もんむす・くえすと!ぱらどっくす×ゼノバース 作:ジョーカー:ゼノ
宿屋で、ルカ達は腰を落ち着ける。ワンルームに8人もいるものだから、少し狭く感じるが……輪になって話し合うには、丁度良かった。
「……困った事になっちまったな」
「うん、全く……どうすればいいんだ?」
問題は、リリィとルシアのどちらの言う事を聞くか……ひいては、どちらが『悪い』と判断するのかだ。
サラが、話を切り出してきた。
「……館の方でも言ったけど、リリィの件は私も恩情として見逃したい。けど、こうして村を巻き込んだ武力衝突に発展してしまった。このまま膠着状態が続けば衝突は激しくなり……この村も、地図から消える事になるかもしれない」
「そうなれば、どれほどの犠牲が出るか……そして、その悲劇を放置していたサバサの信頼と威信にも関わる事だ。余達も頼まれ、引き受けた事だ。もうどちらかを倒すしか選択肢が無い」
アリスの言葉で、緊張が走る。
「きゅ……」
「シリアス……ヒルデには、むずかしい……」
緊張感に気圧されたヌルコとヒルデは、しれっと後ろに下がる。
緊張の中、口を開いたのはソニアだった。
「そうだけど……今から二人を説得して法廷に立ってもらう事は出来ないの?」
「その段階を超えたから武力行使に出たのだろう……もう、二人とも引くに引けん状況なのだ。どちらかが倒れるまで、どのような犠牲が出ようともな」
「なら、少し俺からいいか?」
手を上げたのは、意外にもヴィクトリー。戦うことしか考えてないような、話し合いが一番出来なそうな彼に注目が集まる。
「何か誰かに馬鹿にされた気がする……まぁいいや、ふたつ検証してぇ事がある。『蝕魔導の危険性』。『どっちかを法廷に立たせた場合どんな罪になるか』。だ」
ヴィクトリーが挙げるのは、二つ。
・蝕魔導の危険性。
・どっちかを法廷に立たせた場合どんな罪になるか。
「確かに……蝕魔導は危険っていうのは分かるけど、コントロール出来ればさほど危険度は無いよね。僕達が武器を手にしてるように……」
「そも、魔導も剣も……そういった『武器』はそれ自体が危険な代物であることには変わらんのだ。危険なのは使う当人だ」
「そうね……武器は力をもたらすもの。その力をどんな思想で振るうか……という所に問題が帰結するわね」
「……本当にそうでしょうか?」
話の流れを切ったのは、プロメスティンだった。
「蝕魔導……その影響を受けた村娘を軽く観察していましたが……僅かばかりに精神汚染の症状がありました」
「精神汚染ですって……!?」
ソニアが声に出して驚き、ルカ達も真剣な顔になる。
「はい。アレは触手そのものに意思があり、人間の意思と共生する形で存在するようになっています。おそらくあの触手から精を吸うことで飲まず食わずで生きていけるでしょうが……問題は、その食欲の優先度が高くなる事です。精を吸う欲求に駆られ、倫理観の喪失や衝動の暴走……簡単に言うと、精神に異常をきたして暴れてしまうんですね」
「そうなのか……蝕魔導に、そんな副作用が……!」
あれほどの力に副作用があるかもしれないとは思ったが……まさに、『蝕』魔導というわけだ。
「リリィとルシアも蝕魔導の力を得てるんだよな? 完全にコントロールしてるように見えたけんど……」
「本人の才能と練度の問題だろう。全ての魔術は才能と練度が物を言う。それなりの才能があったり鍛錬を積んだ者ならば、自我を保って触手を自在に操ることも可能なはずだ」
ヴィクトリーの疑問に、今度はアリスが答える。魔王なので、魔術の事にも詳しいのだろう。
「リリィは、誰彼構わずに蝕魔導の力を与えているわよね。もし適正の無いものにその力が渡ったら……」
「心無く喰らい吸うモンスターになるか、或いは力に呑まれて人じゃなくなるか……ですね」
ソニアとプロメスティンがそう話し、ヴィクトリーがため息を吐く。
「おっそろしい魔導だぜ……事が終わったら法整備して規制した方がいいんじゃねぇか?」
「魔導の探求の自由は、どのようなものであれ認められるべきです。そのために許可証代わりに転職アイテムがありますし、転職の際も特定の技能を満たしているかが問われます」
「それに、この蝕魔導で救われた命があるのも事実よ。規制という話になれば、どれほどの反感を買うか……」
「そのような話になれば、規制に反対する者が決起して新たな闘争に繋がりかねんな」
法による規制も、しない方が良いのだろう。争いを鎮める為にやった事で新たな争いを生むんじゃ、本末転倒だ。
「けど、精神汚染を引き起こすほどの強力な魔導なんだよね。ルシアさんは村の内側に封印したがってたけど……」
「蝕魔導の管理、制御ができるのはルシアとリリィだけと思って良さそうだぜ。俺達の選択でどっちかの手に委ねられる訳だ」
「そうなれば……二つ目の、『どんな罪になるか』が肝になってくるな」
アリスが、二つ目の疑問を切り出してきた。
「今現状を纏めるとリリィの罪は私刑による殺人既遂、蝕魔導の力を与えて蜂起させるのは
「ルシアさんは殺人既遂ですが、事が事なだけにこちらは正当防衛で片付けられるでしょう。必要以上の殺戮は行ってないようですし……」
プロメスティンも言うと、ヴィクトリーは「んー」と唸った。
「俺の世界では基本的には三人殺したら死刑になるけど、こっちではどうなんだ?」
「同じよ。一人殺したら10〜15年。二人殺したら無期懲役か死刑。三人殺したら死刑……だけど、今回の件による情状酌量を鑑みれば死刑になる事はまず無いわ」
因習によって虐げられ、それを蝕魔導によって『抵抗』し、他の者を助ける為に蝕魔導の力を広めた……それが、リリィの言い分だ。
「それで……独立自治権や民事不介入の問題はどうするの?」
「人道支援と安全保障の名目でどうにかこの件を例外として扱えないものでしょうか」
ソニアがおずおずと聞くと、プロメスティンが即答する。
アリスもサラも、「それだ」と言わんばかりの反応を見せた。
「そうだな……大規模なジェノサイドが起きた時の援助。テロリズムを起こせるような大量破壊兵器の拡散防止。この名目ならば二つの壁を破れるかもしれんな」
「そうね……後はリリィの罪を立証する方法だけど……」
「…………ねぇ、思ったんだけど……証拠があっても罪を問うのは難しくない?」
ソニアが、難しそうに言う。
「確かにどうしようもない因習に従ってた人達とはいえ命は命……複数人を殺すような真似をしてたら何かしらの罪にはなるだろうし、証拠も探せば絶対出てくるとは思うんだけど……」
「出てくるかは分からんが、仮にそうだとして何が問題だと言うのだ?」
「制御能力と弁識能力…………」
ソニアがそれだけ言うと、サラはハッとする。
「心神喪失……!!!」
「それも俺の世界と一緒か……」
制御能力、弁識能力……いずれかが欠けていると、心神喪失と
「そうか、心神喪失状態の奴に責任能力は無ぇ。だから裁判にかけても無罪になる可能性が高いんだ」
「排他的な村で、男女の平均寿命が30歳以上も差がある……しかもほぼ座敷牢状態で法的な手続きも出来なかった……そんな事が続けば、精神が崩壊しても仕方ないわよね……」
ヴィクトリーとソニアがそう言うと、ルカの頭に疑問が浮かんだ。
「でも、今のリリィには蝕魔導の制御も話し合いも出来るように見えたよ。プロメスティンは何か分かる?」
困った時の、プロメスティン。彼女は医師の心得もあるので、こういう事には詳しいのだ。
「はい、現在のリリィさんは事件の影響から脱して不完全ながらも精神状態を回復しているように見えます。議論も出来る状態でしたので蝕魔導の制御も出来ていると見ていいでしょう。現在は心神喪失では無いかと」
「無罪にはならねぇって事か?」
「いえ、心神喪失による無罪の獲得条件は『事件当時に心神喪失だったか』です」
「じゃあ無罪じゃねぇか!」
「しかし彼女自身、蝕魔導は独学で会得したと言っていました。人間が、精神に異常をきたした状態で魔術を修められるとは思えません」
「無罪じゃねぇのか!?」
「ですが説明しての通り、蝕魔導は精神汚染を併発する魔導。慣れない者が扱えば精神異常を起こし、制御能力を失う可能性もあります」
「なら無罪じゃねぇか!」
「まぁ、心神喪失の証明には医師の診断書が必要です。座敷牢状態の彼女にはそれを法廷で証明する事は難しいとは思います」
「ほな無罪違うか……」
ルカは、変な相槌を打つヴィクトリーをしばく。そうしてから、プロメスティンに向き直した。
「実際どうなの?」
「分かりません」
なんと、あのプロメスティンが即答。ヴィクトリーもルカも動揺して、「えっ」なんて言ってしまう。
「事件当時に我々はここには居なかったし、当事者の村人を証人喚問した所で彼女に有利になる証言しか得られないでしょう。それにこの村の状況と魔術特性の兼ね合いもあり、法廷が例外的に心神喪失を認める可能性もあります」
「そうでなくとも、リリィには正当防衛という言い分もあるわ……法廷に立たせることは可能だけど……罪に問うのは……」
言葉に詰まる、サラ。
リリィもルシアも、過去の罪を問う事はできない。この村は異常で、皆して心を失っていた。それがマシになったのは、心を蝕む『蝕魔導』のおかげというのが最高に皮肉が効いている。
「……でも、今回の武力衝突の話は別のはずよ。リリィには扇動罪が残っているわ」
「残念ながらそれも罪に問うのは難しいでしょうね……現在起きている武力衝突はリリィさんが攻撃された側で、それを防衛するために力を行使していたに過ぎません。これも正当防衛が認められるかと」
サラの話に、プロメスティンはそう言う。
「もしかしたらルシアが捕まっちまうかもな……」
「ルシアはルシアで、蝕魔導の拡散を阻止する為の予防的自衛という事で正当化されるかもしれん。裁判所がどんな判決を下すかまではやってみなければ分からんが、どの道レジスタンス共の反抗心も高まって結果的に更に激しい戦いに及びかねん……」
ヴィクトリーの呟きに、アリスも返す。
「そんな…………」
「悔しいが、これが司法の限界という訳だな……」
サラもアリスも、ため息を吐く。
司法の限界。それは、この村の実情を知る男達も言っていた言葉。そして実情を知ったルカ達が薄々感じていたものだった。
「でも、今のリリィの精神状態が完璧なものとは思えないよ。聞こえない声が、頭の中で聞こえていたみたいだし……」
「……そうだな、俺も気になっていた」
彼女は、頭の中で助けを求めている声が響いていると話していた。その声が止むまで、自分は救済を続けるべきだと。けど……あの様子は、普通じゃなかった。その声は、縋っているかのようだった。
どっちかを倒すんじゃなくて、どっちも助けたい。だから──
「僕は……リリィともう一度話をしたい」
今話した事を踏まえて、もう一度話をするべきだ。蝕魔導の危険性、強者となる弱者の恐ろしさ……全てを話した上で、決めたい。
「そうだな……ほんじゃ、もう一回行ってみっか」
「そうね、行きましょう!」
「どうなる事やら……」
ルカとヴィクトリー、そしてアリスとサラが並ぶ。その後ろに残りのメンバーが来て、再びリリィの館へ向かうのだった。