もんむす・くえすと!ぱらどっくす×ゼノバース 作:ジョーカー:ゼノ
朝……
野営を終え、旅を続ける一行達。
「なんでポケット魔王城があんのに、野営なんてするんだ?」
「知らん」
ヴィクトリーのツッコミを、アリスが一蹴する。
「所でルカ、修行はうまくいったんか?」
「うん。剣技を一つだけ覚える事が出来たよ。お前は?」
「俺はうまくいかなかったなぁ……へへへ」
まぁ、だいぶ感覚は取り戻してきたからよしとしよう。これなら、比較的遠慮なく、戦闘ができるはずだ。皆にも追いつけるはずだ。
そんな事を話していると、目の前に街が見えてきた。
「あれか」
「そうだよ」
イリアスベルク……このイリアス大陸で、一番大きい街だそうだ。サザーランドという宿屋に、『あまあまだんご』という名物があるみたいだ。
何より、人が沢山来る所でもある。ルカの父親の事や、アリスの言うウサギの情報が入ればいいが……
一行は、色々な想いを胸に、イリアスベルクに入った……
「待て、二人共」
入った瞬間、アリスがルカ達を呼び止めた。
「……妙な気配がするぞ。この気配は、まさか……」
アリスが、そこまで言った時だった。
「ばばーん!」
不意に、謎の女が現れた。白いシルクハットを被った、青髪にウサギの耳を生やしていて、白いマントを羽織った……妖魔のような者だ。その者は、無邪気に笑いながらこちらを見てくる。
「グランべリアじゃなくて、びっくりした? 残念、ボクでしたー!」
「な、なんだてめぇはっ!?」
ヴィクトリーは身構え、その兎型の妖魔に向く。
「き、貴様……あの時のウサギではないか……!」
「えっ!? それってまさか、目的のウサギ……?」
「うそ……こんな、いきなり?」
ルカとソニアが、鳩が豆鉄砲くらったような顔をする。一方、アリスは怒りに目を染めていた。
「情報を集める気で居たのに、真っ先に本人が現れるとは……おのれ、ふざけたウサギめ!」
「まあまあ、そう熱くならないでよー。ボクは魔王サマを導く役割なんだからさぁ」
そう言いながら、けたけた笑う白の兎……それに対し、ルカが前に出てきた。
「アリスを元に戻せ!」
「イヤだよー。その可愛いカッコで、追いかけてくるのがいいんだもん」
ルカの要求は、当然のように蹴られる。それにより、アリスが激昴した。
「ふざけるな! 余がどれだけ苦労したのか、分かっているのか!」
「それがいいんじゃない。これからも、もっともっと苦労してもらおっかなー?」
言い合っている最中……ヴィクトリーは、妙な感覚に歯噛みしていた。
「…………」
気を感じねぇ。あの白いウサギから、気を微塵も感じねぇんだ。この現象、心当たりがある……確か──
「──ビルス様?」
白の兎はそう言って、ヴィクトリーに笑った。
「なんっ……!?」
「あははー、ボクにだって心を読むことが出来るんだよ。そのビルス様とやら、とってもこわーい破壊神みたいだねー。ん? ボクが何者かって? んー……白兎って呼べばいいんじゃないかな」
「っ……っ……!!」
心が、ことごとく読まれてる。どうやら、隠し事も出来ない模様だ。
「ええい、何をわけの分からないことをベラベラと! とっとと余を元に戻せ!!」
更に激怒するアリスに、白兎は唐突にシリアスな表情を取る。
「これは、魔王に与えられた試練……この試練を乗り越えてこそ、魔王は根源に至るのだ……」
「なんだと……?」
疑問に思うアリスを前に、白兎はシリアスな表情を、にぱっとした笑顔で塗り変えた。
「……ウソぴょん、それっぽいコト言ってみただけ」
「おのれ、どこまでもコケにしおって……!」
「とにかく、まだまだ元に戻す気はないよ。何なら、腕尽くでやってみる?」
ヴィクトリーは、拳を握って、珍しく一歩退く。
こんな所で戦っても、意味がない事ぐらい明白だ。そもそも、今の自分達が腕尽くでどうにかなる相手でも無さそうだ。
「おお、君は意外と賢いんだねぇ」
白兎は、そう言ってヴィクトリーに向かう。彼はギョッとしたが、依然として鋭い目で彼女の目を睨めつける。
「……おめぇの目的はなんだ?」
何も言えないのはナンセンスなので、試しに質問してみた。回答に期待は、していない。
「それ、さっき言ったじゃない。ボクの役割は、魔王サマを導くコトだよ」
やはり、得られた回答は的を射ないものだった。相変わらず、意味が分からない。特に、異世界から来たばかりの自分にとっては。
「なぜ余が導かれなければならん? そもそも、貴様は何者なのだ……!?」
「アリスと白兎の話、聞いてないのぉ? 玉藻ちゃんったら、何を教えてんだか……ちなみに、ボクは六祖じゃないからね」
「六祖……というと、あの伝説の? それに貴様、たまもと面識があるのか?」
アリスがそう言うと、白兎は呆れたように頭を抱えた。
「あ〜あ〜あ〜、まだそのレベル? しかもボク、片っ端からボロ出しちゃってる? ……まぁいいや、これ以上はヒ・ミ・ツ」
「……」
ヴィクトリーが、『なぜグランべリアの話を?』と聞こうとした時だった。
「
白兎が唐突にそう言った、次の瞬間──
「っ!!」
「……ッ!?」
ヴィクトリーとルカは、頭を押さえる。
「どうしたの、二人共! 大丈夫……?」
ソニアが、二人を心配してくれた。
それはともかく、例の頭痛がまたヴィクトリーの頭を撃ち抜いた。しかも今度は彼だけでなく、ルカまでもだ。
そして、浮かんだヴィジョンは……ぶっ飛ばされる自称勇者、逃げる腰抜け、火の力を使う竜人の剣士……など、だ。
「……ありゃ? ルカ君にも微妙にリンクしちゃった? それにしても二人共、生身なのに器用な事するね〜。やっぱり、特別製は違うね〜」
「どういう事なんだ?」
「あの幻は、いったい何なんだよ……」
どうやら、この白兎は頭痛の原因も分かるらしい。尚更、取り逃がす訳にはいかなくなった。
「キミ達に見えたヴィジョンは、幻であって幻じゃない。確かな現実であって、キミ達にとっては現実じゃない……でもこれから先、その全てが胡乱になっていくのさ。何もかもが入り交じった、混沌の世界が訪れる……ヴィクトリー君には、『ゼノバース』と説明した方が分かりやすいかな?」
「ッッ!!」
ヴィクトリーは、『ゼノバース』という言葉に反応する。
ゼノバース──未来も過去も歪み、物語が崩壊していく。絶対に書き換えてはならない歴史が改竄され、全てが壊れていく。
そんな事が、今からこの世界で起きようとしているというのだろうか。
「ええい、もっと分かるように説明しろ!」
しかしアリスには、知ったことではない。分からない説明ばかりされて、ついに啖呵を切った。
「ボクはアリスを導くだけ……説明する役割じゃないよう」
「ぐぬぬ……ならば、腕尽くで聞き出すまでだ! 覚悟しろ、いんちきウサギめ! ボコボコに叩きのめして、泣かしてやる!」
アリスはレイピアを出し、構えた。
「少し乱暴だけど、しょうがないなぁ……」
ルカも剣を抜いて、構える。
「あんた悪者っぽいから、遠慮なくやっちゃっていいよね。知ってること、全部吐かせてやるから……!」
ソニアまで、棍棒を抜き、振り回してから構えた。
「ま、待てみんな!! やるだけ無駄だ!! 待てったら……!!」
ヴィクトリーの静止も聞かず、皆戦闘態勢に入り、白兎の前に出る。戦線に出ていないのは、彼だけだった。
「それじゃあ、このウサギが相手をしよう……えっと、F10357X942Y772からコピーして……貼り付けっ!」
白兎がそう言って指を鳴らすと、ルカ達の姿が消えてしまった。
「え……!? ルカ!? アリス!? ソニア!? み、みんなーっ!!」
唐突に消えた仲間達を、呼ぶヴィクトリー。そんな彼の前に、白兎が歩み出た。
「むふふ……今頃、君の仲間はボクの代わりと戦ってる頃さ……それにしても……」
白兎は、ヴィクトリーの顔をまじまじと見る。
「君は、正史には居なかった存在であり……もう一つの正史には存在していた。なのに、その正史は異変一つ起きてなかった……」
「え……!?」
そして、意味深な事を語り出した。それも、真剣な話のようで、どうやら重要な事だと察せるほどに。
「あの正史は分岐して、キミが死んでからルカ君が平和を築いた世界と、キミが生存してルカ君達と力を合わせてイリアスを倒し、キミはエデンという熾天使とくっついて平和になった世界がある……明らかにパラドックスの筈だよ」
しかし……今のヴィクトリーには、何を言っているのかサッパリだ。長々と説明されても、自分が存在しないだの、自分が死んだだの、突拍子もない事ばかりで訳が分からない。
「……なのに、その世界にはタルタロスなんて発生しなかった……何でだろうねぇ?」
「タルタロス……?」
「キミの存在は、本来ならば第三種断界接触なんだけど……なのに、カオス化は進行していない。それに、この物語にも目立つ異常は発生していない……何故かって……? それはキミがルカ君とはひと味違うタイプの、『特別製』だからだよ……」
やはり、意味深に話されても分からない事は分からない。そもそも、まだこの世界に来てから間もないというのに、この世界の事情を話された所で、知る由もない。
「……」
「まぁ、要するに……」
白兎は気さくに、ヴィクトリーの肩に顎を乗せて笑った。
「彼らの為に頑張ってあげてよ。この世界は、キミ無しじゃダメみたいだからさ」
そう言い、彼の頬をぷにぷにとつっついた。
「……」
逆らえねぇ。ウザイのに、こいつにだけは手出しするなと本能が騒いでいるのだ。
「ウザイとは心外だなぁ。ああ、あと……」
「まだあんのかよ……」
再び、白兎はシリアスな声色になる。どうやら、重要な話らしいが……
「キミが死んだ未来……どうも、全てが終わった後にキミの死体が消えたそうなんだ。何でだろうねぇ……?」
「知るかよ……自分の死体なんて、想像したくもねぇやい」
やはり、分からない。分からないので、どうしようもなかった。
頭を傾げるヴィクトリーに、白兎はいつもの無邪気な笑顔を浮かべる。
「まぁ、警戒はしておいてね。何かあると、ヤバいからさ……さて、そろそろかな」
彼女がそう言うと、いきなりルカ達が現れた。どうやら、戦闘の後のようだった。
「わっ……!?」
「むきゅう……いきなり変な連中にボコボコにされたよう……」
白兎の横には、ボコボコになったバニースライムが居る。
「あははっ、ウサギ違いだったね〜♪ もう、元の世界に戻っていいよ」
「むぎゅう……」
バニースライムは、消えていった……
「貴様、いったい何をした……!? 今のはなんだ……!?」
「今の、あたしだったよ! どうしてらあたしが二人もいるのぉ!?」
ソニアの後ろに、バニースライムのうさが居た。そういえば、先程見えた魔物もバニースライムだったか……
「今のもまた、現実であって現実ではない……少なくとも、ここではね」
白兎はそう言って笑い、背中を向けた。
「それじゃあ、そろそろ本当にボクは行くよ。アリスちゃん、頑張って追いかけて来てね〜」
「待て、まだ話は……」
「はっきり言って、ボクに追いつけない程度だったら……終わってるよ。キミも、この世界も」
白兎はドスの効いた声で、アリスを止めた。その後、普通に笑顔を見せる。
「それじゃあね〜♪」
そして、消え去った……
「くっ、逃がしたか……!」
「あやしいウサギだったね。いったい、何を企んでいるのか……」
「ほんと、予想以上に食えない感じ……よく分からないけど、あれが黒幕じゃないの?」
「……」
違うと思う。あいつは黒幕なんかじゃないと思う……多分。
「まだ追いつけるかもしれん。町を捜索するぞ。住民に話を聞き、情報を集めるのも忘れるな。あと、老舗の宿『サザーランド』では『あまあまだんご』が美味いらしいぞ……」
アリスはそう言いながら、よだれを垂らしていた。
「そんな場合じゃないだろ……」
「そんな場合でもねぇだろ……」
ヴィクトリーとルカのツッコミが、見事に被った……
「……ん?」
ルカが、地面に目をつけた。
「なんだ?」
「これ……」
拾って見せてきたのは、鍵だった。質素な、鍵状のものだが……白兎が落としたのだろうか。
「何をしている、二人共? 何か落ちてきたのか……?」
「いや、鍵が落ちてたんだよ」
「ほら、これ。どこの鍵なんだろう……」
ルカはそう言いながら、アリスに鍵を見せた。
「鍵だと? 何も持ってないではないか……」
「えっ!? そんな、まさか……この鍵が見えていない……!?」
「なんだと……!?」
どうやら、ルカ達にしか目視できない鍵を見つけてしまったらしい。なんで、白兎がこんなモノを……?
とにかく、今は白兎を追いかける為にも情報を集めねばならない。果たして、どうなるのか……