マスター必須技能:コミュ力 Rebirth 作:ブリーム=アルカリ
キリエライトさんに言われた通りに進むと、一つだけ ネームプレートのついていない部屋があった。
恐らく到着の申請をした後にネームプレートを貰うのだろう。私は遅刻したので受け取れなかったのではないだろうか。
扉の前に立つと、自動で開いてくれた。たくさんの荷物を持った身としてはありがたい。文明化万歳だ。
「うええええええ!?誰だい君はぁ!?」
驚いた事に部屋には先客がいた。ベットに腰掛けるゆるふわ系男子である。
本来は藤丸立香の部屋にいた彼がここにいるのは私が恐らく最後に来たからか。
「暮部大輝と申します。以後お見知りおきを」
「ああこれはどうも丁寧に…ボクはロマ二・アーキマン…って違う!」
この美しいノリツッコミ。流石はカルデアのムードメイカーだ。職員からの人気が高いのも頷ける。
「暮部くんってことは…最後の子だよね?演説会に急がなくていいのかい?」
名前で判断ということはマスター候補生全員の名前を覚えているのだろうか。とぼけた雰囲気の人だが、やはりプロということか。
「ええ。見ての通り今着きましてね。荷物を置いてから行こうかと」
「ああなるほどね…一人だけ一週間も遅れるとは何事だって所長が怒ってたからね~…急いだ方がいいよ」
……………え?
「まっ…てください。この一週間で到着した人は私以外に誰もいなかったんですか!?」
「うぇっ!?い、いやいないけど…」
そんな馬鹿な!藤丸立香は爆破事件当日に到着していた!私しか来てないってことは!じゃあ!
「藤丸立香は!?」
「ふ、ふじ?誰だいそれは?」
冗談だろ!?なんでそんな事が!私のせいなのか!?
どうすればいいんだ!私じゃ突破できない場面はいくつもあるんだぞ!!
「だ、大丈夫かい?話して楽になるならボクがっうぇぁあ!?」
けたたましい電子音が鳴る。それはDr.ロマンの胸ポケットから響いていた。
彼はバツの悪い顔を浮かべながら一言謝罪し、通話を始めた。
「ああもしもしレフ?…うん分かった。今行くよ」
通話を切って端末をポケットに突っ込んだDr.は、ため息を吐きながら呟いた。
「サボりの時間は終わりみたいだ…ボクはもう行かなくちゃいけないが…うん、もう平気みたいだね」
私はどうにか平静を取り戻していた。曰く、冷静さを失った魔術師は死ぬ。
プランの大きな前提は崩れた。だが動じず速やかに次の手を打たなければ教え通りに命はないだろう。…もちろん、その失敗は全人類に及ぶ。
常に優雅たれ。冬木のセカンドオーナーはいい家訓を残している。私も見習わなければ。
「…私も行きます。準備はもうできていますので」
手に下げていた人一人が優に入るカバンを床に置く。これで準備完了だ。
いつでも戦闘に入れるように、入用なものは全てリュックに詰めてあるのだ。
頷いたDr.と共に外に出る。
するとやってきた廊下の奥から、地響きのような音がした。
「一体何が…!?モニター!」
彼が光の板を弄る時間に比例するように、どんどんと顔が青白く染まっていく。
「管制室と通信途絶…?」
「アーキマンさん!我々も向かいましょう!何が起きたか確かめないと!」
焦りながらも首を激しく上下に振るDr.を傍らに走り出す。
何があろうと一秒でも早く着かねばならない。
それが私の、見捨てた者の義務だ。
◇
管制室は紅蓮の炎に染まっていた。
呻き声一つ聞こえず、響くのは火の爆ぜる音のみ。
ここは簡易的な地獄と言えた。
煌々と照らされるコフィンの中には、マスター候補生達が瀕死の状態で詰まっている。
…正に
予備電源を起動しに行ったDr.が凍結処理を施してくれるはずなので、完全な棺桶にはならずに済みそうだが。
予定ではここで少しでも助かりそうな人を探すはずだった。
しかし、ここには姫と契りを交わす騎士はおらず、私がその代役を果たさなければならない。
唯一の救いがあるとすれば、それによって死ぬ人が増える事はなかったことか。
彼の悪意は、それほどまでに確実な死をバラ撒いていた。
「……………………………………………、あ」
マシュ・キリエライトは辛うじて生きていた。
しかしもう長くはないだろう。下半身は瓦礫の下敷きとなり、恐らくだが脊髄がやられている。
「……ご理解が早くて…助かります……だから…貴方は逃げて……ください…………」
「はい。できればそうしたいんですけどね。もう隔壁閉まっちゃいましたし。」
「…そんな………」
彼女の顔が悲嘆に染まる。こんな目に遭ってまずするのが他人の心配とはこの娘はなんと健気なのだろうか。
「そう気を落とさないで下さい。諦めなければきっとなんとかなりますよ」
自分でも驚く程薄っぺらい事を言ってしまった。泣いている人を宥めた経験なんてない。だから仕方ないと言えば仕方ないけれど、もう少し…もう少しくらい気の利いたことが言えたらいいのに。
「………フフっ……」
彼女は笑っていた。
「貴方は…とっても不器用な……人なんですね…」
…ああやはり。この娘はとても健気で。とても聡くて。今も私の気持ちを汲んでくれた。苦笑いするしかない私に。ただ静かに微笑んでくれる。
「あの……」
「どうしました?」
「手を…握ってもらって…いいですか……?」
…こんな清らかで純粋な娘に私が触れる?それは…冒涜ではないだろうか?この私に。この俺に。触れる権利などあるはずが…
「お願いです…」
彼女がこちらを視ていた。どこまでも透明で、混じり気のない、その綺麗な瞳で。
目を合わせていると吸い込まれるようで、俺は、自然と、手を──
──アンサモンプログラム スタート
霊子変換を 開始します