もんむす・くえすと!ぱらどっくす×ゼノバース 作:ジョーカー:ゼノ
気が張り詰めるイリアス大陸に渡ってしまった一行は、靴を土で汚しながら、イリアスヴィルに向かったのだった。
※
そうして辿り着いた、イリアスヴィル……そこは、
「な、なんだこれ……!?」
「こりゃあ……!!」
滅びていた。イリアスヴィルが、跡形もなく。家は瓦礫と化し、野には人骨が山と積まれ、道は荒れ果て、活気のあったはずの村が、時が止まったかのように静かだった。
「そんな……イリアスヴィルが滅びてる!?」
「み、みんなはどうなったんだ!? いったい、誰がこんな事を……!」
ソニアとルカは、怒りより焦りの感情を顕にしている。しかし、アリスとヴィクトリーは、至って冷静だった。
「落ち着け、奇妙な点が多すぎる。大穴に入って出た短期間にらここまでの事が起きたと思うか? それに、村が滅びてからかなりの期間が経っているようだ」
「ああ……ここは、
「それって、どういう……」
「とにかく、調べてみようよ!」
ソニアはルカを引っ張り、イリアスヴィルを見て回る。彼女らについて行くように、ヴィクトリーとアリスは歩きながら、周囲を見回った。
「それにしても、こりゃあひでぇな……何があったんだ……」
「さぁな……只事ではない何かが起こったみたいだが……」
そこら辺に散在する人骨、腐った何かや泥が混じった水溜り、破壊された民家……
「僕の家が……なんで、こんな……」
ルカの家も、ボロボロに破壊されていた。自分の家が破壊されているのを見るのは、何とも胸が痛ましくなるものだ。
「うっ……」
ソニアが覗き込んでいる井戸……その中には、無数の人骨が投げ込まれているようだ。
「こんなの、ひどいよ……」
「……」
泣き出しそうなソニアの声を聞いたヴィクトリーは、怒りを目に浮かべ始めた。
「く、くそ……何処の誰だか知らねぇけど、罪のねぇ人達を……こんな……こんな……!!」
「……」
アリスは三人に手招きして、壁を指す。揃って見てみるとそこには、殴り書きでこう書かれていた。
『死者の数が多すぎて、埋葬が追いつかない。この村はもう、終わりかもしれない』
「これは……伝染病じゃないよね。村に何かが襲ってきたの?」
「襲われた……
一行は辺りを周りながら、神殿側にも行ってみる。そこでも、陰惨な光景が繰り広げられていた。
「……」
ヴィクトリーとルカは人骨の山に目を付けて、それを見上げた。身長の低いルカは勿論、172cmあるヴィクトリーでも、見上げる程の骸が山を成していたのだった。
「……」
「人骨が、積み重なってる……いったい、何人分……?」
ソニアとアリスは神殿に向かおうとしたが、神殿の入り口には瓦礫が重なっており、通れそうに無い。
「これじゃあ、通れんな……」
「神殿が……」
がっくりしながら、東の方に向かってみる。そこには、大量の墓が立てられていた。
「なんなんだ、このお墓の数……」
「これじゃ、村人ほぼ全員……」
「くそ……!!」
「……」
一行は、その墓地を見回る。夥しいほどの墓石が並び立っており、その数は……およそ、村の人間の数に近しい。
「……!!」
ソニアが、一つのお墓に目を付けた。
「ど、どうしたの……?」
「こ、これ……」
ソニアの指す墓……そこには、「ソニア」と記されていた。
「ウソでしょ、私……!? なんで、私のお墓があるの!?」
「どうなってるんだ、いったい……」
ヴィクトリーはその墓の隣を見る。すると、『やっぱりか』という顔をしてから、ため息を吐いた。
「ルカ、その隣の墓を見てみろ……」
「え……?」
ヴィクトリーの言われるがままに、隣の墓を見る。そこには、「ルカ」と記されていた。
「そんな、まさか……! どうして、僕の墓が……!」
墓に供えるように、日記帳が置いてある。
「これは……僕のつけていた日記……」
ルカは日記帳を手に取り、ぽんぽんとホコリを払う。そして、ペラペラと捲り始めた。
「どうだ、ルカ?」
「今の所、僕のつけていた日記帳と同じ……えっ?」
ルカが、素っ頓狂な声を上げる。それにつられて、皆が日記帳を覗き込んできた。
「なんで、日記に続きがあるんだ? 旅立ちの後、日記をつけていないはずなのに……」
「とにかく、読んでみろ」
「うん……」
ルカは日記帳を読み始めた。
内容としては……ヨハネス歴1455年の5月20日に、イリアスベルクでグランべリアに返り討ちにされて、意気消沈してこの村に戻ってきた、とのことだ。
「僕がイリアスベルクで、グランべリアに……? 冒険に挫折して、村に戻った……? なんなんだ、この日記……確かに僕の筆跡だけど、こんな内容僕は知らない……!!」
「おいルカ、さっきのページ見せろ!!」
ヴィクトリーに言われたルカが、日記帳をめくり直す。そこには、また衝撃的な事が書かれていた。
1455年8月19日。修行してたヴィクトリーが、一人で旅立った。旅立つ気力を無くした僕とは違って、彼はまだまだ元気だったのだ。僕も行くって言おうとしたけど……この村から去るあいつの背を、見送る事しか出来なかった。でも、いつかまた旅立って……あいつと、また会えたらいいな。いつかは……
「この世界にも、俺が居たのか……!?」
「……僕は、やっぱり心折れたままなのか……最後は……最後の記録はどうなってるんだ!?」
最後の日記……それは、ヨハネス歴1456年の8月8日に付けられていた。
「そんな……今より一年も先じゃない……!」
ソニアはルカの日記帳を覗き込みながら、唾を飲んだ。
「……」
内容としては……天使の軍団がこの村に襲いかかってきて大量の人が犠牲になったので、次の襲来には自分も戦う、とのことだ。
……その最後の三行のみ、明らかにルカの筆跡ではない者に変わっている。非常に達筆で、年配の者と思われる。
ルカは最期まで勇敢に戦った。
その人生が閉じる瞬間、彼は勇者である事を示したのだ。
真の勇者、ここに眠る。
そう、記されていた……
「天使の襲来……? それで、僕は……いったい、どういう事なんだ……」
「……これではっきりしたな。ここはおそらく、我々の知っているイリアスヴィルではない」
アリスは腕を組み、そう言った。
「イリアスヴィルじゃないって……どう見ても、イリアスヴィルじゃないか!」
ルカはそう言って、アリスに迫った。しかし、彼女は冷静な顔で、周囲を見回す。
「お前の知っているイリアスヴィルとは違う、と言ったのだ。ここはおそらく、別のイリアスヴィルだろう。そして時間経過も、どうやら異なるようだな。ここが滅びたのは1456年、そこから更に年月が経っている」
アリスはそう言って、皆の方に向いた。
「ここは、我々がいたのとは異なる時空だ。タルタロスを通じて、全く別の時空に来てしまったのだ」
「別の時空って……本当に、そんなのがあるの?」
「ある」
アリスが口を開くより、ヴィクトリーが先に答えた。
「なに……!?」
「世界ってのは、一本の線なんだ。だけど、何かが直接過去に干渉してきたり、その本来の世界とは違う出来事が起こった場合に、世界線は分岐しちまう。ここは、その分岐した世界線の一つなんだろ……」
「分岐した……世界!?」
ぶっ飛んだ話に聞こえるだろうと思ったが、ルカが食いついてくれた。
「ああ……けっこう厄介なんだ、これが。世界ってのは簡単に分岐しちまうからな。例えば、一本の苗木だ」
一本の苗木。
例えば、とある土に苗木の芽が出てたとしよう。それはやがて木になり、木はまた種を落とし、それがまた苗木になり、芽が出て……それの繰り返しで森が出来て、動物が住み始めて、人が住み始める。人の技術はやがて発展し、そこに都市が出来る……
「でも、その苗木の芽が折れちまったらどうなる?」
「そうか……苗木は育たなくなり、森も出来ないし、動物もいなくなる……」
「苗木一本で、世界って変わっちゃうのね……」
「ああ。でも、こんな程度ならいつかは収束して元の歴史に戻る。やべぇのは、大々的に歴史がねじ曲がっちまう事なんだ」
「大々的に……!?」
「ああ……ルカ、もういっぺんその日記帳を読み直してみろ。1445年の5月20日だったっけ?」
「う、うん……」
その日は、僕達がグランべリアに怖気付いて村に帰ってしまった日だ。
「でも、俺達はグランべリアに会わなかっただろ? 既に歴史がねじ曲がってやがるんだ」
「そ、そうか……!」
「ふむ……やけに事情に詳しいな、ヴィクトリーは」
「……まぁな。俺達はこういうのが専門だったからよ」
ドラゴンボールヒーローズは、タイムパトロールと共に往く冒険譚でもある。ねじ曲がった未来、絶対に変えてはならない過去を、修正するための戦いを、ずっと続けていたのだ。
「本来ならそれを食い止めるのに、俺達の世界で言う『タイムパトロール』って言う奴らなんだけど……どうやら、この世界には居ねぇみてぇだ」
「食い止める……? 放っておくと、どうなる?」
アリスの問いに、ヴィクトリーは少し黙り……顔を上げた。
「分岐した世界はこんがらがり、何もかもがめちゃくちゃになって、宇宙そのものが消える事になる」
「!!!」
「宇宙がっ……!!?」
「な、なんだと……!!?」
一行に、衝撃が走った。
宇宙が消える。そんなどうしようも無いことを、いきなり言われたのだ。
「そ、そんな……」
「そんなの……どうしたら……」
「この世界にタイムマシンもねぇし……未来を変えちまうしか、方法はねぇ」
「未来を……?」
「ああ。世界線ってのはいつか収束するんだ。だから、無理矢理にでも正史に沿うように書き換えちまうんだ。……ホントは、タイムマシンで過去に行って直接変えちまうのが一番いいんだけどな……」
「なるほど……」
ルカは辺りを見回して、考える。
「タルタロスの奥は、別の時空に通じてたって事か? そんな簡単に別の時空に来てしまったなんて……」
「自分の意志で行き来するのは、神でも不可能……貴様以外は。あの白兎は、そう言っていた筈だ。もっとも、当の白兎まで来ていた時点で胡散臭いが。ここでこれ以上、話をややこしくされても仕方ない」
アリスはそう言って、腕組みをし直す。
「タルタロスは、別の世界線……つまり、別の時空に通じていた……そっちは少し未来で、ここは滅びていた……もうムリ、あたしの頭では理解出来ません」
「余とて、信じ難い話ではあるが……目の前の現実は、受け入れねばな」
ソニアとアリスは頭を抱えながら、ため息を吐いたのだった……
※
一行は輪になって、座り込んだ。
「さて、これからどうするかだ。もう少しこの世界を調べるか、いったん戻るか……」
「もう戻ろうよ。ここにいると、気が滅入っちゃうよ……」
「そうだな、これ以上は収穫もなかろう。この村が滅びた姿を見続けるのは、貴様達には酷だしな」
「それで、どうやって帰るんだ? またあの禍々しい所に行くんか?」
「それはちょっと……」
ソニアは苦笑いしながら、首を横に振る。まぁ確かに、ソニアでなくても出来ればあそこには行きたくない。
「ハーピーの羽で戻るにしても、異世界で使えるのか? とりあえず……ていっ」
アリスが、ハーピーの羽を使ってみる。本来なら、ハーピーの持つ帰巣本能……それが魔力となって、自らの帰るべき所に帰れるという道具なのだが……彼女に投げられた羽は、ふわりふわりと地面に落ちるだけだった。
「ダメじゃねぇか」
ヴィクトリーに言われ、アリスは「ぐぬぬ」と声を上げる。しかし、思いついたようにルカへ向いた。
「いや、ルカよ。貴様がハーピーの羽を使ってみろ」
「僕が使っても、同じだと思うけど……えいっ」
今度は、ルカがハーピーの羽を投げてみる。
投げられた羽は光を放ち、皆を包み込む。そして上空へ連れ去り──あっという間に降ろされた時には、元のイリアスヴィルの前だった。崩壊していない、あのイリアスヴィルだ。
「戻った!?」
ソニアの驚愕の声で、皆ハッとする。
「やはりな……貴様はどうやら、別世界を行き来する能力があるようだ。白兎が言うには、神さえ不可能な事らしい……全く、貴様は訳の分からん奴だな」
「ひゃ〜……やっぱルカって特別なんかなぁ……」
「なんで、僕がそんな……」
「考えた所で、我々の知る情報では分かるまい。とりあえず、ポケット魔王城に戻るぞ」
「ちょっと落ち着いて、作戦会議でもしないとね。もう私、頭の中ごっちゃごちゃだし……」
「ああ、俺もここらで落ち着きてぇと思った所だ……」
アリスは、ポケット魔王城を出した。
「では行くぞ。少し休んだ後、作戦会議だ」
そして一行は、ポケット魔王城に吸い込まれていった……