もんむす・くえすと!ぱらどっくす×ゼノバース 作:ジョーカー:ゼノ
「なんなんだ、聞いた話と違うぞ……」
「ルカ、サラたちも見当たらねぇぞ!」
動揺する、ルカとヴィクトリー。
エスタは、住民が丸ごと消えたゴーストタウン……そう聞いていたハズなのに、街には人が往来し、幸せそうな活気に満ちていた。
しかも彼らの後ろに控えていたハズの仲間が、姿を消していた。
「どうなってんだ……」
「…………」
呆然とする二人の前には、やはり活気と笑顔に満ちた街並みが有る。そして何より……往来する人に紛れて、天使も歩いている。
突然の出来事に狼狽える二人だったが、すぐにその辺の人に目をつけた。
「お、オッス!」
「すみません、ここは……!」
「ここかい? ここはエスタの町……全てが整った、理想郷さ」
町人は澄んだ顔でそう言い、街を見回した。
「全ての人間はイリアス様によって運命が決められ……それに従えば、幸福になれる。そこに格差も生まれず、当然争いも起こらない……全ての人間が、平等に幸せになれるんだ」
「全ての人間が……平等に……?」
「そんなん、有り得ねぇだろ……ここに悪人は居ねぇって言うんか!?」
ヴィクトリーが聞くと、町人は「うーん」と唸って考え込む。そうしたかと思えば、二人に向き直した。
「こっちに来て」
そう言われ、歩いて着いていく二人。そして連れていかれたのは、街路樹を黙々と整備している人の前だった。
「彼はね、無口で無愛想な人だったんだ。それでもイリアス様のお告げに従ったお陰で庭師としての才能が開花して、こうして働いているのさ」
そう言われて見てみれば、ただ黙々と仕事しているのではなく、その目には熱いものが宿っている。
本人ですら知りえない才能も、イリアスは告げてくれるそう。それで彼も、この仕事にやり甲斐をもって望んでいるという訳だ。
素晴らしい事ではあるが……ルカとヴィクトリーは、複雑な気分を表情にする。
「そりゃ素晴らしい事だけんど……職業選択の自由は無ぇんか?」
「そんな、とんでもない! 全ての人間はイリアス様のお告げに従うべきなのです! そうしなければ、不幸になるだけなのですから! 貴方達も、イリアス様のお告げに従い、そして告げられた仕事を全うし、選ばれた伴侶と結婚した方がいいですよ」
濁りのない目で言う、町人。その様子は、盲信という言葉がよく似合っている。
唖然とするルカとヴィクトリーだったが……周りを見てから、一息ついた。
「そうか……なら、俺はもっと見回ってみるよ」
「僕は向こうの方を見てくる」
「ぜひぜひ! 右も左も、イリアス様のお陰で幸福が満ちています!」
町人に「どうも」と一声かけてから、二人は右と左に別れる。
「……ホントに、のどかな町だ」
歩いてるヴィクトリーは、そう呟く。
周りからは、親子の笑い声。店はちょうど休憩しており、遊んでいる人もチラホラ。まるで、外でグランドノアとグランゴルドが戦争している事なんてまるで嘘のよう。
ここは、間違いなく平和な世界だった。戦いの無い、静かな幸福の世界……サイヤ人には、似合わない世界だった。
きっと、本来はこれが正しいのだろう。突然に命を脅かされる脅威……それと戦うヒーローなんてものも必要ない世界。
「…………」
思いにふけて立ち止まるヴィクトリー。だが、そんな彼の横の街路樹から男が顔を出してきた。
「騙されるな!!!」
「!?」
突然大きな声で言われたヴィクトリーは、背筋を跳ねる。だが、そんな彼に構わず男は続けた。
「この世界は、理想郷に見えるだけだ!! 俺は知ってるんだ、
言いかけていたその時だった。
突如として空が光り、一条の落雷が男を貫いた。
「うわっ!!」
腕で顔を覆う程の閃光。鼓膜を
「……おい、なんなんだよ……!!」
ヴィクトリーは、ルカの気の方へ飛ぶ。だが、民家の屋根を飛び越した時点でヴィクトリーの目に凄まじいものが映った。
「は…………!!?」
遠くに見えたのは、なんと空中に空く大穴。テクスチャが抜けたかのように、その部分だけが真っ黒になっている光景。
言葉を失ってる間に、ヴィクトリーの所にルカが飛んできた。
「ヴィクトリー……お前も、見えてるか?」
「ああ、あれって……タルタロスか? 確か元の世界だと、湖の真ん中……あっこぐらいにあったよな?」
「そうだね……」
不可解な事が起きたので、伝えに合流しようとした……どうやら、ルカも同じらしい。
「……なぁルカ、さっき──」
ヴィクトリーが言い出そうとした時だった。
彼の言葉を遮るように、大きな鐘の音が響いてきた。
音の方に向いてみれば、そこには大聖堂がある。鐘楼もあり、先程の鐘の音はそこから鳴ったのだろうと分かった。
「……なんだ?」
「行ってみよう」
二人は揃って飛び、大聖堂の前に降り立つ。神官が二人居たが、特に驚く様子も無く、笑顔で会釈だけして歓迎しているようだった。
「入っていいんか?」
「ええ、共にイリアス様に祈りを捧げましょう」
ヴィクトリーの確認でルカも頷き、扉を開ける。その中に、二人は誘われ──
「…………!!?」
──気付いたら、まるで宇宙の真ん中のような場所で立っていた。
「さっきまで、大聖堂に居たよな……」
「ここは、いったい……」
「ルカ、ヴィクトリー……あなたは、天上の楽園を目にしました」
周りを見ながら狼狽える二人……そんな彼らを、何処からともなく呼びかける声がする。
身構え、警戒する二人。その目の前で光の柱が立ち上がり、そこから強大で神聖な気を纏った天使が現れた。
「私はラファエラ……守護を司る七大天使の一人」
見えた姿は、長い前髪で目を隠し、グラマラスな体のラインが丸わかりなほど過激な格好をしていた。手に持った杖は機械が組み込まれており、その存在の異質さに拍車をかけている。
「審判の子ルカ、神の戦士ヴィクトリー……私があなた達をここに導いたのです」
「何の目的で僕達を……?」
「楽園の世界を、その目で見てもらう為です。全ての民が、イリアス様の元で幸せに過ごしていたでしょう……? イリアス様の元で、最大多数の最大幸福が約束される世界……実に素晴らしい世の中だとは思いませんか?」
問われたルカとヴィクトリーは、静かに顔を見合わせ……そして、ラファエラに向き直した。
「……少なくとも、俺にはロクな世界には思えなかった」
「同じ意見だよ……幸せなのはいい事だけど、全部他人に決められるのは僕だって嫌だ」
「なぜそう思うのです……? イリアス様の選択を取れば、必ず幸福になれるのですよ……?」
ラファエラが静かに問おうとした、その時……急に、重厚な気がその場に居た三人の体にのしかかってきた。
「よくぞ言った、世界の破壊者よ……そして、大猿の英雄よ」
唐突な言葉と共に現れたのは、強大な魔王の気が滲み出ている妖魔。腕が翼になっており、下半身が蛇の、煌びやかな装飾を纏った妖女だった。
それを見たラファエラは、身構えた。
「沙蛇……! 思念のみとは言え、ここまで侵入を許しましたか……!」
「ふん、天使どもの考えなど読めておるわ。今のうちにこやつらを囲い込む気だったのだろう……?」
沙蛇と呼ばれた彼女は厭らしく言い捨て、ルカ達に向いた。
「聞け、世界の破壊者ルカ、大猿の英雄ヴィクトリーよ……天使の妄言に耳を貸すでない。あれが楽園など、笑わせるわ……自由意志を放棄し、イリアスの指示にのみ従って生きる世界。人の存在価値は、ただ神の進行表を守るため。そのようなものは、奴隷の世界よ。あまねく者が自由を奪われた、この世の地獄よ」
「……自由とは、危うさの上に成り立ってます。人は往々にして間違い、自らの人生をも誤るのです。あの楽園の者達が、不幸に見えましたか? 自由を損ない、満足していないように見えましたか……? 彼らが奪われたというなら、それは誤った人生を選んでしまうという可能性のみなのです」
沙蛇の物言いに、ラファエラは青筋を立てて言う。口調こそ冷静だが、明らかに苛立ちを覚えている模様だ。
「可能性を絶たれた者が、何ゆえに生きる? それは、己を幸福と思い込んでいる
「わざわざ苦難の人生を選びたがる人間が、何処にいるというのです? 多くの人は望むでしょう……なんの間違いもなく、幸福に暮らせる人生を」
食い下がってくるラファエラに、沙蛇も苛立ちの表情を見せた。そこから二人は、言い合いになる。
ラファエラが言うのは、神に約束された100%幸福な世界。だが人間は自由意志を失い、神の奴隷に成り下がる世界。
沙蛇が言うのは、人の意志を尊重した自由な世界。だが、弱肉強食の理が蔓延り、弱者は容赦なく食い物にされる世界。
「ラファエラの言う世界はロクでも無さそうだけど、沙蛇の言う世界も僕は同意できない……」
「自分を守れねぇ弱い奴が理不尽に死ぬだけの世界は……俺も、嫌だ」
どっちつかずの、二人の回答。ラファエラと沙蛇は、溜息を鼻で吐き出す。
「審判の子よ、そして神の戦士よ。選択肢は二つです。世界の破滅を前に、あなた達はひとつを選ぶしか道はありません。イリアス様の導きにより、汚れ無き者た達を救済するか……それとも邪神の望むまま、弱肉強食の地獄を呼び込むか……」
ゆめゆめ忘れるなかれ。近く必ず、決断の時が訪れる──
近く、必ず──