マスター必須技能:コミュ力 Rebirth   作:ブリーム=アルカリ

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転移

 けたたましいアラームの音で目を覚ます。

 

 

「…朝か」

 

 

 家から持ち込んだアラーム機能付き時計を覗く。

 

 

「…7:01」

 

 

 もうこんな時間か。確か予定では今日の十時に出発だった筈だ。

 

 取り敢えず起き上がり、顔を洗う。恐ろしく冷たい水に驚きつつ意地で温水機能は使わずに事を済ませる。たぶん雪解け水だろう。材料は施設外周に幾らでもある。

 

 

『オルガー。起きてくださーい』

 

 

 さっきからうんともすんとも言わないオルガに話しかける。…返事がない。

 

 しょうがないのでベットに置きっぱなしの人形にぶち込む事にする。

 

 

「う〜ん」

 

 

 無事魂を移動できた。その証拠にさっきまで微動だにしなかった人形が、眩しさに顔を歪めている。

 

 

「寒っ!あと眩しっ!」

 

 

 オルガが飛び起きた。施設外はともかく内側は暖房がよく効いている。どこが寒いのだろうか。眩しさはまだ分かるのだが。

 

 

「貴方のナカはとってもあったかくて昏くて気持ちいいのよ。それに比べれば外なんて酷いものだわ」

 

 

 語りながら恍惚とする彼女。まだ目が覚めていないのだろうか。というか呂律が回っていない。まるで酒に酔っているようだ。

 

 

「…うん。聞こえるようになったわ。一歩前進ね」

 

 

 小声で何か呟くオルガ。上手く聞き取れなかったが、表情からして、きっととても良い事があったのだろう。

 

 

「早く準備した方がいいですよ。責任者なんだから」

 

「そうね。じゃあ一度戻りましょうか」

 

 

 そう言ってドアへ歩いていくオルガ。

 

 …さて、自分は時間まで何をしようか。絶対にしなければならない事は無いが。

 

 

「?何言ってるの。貴方も来るのよ」

 

 

 振り返り、怪訝そうな顔をする彼女。

 

 

「ええ…。まだ用事があるんですか?」

 

「何もやる事ないんでしょ?少しでいいから手伝って欲しいの」

 

 

 これから戦地に赴くのに書類仕事って…慣れない仕事で疲れたくはないのだが。

 

 

「ただ側に居てくれるだけでいいのよ…ダメ?」 

 

「…まあそれだけでいいなら」

 

 

 自分の事だ。どうせ行けば手伝うんだろうが、一応嫌な顔をしておく。…あんまり甘やかしても良くない気がするのだ。

 

 

「ありがと!」

 

 

 満開の笑顔で喜ぶオルガ。こう言うと失礼だが、らしくない笑い方だ。

 

 

「ん」

 

 

 笑顔のまま手を差し出してくる。…マジでらしくないなあ。

 仕方ないので握り返す。口角が釣り上がる彼女。

 

 

「じゃ、行きましょ!」

 

 

 音符マークが見えるようだ。何がそんなに嬉しいのかさっぱり分からない。同じボッチでも感じるものが違うのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 結局仕事を手伝う事にした。彼女が書類を読み、私が言われた所に置く。気分は社長秘書だ。いや秘書はこんな仕事をしないだろうが。

 

 

「魔術師ってどいつもこいつも機械音痴なのよね。お陰で21世紀にもなって連絡が全部紙なのよ」

 

 

 

 おそらく時計塔からの要請や確認の手紙だろう。山の様に積み上がったそれは、簡単に片付けられる様なものではなさそうだ。

 というかこれは今する仕事なのか?

 

 

「正直現場に行かない私ってすることないのよ。他の職員は仕事に追われてるけど、専門的過ぎて手伝えないし」

 

 

 なるほど。所長の仕事は主に外部との交流と責任を取ることだ。外部が文字通り焼失した今、仕事は激減だろう。

 …あれ、じゃあなんで私は連れてこられたんだ?

 

 

「それに【アレ】を倒してもまだ面倒臭いのがいるんでしょ?」

 

 

 胡散臭い神父と狐の事を言っているのだろう。露骨に不快な顔をしている。

 

 

「アイツ等が来たら速攻で殺すけど、そもそも入れないのが大事よ」

 

 

 所長が存命である以上、視察団の拒否もしやすいはずだ。

 だが私の原作知識は二部三章で止まっている。ひょっとすればもっと大きなバックが居て強引に通される事もあるかもしれない。

 時計塔への根回しを今から考えるのは良い考えだ。だが…

 

 

「申し訳ないですが私は力になれません…むしろ邪魔になる可能性もあります」

 

 

 私の爺さんは、時計塔は呪詛科での派閥争いに負けて帰国した。その際に色々嫌がらせをしてきたと言っていたから…コネはおろか仕返しをされる可能性すらある。

 

 敵派閥がどんな魔術師たちなのかは知らないが、生きている可能性は大いにある。死は避けるべきではない、と言って一切の延命措置を取らなかった爺さんはむしろ異端なのだ。

 

 

「全部見たから貴方に期待はしてないわ。私は貴方のお祖父さんの噂を知らないから、そんなに気にする事はないと思うけど」

 

 

 そういえばそうだった。私の過去をわざわざ話す必要もないんだ。

 天体科の大家であったアニムスフィアたる彼女が知らないならば、少なくとも外部に漏れるほど派手な抗争ではなかったのだろうか。

 

 

「それより気づいてる?今九時半よ」

 

 

 言われて腕時計を確認する。針は確かに九時半を指していた。

 

 

「じゃあそろそろ行きます?」

 

「ええ。主役と責任者が遅れる訳にはいかないわ」

 

 

 …主役ねえ。

 

 伸ばされた手を取り、管制室に向かいつつ考える。【最後のマスター】なのだから間違いはないが、それは恐れ多いというものだ。できれば勘弁してほしい。

 

 

「…ごめんなさい。軽い気持ちで言ってしまったの…」

 

 

 手を強く握られる感覚を覚えてオルガを見ると、今にも泣きそうなしょぼくれた顔でこちらを見ていた。

 

 

「ああ、いや。問題ないですよ。というか責任者が泣いてちゃ威厳がありません。泣かないでください」

 

「…うん」

 

 

 静かに頷くオルガ。素直なのはいい事だ。

 

 ゆっくり歩く彼女に歩調を合わせる。もうちょっと優しく返答できれば、少しは主役らしくなるんだろうけどなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 …あれ?主役呼びは嫌だなんて、声に出したっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リュックを取って管制室に着くと、もうメンバーは揃っていた。30分前集合とは皆真面目だ。

 この人類の存亡がかかっている。意識が高い事に得はあっても損はあるまいが。

 

 

「おはようございますマスター」

 

 

 挨拶しながら駆け寄って来るキリエライトさんと、その後ろで微笑んでいるジルドレさん。

 

 

「お二人ともおはようございます」

 

「所長も来られた様ですし、これで全員集合ですね」

 

 

 オルガは管制室上部の司令スペースへ行った。名残り惜しそうな顔をしていたが、連れて行くわけにもいかないので心を鬼にして別れた。

 

 

「マスター。これをどうぞ」

 

 

 キリエライトさんから白いスーツを渡される。

 

 

「レイシフトサポート用のスーツだそうです。転移前に着ておいてください」

 

 

 よく見ると彼女も着ていた。しかしジルドレさんは着ていない。何故だろうか?

 

 

「ジルドレさんは着ないんですか?」

 

「完全なサーヴァントですから必要ないそうです。私にもよく分かりませんが、生身の肉体の有無が条件なのでは?」

 

 

 そういうものなのか。服を着た分、処理する情報も増えそうなモノだが。

 表面処理を潤滑に行う事が目的とか?しかし後で消す手間が新たにかかるだろうし…

 やっぱりオルガの言う通り、専門家の仕事にはついていけないようだ。

 

 

「ついでに言えば、私はこの箱に入る必要もないようです」

 

 

 そう呟くと、彼は筐体を撫でた。

 

 クラインコフィン。通称コフィンだ。

 壺のクラインさんと小さいという意味のクライン。どっちから取ったのかは知らないが、コフィンとは本当にいいセンスだ。

 私とキリエライトさん以外のマスター候補生達は皆、文字通りコフィン(棺桶)として使っている。

 

 …いずれは私もお世話になるかもしれない。

 

 

「レイシフトにおいて、肉体は重要な要素となるようですね」

 

 

 キリエライトさんも感慨深げに零した。

 

 …肉体か。

 

 

『もうすぐレイシフトを 開始します。所定の位置に ついてください』

 

 

 抑揚のないアナウンスの声が響き渡る。

 

 

「私は奥のコフィンなので移動しますね」

 

 

 キリエライトさんはAチームなので手前にコフィンがあるが、私は一般枠なので一番遠い。

 こういう地味な所で階級の差というか扱いの差を感じる。もし爆発事故がなかったら一般枠はどう扱われていたのだろうか…

 

 

「では我々はここで待機しておきます。また後でお会いしましょう」

 

 

 着替えるので着いて来てもらっても困る。ありがたい申し出だった。

 

 

 

 

 

 

 

 自分用のコフィンの隣で着替える。ひょっとしたら寒いかも、と思って着てきた上着を脱いでスーツを重ね着する。割とピッチリとしたそれは、お世辞にもいい着心地とは言えなかった。

 

 

「フォーウ」

 

「…フォウさんじゃないですか。どうしてここに?」

 

 

 鳴き声がした方向を向けば、白いモフモフがこちらを見つめていた。

 単独顕現を持っている彼にコフィンは必要ない。つまりここに来る必要はないはずだが…

 

 

「フォウフォーウ」

 

 

 コフィンの中に跳び入り、呼びかけてくる彼。一緒に行こうぜ、ということだろうか?

 

 

「じゃあ失礼しますね」

 

 

 フォウさんを抱きかかえて中に入る。リュックも背負っているのでとても狭い。

 

 自動で蓋がスライドし、完全に密閉される。

 

 

『全メンバーの 入棺を確認。レイシフト 開始します』

 

 

 縁起でもない事を言うアナウンス。私はまだ、というか絶対に死にたくないぞ。

 

 

 

 

 

『霊子変換を 開始します』

 

 

 

 視界が蒼く染まり、意識が遠のく。

 

 目が覚めればフランスだ。

 

 

 

 

 




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