もんむす・くえすと!ぱらどっくす×ゼノバース 作:ジョーカー:ゼノ
「祝福だと……?」
「ヴィクトリーの偽物……ヒルデ、必要なら始末するよ」
「貴方もサイヤ人なのでしょうか……解剖すれば分かりますか?」
アリス達が武器を抜こうとするが、黒のヴィクトリーは手を向けて「待った」をかける。
「一般人もいる街中で武器を抜く気か……? もう少し、弁えた方がいいぞ、アリスフィーズ16世……」
「余の事も知っているのか……」
「……おめぇの言う通りだ。こんな所で派手におっ始める訳にはいかねぇ」
どうやら、黒のヴィクトリーに戦う気は無い模様。そも、サイヤ人相手の戦いは派手なものになる。街中で派手に暴れるわけにはいかない。
「聞いたぞ、ラダイト村の活躍を……そして、貴様が
「どういう事だ、早すぎるって何だ?」
「……成ったというのは、
アリスの言葉に、黒のヴィクトリーは頷く。
「その通り……
「魔王城で魔王と……!? 貴様、さっきから何を言っている! 分かるように話せ!」
そう言えば、『精霊の森』ではあの鎧の狂戦士から自分達を救ってくれた。裏があるのは間違いなさそうだが……
「フッフッフ、少し喋りすぎたか……大劇場に行くぞ。勇者一行が、どの程度の実力なのか拝見させてもらう」
黒のヴィクトリーはそう言うと、背を向けて大劇場の方へ歩き出す。そう言えばサキュバスが大劇場を占拠してて、それをルカ達がどうにかしようとしてる最中だが……
「……着いてこいっちゅう事か」
「そのようだな……」
「ヒルデ、すぐに戦闘に移れるようにしておくよ」
「警戒するに越したことはありませんね」
大人しく、黒のヴィクトリーの背中を追いかけるヴィクトリー達。歩いている間、黒のヴィクトリーは「そうそう」なんて話を切り出してくる。
「この世界で、もう私が手助けをする必要は無い……ヴィクトリー、貴様は
「100人目……? おめぇ、一体何言ってんだ?」
「祝福の言の葉は、得てして意味不明なものだ」
そんな事を言って、はぐらかす黒のヴィクトリー。聞き出そうとしたが、先に「あっ」なんて言われて黙らされてしまう。
「大劇場地下のカジノの景品には『絶魔の腕輪』というものがある。魔物と出会わなくなるので、ダンジョンを探索するのに有用に使えるシロモノだ。コインを8000ほど要求されるが、まぁポーカーでスリーカード狙いでやり続ければ何れは足りる」
「地味に有用な情報を……時間があればカジノにも行くべきか……」
アリスはそう言うが、ヴィクトリーは難しそうな顔をする。
「俺、あんまし賭け事とかは苦手なんだけど……」
「何を言うか、カジノは冒険者の嗜みだぞ!」
「のめり込みすぎないようにね……」
「探索が楽になるのなら、是非とも欲しいですね。ほら、私がサンプルの採取の為に歩き回るので……」
そう話していると、大劇場の前に辿り着いた。結局「100人目」の意味は聞けずじまいだ。
「人が多いな……」
「人気スポットだからな」
二人で揃って歩く、黒のヴィクトリーと黒くない方の彼。顔が同じなので、双子なのかと珍しげな目で見られる。
だが、みんなして暫くしたらサキとやらの話題になり、「サキちゃんキラッ☆」などと口走らせている。例に漏れず、魅了されているらしい。
「失礼……」
人をかき分け、大劇場に入ると……そこは、熱狂のフロアだった。
「うおぉ!! サキちゃーんっ!!」
「こっち見てーっ!!」
「サキちゃんステキーッ!!」
「ウオオォーッ!!」
熱気が、ヴィクトリーを覆う。誰もが目を奪われている、全員が彼女の名前を呼んでいる。
「抱きしめてあげる♪ 指を絡めて心のスミまで♪ 抱きしめてあげる♪ 唇重ねて問答無用よ♪ 連れて行ってあげる♪ 空の彼方♪ 連れて行ってあげる♪ 夢の深淵♪」
歌い踊りながら、観客にアピールする。その度にフロアが沸き、熱が高まる。これが、件の大劇場を占拠しているサキュバスの、『サキ』らしい。
「ひ、ひえぇ……なんて人気だ……」
「……戦闘の跡がない」
黒のヴィクトリーがそう言うと、アリスも気付く。
「ん? ルカ達は何処に……?」
「いや、舞台に居るぞ」
ヴィクトリー達は観客席の通路を進んで、舞台の前に来る。ルカ達は、舞台の隅で苦戦してる表情をしており、サキを睨んでいた。
「おーい、何してんだ!?」
「っ、ヴィクトリー! って、隣のは……!!?」
「私は黒のヴィクトリー。だが今は私の事はどうでもいいはずだ。何が起きている?」
ルカ達は、聞きたいことが沢山ありそうな様子だが……とりあえず、今起きている事を説明する事にした。
「実は……支配人さんも困ってるから、すぐにサキを舞台から下ろそうとしたけど……舞台で流血騒ぎになるのは止めてほしいって言われて……」
「それで、私達も何か芸を披露してどっちがフロアを沸かせられるかで勝負してたの……ルカの剣舞や『イリアスヴィル名物、ソニアの千本ノック』でも、全くかなわなくて……!!」
「きゅう……」
戦いは戦いでも、まさかのダンスバトル。千本ノックをダンスとして捉えていいかは別問題ではあるが。
確かに、それなりの剣技を扱えるルカなら剣舞も出来るだろうが……サキのダンスのキレは、桁違いだ。
「なんでおめぇらそんな戦いを……」
「鳥か何かか貴様らは……」
揃って突っ込む、ヴィクトリー二人。
だが……少し考えれば、納得する事だった。この無敵のアイドルをステージから引きずり下ろし、大劇場を無血開城するにはそうするしか無いのだろう。
「誰か、何かフロアを沸かせられるような芸を持ってる人は居ないの!?」
サラが聞くが、アリス達は難しい顔。
「余は魔王だが……芸の類は修めておらんな……」
「私は司書天使ですからそんなものは……」
「ヒルデ、芸の機能は無い……」
どうやら、全員踊りの類は出来ない模様。このままでは、グランドールは永劫このサキに占拠されてしまうだろう。
「もう打つ手無しなの? じゃあ、このステージはサキのものだよね!」
サキが宣言すると、それでもやはりフロアが沸いた。ここまで来ると、まるで宗教か何かのようである。
「……待ちなさい、まだ私達には仲間がいるわ!」
そう言ったのは、ソニアだった。彼女は強気に啖呵を切ってから、ヴィクトリーに向いた。
「ねぇヴィクトリー、ナメクジタワーであんた踊ってたでしょ! あれやりなさいよ!」
ナメクジタワーで、スラグスターズ相手にやっていたブレイクダンス……あの時はヌルヌルしたまま戦ったり、回転の遠心力で取り払うために咄嗟に思い付いたんだったか。
「そうか、それがあったか……!」
「えっ、えっ……!? 踊ってた訳じゃねぇぞ!?」
「いーから、やりなさいよ! 支配人さんとも約束しちゃって、後がないのよ!」
ソニアがヴィクトリーの手を引き、舞台に引き上げてくる。そんなヴィクトリーの背を押すのは、黒のヴィクトリー。
「やれる事はやるべきだぞ」
「何でおめぇが便乗してんだ!!」
そんな訳で舞台に立たされたヴィクトリー。彼を見たサキは、まずは笑顔を向けてきた。
「私はサキ! キミが新たなチャレンジャー? よろしく! キラッ☆」
「お、オッス……俺ヴィクトリー! こ、こうなりゃやぶれかぶれだ! いっちょやってみっかぁ!」
音楽が転調し、激しくなる。ヴィクトリーはそれを合図と捉え、邪魔になる赤い道着を脱ぎ畳み、タスキと剣の鞘と仙豆の袋も纏めてソニアに預け、ダンスを開始した。ステップを踏みながらリズムを捉え、そしてあのウィンドミルを繰り出す。
それでひとしきり回ってから、床に片手をついて腕を伸ばし、ポーズを決めて止まってみせた。
「おおっ!?」
「凄いな……」
一瞬、ヴィクトリーにフロアが傾くが……サキは笑って、同様にステップを踏む。それも、彼よりキレのある足さばきだ。
「!?」
「みんな、瞬き厳禁だよーっ!!」
音楽が加速する。サキのステップも激しくなり、ウィンドミルを繰り出した。しかもヴィクトリーのとは違ってスカートを押さえるようにしながら、腕を使わずに回っている。ミニスカの中が見えるか見えないかで派手に踊り、フロアの野郎共の声が激しくなる。
しかもサキはその状態から三点倒立して、足を動かして勢い付け、ヘッドスピンまで繰り出す。
トドメに両手を床に付けて逆立ちし、顎を突き出して止まってみせた。めくれ上がっているスカートにステージのライトが当たっており、まるでパンツが輝いているかのようだった。
「ノーハンドのウィンドミル、からの、ヘッドスピン……トドメにハローバック……!!? お、おめぇ、一体何モンだ……!!?」
「サキは『スーパースター』、これぐらいは朝飯前だよ!」
サキはその状態から足をついて立ち上がり、観客にアピールする。すると、一際凄まじい熱狂が大劇場を包んだ。
「う、う、ウソでしょ……素人の私でも、ヴィクトリーより凄いのが分かる……」
「ぱ、パンチラからのパンモロで男の心まで掴んでるし……」
そう言いながら鼻血を垂らすルカを、ソニアは棍棒でしばく。
「ど、どうすりゃいいんだ……!!?」
絶望する、ヴィクトリー。ここで、サラが隣に来た。
「仕方ないわね……ヴィクトリー、一人で無理ならセッションで勝負よ」
「サラ……セッションっておめぇ、踊れんのか?」
ヴィクトリーの疑問に、サラは首を振るが……彼女の手には、バイオリンが握られていた。
「踊れはしないけど……実は私、小さい頃からバイオリンをたしなんでいたの」