もんむす・くえすと!ぱらどっくす×ゼノバース 作:ジョーカー:ゼノ
サン・イリアの地下図書館……世界一の蔵書数を誇ると謳うその風評に違いはなく、高い天井にまで続く本棚には隙間なく本がビッシリと並んでおり、そんなものが立ち並んでいる。
「ひゃあああ〜〜……」
「す、すごい……」
見渡す限りの、本、本、本、本……ルカとヴィクトリーは、圧倒されるばかりである。
小難しい魔導書から、大衆向けの小説まで……ありとあらゆるジャンルの本があるここは、学者や一般人も立ち入って読書に励んでいる。
ここでは、この世界の人間が残した本が全てあるとまで言われているここにはもう一つ下のフロアがあり、目的の本はそこにあるのだ。
その入口の前に、ルカとヴィクトリーは立つ。
「地下図書館の深層にはこっから入れるみてぇだな……魔物の気が、ウヨウヨしてっぞ……」
「そうだね……気を引き締めて行こう」
二人は先頭を取り、地下図書館の第二層へと足を踏み入れたのだった。
※
「意外と整備されてるみてぇだな」
「ああ……」
そこはとても、魔物が出る雰囲気ではなかった。ちゃんと掃除もされていて、本もキチンと並べてある。目録順はめちゃくちゃだが、それでも外面だけは綺麗だ。
「それだけじゃねぇ、絵画まで飾られてら」
「本当だ……綺麗な絵だな。誰が描いたんだろう?」
絵画の絵は、繊細さと大胆さを兼ね備えた美しい絵。名画として厳重に保管されているらしいが、題名などは見当たらない。
「まるっきり迷路だな……」
「ヴィクトリー、迷わないようにね」
本棚が立ち並び、入り乱れて……その配置のせいで、迷路のような空間になっている。突き当たりを曲がったら行き止まりになったり、角待ちしてたモンスターにビックリしながらもどうにか撃退したり……そうこうしながら、探索を続ける。
そんな図書館には、どういう訳か宝箱もある。
「見ろよルカ。宝箱まであるぜ」
「本当だ……物資の保管も兼ねてたのかな」
考えるより先に動くヴィクトリーが、ガチャリと宝箱を開けると……その宝箱は口を開け、彼の上半身を咥えこんでしまった。
「ぎえええええ!? なんだこりゃあぁあああ!?」
ヴィクトリーは、咥えられたまま足をバタつかせた。
「ヴィクトリー!!?」
「また引っかかってるー!?」
「反省しておらんのか!?」
「同じギャグを繰り返すのを天丼って言うらしいですね」
「きゅっきゅっきゅきゅー!」
パーティメンバー全員、思い思いの事をツッコミながらどうにかヴィクトリーを助けたのだった。
※
トラブルはあるものの、どうにか乗り越えて探索は続ける。角待ちしたり襲いかかってきたりする敵も、メイアとの激戦を乗り越えた自分たちにとっては軽くいなせる程度のものだった。
そうしていると余裕が生まれるもので、手分けして探索するようになり、ヴィクトリーは探索がてらに本を読み始めたのだった。
「もしかしてと思って見たけど……精霊信仰の事も、タルタロスに関する有益な情報は無さそうだな」
「意外な光景ですね。本とか読むんですか?」
本を読んでると、プロメスティンが話しかけてきた。
「あー、読まねぇなぁ……勉強も苦手だったしよ、元の世界に居た時は「なんでこんなモン勉強しなきゃならねぇんだ」って思ってあんま手がつけられなかったんだ」
「因果が逆ですね。「こんなモン」も分からないような知的怠惰を抱えたままでは、いつまで経っても進歩しませんし相応の社会的地位に甘んじる事になります」
冷たく言うプロメスティンに、ヴィクトリーは「うげ……」なんて漏らしながら苦い顔。
「知性が高く、かつ学問的素養を培った者ほど、社会的ヒエラルキーの上層に上り詰める事ができます。ヒエラルキーの上層に昇れば、より多くの異性と生殖でき……そして、より多くの子孫を残すことができますよ」
「そんな手当り次第には手出さねぇよ俺……」
絞り出した口答え……それも、当人の溜息で何処かに流れ消えてく。
「でもまぁ、タイムパトロールの事もっと勉強しときゃ良かったって後悔してるさ。こんな旅のメンバーに自分が入るなんて思いもしなかったしよ。お陰で戦うしか能が無い始末さ」
「ふむ……まぁ、適材適所という言葉がありますからね。パーティメンバー全員が非力な学者では進める場所にも限界があります。だから……戦う時は、けっこうあなた達のことを頼りにしてますよ?」
「おう、戦うのは任せてくれ!」
いい雰囲気の中、本を戻して探索し続けると……アリスの唸り声が聞こえた。
「うーむ、うーむ……やはり、白兎の事は人間の文献には無いか……」
彼女は本を片っ端から読んでは本棚にしまい、読んではしまいを繰り返している。
「アリスも調べものか」
「ヴィクトリー……ああ、その通りだ。余は本にいい思い出が無いのだがな……」
アリスはそう言いながら、何やら眉をひそめて本を読むのに没頭している。
「なんだ、変な本でも読まされてたんか?」
「いや、帝王学等の勉強用のテキストばかりだった。それに歴史や伝承……さまざまな文献を読まされていたのだ」
「そっか……アリスは魔王だから、王様の事も魔物の事も勉強しなきゃいけなかったんだな……」
「その通りだ……大変だったんだぞ、あの性悪狐め……」
性悪狐……秘宝の洞窟の件から察するに、あのたまもが教育係だったのだろう。その反動で、今も狐が嫌いらしい。
「これは、人間に伝わっている魔物の伝承ですね……」
プロメスティンは、凄まじい早さで本のページをめくっている。パラパラ漫画でも再生してるかのような速度で読み進めて、アリスの読んでた本を追ってるのだ。
「お、おい……読めてんのか?」
「むむ、流石の速度だな」
「はい。司書をやっていたので、この程度なら簡単に読めます」
そう言いながら本を閉じて、元の所に戻した。
「そっか、プロメスティンはそういう仕事をしてたんだな」
「ええ、この図書館よりも多くの文書を読み、綴ってきましたよ」
「天界にもここの図書館にも劣らない量の蔵書があると聞く。どんな本を綴ってきたのだ?」
アリスに聞かれたプロメスティンは、その表情に影を落とす。
「別に……イリアスの下らない教えを、わかりやすいように簡略化したものです」
つまらなそうに、吐き捨てるように言うプロメスティン。司書の仕事は、プロメスティンにとっては愉快なものではなかったらしい。
「あ、ああ……」
「……」
「しかし、ここに精霊信仰の本がないという事はまだ奥があるのでしょう」
気まずい雰囲気を切り替えるように、プロメスティンが言う。
「ああ、調べものもいいけど早いところその本を見つけねぇとな」
そう言っていたら、ルカとソニアとヌルコがやってきた。
「何かあったのか?」
「ああ、いや……そういえば、ルカは本とか読むんか?」
聞かれたルカは、「うーん」と言った様子だ。
「昔は読んでたよ。小さい頃は絵本とか読むのが好きだったし、母さんが亡くなってからは宿屋の経営学の本とか読みながら色々勉強してたんだ。でも、宿屋経営を始めたら読む時間も取れなくて……冒険者として剣の修行もしてたし……」
「そうなのか……ルカも、頭いい方なんだな」
「褒めても何も出ないよ。それに、本ならソニアが読んでるよ」
話を振られたソニアは、自らの両手を頬に添える。
「恋愛小説とか読み込んでたわよ。勇者の男の子が幼馴染の女の子の僧侶と、イチャイチャしながら最終的に……って話なんだけど……」
顔を赤らめながら、うっとりと恍惚した声でルカをチラチラ見る……も、見られているルカ本人は、きょとんとした顔だった。
「でも、僕にはよく分からなかったなぁ」
「この朴念仁!」
「ドアホめ……」
「きゅーきゅ」
何故か、ルカはソニアとアリスから怒られてしまった……
「きゅ〜」
ヌルコは、何やらその辺から本を取りだして読み始める。それを見ていたヴィクトリーは、彼女の本を覗き読んだ。
「おめぇ、読めんのか?」
「きゅ〜……」
ヴィクトリーの問いかけに対して、情けない鳴き声。どうやら、読めないらしい。
「しょうがねぇな、どれどれ……『「あぁん、ダメだよ、僕にはジェシカが……」レインがそう言うも、マーガレットは彼の服を強引に』……」
「エロ本じゃないのよ!! うちのヌルコに変なの読ませないで!!」
何故かソニアが怒りながらヴィクトリーの手から本を取り上げ、元の棚にぶん投げる。奇跡的に本と本の間に入り、綺麗に元の場所に戻った。
「ふえ〜……」
「……ぼ、僕達が探索してた所、もっと奥があったんだ。例の本はそこにあるはず」
ルカが困惑しながらもそう言い、引き続き図書館を進んでく。
「……」
ヴィクトリーの気の察知が、大きな気を感じ取った。人間のものではなく、魔物のものだ。
「どうした、ヴィクトリー?」
「でけぇ気を感じる……」
その言葉を聞いたルカは頷き、ヴィクトリーを先頭に立たせる。そして、彼の案内で進み……すぐに、そこにやってきた。
「……そこかっ!」
ヴィクトリーが扉を開け放つと、開けた場所にそこにはそこそこ大きい妖魔がいた。
「おや、図書館ではお静かに……」
女の声。見てみるとそこには、無数の触手を有する下半身と眼鏡をかけたエルフ耳の女の上半身。そんな魔物が、本を片手にして佇んでいた。
「あなた達の目的は分かっています……『四精霊信仰とその源流』を探しているのでしょう?」
「ば、バレてやがる……!」
「……なぜ、それを知っている?」
アリスは、レイピアを抜いてその女を睨みつける。
「魔王様のご命令において、その本は渡せません。どうしてもと言うなら、私を倒して奪っていくのですね……」
「魔王の命令だと……!? 余は、そんな……いや、母上の事か! いったいなぜ、貴様等がその本を守る!? マルケルスが残していった本に、何があるというのだ!」
「僕達が読むと、何か不都合な事でもあるのか……?」
アリスとルカに色々聞かれた彼女は、眼鏡越しに彼らを睨んだ。
「魔王様の意図は存じません……が、命令である以上は全うするまで!」
そう言って啖呵をきったかと思えば、次に馬鹿にするような笑みを浮かべた。
「もちろん、ここで逃げても構いませんよ。私の使命は本の守護、あなた達を倒せとは言われていません」
「ふざけるな、貴様を倒して本を手にしてやる! ルカ、分かっているな!」
「父さんの残した本を置いて、退き下がるわけにはいかない……よし!」
アリスとルカが、構える。
「どうやら、アイツらがやるみてぇだな……俺も、ルカの真価が気になる」
「ヤバかったら手を貸すわよ!」
ヴィクトリー達は、控えに回って待機するのだった。