ達をここに招いた理由だった。

 

「嘘は言ってないようだな。どうする、ルカ?」

「というか、あの様子じゃ嘘はつけねぇと見て良さそうだぜ」

「元女王としての判断は、さっきも言った通りよ。この取引は……ルカの決断に任せるわ」

 

 全ての決断は、このパーティのリーダーであるルカに託された。重大な選択に、ルカは考え込んでしまう。

 

「……」

「……」

 

 ルカは、ふとヴィクトリーの方を見た。彼も、こくんと頷く。

 

「悪いけれど、もう少し考えさせてください……僕たちには、難しすぎる……」

 

 彼女の話には確かに同情の余地がある……が、まだ反乱軍側の話を聞いていない。

 

 片方の話だけ聞いてそれを絶対だと信じ、勝手に突っ走ったら……新しい事が分かったときに、どうしたらいいか分からなくなる。もしかしたら、今より酷いことになってしまうかもしれない。

 

 そうならない為にも、もっと詳しい話を反乱軍側から聞かなければ。

 

「言葉での返答は不要よ……ルシア撃退の(しらせ)を、返事の代わりに受け取るわ。それじゃあ、私はここで待っているわよ。ルシアを倒してくれたら、晴れて私も仲間になるわ」

「……では」

 

 ルカ達はリリィに頭を下げ、屋敷から出ていくのだった。

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