もんむす・くえすと!ぱらどっくす×ゼノバース 作:ジョーカー:ゼノ
「リリィか、単なる暴君とは違うようだな……しかしこの場合、ただの暴君であった方が話は単純だった」
「ああ……悪い奴だったらぶっ飛ばせばそれで済むしな」
「リリィ、悪くないの……? ならヒルデは、動かない……」
悪い暴君を、ぶっ飛ばして牢屋送り……なんて、そう簡単に行く筈が無かった。村で最初のやり取りを見た時から、それは分かっていた。
「虐げられた者達の声が聞こえる、か……その声は、リリィ自身の声かも知れんな」
「リリィが、本当に救うべきなのは……世界中の弱者なんかじゃなく、自分自身かもしれないわね」
「きゅ……」
アリスとサラが話し、ヌルコも難しそうに鳴く。
「ヴィクトリーはヒーローよね、思う事はないの……?」
ソニアは試しに聞いてみるも、ヴィクトリーは難しい顔。さっきの話を聞いてる時も言いたいことはあったらしいが……
「……今の話を聞くだけなら、今すぐにでもリリィに肩入れしてぇ。弱い奴を助けたいって言う気持ちは、痛いぐらい分かるさ」
ヴィクトリーが言うと、ルカも頷いた。
「そうだよな……僕も、ヴィクトリーと同じだ。けど、今の時点でそれじゃ根本的な解決にならない気がするんだ」
「あぁ……今はとにかく、反乱軍のルシアって奴に会わねぇとな。迷うのはその後で……」
そんな話をしていると、魔導の気配が近付いてきた──
ルカとヴィクトリーは、すぐ横を見る。そこに、魔導師が現れた。
「どうも、突然に失礼致します。私は、ルシア様の使いの者です。どうか、この村にある私達の拠点にお越しください。宿屋の東にある丘の階段を上がり、東の建物です。失礼……」
それだけ言って、消えてしまった……
「ルシアって、反乱軍の……」
「反乱軍の側からも、接触してきたか……向こうも懐柔策で来るというのは、うすうす読めていた事だ」
呆気に取られているルカに、アリスは冷静に言う。
「探す手間が省けたんだ、話を聞きに行こうぜ」
「ああ……行ってみよう! 迷うのはその後だ!」
ルカ達は、ルシアがいるという東の建物に向かう。
「誰をやっつけるか決まったら、言って……それまでヒルデ、お茶を飲んでる……」
「呑気か!」
そう言ってヒルデの頭を叩くヴィクトリーだった。
※
東の建物……そこでは魔導師が、せっせと本を読み漁っている所だった。
蝕魔導の腕をした村娘もいるし、雇われたと思われる小鬼が棍棒の手入れをしている。
「ここは……」
「さっきまでこんな気は感じなかったぜ……何が……」
驚くヴィクトリーの横から、魔導師が話しかけてきた。
「流石のリリィも、目と鼻の先に戦線基地があるとは気付いていないわ。もちろん、隠遁の術や魔導遮断は幾重にもなされているのよ」
「なるほど、通りで……」
ヴィクトリーの気の察知が及ばない程の、隠蔽術。これなら、リリィの目も騙せるであろう。
「この地下に、ルシア様が来ているわ。どうか、頼みを聞いてくれない……?」
「……」
そう言えば、地下から一際大きい気を感じる。おそらく、そのルシアという奴であろう。
ルカ達は魔導師に頷いて、地下への階段を降りた。そこでも、魔導師達が調べ物をしている。そして、この部屋の奥……
「ん、来たわね」
やたらに露出の激しい、緑髪の魔導師が座っていた。
「オッス! おめぇがルシアか?」
「初めまして……私が、レジスタンスのリーダーであるルシアです」
気が入っていないにも関わらず、溢れ出ている魔力は相当のものだった。その魔力から、高い戦闘力と実力が伺える。
「両腕から魔導の力を感じるんですけど……もしかして、ルシアさんも……」
ソニアが聞くと、ルシアは頷く。
「ええ……私は、リリィの研究助手を務めたのですよ。錬金術分野の技能ならば、リリィよりも長じておりました。しかし今は、このように袂を分かち……レジスタンスのリーダーとしてリリィ打倒を掲げています」
「するとあなたは、かつての仲間と敵対していると……」
「なぜ、同志だったリリィの打倒を? 蝕魔導を広げるのに反対って話だけど……」
サラとルカが、揃って聞く。
「リリィが広げようとしている蝕魔導の技術は、世を乱します」
ルシアは、スパッとそう答える。即答……ということは、この発言が戦う理由の核心だと察せる。
「これは、秘術のままにしておくべきものです」
ルシアはそう言って、腕に力を込める。そして、その腕を触手に変異させて見せた。
「うわっ……!?」
「すげぇ気の入りようだ……」
「確かに、これで虐げられた弱者が力を得るでしょう。そして、己の抑圧者を打ち破る……暴力と憎悪をもって」
触手になった腕を眺めながら、ルシアは続ける。
「それがこの村で起きた事であり、そして悲劇です。多大な犠牲をもたらした事、皆さんもご存じでしょう」
「……」
「……」
ルカとヴィクトリーは黙って、ルシアの腕を見つめていた。この力ならば、弱者が強者に成り代わる事だって容易いだろう。だがそれは同時に、相応に危険な力だ。
「私とて、この村の被害者でした。命を落とした男達に、同情など微塵もありません……ですが、蝕魔導の技術が広まったなら……この村の顛末が、あちこちで再生産される事になるでしょう」
「確かに、そうだけどよ……自業自得とも言えなくねぇか?」
そう言うヴィクトリーの目の前に、触手が突きつけられた。
「いっ!?」
「この村で起きたような……いや、もっと恐ろしい形で……強者が弱者を憎む気持ちが、最悪な形で噴出すれば……」
「……復讐だけじゃ、すまねぇってか」
ヴィクトリーがそう言うと、ルシアは腕を元に戻した。元に戻った手を、グーパーさせる。
「……リリィは誤っているのです。弱者と強者の立場は、容易く入れ替わってしまうという事を。この力を備えた者が、今度は強者になるだけです。そうした者達が、弱者を迫害する日は必ず来るでしょう」
「悲劇は繰り返されるって奴か……」
「……まぁ、大筋で間違ってはおるまい」
ヴィクトリーの言葉に頷いたのは、アリスだった。
「抑圧者と被抑圧者の関係など、得てして流動的なものだ」
「私達の認識も、誤っていたようね。反乱軍は、村の支配権を巡って争っていたわけじゃない……もっと根底、蝕魔導を認めるか否か……その部分にこそ、争いの種はあったのね」
アリスとサラの言葉で、ようやくこの戦いの核心がハッキリした。力を使って弱者を救済するか……それが出来るほどの強大な力を封印するか……
ここで、ルシアは改めてルカ達に向いた。
「さて、ここで私から申し出があります。見当はついているでしょうが、リリィを倒して欲しいのです。命を奪う事までは望みません、力の封印で十分です。そうする事で、我々レジスタンスの使命も終わります。そうなれば、リーダーの座もお役御免……以後は、あなた達の同志として力を貸しましょう」
「おめぇもか……何か、目的はあんのか?」
「ええ……いずれ、世界を回って見聞を広めたいと思っておりました。私にとっても良い機会と捉えています」
ルカは、少し黙ってからルシアの方を見る。
「……仲間と話し合いたい。もう少し、考えさせてください」
「そうですか……熟考のほどをお願いします。きっとあなた達は、リリィの危険性を分かってくれるでしょう。リリィ撃退の
ルシアの言葉に会釈して、ルカ達は外へ歩む。
リリィの言葉に賛同し、危険を伴う蝕魔導を使って世界の弱者を救うのか……
ルシアに味方して、蝕魔導の力を封印するか……
非常に、悩ましい選択となった。