マスター必須技能:コミュ力 Rebirth 作:ブリーム=アルカリ
結局あの後所長は一度だけ目を覚まして、「忘れなさい」とだけ言い残してまた眠った。
そこには痴態を晒した恥ずかしさを誤魔化すというよりは、指揮官としてのけじめが見受けられた。
「──とまあそういう訳です」
Dr.達にはぼやかして、所長が肉体を失っている事と帰り方だけを伝えた。
『なるほどねえ。特異点Fは不安定だから存在していられるけど、カルデアではそうもいかないと』
「はい。ですので僕の荷物から人形を取り出しておいてください」
『了解。後で手配しておくよ』
Dr.との事務連絡が終わると、キャスターさんが話しかけてきた。
「坊主、分かってんだろうな」
約束したキリエライトさんとの特訓の話だろう。さっきの騒動の疲れがまだ癒えていないが、だからといって反故にするのは余りに失礼だ。
「はい!すぐに準備します」
眠る所長を護衛しながら量産していた兵器をリュックにしまい、カルデアから送られてきた特に味のしないレーションを水ごと飲み込む。抗菌仕様のグローブも新品と交換して、終いに魔術師の命である口をしっかりと磨いて準備完了だ。
「いつでもいけます!」
「よし、広場に行くぞ。そこに嬢ちゃんが待ってる」
キャスターさんに連れられて指定地に向かう。
そこはだだっ広く何もない場所だった。いくつか小石が転がっている程度で、敵影も建物もない。
いや、例外があった。巨大な盾を構えた美しい少女だ。
「マスター!マシュ・キリエライト、ただいま遠征より帰還しました!」
少しはにかみながら彼女が駆け寄ってくる。黒い鎧に大盾と威圧感抜群だが、その笑顔がそれらを帳消しにしている。
「おかえりなさい。キリエライトさん」
外傷は見られない。彼女は守りに特化したシールダーなので当たり前といえば当たり前ではあるのだが、その貌はあどけない少女のそれだ。どうしても心配になる。
「挨拶も済んだところで稽古を始めるぞ」
「はい!一体どのような内容なのでしょうか。私、楽しみです!」
元気一杯なキリエライトさん。しかしキャスターさんの言葉でその顔が曇るのは目に見えていた。
「オレとの戦闘だ。坊主を殺すから全力で守れ。いいな?」
「えっ…え!?」
「行くぞっ!」
キリエライトさんが混乱するのも構わず詠唱を始めるキャスターさん。本番でも敵は待ってくれない。いい経験だと喜ぶべきだろうか?
「キリエライトさん!いつも通りの動きで行きます!敵の攻撃に備えてください!」
慌てながらも頷くキリエライトさんを横目に骨を走らせる。所長の護衛用に四体残してきたので手持ちは六体だ。
「アンデッドは弱点が多い!対策しなきゃ死ぬぞ坊主!」
キャスターさんが空中にルーンを刻むと周囲が明るく照らされた。驚いている間に四体が消し飛ぶ。
浄化の光の類だろう。時間がないからと対策を怠った私の失策だ。
更に詠唱。今度は彼女を狙っている。
「マスター!任せてください!」
言うやいなや火球が飛んでくる。キリエライトさんがしっかりと受け止めてくれたが、あれをモロに喰らえば火傷では済むまい。とにかく撃たせては駄目だ。
「キリエライトさん!距離を詰めましょう!」
キャスターさんが詠唱をしている内に距離を詰める。今は余裕を奪うのが大事だ。
「普通のキャスターなら正解だ!だがオレは近接もいけるクチでね!」
杖を素早く持ち変えると、槍の様に突いてくる。
「杖で槍術って…そんな滅茶苦茶な…!」
彼の本分はランサー。その技術はキャスターとなった今でも高い様で、変幻自在の軌道でラッシュを仕掛けてくる。
だがキリエライトさんに釘付けの今こそ好機。骨二体を全力で向かわせる。
「いい判断だ!一対多なら大物食いもありえる!だがな!」
骨の足元が光ると共に爆発が起こる。いつの間にかルーンを仕込まれていたようだ。更にもう一体も、強力な蹴りで剣を飛ばされてしまう。
「余りに強力な一に勝つのは無謀ってもんだ!」
だがここまでは予想済み!
「キリエライトさん!防御を!」
あらかじめ全ての骨の鎖骨を爆弾に変化させておいた。これを爆破させる!
キリエライトさんは防御が硬いが彼はそうでもない。これなら!
「…ッチ!」
体制を崩すキャスターさん。今がチャンスだ!
「キリエライトさん!殴っちゃってください!」
「了解ですマスター!」
耐え続けた鬱憤を晴らすかの様に盾を叩きつけるキリエライトさん。このままいけば勝てる!
「正直舐めてたぜ…!少し早いが本番だ!」
追撃を振り切り、とんでもないスピードで後ろに距離とるキャスターさん。彼の敏捷はCだったはずだ。短期的な身体強化を使ったのだろうか?
「キリエライトさん!宝具来ます!」
「りょ、了解です…!」
目に見えて怯えている彼女。しかし耐えて貰わなければこちらは死ぬ。信じるしかないのだ。
「ウィッカーマン!」
キャスターさんが杖を振り上げると、地面から巨大な腕が姿を表す。燃え盛るそれは優に5mを超えていた。
それは拳を強く握り込むと、凄まじい速度で振り下ろしてくる。
「私が…守らなきゃ…!」
キリエライトさんが何か呟いた直後、酷く耳障りな金属音と共に砂埃が飛んでくる。
思わず目を瞑ってしまう。どうなったか見えないが、あの猛烈な恐怖がやってこない以上…
「マスター!やりました!宝具、発動しました!」
目を開けると綺麗な虹色のバリアが見えた。彼女は成し遂げたのだ。
「成功…ですね!キリエライトさん、助かりました!」
「いえ!マスターを何がなんでもお守りしたいと願ったら自然と…!」
二人で喜びあっているとキャスターさんが歩いてやってきた。
「宝具展開おめっとさん。これで一段階先に進んだな」
人懐っこい笑顔を浮かべる彼はグシグシ彼女の頭を撫で回す。
「だがまだ真名は分かってねえようだな?」
「はい…先程も申し上げましたが、マスターを護ろうと決意したら急に力が湧いてきて…特に真名が思い浮かぶとかそういったことは…」
「───その一途な思いに宝具が答えたのよ。とんだ美談ね。ホント」
声がした方角を向くと微笑を浮かべた所長が立っていた。
「おはようございます。もう疲れはとれましたか?」
「ええ。お陰様で十分休めたわ。
…え?今
「私のことはいいのよ。それよりマシュ、真名無しでは不便でしょう。私が考えてあげる」
「はい!お願いします!」
「ロード・カルデアス。これはどう?あなたにも意味のあるスペルよ」
「…はい!それにします!ありがとうございます、所長!」
とてもいい話だが少し違和感があった。
所長はキリエライトさんにどこか遠慮している節があった。しかし今はそれが感じられない。というか随分と肩の力が抜けている。なにかあったのだろうか?
『ぴったりな名前だよ!よかったねマシュ!』
「アンタ見てたのかよ」
『え、酷くないかな!?』
空気を読んで戦闘中は黙っていたDr.も祝福している。キャスターさんに無碍に扱われてもその顔は笑っていた。
彼はキリエライトさんの事を強く気にかけていた。彼女の成長が人一倍喜ばしいのだろう。
「さて、展開の感覚を忘れない内にガンガン練習するぞ。手加減したとはいえ、さっきは完全に防がれちまったからな。オレもリベンジしたい」
キャスターさんが首を鳴らしつつ告げる。やはり本気ではなかったようだ。常時の身体強化にエンチャントや身代わり、彼の全力はあんなものではないだろう。
「そうときたら続行です!マスター、構いませんか?」
正直もうクタクタだが彼女がやる気なのだ。私も気を張るべきだろう。
「ええ勿論です。思いっきりやりましょう!」
練習は夜遅くまで続いたが、それだけの成果はあって彼女は完全に宝具をモノにした。
準備は完了し、あとは地下へ潜るだけだ。
そろそろ決戦の覚悟を決める必要があるだろう。
感想と高評価ありがとうございます
どこで言えばいいか分からないのでここでお礼を言わせてください