もんむす・くえすと!ぱらどっくす×ゼノバース 作:ジョーカー:ゼノ
サン・イリアから出て西の橋を渡ってすぐ北上し、森を進んだ先……そこに、一際聳え立つ大樹を中心に不思議な力を感じる森林地帯に辿り着いた。
「ここが、シルフのいる精霊の森か……」
「ほぇー……綺麗な場所じゃねぇか」
動物の鳴き声やフェアリーが遊んでる声、そして川のせせらぎが聞こえ、とても穏やかな雰囲気の森だった。
「きゅきゅ、きゅー!」
ヌルコも、何だか嬉しそうに鳴いている。この場所が好きなのだろうか。
「とりあえず、フェアリーのイタズラに気を付けりゃいいんだろ?」
ヴィクトリーはそう言い、アリスの方へ向く。しかし、彼女は微妙な顔をしていた。
「それなのだが……今の荒んだ世の中、魔物達も敏感になっている。テリトリーに踏み込んだ余所者がどうなるか……」
「そっか……どうやら、カンタンな話でも無さそうだな……」
「でも、行かなくちゃ。シルフと契約して、風の力を手に入れるんだ!」
マルケルスの伝言によれば、歴史を正しく導くために。そして、ルカが自身の意志で力を欲しているから。
「さあ行こう! シルフはきっと、森の奥だ!」
「おう!」
二人を先頭に、一行は精霊の森を進んだ……
「余達も続くぞ。二人の背を守る」
「シルフ探索、開始……」
「気合い入ってるわねぇ、あたしも負けないわよ!」
「きゅーっきゅきゅ!」
「妖精やエルフも居るらしいので、迷いの森との個体の相違なんかも研究したいですね。一匹や二匹、捕まえて解剖しても」
思い思いにコメントしながら、二人の後に続くメンバー。穏やかな森を、皆で進むのだった。
※
フェアリーやエルフが急襲してくるものの、どうにか倒すルカとヴィクトリー。今の二人には、この辺の敵は敵では無いらしい。
「おーい、ルカ!」
「ん?」
「倒したフェアリーが遊んでくれた礼にって、こんなんくれたぞ」
ヴィクトリーが差し出してきたのは……手のひらサイズの小人のようなものだった。緩やかに風を纏いながら、ふわふわ浮いてる。
「ちぃぱっぱって言うらしいぜ、何か知ってっか?」
「いや、ホントになにこれ……? みんな、知ってる?」
「なにこれ、知らん……こわ……」
「これって、ちっちゃな精霊……?」
「きゅ……?」
「これが、精霊……?」
謎のアイテム(?)を前に、首を傾げるルカ達だったが……プロメスティンは、ちぃぱっぱをよく観察する。
「これ、精霊ですよ……! 本体では無さそうですが……」
「マジか! なら、やっぱ近くに精霊がいるっぽいな!」
間抜けな顔の小さい精霊は、喜ぶヴィクトリーに連動して歌い始めた。
「ちぃぱっぱ! ちぃぱっぱ! みんなともだち、ちぃぱっぱ!」
ヴィクトリーの手の中のちぃぱっぱが、楽しそうに歌う。歌詞は意味不明だが、何やらフレンドリーな事は間違いなさそうだ。
「おおよしよし、エサとか食うか?」
「ちぃぱっぱ! ちぃぱっぱ! みんなといっしょに、ちぃぱっぱ!」
「ちぃぱっぱ! ちぃぱっぱ! よばれてとびでて、ちぃぱっぱ!」
ちぃぱっぱが歌うと、なんと何処からともなく複数体現れる。そして、ヴィクトリーに殺到した。
「うわぁあぁああああ!?」
「ヴィクトリーっ!?」
叫ぶヴィクトリーと、ルカ。気づけば、ちぃぱっぱの数が17体近くになってしまった。
「ドアホ共め……」
「ほんとになにあれ……?」
「きゅー」
「ちぃぱっぱ……」
「興味深いですが、やはり用があるのはこれの本体でしょう。行きましょう!」
※
増殖したちぃぱっぱをどうにか道具袋に押し込み、先へ進むルカ達。
フェアリー達もイタズラ好きな者ばかりではなく、普通にすれ違うだけの者も居る。そんな中、一人のフェアリーが橋の手すりに座って浮かない顔をしていたのが見えた。
「オッス! どうしたんだ浮かねぇ顔して!」
ヴィクトリーが元気よく挨拶して、話を聞く。
「最近、怖い化け物が出てくるの……襲っては来なかったけど、何だか怖いよう……」
「こえぇバケモンか……襲ってはこねぇなら、見た目だけで判断するのもなぁ」
何やら、不穏な噂。しかし被害は出ていないらしく、それがまた不気味な様子だった。
「見かけたら話しかけて、悪いやつだったら退治しようか」
「ほんと!? ありがとう! 気を付けてね、とっても怖いバケモノなんだから……」
どうやら、精霊の森にもただ事では無い何かが起きているようだ。これも、セントラ大陸が渦中にある影響なのだろうか。
「バケモンってのはどんなんだろうな?」
「怖いって言ってるし、おどろおどろしい奴なんじゃないかな……」
ルカとヴィクトリーが話しながら歩いていると、エルフがいきなり身構えてきた。
「わっ、敵……!?」
「うおっ、落ち着け!」
「僕たちはただの人間ですよ!」
ヴィクトリーとルカは、そう言ってエルフをなだめる。大抵こういう時は戦闘になってしまうのだが、彼女は物分りが良く、武器をしまってくれた。
「……なんだ、そうなの。最近、不気味な怪物が森の中をうろついているの。襲いかかってくる訳じゃないけど、みんな怖がって……」
「でも、襲ってこないんでしょう? 見た目が不気味なだけで、無害な相手なんじゃ?」
「まあ、そうなんだけど……でも、あの外見は明らかに異常よ」
どうやら、精霊の森を騒がせてるソイツは異常な外見をしているらしい。ただ異常な外見をしているだけなら、放っておいても良さそうなものだが……
「まぁー、見っけたら俺達がどうにか言っとくぜ。それにいざとなりゃ、ぶっ飛ばしてやるさ!」
パンッと拳を叩いて、自信満々に言うヴィクトリー……彼の顔を見たエルフが、目を見開く。
「……その髪型に、その顔……貴方、まさか黒のヴィクトリー!?」
「何だって!?」
「っ、知ってんのか!?」
まさかの名前……セントラ大陸で噂になっている三人のアリスに並ぶ異常存在、『黒のヴィクトリー』。そんな名前が、こんな所で聞けるとは。
「ああ、いや……その反応を見るに、違うみたいね。ちょっと前に、遠目からだけどこの辺を飛びながら見回ってる姿を見た事あるのよ。独特の髪型に、黒い道着……噂通りの外見だったわ。何か探してるらしかったけど……」
ここに来て、黒のヴィクトリーの情報。どうやら、舞空術で飛び回って探索していたらしいが……
「でも、貴方は格好も感じも違うけど顔と髪型はそのまんまね……もしかして、黒のヴィクトリーの偽物……?」
「だーっ、誰が偽物だ! 俺が本物で、そいつが偽物なんだよ! 本物が大した活躍してねーのに、偽物が出しゃばってんだよ!」
偽物の偽物呼ばわりとは、これ如何に。
遺憾に震えるヴィクトリーを横目に、ルカが考える。
「謎の化け物に、黒のヴィクトリー……この森、ざわめいてるね」
「ええ、遭遇したら無理はしない事ね……」
エルフはそう言い、会釈してすれ違っていく。
「ふーむ、話を聞くに黒のヴィクトリーと謎の化け物がこの辺をうろついてるらしいな」
後ろにいたアリスが、腕を組んで言う。
「どっちも、謎の存在よね……味方か敵かも分からないし、ちょっと怖いかも……」
「きゅーきゅっきゅ」
心配そうに言うソニアに、ヌルコが鳴く。
「両名、詳細不明……黒のヴィクトリーなんてデータ、ヒルデにも存在しない……」
「ふーむ、話が通じる相手ならばインタビューから始めたいものですが……何せ、情報が無いもので」
ヒルデとプロメスティンは、頭を傾げたままだ。
「面倒な事にならなきゃいいけど……」
「なら、さっさと行こうぜ。この気の感じからして、最奥は後ちょっとだ」
不穏な噂に、不安が膨らむパーティ。だが、目的のシルフは目の鼻の先のようだ。
ざわめく森を、不安を胸にしながらも進むのだった。