もんむす・くえすと!ぱらどっくす×ゼノバース 作:ジョーカー:ゼノ
ハンスさんがスライム娘達によって裏山に攫われた。それをルカとヴィクトリーの二人は裏山に行き、無事にスライム娘達を倒したのだった。
用が済んだので、帰路につく二人。あれだけの暴れっぷりを見せつけられたスライム娘達は、もはや襲う気は無いように見えた。そして事実、もう邪魔する様子は無い。
「……」
それにしても、あんなモンスター三匹で村があんなにパニックになるのも珍しい事である。兵隊さん三人で事足りる気がしなくもないが……あの村は、少々臆病なようだ。
「ヴィクトリー」
「うん?」
ルカは考え
「ここら辺じゃ見かけないモンスターだけど……何してるんだろう」
「聞いてみりゃ分かるだろ……ま、話が通じればのハナシだけどよ」
二人は妖魔に近づく。彼女はそんな彼らの顔を見るなり、寄ってきた。どうやら、話の通じなさそうなモンスターでは無さそうだ。
「むっ……そこの少年達。この辺りで、ウサギ型の魔物を見なかったか?」
「ウサギ型の魔物……?」
「山頂に、それらしき奴は居たけど……」
ヴィクトリーの言葉に彼女は頷き、山頂を見る。そしてその眼を、敵意の込めたものに変えた。
「……山頂か、礼を言うぞ。奴め……よくも余をこんな姿に……」
妖魔はそのまんま二人の横を走り、山頂に駆けて行った……
「……何だったんだろう。今日は、ちっちゃな天使やら妖魔によく会うなぁ」
「……」
いや……彼女の探してるウサギ型のモンスターというのは、さっきのバニースライムとは違う気がする。
考えるヴィクトリーがルカの顔を見てみると……彼も、同じ表情をしていた。
「ルカ、どう思う?」
「行ってみるしか無いな……」
二人は再び山頂を目指して、走る。迷う理由もなく、澱みなく進んで、あっという間に山頂に辿り着いた。そこで広がっていた光景……
「やめてー! たすけてー!」
案の定、バニースライムが妖魔にボコボコと殴られていた。
「よくも、余をこんな姿に!! 今すぐ戻せ、ドアホめ!!」
「何を言ってるのか分からないよー! きっとウサギ違いだよー!」
妖魔の方は何やら訳のわからないことを言いながら、理不尽にバニースライムをボコボコと殴り続けている。少なくとも、あのスライムより高位の魔物ということだろうか。
そして、暫く殴って少しは気が済んだのか、バニースライムの必死な訴えにようやく耳を貸し始め、頭を冷やし始めた。
「むぅ……確かに、あの時のウサギと違う気がするな。あのウサギめ、いったい何処に隠れたのだ! ええい、絶対に逃がさんぞ!」
妖魔はそう言って攻撃の手を止め、また這い去っていった……
「……いったい、何なんだ?」
「だ、大丈夫か?」
流石のヴィクトリーも同情し、バニースライムに声をかける。
「むぎゅう……」
すっかり伸びきっている。無理もないだろう、あんなにボコボコにされたのでは。
もしかしたら、自分たちふたりが向かわなくてもあの妖魔が何とかしていたのでは……
ルカはそう思いかけた所で頭を抱え、バリバリと掻く。
「……とにかく、村に戻ろうか。洗礼の儀式も、もうすぐだしね」
「ああ、急ごうぜ」
二人は少し急いで、イリアスヴィルに走った……
「……洗礼の時間、あともうちょいじゃねぇか?」
「これなら遅刻はしないよ」
無事にイリアスヴィルから帰り、走りながら神殿に向かう二人。そして、神殿の入り口に入ろうとした時に……なんと、ソニアが現れた。
「わっ、ソニア!」
「ちょっとルカ、何してるのよ! もう洗礼の時間で、大神官様が待ってるのよ!」
ソニアは僧侶の正装で、ルカを待っていたのだ。
「それは分かったけど……その格好はどうしたの?」
「あんたの儀式のために、正装してるんでしょうが!! あたしが神殿僧侶だって、忘れてるわけじゃないよね……!?」
そうか、確かソニアはイリアス神殿直属の僧侶だったか。すっかり忘れてた……なんて、口が裂けても言えるわけがない。
「も、もちろん覚えてるよ!」
「だったら、さっさと急ぐの! いったいどれだけ待たせる気なのよ!! それじゃあ、私は先に行ってるから! これ以上遅刻したら、私が洗礼受けて冒険に行くわよ!」
ソニアはそう言い、神殿に戻っていった。何だか、とっても不機嫌な様子であった。
「……大変な幼馴染みを持ったな……」
「うん……」
とにかく、これ以上遅刻したらぶっ殺されてしまいそうだ。とっとと行こう。
イリアス神殿……
「す、すみません……遅刻しました!」
ルカは走って、大神官の所に行く。
「……」
ヴィクトリーはというと、洗礼を受けるつもりは微塵もないので、特に焦った様子もなく、歩きながら神殿を見回していた。なかなか立派な神殿で、イリアス様の像が立ち並んでいる。
「裏山に乗り込み、村人を救ったと聞く。多少の遅刻ならば、イリアス様もお許しになるだろう」
どうやら儀式はこのまま執り行われるらしい。
「それでは、洗礼の儀式を始めるとしよう。ソニア、聖水を」
「……はい」
ソニアは聖水を手に取り、大神官に渡す。
「……どうぞ、大神官様」
「……うむ。それではルカ、この聖水をお主の額に……」
大神官は聖水を指に着け、ルカの額に押し当てる。
「……」
ヴィクトリーは柱に寄りかかりながら、ルカの儀式を見ている。まぁしかし、どうやら勇者になる儀式はこれで終わりの模様。なんとも、呆気ないことである。
「かつては、この後にイリアス様が降臨されたのだが……」
大神官がそう言いかけた時だった。
「ルカ……勇者ルカ……そしてヴィクトリー……聞こえますか……?」
突如として神殿内に声が響く。誰かがいきなり入ってきて発言した訳でもない。まるで、空から聞こえたかのような──
「……!?」
「えっ!?」
「まさか、このお声は……!」
そう……イリアスが、降臨してきたのだった。三十年も降臨してなかったイリアスが、今になって降臨してきたのだ。
「おお、まさか……このような事が……」
「嘘でしょ……本物のイリアス様!? それに、あんたの名前も……!」
ソニアは、ヴィクトリーの方を見る。
「……」
どうやら、イリアスに指名されてる以上はルカの横に立たなきゃならないらしい。それを察し、彼はルカの横につき、共にイリアスを見上げた。
「ルカ、ヴィクトリー……世界に危機が迫っています。この世が、闇に覆われようとしているのです。それを防ぐ事が出来るのは、あなた達だけです。あなた達こそが、この世界の最後の希望なのです……今の私には、洗礼を与える力さえ残されていません。こうして、語りかけるだけで精一杯なのです……洗礼も祝福もなくとも、あなた達は真の勇者……そう、祝福無き勇者達なのです……祝福なき勇者達、ルカとヴィクトリーよ……世界を……救い……なさい……」
イリアスのヴィジョンはそこまで言って、消えてしまった……
「…………」
「…………」
「…………」
「イリアス様、私は信じておりましたぞ……決して、御身は滅びてなどおらぬ事を……」
大神官は二人の方に向き、息を吐く。
「……ルカよ、そしてヴィクトリーよ……お主達は大いなる天命を背負っておるようだ。この世界を救う、祝福なき勇者達よ……」
「僕達が……世界を……!?」
「……」
なんとも、信じ難い話である。イリアス直々に『世界を救え』なんて言われるとは、思わなかった。
「しかし、この事は皆には伏せておいた方が良かろう。イリアス様のお言葉にあった、世界を覆う闇……それを聞けば、民衆は深い不安に陥るであろう」
「……」
まぁ、その通りか。俺はいいとして、ルカにも変なプレッシャーがかかっちまいそうだ。
ヴィクトリーは声に出さないまま、心中で呟いた。
「という訳でソニアよ、この事は他言無用ぞ」
「分かりました、大神官様」
「二人も、旅先で口にするのは慎むように。はやる気持ちは分かるが、状況は尋常ではないようだ」
「は、はい……」
「ああ、分かってる」
やはり、言うのははばかられる。無闇に口に出してはいけなさそうだ。
「ソニアよ、この一件は他言無用ぞ」
「はい……なんで私にだけ二度言うんです?」
ヴィクトリーは噴き出しそうになったが、なんとか耐えた。
「それでは行くがいい、祝福なき勇者達よ! イリアス様のお言葉に従い、力を尽くすのだ!」
大神官はやかましい声で、二人にそう言い放った。さっき他言無用って言ってたのに如何なものだろうか。
「それじゃあルカ、私は村に戻るからね」
ソニアはそう言い、走る。その時に、僧侶の帽子が床に落ちた。
「あっ、ソニア……帽子が落ちたよ!」
「……」
「神殿では走るでない……」
結局、帽子が落ちた事も気に停めずに走り去ってしまった。忙しないやつである。
そう思っていたら……血相を変えたソニアが引き返してきたではないか。
「た、大変よ〜!!」
「そ、ソニア……少しは落ち着いて……」
「そんな事言ってる場合じゃないわよ! あんたの家が、大変なんだから! なんか妖魔っ子と天使っ子が、ファイトしてるのよ! くんづほぐれつで暴れ回って、騒動になってるみたい!」
何だか、只事でない事が起きている模様だった。ソニアの焦りようからして、相当の事だろう。
「な、何……!?」
「妖魔っ子と天使っ子……? まさか、裏山で会った……」
おそらく、その子たちだろう。最近出会った妖魔と天使と言えば、あの二方しか居ない。
「ルカ、行ってみねぇと分かんねぇぞ」
「ああ、とにかく行ってみるよ!」
二人は走り、ルカの家に向かった……
「……神殿では走るでない……全く……」
バタバタと走る二人の背を見て、大神官はため息を吐いたのだった……
「ええい消えろ、この性悪女神め!」
「あなたこそ消え失せなさい、不浄なる魔王よ!」
ルカの家……宿屋から、そんな声が聞こえてきた。
「いったい何事!?」
「なんだなんだ!?」
ルカとヴィクトリーは扉を開け放ち、宿屋に入る。そこでは、裏山で会ったちっちゃな妖魔と天使がぼこぼこと殴りあっていた。
「イリアスめ、いったい何を企んでいる!? あのウサギも、貴様の回し者ではないだろうな!」
「何を言ってるのです、心当たりなどありません! 私の有様こそ、あなたの奸計なのではないのですか!?」
遂に妖魔の方が椅子を乱暴に振り回し、天使をぶん殴る。しかし、何だかお互い頑丈な模様で、大した事にはなっていないようだ。悲鳴をあげているのは、武器代わりにされている椅子だけか。
「やめろよ! こんなみっともねぇ!」
「そんなに暴れたら、椅子が壊れるじゃないか……」
二人は天使っ子と妖魔っ子を止めようとしたが、睨み返されてしまう。
「ええい、椅子ぐらい何なのだ! 我等が本気で争えば、村の一つや二つ簡単に吹き飛ぶぞ!」
「ふん、どう足掻こうが私に敵うはずもありません! 私は神なのですよ……!」
少女たちに大声でそう言われ、怯んでしまう男二人。なんとも情けない話ではあるが、相手が相手なのでどうしようもない。
「お互いこうなってしまえば、力の差などない! せめて貴様は、ここで叩き潰してやる!」
「望むところです、魔王! ここであなたを滅ぼし、忌まわしき血統を断ちましょう!」
天使っ子と妖魔っ子は、またぼこぼこと殴り合い始めた……
「ああもう、とにかくやめて!」
「いったい、どうしたんだおめぇらは!」
二体は止まり、二人の方に向く。
「私は女神イリアス。人々に仇を為す魔王を、生かしてはおけません」
「余はアリスフィーズ16世。いたずらに人を惑わすイリアスを、放置してはおけん」
天使っ子の方がイリアス、妖魔っ子の方がアリスフィーズと言うらしい。
「なるほど、女神と魔王か。それは仲が悪くても仕方ねぇな……」
「って、そんな訳ないだろ! 聖魔大戦ごっこなら、外でやってよ!」
自分の家を荒らされているルカには、たまったものではない。兎に角、この二体を追い出したい模様だ。
「くっ、このザマでは余の威厳も実力も伝わらんか。ただの青二才にさえ、素性を疑われるとは……」
「ああ、なんと口惜しいのでしょう。私こそが創世の女神である事、信じてもらえないとは……」
ルカはため息を吐き、呆れながらアリスフィーズとイリアスを見る。
「それで、なんでプチ聖魔大戦が僕の家で行われてるの? 旅に出る身とはいえ、家を荒らされると困るんだけど……」
「諸事情で、とある魔物を探していてな。しかし、この貧弱な身一つでは心許ない……」
「人には窺い知れない事情で、行くべき所がありまして。しかし、この弱々しい体では危険も多く……」
なるほど、二人とも事情があるらしい……だが……
「そういう訳で、貴様らを旅の供にしようというのだ。ちょうど今日、旅立つ少年がいるという話を聞いてな」
「……退きなさい、魔王。ルカとヴィクトリーには、ずっと前から私が目をつけていたのですよ」
まさかの、冒険の同行依頼だ。それも、二人同時に。
「何で俺らの名前知ってんだよ……」
「それはいいとして……信じるわけじゃないけど、魔王と女神なんだろ? 配下なんてらいくらでも居るんじゃないの?」
アリスフィーズとイリアスは顎に指を添え、頭を傾げた。先に発言したのは、アリスフィーズの方だった。
「現在の状況に、不明な点が多い……四天王さえ、その消息は知れんのだ。誰が敵で誰が味方かも不明瞭である現在、下手な動きは危険。ここは、隠密に事を進める必要があるのだ……」
アリスフィーズの言葉が終わり、続いてイリアスが口を開く。
「私の声が、なぜか天使達に届かないのです。一体、どういう事なのでしょうか……黒のアリスやらプロメスティンに、今の私の状況が知られてしまったら……あの連中の喜ぶ顔が、まさしく目に浮かぶようです。間違いなく、私の命はないでしょう……」
どうやら、二人とも訳アリのようだ。特に、イリアスの方は何だか、ヤバそうな雰囲気を出している。
「……」
「……」
ヴィクトリーとルカは顔を見合わせてから、彼女らを見た。
「とにかく、ルカの旅に同行してぇって訳だな」
ヴィクトリーがそう言うが、彼女らは首を振った。
「勘違いするな、余が貴様らを供にするのだ」
「何を勘違いしているのですヴィクトリー、あなた達が私に尽くすのです」
当然のように、そう言い返されてしまった。冒険への同行依頼かと思ったら、どうやら青田刈りだったらしい。
「……」
「……」
二人は頭を抱え、どうしたものかと閉口する。そんな彼らに、妖魔と天使は言ってくる。
「しかし、この女神を連れて行ってはならん。こいつの独善さは、いつか人間をも滅ぼしかねんぞ」
「いいえ、魔王こそ同行させてはなりません。何を企んでいるのか、分かったものではありませんよ……」
そう言った後、彼女らはまた睨み合った。
「このゲス女神め! 余は貴様が大嫌いだ!」
「私だって大嫌いです!」
「ああもう、またケンカする……」
「やめろっての! 魔王と女神がみっともねぇな!」
彼女らは、またルカの方を向いた。
「さぁルカよ、余の供となるがいい。こんな性悪女神、荷担するとロクな事にならんぞ」
「ルカよ、私と共に行くのです。断じて、魔王などに手を貸してはなりません……」
「…………」
「…………」
どうやら、この状況を打破するには、どちらかを選ばねばならないらしい。それが分かったところで、ルカは考え……
「……じゃあ、自称魔王の君と行くよ」
アリスフィーズの方を向いた。
「ふむ、貴様は見た目に反して聡明なようだ。余の供になる事を認めてやろう」
「お、おのれ……! 覚えておきなさいー!」
イリアスは涙を浮かべながら、走って宿から出ていってしまった……
「くくく、負け犬め……」
アリスフィーズはイリアスを嘲笑してから、ルカの方に向く。
「改めて、余はアリスフィーズ16世だ。特別にアリスと呼ぶ事を許可しよう」
「それはともかく、アリスは本当に魔王なの? そういう遊びじゃなくて……?」
アリスフィーズといえば、魔王の名前らしい。この妖魔がそう名乗るということは、彼女は魔王という事になるが……しかし、ちっちゃいので信ぴょう性に欠ける。
「信じられんのも無理はない。この弱々しい肉体では、信じるのも難しかろう……余のこの有様は、なんらかの魔術によるものだ。退行魔術か何かで、こんな姿にされたのだ……」
「あぁ、例のウサギ型のモンスターにか……」
「ああ……」
話を聞いてみると、つい数日前にそいつはひょっこりと現れたらしい。そしてアリスをこんな姿にして、イリアス大陸まで吹っ飛ばしたとか……
「なるほど……それで、そのウサギを探してるってわけか」
ウサギがなにかしたのか知らねぇが、部下達も音信不通になってしまったらしい。そのウサギは、白っぽかったとか……
ここで、ヴィクトリーの頭に二つの単語が出てくる。『白い兎』そして『アリス』……それらは点と点。結び付けば即ち──
「……ッ!!」
唐突に、ヴィクトリーの頭が激痛に貫かれた。彼は頭を抱え、痛みのあまり跪く。
「ヴィクトリーっ!?」
「お、おい……大丈夫なのかそいつは……」
「……」
単語に意味を見いだそうとした、その瞬間に頭痛が来た……これは、何かあるのかもしれない。
「……平気さ」
彼はただそう言って、立ち上がったのだった……
そんなこんなで仲間になったアリス。アリスが探すウサギとは、果たして……