もんむす・くえすと!ぱらどっくす×ゼノバース   作:ジョーカー:ゼノ

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『ヒーロー』

「っ、くそっっ……たれぇええ……!!!」

 

 歯噛みする、ヴィクトリー。全力の一撃にも関わらず、全く通用していなかったのだ。

 

「そんな、(スーパー)サイヤ人のヴィクトリーですら……!!?」

「リリス三姉妹……やはり、伝説の存在か……!!!」

 

 驚愕する、ルカとアリス。

 

「ちょ、ちょっと……あの状態のヴィクトリーが全く歯が立たないなんて……!!」

「きゅ、きゅ……」

「リリス三姉妹……熾天使様と同クラスでは……?」

「敵にほとんど損傷なし……戦力差は圧倒的だよ……」

 

 ソニア達も、リリス三姉妹の実力に驚愕する。

 

 三女のモリガンは言わずとも分かるが、次女のアスタロトですらこの実力なのだ。長女であるリリスは、どれほどのものなのか……

 

「……けど、私にした事やこの村の虐殺は許せないわ……! 覚悟してもらうわよ!」

 

 ここでサラが剣を抜き、力強く啖呵を切る。

 

「おやおや、さっきのを見て絶望しないなんて……なんと勇ましい女王陛下。あのまま淫魔暮らしをしていた方が楽しかっただろうに……」

「どういう事よ……何故そんなことを!!」

「正当な歴史でも、そういう可能性はあったのさ。それをなぞってやれば、カオス化の影響は少なく済む──」

「喋りすぎよ、モリガン」

 

 モリガンの言葉を遮ったのは、リリス。彼女の声色は冷たく、思わずその場が凍りついた。

 

 その場の全員が黙った所で、疾風と共に一瞬でヴィクトリーの前に来た。

 

「!!」

「姉さん……!」

「少し待ちなさい、アスタロト……聞きたいことがあるわ」

 

 リリスは、真剣な顔でヴィクトリーと向き合う。

 

「先程の言葉は、撤回します……そして、貴方なら既に私との戦力差に気付いてるはず」

「…………悔しいけど、その通りだ……勝機が無ぇ事ぐらい分かってる。殺したきゃ殺せ……」

 

 ヴィクトリーの、完全敗北宣言。珍しく(いさぎ)の良い彼に、ルカ達も言葉には出さずに動揺する。だが……この状況ならば、もう抵抗は無駄と分かりきっているだろう。

 

 だが、リリスはそんな彼を手にかける気は無さそうだった。

 

「その前に、いくつか質問させてもらいます。その変身は何ですか?」

「……さぁな、俺もよく分かってねぇ。ただ、サイヤ人の秘められた変身能力だってのは確かだ」

 

 サイヤ人の秘められた変身能力……変身強化とでも言えようか。もっとも、今はリリス三姉妹に勝てない訳だが……

 

「では……時間を要すれば、更なるパワーアップは可能ですか?」

「ああ、勿論だ……その力でおめぇをぶっ飛ばしてやりたかった……悔しくてしょうがねぇよ……」

「……」

 

 リリスはそれだけ聞き、アスタロト達の方へ向く。

 

「撤退しましょう、二人とも」

「なにっ……」

「え……」

 

 同時に驚く、ヴィクトリーとモリガン。

 

「どういう事だ……」

「異世界戦士は始末しねぇのか!?」

「ええ……既に目的は達成しました。それに、あの力には利用価値があります。イリアスが手にしたがる程の力を、どうにかアリス様に献上出来れば……アスタロトも文句はありませんね?」

「はい……」

 

 アスタロトは、ルカ達の方を見る。

 

「なんだ、やるならやるぞ!」

「いくらヴィクトリーに勝ったからって、その疲労を負ったまま連戦できるかしら!?」

 

 ルカもサラもそう言い、剣を抜いて構える。その後ろではアリス達も武器を抜き、臨戦態勢を取った。

 

「いや……今ここで戦ったら、流石の私も負けちゃうかもね。その堅固な意志と信念、やはりあなた達こそが……」

 

 その台詞とは裏腹に、まだまだ平気な顔をしている。戦うにも、充分な余力を残しているようだった。

 

「それに、お姉様の言いつけは守らないと」

「どういう事……!? あなた達の目的は、いったい何なの!?」

 

 サラが問い詰めると、アスタロトはそちらに向いた。

 

「私達は、世界を救いたいのよ……あなた達と、ほとんど変わらない動機じゃないかしら?」

「小さな村を滅ぼし、大国を混乱させ……世界のいったい何を救うというのだ!?」

 

 アリスはレイピアを向け、キッとリリス三姉妹を睨む。

 

「アリスフィーズ16世……あなたにはきっと分からない。だからあなたの母親は、あなたを計画から外したのよ」

「なに……!? 貴様、母上を知って……いや、余を計画から外したとはどういう事だ!」

 

 アリスをクスクスと嘲笑う、リリス三姉妹。

 

「……いずれ、あなた達もヴィクトリーも……この世界の為に私達と手を組まざるを得なくなるわ」

「本気で世界を救う気があるならって話だけどな……」

 

 リリスとモリガンの言葉に、青筋を浮かべるルカとヴィクトリー。

 

「……よく言うぜ……」

「こんな光景を見せられて、僕達が本気で手を組むとでも……?」

「あなた達が、私の見込み通りだとしたら……じきに悟るわ、世界のために何を為すべきなのかを」

 

 アスタロトがそう言って、更に上空へ上昇する。それに合わせて、リリスとモリガンも彼女の隣についた。

 

「それじゃあ、また会いましょう。あなた達も、アリス様のために働く日を願っているわ……」

「はっ、命拾いしたな!」

「……待っていますよ。それまでせいぜい噛み締めなさい、『ヒーロー』……」

 

 リリス三姉妹はそれだけ言い残し、旋風を残してその場から消え失せてしまった。

 

「先程も言っていたな、「アリス様」と……それはもしかして、初代様の……」

 

 アリスが、考える……が、今は考えても分からない。

 

 それよりも、静かになったラダイト村の惨状が目に飛び込んだ。

 

「……」

 

 サラが出てきて、村を一望する。もう人の気配はなく、全滅してしまったらしい。

 

「なんてことなの……村を守れなかったなんて……」

「数十分で、村を壊滅できるほどの連中なんだ。サラのせいじゃないし、誰もどうにも出来なかったよ……」

 

 村を守れなかった……その事実は、ルカ達も重く受け止めていた。

 

 いい村では無かったかもしれないが……それでも、そこには生きる人が居た。人の営みがあった。それが、あっという間に消されてしまったのだ。

 

「女王サラよ……サバサを陥れた一連の事件、あの三姉妹の仕業だったのだな?」

「ええ、そう……詳しいことは、全くわからないけど。私の血を覚醒させたのは、あの三人だったって事は確かよ」

「やっぱり、そうだったか……世界中を掻き乱すような真似をして、何が狙いなんだ……?」

 

 話し合う、ルカ達だったが……不意に、着地する音が聞こえた。黒髪に戻っているヴィクトリーが、ようやく降りてきたのだ。

 

「おい、ヴィクトリー……」

「貴様、独りで先行しおっ……て……」

 

 ルカが駆け寄って、アリスも隣に立ってヴィクトリーに詰め寄ろうとしたが……当のヴィクトリーは光のない目で或る死体の前に立ち尽くしていた。

 

「………………」

 

 その死体は、嘗てヴィクトリーが助けたあの少年。今はもう、他の男と一緒に物言わぬ死体になっていた。

 

「……」

「ヴィク、トリー……」

 

 アリスは黙ってしまい、見詰めるしか出来なかった。ヒルデも顔を歪め、胸が痛そうにする。

 

 彼女らには、ヴィクトリーが絶望する意味が理解出来ていたのだ。

 

「う、ぁあぁ、ぁあ、あ…………」

 

 ヴィクトリーは、両手で頭を掻き潰す。彼の中で、色々な声が反響していた。

 

『さっきは君が居ないと危なかった』『けっこうあなた達のことを頼りにしてますよ?』『お兄ちゃんは、僕のヒーローだ』……この世界で、受けた言葉。

 

『キミなら、世界を救うヒーローになれる!』……前の世界で、トランクスさんはそう言って自分の背を叩いた。

 

「……違う……」

 

 膝から崩れる、ヴィクトリー。四つん這いになって、握った拳からは血が滲んでいる。

 

『その程度の戦士である貴方にも、利用価値が無いと判明しました』『お前の命にそこまでの価値は無いってよ!』『本当に、気の毒……』

 

 リリス三姉妹の言葉が、胸に刺さる。自分の無力によって、この少年を殺してしまった事実が、現実として目の前を覆った。

 

 なにがヒーローだ。なにが世界を救うだ。

 

 自分は子供一人も救えなかったじゃないか。

 

「うぁあぁあぁあぁあぁあああぁああああッッッ!!!!」

 

 絶叫しながら、髪を金色に光らせ、握った拳を力のまま地面に振り下ろす。凄まじい揺れが、誰もいないラダイト村を揺るがした。

 

「はぁっ、はぁっ……ハァッ、ハァッ……!!!!」

 

 激しい動悸に息を切らしながら、ヴィクトリーは目をギュッと瞑る。思考が錯綜する。頭が沸騰しそうなほど、考えが回る。色々な言葉が、脳を埋めつくし……最後の言葉が浮かぶ。

 

『生き残って……ワクワクが詰まったこの世界を、守って!!』

 

 ダメだ。

 

 あの子は、俺に託したんだ。

 

 生きている俺が、立って戦わなきゃ。

 

 俺には、それしか取り柄が無いから。

 

 俺は、『ヒーロー』だから。

 

「……」

 

 動悸が止まり、髪の色も戻り、ヴィクトリーは立ち上がる。顔を上げた表情は、恐ろしい程の無表情だった。その表情のまま、ルカの方へ振り返る。

 

「ヴィクトリー……」

「お、おい……平気、なのか……?」

「精神状態に異常が……ポケット魔王城で、休んだ方がいい……ヒルデも一緒にいるから……」

 

 ルカも、アリスとヒルデも、初めて見る彼の顔に困惑しながらも声をかける。

 

「……一人で勝手に行動して、ゴメン。もう、大丈夫だ」

 

 いつもと違う、元気の無いヴィクトリーの言葉……見てられなくなったサラも、彼に駆け寄る。

 

「気持ちは、痛い程分かるわ。私も、今は自分の無力を恨む事しか出来ないわ……せめて、私達がもう少し早く来れたら……」

「サラ女王様……」

 

 ただでさえ死体と破壊の跡だけになった村に、暗い雰囲気が立ち込める。いたたまれなくなったアリスが、「皆の者」と呼びかけた。

 

「ここに居ても、どうにもならん……いったんサバサ城に戻るとしよう」

 

 アリスの言う通り……これ以上、ここにいても怒りと無力感に苛まれるだけだ。

 

 ルカ達は、ヴィクトリーとサラ女王を連れてサバサに戻ったのだった……

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