もんむす・くえすと!ぱらどっくす×ゼノバース 作:ジョーカー:ゼノ
ラダイト村の近くの、街道……
「はっ……はっ……はっ……!」
少年が、走りながらラダイト村へと向かっている。それもその筈、魔物に追われていたのだ。
「くっ……うわぁっ!」
しかし、間の悪いことに石に躓いて転んでしまった。どうにか振り返ると、そこにはラミアとセントールとスイカ娘が迫っていた……
「もう逃がさないわよ、坊や……」
「お姉さん達が、たっぷり搾ってあげる……」
「あはは……!」
「ひ、ひいぃっ!」
少年一人に対して、魔物娘三人がかり。少年に戦える力など無いので、これではもう助からないだろう。
迫り来る魔物娘を相手に、必死に後ずさりしながら、恐怖に怯えていた……その時だった。
「っ!!?」
セントールがぶっ飛んで、その辺の岩に叩きつけられた。
「ぐはぁっ……!?」
「え……!?」
少年の目の前……赤い道着と水色の帯と、黒髪を靡かせた男が背を見せながら立っていた。
ヴィクトリーが、ギリギリでセントールを蹴り飛ばしたのだ。
「あ、あの時村に来てた、武道家の人……!?」
「逃げな! こいつらは俺が相手してやる!」
ヴィクトリーはそう言って、魔物娘三人を相手に構える。
「な、生意気ね……!」
「まさか、三対一で勝てるとでも……?」
「あなたの方が美味しそうね……ふふふ……」
そのまま、ヴィクトリーは三体の魔物と激突した。そして、油断しきっている魔物娘を、人数差をものともせずに圧倒して見せた。
「……すごい……!」
逃げていた少年はというと、ヴィクトリーの戦う姿に心を奪われていた。
背中に剣があるのに、素手で魔物娘と渡り合っていて……それでいながら、圧倒している。人間とは、ここまで強くなれるものなのか。
「龍翔拳!!」
「きゃあっ……!?」
ヴィクトリーの、気を込めた渾身のアッパーカットが最後の一人を殴り飛ばす。あっという間に、魔物娘三人はどしゃりと地に伏せてしまった。
「もう戦えねぇはずだ! もっと酷いケガしねぇうちに、とっとと帰れ!」
「くそっ、覚えておきなさい!」
圧倒して、帰れと一喝……それで、魔物娘達は逃げていったのだった。
「……ふぅ」
ヴィクトリーは一息置いて、少年の方に向く。
「逃げてろっつっただろ。なんでボサッと……」
「すごい!!」
「っ!!」
いきなりでかい声を出されたから、すごくびっくりしたヴィクトリー。
「すごい、すごいやお兄ちゃん……! 魔物相手に、素手で! それに、すごい魔法も使ってたよね!?」
「あ、ああ……そうかな……」
狼狽えるヴィクトリー、目を輝かせる少年……
とりあえず、この少年をラダイト村まで送る事になった。
「……おめぇ、あんな所で何してたんだ?」
「……」
それを聞かれると、少年は一気にしおらしくなってしまった。
「……あの村が、嫌いなんか?」
「……」
こくりと頷く、少年。ヴィクトリーは、何となく察する事が出来ていた。
「……じゃあ、ゆっくり進もうか」
「うん……」
あのラダイト村だ。こんな奴の一人や二人ぐらい出ても違和感はない……周りの目を掻い潜って、脱出しようとするものが居ても不思議では無い。
「僕……あの村はもう嫌なんだ。だから、こっそりと抜け出そうとしたんだ。そしたら、あの魔物達が襲いかかってきて……」
「それを、俺が助けたってわけか……それで、何処に向かおうとしてたんだ?」
「サン・イリアだよ。あそこなら、自由だよね……? 僕達を縛るものなんて、何も無いんだよね……?」
「ラダイト村よりゃマシだ」
少年は黙り……そして顔を上げ、ヴィクトリーに向いた。
「僕……強くなりたい! 今は一人で抜け出してきちゃったけど……お兄ちゃんみたいに強くなって、みんなであの村から逃げ出したい! そうすればお母さんも妹も、みんなを連れて自由になれる!」
「ちょ、ちょ……なら、わざわざ強くなる必要なんてねぇんじゃねぇか? このまんま、俺がサン・イリアに……」
「僕が家族を守るんだ!!」
少年の強い言葉に、思わずヴィクトリーは硬直してしまった。
「ぅ……ごめんなさい……」
少年は、またしおらしくなってしまう。しかしヴィクトリーは、少年に心を打たれていた。
馬鹿だ俺は。こんな、俺より真っ直ぐな奴が、安易な道を進む訳がねぇ。
「……『なれる』」
「え……?」
「おめぇなら、ヒーローになれる」
其れは、自分をヒーローへと駆り立てた言葉。トランクスという超戦士がそう言って、自分の背を叩いたのは記憶に刻まれている。
「確かに、色々思う所はあるけどよ……けど、勇気と心意気さえあれば、誰もがヒーローだ」
誰もがヒーロー……それも、自分の心の中に刻まれた言葉。半ば呪いの言葉だった。
初めから強いやつなんて、何処にも居やしない。誰もが胸に秘めた、見えないエナジー……それを、力と勇気に変え爆発させることが出来るかどうか。それが、ヒーローになれるかどうかの条件だ。
「……強くなりてぇか?」
「……!」
少年は、力強く頷いた。
「……そうか! だったら、一つ教えてやるよ! 拳構えろっ!」
「は、はいっ!」
ヴィクトリーは、少年に正拳突きを伝授した。
少年の拳が正拳となり、バシッと衝撃が伝わってくる。
「……そいつを毎日100本やって、疲れなくなったら……とりあえず、ここら辺に居るようなモンスターならやっつけられる!」
「ありがとう、お兄ちゃん……僕、強くなるよ! 強くなって、妹もお母さんも自由にしてみせる!」
少年は、もうすっかりヒーローの顔だった。これからきっと、もっともっと強くなるに違いない。
「ああ……自由になれるといいな」
「本当は、お兄ちゃんにもっと教わりたい事があるけど……僕、頑張るよ!」
「ああ……!」
そう言いながら歩いていると、ラダイト村が見えた。
「……ここまで来れば、平気だろ」
「うん……ありがとう、お兄ちゃん!」
少年は元気よく、走ろうとする。
「……なぁ!」
ヴィクトリーは少年を呼び止めた。彼もそれに応じ、振り向く。
「いつか、おめぇがこの先もっともっと強くなったら……俺と、戦おうぜ!」
「……!」
「待ってるぜ! 俺も、今以上に腕を上げて……いつまでも、待ってやる! だから、こんなくだらねぇ村の嫌がらせなんかで折れるんじゃねぇぞ〜!」
「……うん!」
少年とヴィクトリーは親指を上げて笑顔を交わし、別れた。
ラダイト村だから、色々不安は残るが……それでも少年は、最後まで助けなど借りるつもりが無かった。あの様子ならば、きっと大丈夫だろう。
ゴミ溜めみたいな村の中に、唯一輝く光……ヴィクトリーは、その光に希望を見たのだった。
「……ヴィクトリー」
いつの間にか背後に居たアリスが、ヴィクトリーに声をかけた。振り向くと、他のメンバーも控えていた。
「うわぁっ!? 居たんか!?」
「居たというか……見てたというか……」
アリスはそう言い、少年が走った先を向く。ヒルデもサン・イリア王も、アリスと同じほうを向くのだった。
「……余は、不安と言わざるを得んが……あの子なりに、色々考えたのだろうな。それは尊重せねばならん」
「立派だったね……ヒルデも、見習わないと」
「それでは、私達は私達の戦いを頑張るとしようか。あの少年の期待を、裏切らない為にな……」
サン・イリア王の言葉で、戦士達は気合を入れ直す。
改めて、向かうは北のお化け屋敷。果たして、そこでは何が待ち受けているのか……?