もんむす・くえすと!ぱらどっくす×ゼノバース   作:ジョーカー:ゼノ

65 / 183
ラダイト村の少年

 ラダイト村の近くの、街道……

 

「はっ……はっ……はっ……!」

 

 少年が、走りながらラダイト村へと向かっている。それもその筈、魔物に追われていたのだ。

 

「くっ……うわぁっ!」

 

 しかし、間の悪いことに石に躓いて転んでしまった。どうにか振り返ると、そこにはラミアとセントールとスイカ娘が迫っていた……

 

「もう逃がさないわよ、坊や……」

「お姉さん達が、たっぷり搾ってあげる……」

「あはは……!」

「ひ、ひいぃっ!」

 

 少年一人に対して、魔物娘三人がかり。少年に戦える力など無いので、これではもう助からないだろう。

 

 迫り来る魔物娘を相手に、必死に後ずさりしながら、恐怖に怯えていた……その時だった。

 

「っ!!?」

 

 セントールがぶっ飛んで、その辺の岩に叩きつけられた。

 

「ぐはぁっ……!?」

「え……!?」

 

 少年の目の前……赤い道着と水色の帯と、黒髪を靡かせた男が背を見せながら立っていた。

 

 ヴィクトリーが、ギリギリでセントールを蹴り飛ばしたのだ。

 

「あ、あの時村に来てた、武道家の人……!?」

「逃げな! こいつらは俺が相手してやる!」

 

 ヴィクトリーはそう言って、魔物娘三人を相手に構える。

 

「な、生意気ね……!」

「まさか、三対一で勝てるとでも……?」

「あなたの方が美味しそうね……ふふふ……」

 

 そのまま、ヴィクトリーは三体の魔物と激突した。そして、油断しきっている魔物娘を、人数差をものともせずに圧倒して見せた。

 

「……すごい……!」

 

 逃げていた少年はというと、ヴィクトリーの戦う姿に心を奪われていた。

 

 背中に剣があるのに、素手で魔物娘と渡り合っていて……それでいながら、圧倒している。人間とは、ここまで強くなれるものなのか。

 

「龍翔拳!!」

「きゃあっ……!?」

 

 ヴィクトリーの、気を込めた渾身のアッパーカットが最後の一人を殴り飛ばす。あっという間に、魔物娘三人はどしゃりと地に伏せてしまった。

 

「もう戦えねぇはずだ! もっと酷いケガしねぇうちに、とっとと帰れ!」

「くそっ、覚えておきなさい!」

 

 圧倒して、帰れと一喝……それで、魔物娘達は逃げていったのだった。

 

「……ふぅ」

 

 ヴィクトリーは一息置いて、少年の方に向く。

 

「逃げてろっつっただろ。なんでボサッと……」

「すごい!!」

「っ!!」

 

 いきなりでかい声を出されたから、すごくびっくりしたヴィクトリー。

 

「すごい、すごいやお兄ちゃん……! 魔物相手に、素手で! それに、すごい魔法も使ってたよね!?」

「あ、ああ……そうかな……」

 

 狼狽えるヴィクトリー、目を輝かせる少年……

 

 とりあえず、この少年をラダイト村まで送る事になった。

 

「……おめぇ、あんな所で何してたんだ?」

「……」

 

 それを聞かれると、少年は一気にしおらしくなってしまった。

 

「……あの村が、嫌いなんか?」

「……」

 

 こくりと頷く、少年。ヴィクトリーは、何となく察する事が出来ていた。

 

「……じゃあ、ゆっくり進もうか」

「うん……」

 

 あのラダイト村だ。こんな奴の一人や二人ぐらい出ても違和感はない……周りの目を掻い潜って、脱出しようとするものが居ても不思議では無い。

 

「僕……あの村はもう嫌なんだ。だから、こっそりと抜け出そうとしたんだ。そしたら、あの魔物達が襲いかかってきて……」

「それを、俺が助けたってわけか……それで、何処に向かおうとしてたんだ?」

「サン・イリアだよ。あそこなら、自由だよね……? 僕達を縛るものなんて、何も無いんだよね……?」

「ラダイト村よりゃマシだ」

 

 少年は黙り……そして顔を上げ、ヴィクトリーに向いた。

 

「僕……強くなりたい! 今は一人で抜け出してきちゃったけど……お兄ちゃんみたいに強くなって、みんなであの村から逃げ出したい! そうすればお母さんも妹も、みんなを連れて自由になれる!」

「ちょ、ちょ……なら、わざわざ強くなる必要なんてねぇんじゃねぇか? このまんま、俺がサン・イリアに……」

「僕が家族を守るんだ!!」

 

 少年の強い言葉に、思わずヴィクトリーは硬直してしまった。

 

「ぅ……ごめんなさい……」

 

 少年は、またしおらしくなってしまう。しかしヴィクトリーは、少年に心を打たれていた。

 

 馬鹿だ俺は。こんな、俺より真っ直ぐな奴が、安易な道を進む訳がねぇ。

 

「……『なれる』」

「え……?」

「おめぇなら、ヒーローになれる」

 

 其れは、自分をヒーローへと駆り立てた言葉。トランクスという超戦士がそう言って、自分の背を叩いたのは記憶に刻まれている。

 

「確かに、色々思う所はあるけどよ……けど、勇気と心意気さえあれば、誰もがヒーローだ」

 

 誰もがヒーロー……それも、自分の心の中に刻まれた言葉。半ば呪いの言葉だった。

 

 初めから強いやつなんて、何処にも居やしない。誰もが胸に秘めた、見えないエナジー……それを、力と勇気に変え爆発させることが出来るかどうか。それが、ヒーローになれるかどうかの条件だ。

 

「……強くなりてぇか?」

「……!」

 

 少年は、力強く頷いた。

 

「……そうか! だったら、一つ教えてやるよ! 拳構えろっ!」

「は、はいっ!」

 

 ヴィクトリーは、少年に正拳突きを伝授した。

 

 少年の拳が正拳となり、バシッと衝撃が伝わってくる。

 

「……そいつを毎日100本やって、疲れなくなったら……とりあえず、ここら辺に居るようなモンスターならやっつけられる!」

「ありがとう、お兄ちゃん……僕、強くなるよ! 強くなって、妹もお母さんも自由にしてみせる!」

 

 少年は、もうすっかりヒーローの顔だった。これからきっと、もっともっと強くなるに違いない。

 

「ああ……自由になれるといいな」

「本当は、お兄ちゃんにもっと教わりたい事があるけど……僕、頑張るよ!」

「ああ……!」

 

 そう言いながら歩いていると、ラダイト村が見えた。

 

「……ここまで来れば、平気だろ」

「うん……ありがとう、お兄ちゃん!」

 

 少年は元気よく、走ろうとする。

 

「……なぁ!」

 

 ヴィクトリーは少年を呼び止めた。彼もそれに応じ、振り向く。

 

「いつか、おめぇがこの先もっともっと強くなったら……俺と、戦おうぜ!」

「……!」

「待ってるぜ! 俺も、今以上に腕を上げて……いつまでも、待ってやる! だから、こんなくだらねぇ村の嫌がらせなんかで折れるんじゃねぇぞ〜!」

「……うん!」

 

 少年とヴィクトリーは親指を上げて笑顔を交わし、別れた。

 

 ラダイト村だから、色々不安は残るが……それでも少年は、最後まで助けなど借りるつもりが無かった。あの様子ならば、きっと大丈夫だろう。

 

 ゴミ溜めみたいな村の中に、唯一輝く光……ヴィクトリーは、その光に希望を見たのだった。

 

「……ヴィクトリー」

 

 いつの間にか背後に居たアリスが、ヴィクトリーに声をかけた。振り向くと、他のメンバーも控えていた。

 

「うわぁっ!? 居たんか!?」

「居たというか……見てたというか……」

 

 アリスはそう言い、少年が走った先を向く。ヒルデもサン・イリア王も、アリスと同じほうを向くのだった。

 

「……余は、不安と言わざるを得んが……あの子なりに、色々考えたのだろうな。それは尊重せねばならん」

「立派だったね……ヒルデも、見習わないと」

「それでは、私達は私達の戦いを頑張るとしようか。あの少年の期待を、裏切らない為にな……」

 

 サン・イリア王の言葉で、戦士達は気合を入れ直す。

 

 改めて、向かうは北のお化け屋敷。果たして、そこでは何が待ち受けているのか……?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。