マスター必須技能:コミュ力 Rebirth 作:ブリーム=アルカリ
「マスター!おかえりなさい!」
喜色満面といった表情のキリエライトさん。意外にも機嫌はいいようだ。
「その…すいません、帰るのが遅くなってしまって」
「いえ。ドクターから通信で話は聞きました!義手を受け取りにいった、と」
Drが?まだ用事があったのだろうか。
「ブリーフィングを管制室で始めるそうです」
七つの特異点を補足し、行くべき場所も当たりをつけたという事だろう。
呼び出されたからにはすぐ行くべきだ。特に準備もいらないだろうし、すぐに部屋を出る事にする。
「じゃあ行きましょうか」
「はい!お供します!」
◇
隣を歩く彼女はとても楽しそうだ。何が嬉しいのか笑顔のまま表情が変わらない。
…セイバー戦以降、明らかに変だ。テンションが常に高く、時折更にはね上がる。
昨夜の告白が全てだとは思いたくはないが、それに由来する所もあるのだと思う。本当に忌々しい事だが。
「マスター。髪に糸くずがついてますよ」
「えっ…あっ、ありがとうございます」
髪に何かが触れる感覚で意識が戻った。考え事をしていた隙を突かれ、回収されたらしい。
私は人に触られる事があまり好きではない。その人を穢している感覚に襲われるからだ。特に彼女の様な純粋な人には一層触れられたくない。
…のだがそんな私を他所に、キリエライトさんのテンションはまた上がっていた。
「あの…どうしてそんなに上機嫌なんですか?」
「どうしてって…当たり前ではないですか?」
心底分からないといった表情を浮かべる彼女。
おかしいのは私なのか?
「マスターのお役に立てたんです。それはとても嬉しいに決まっています!」
拳を握って力説される。その瞳に篭もる熱は本物に見えるが…
確かに誰かの役に立つ事はとても楽しいし嬉しい。それは絶対的な同意ができる。だが、対象が私となれば別ではないだろうか。
少なくとも私ならば、こんな奴に貢献するのは不快でしかない。
「…何かおかしかったでしょうか?」
「いえ、少し驚いただけです。改めてありがとうございます。キリエライトさん」
「……………はい!」
感極まった、といった表情に笑いかけて前を向く。
何か隠し事があると結論付ける事にした。
私も子供ではない。その秘密を暴こうとせず、黙して付き合っていくべきだろう。
今はそれよりも、目の前にある管制室を重要視すべきだ。
「やあ、待ってたよ二人とも」
正面にはDr.がいた。手前には二つの椅子が置かれている。座れという事だろう。
「まず謝らせて欲しい。暮部君、ボクは君の意思を軽視してしまった」
「いや、問題ありませんよ。気が動転するのも止むなしです」
チラッとキリエライトさんを見て目配せする。
旧知の仲である彼女が変わってしまったのだ。他に気が回らなくても仕方がないだろう。
というか本当なら腕を斬られてしまった私が謝るべきなのだ。しかし彼女の手前、その事を話す事はできない。
「そう言ってくれるとボクも助かる。でもちゃんと確認させて欲しいんだ」
はにかんでいた顔から引き締めるDr.
「君は世界を救う旅路に出てくれるかい?」
「はい」
「それが辛く苦しいものだとしても?」
「はい」
「ひょっとしたら死んでしまうかもしれないよ?」
「えっと…はい」
じゃあ嫌です。そう言えられれば楽なのだが。
「両親と約束したんです。家の名を残す、と」
「両親と約束した、か。ふふっ」
突如として笑うDr。え、なんか笑うところあった?
「人類の為に〜とかじゃなくてさ。身近な人の為に頑張れる。キミは優しいんだね」
「はい!マスターは素晴らしい御方です!私に全てをくださいました!」
は?私が優しい?何処がだ?違うだろう?そういう言葉はさ。カルデアの皆みたいな────
「それじゃあブリーフィングを始めるね。まず今回向かってもらうのはフランスだ」
おっとお話はちゃんと聞かなきゃマズイ。失礼だし、何より自分の命がかかっているのだ。
「じゃあこれでブリーフィングは終わり。理解してもらえたかな?」
「恐らく特異点の原因である、聖杯の探索及び奪取ですね」
「うん。大正解だよマシュ」
告げられた内容に大した変化はなかった。まあ大きな変化があっても困るのだが。
「それじゃあ次の大仕事だ」
「大仕事?」
「うん。君が使役するサーヴァントを召喚するんだ」
…サーヴァントの、召喚。
協力してくれるだろうか。アンデルセンさん辺りが来たら、上手くやっていく自信がないのだが…
「二人で召喚室に向かってくれ」
「Dr.は行かないんですか?」
「忙しいし…それに、サーヴァントとの初対面だ。邪魔はないほうがいいよ」
苦笑いを見せる彼。…悔いているのだろうか。
「ではマスター!まだ見ぬ新たな仲間に会いに行きましょう!」
興奮気味のキリエライトさんに促され、召喚システムに足を向ける。
◇
召喚室は真っ暗だった。
廊下から光が差し込んでいるというのに何も見えない。まるで私の未来の様だ。
キリエライトさんが戦闘体に変身し、盾を台座に置く。変貌してしまった彼女だが、その盾の性質は変わらないでいてくれるだろうか。でなければ何も召喚できなくなってしまうのだが。
「準備完了です、マスター。エネルギーは一回分ですね。…相性の良い方がやって来られるのを祈りましょう」
召喚方式からして、人理修復に否定的なサーヴァントが来ることはないが、それでもソリが合わなければ戦力にはならないだろう。
…大博打だ。
「…キリエライトさん。お願いします」
「了解しました!」
真っ暗だった部屋が、突如として光り輝く。星座の様な蒼い光が宙を漂い、小さな光達が星の様に瞬いている。
同じく幻想的な風景であるあそこと比べると、その光は無機質ではあったが、否定的な意思を感じさせないクリーンなものだった。
「宇宙みたいで綺麗ですね…」
キリエライトさんが背中にそっと体を預けてくる。彼女も不安なのだろうか。
光が集まり、柱となって天井まで伸びていく。かと思いきやスパークし、視界全てが白く染まった。
「────サーヴァントセイバー」
ああそうか。そうだよな。
「ジル・ド・レェ。参上致しましてございます」
俺の最初期サーヴァント。白銀の騎士がそこに居た。