マスター必須技能:コミュ力 Rebirth   作:ブリーム=アルカリ

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乖離

「ドクター!キリエライトさんはどうしちゃったんですか!」

 

 

 

 混乱の極地に至った私はあの後気絶した。目を覚ましてまだ側にいるキリエライトさんに怯え、ついて来ようとする彼女をトイレに行くからと騙して医務室までやって来たのだ。

 

 

「…マシュから話を聞いたのかい?」 

 

「聞いた所かこの目に焼き付けましたよ!なんですかアレは!?」

 

 

 困った様に首を撫でるDr.。彼も全てを把握している訳ではないのか、自信なさげに語り始めた。

 

 

「…デミ・サーヴァントというのは非常に不安定なんだ。普通の英霊と違って生きているから成長するし変異もする。今回は心情に大きな変化があったからそれが霊基にも表れた。これが今のボクの予想さ」

 

 

 …他の英霊と違って完成(死亡)していない、ということだろうか。

 

 

「何か戻す方法はないんですか!?」

 

「分からないとしか言えないな…とにかく前例がないからね…下手に弄るとマシュが死んでしまうかもしれないんだ…」

 

 

 死ぬ…?駄目だ。それだけは駄目だ。

 

 

「それに…マシュはとても強くなっているんだ。幸運と以外のステータスが全てワンランクアップしているんだよ。特に敏捷はAまで跳ね上がってる…」

 

 

 ということは超一流のサーヴァント並みの性能になる。それは確かにいいことだが…

 

 

「今のカルデアは戦力に乏しい。新たなサーヴァント召喚の準備もしているんだけどね…一基が限界だと思う」

 

「つまり余計な刺激は与えず静観する…ってことですか」

 

「所長と話し合ってそういうことになったよ…。キミもどうか、今まで通りに接してあげて欲しい」

 

 

 頭を下げるDr.。…確かにそうするのが、皆にとって一番いいかもしれない。

 

 

「分かりました…そうさせて頂きます」

 

 

 ホッとしているDr.を横目に席を立つ。そろそろキリエライトさんも怪しんでいるだろう。早く帰らなければ。

 

 

「ああ暮部君。義手が完成したらしいから、それを取りに行ってくれ」

 

「レオナルドさん…でしたっけ。何処に向かえば?」

 

「地図に第三倉庫って書かれている部屋さ。カレはあそこに工房を構えている。…変な奴だから、覚悟して行ってくれ」

 

「了解です」

 

 

 

 これで言い訳ができる。トイレでDr.と会って義手を受け取るように言われた、こう言えばキリエライトさんも納得するだろう。

 

 …今はまだ、彼女と会う気にはなれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 地図の通りに歩を進め、目的の場所に辿り着く。

 

 そこは近未来な印象を受ける廊下と違い、中世ヨーロッパ風…なのだろうか。とにかく異彩に溢れていた。

 

 ぼーっと見ていても仕方がないので中に入る。

 

 

「おーっとこれは最後のマスター君!ダヴィンチちゃん工房へようこそ!」

 

 

 前世で腐るほど聞いたこの台詞と声。間違いなく彼だ。

 

 

「こんにちは。ダヴィンチさん」

 

「まあかけ給え。今お茶を出すから」

 

 

 何が楽しいのか分からないが、随分と上機嫌にポットを振るうダヴィンチさん。

 

 勧められた通りに椅子に座る。並べられた二つのカップに、彼がお茶を注いだ。

 

 

「それじゃあ自己紹介だ。私はレオナルド・ダ・ヴィンチ。カルデア所属の天才さ」

 

「暮部大輝と申します。よろしくお願いします。ダヴィンチさん」 

 

「気軽にダヴィンチちゃん、と呼んでもいいんだよ?」 

 

「結構です」

 

 

 

 初対面の人にちゃん付けなんて私にはできない。というかダヴィンチってヴィンチ村の〜って意味じゃなかっただろうか。…ヴィンチ村のちゃんってなんだよ。 

 

 

 

「用件、は聞くまでもないね。これだろう?」

 

 

 ふくれっ面のまま、どこからか義手を取り出してみせる彼。

 

 

「はい。Dr.から受けとってくるように、と仰せつかりました」

 

「う〜ん。渡す前に条件を付けていいかな?」

 

 

 悩んでいるのか複雑な表情を見せるダヴィンチさん。美しい顔立ちなのでその姿も絵になるが、生憎と最近美男美女に囲まれすぎて感覚が麻痺している。

 

 

 

「私にできることなら何なりと」

 

「そっか。じゃあ遠慮なく。君に…世界を救う旅に出てほしいんだ」

 

 

 そういえばまだ七つの特異点の話を聞いていない。だがDr.は今後、とかサーヴァント召喚の準備、とか言っていた。私が了承すると確信していたのだろうか?

 

 

「Dr.は私が行くことを前提としていたようですが」

 

 

 疑問を口に出すと、ダヴィンチさんは呆れた様に顔に手を当てた。

 

 

「アイツは…ごめんね、きっとロマニも混乱してるんだ。可愛がっていたマシュが変わってしまってね…あんまり頭が回ってないんだろう」

 

「はあ…まあどちらにせよ行きますから。問題はありません」

 

 

 両親と家の復興を約束したんだ。今更覆す訳にはいかない。

 

 

「そうか行ってくれるかい!幾ら私が天才でも一人で世界は救えない、というか特異点に向かう事すらできないからね。感謝するよ」

 

 

 そう言って義手を差し出すダヴィンチさん。

 受け取り、まじまじと眺めてみる。

 

 

「何というか…完璧に私の腕ですね…」

 

「マシュが聖杯と共に回収した君の腕をモデルにしたんだ。機能としては自動翻訳、パワーアシスト、魔力タンク…うーんキリがないな。あとでマニュアルを送るよ」

 

 

 腕に嵌めてみる。継ぎ目こそあるが、言われなければ気づかないだろう。最悪盾にもなるかもしれない。

 

 

「どうだい?思ったとおりに動かせるかな?」

 

 

 試しに一人でジャンケンをしてみる。グーチョキパー全て問題なし。それどころか左手より良く動く。

 

 …なんだか複雑だ。

 

 

 

「あ、すみません。私の腕も貰えませんか?」 

 

「ん?ああ、いいよ」

 

 

 

 棚をゴソゴソと漁った後、ホルマリン漬けの腕を取り出し、何やら杖を振るうダヴィンチさん。

 

 

 

「よしOK。何に使うか知らないが、お返ししよう」

 

「これでもネクロマンサーなので。自分の体は最上級の素材になるんです」 

 

「ふーん。死霊術かあ。さすがに私も手を出してないなあ」

 

 

 興味深げにこちらを見る彼。

 

 

「あまりオススメはできませんよ。正規の手順を踏もうとするとかなり手間がかかります」

 

 

 自身に幻術をかけ、自分の死体を見つめるという精神がやられそうな修行方法だ。

 私は経験がないが、お父さんは最初はおぞましかったと言っていた。慣れてしまえばなんともないらしいが。

 

 

「正規以外の手間もあるのかい?」

 

「ありますよ。私はそのクチです。ですが…ダヴィンチさんには無理だと思います」

 

 

 また頬を膨らませるダヴィンチさん。万能の天才としての矜持だろうか。

 

 

「それは聞捨てならないなあ。なんで無理なのさ?」

 

「まず座に登録されている時点で駄目です。外に出ましょう」

 

「あ〜…はいはい。大体分かったよ。それとこの話は聞かなかった事にしておく。協会に知られたら一大事だ」

 

 

 察して貰えた様だ。

 

 話す事も無くなったので、出された紅茶を飲み干す。

 うん!アールグレイだな!それしか知らないけど多分それだ!

 

 

「ではそろそろお暇します」

 

「はいはーい。またブリーフィングで会おうねー」

 

 

 一礼して外に出る。

 

 

 

 

 

 

 

 大義名分が無くなった。暇つぶしする道具も持っていないし、スマホは自室だ。

 

 …覚悟を決めなければならない。

 

 

「…帰ろう」

 

 

 気を紛らわす為に手遊びを繰り返す。

 

 そもそもなんで会いたくないんだろうか。

 

 変えてしまった罪悪感?全幅の信頼を寄せてくる不安?

 

 

 

 それもあるが少し違う。

 

 

 

 【マシュ】との乖離による違和感?

 

 

 

 これが一番近い気がする。私は彼女に【マシュ】としてのイメージを押し付けているのだ。彼女が生きて触れる存在な以上、しっかりとマシュ・キリエライトそのものを視るべき…

 

 

 

「…無理だろ」

 

 

 

 あんな優しくて純粋で無垢だった彼女が…よりによって()に信頼を寄せるだと…?

 

 気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。

 

 彼女はもっと素晴らしい仲間に囲まれなければならない。隣にいるべきなのは藤丸立香であって俺ではない。

 

 だというのに、俺なんかに心酔する彼女を、絶対に、【マシュ】として認めたくない。

 

 

 

 

 

 

 

「フォーウ」

 

 

 

 

 

 あ。

 

 

 

「こんにちは。フォウさん」

 

 

 

「フォウフォーウ」

 

 

 

 白くてフワフワした謎の生き物。フォウさんだ。とっても可愛いマスコットであるが、同時に恐ろしい化物でもある。

 

 

 

「やっと姿を見せてくれたんですね」

 

 

 

「フォー」

 

 

 

 彼は特異点Fで姿を表さなかった。来ようと思えば来られただろうに、だ。

 

 私の何かが気に入らなかったのだろう。

 

 

 

「貴方が成長しないように私も頑張ります。だから頑張って耐えてくださいね」

 

 

 

「フォー!?フォウ?フォーウ」

 

 

 

 何を言っているのかさっぱり分からない。でも多分私を罵倒しているのだろう。

 

 結局フォウさんはスタスタと去っていった。

 

 また会えるかどうかは私の心持ち次第だろう。

 

 

 

 

 

「…はあ」

 

 

 

 帰りたくない。

 

 

 

 

 

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