愛は薄明の中に刹那   作:沖 一

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第五話 煙をあげる炎

□【宵闇狩人(ナイトシーカー)】ラディアラ・リベナリル

 

「こちらです!」

 

 歩いていく先をただ足を動かしてついていく。ここを最後に見たのはもう何年も前のはずなのに、なぜか見るほどに記憶が浮かび上がってくる。

 その全てはどれも苦い味。私を囲う子どもの群れ。それを見て放っておく大人たちの影。そして何よりも痛く刻まれるのは――

 

「ササーラ!今までどこに!」

「あなた!これを……」

「【ラーン草】か!お前、こんなに……」

「これだけあったらアシルさんたちの分も作れるかもしれない、今すぐ薬を作る!」

 

 いつのまにか私の足は一つの家の前まで着いていた。

 戸の前から家の中を見れば、私が助けた女性——ササーラというらしい——に駆け寄って話しかける男と、薬草を受け取って調合を始めた【薬師】らしい男がいた。薬師は薬草を受け取って家の中に入ると、床に臥している男の隣で薬草をすり潰しはじめた。

 

「どうやら妻が世話になったようで」

 

 惚けたように突っ立っていたのはほんの少しだったはずだが、いつのまにかササーラと話していた男が私の傍まできていた。

 

「ありがとうございます。おかげで義父さんの病も何とかなりそうだ、あなたは妻と父の恩人です。私はエルメア、あなたのお名前を伺っても?」

「……行きずりで助けただけよ」

 

 目を合わせられなかった。彼はまだ若く、私を虐げていた人々とは関係ないはずなのに、どうにもこの地そのものが私を拒絶しているかのようだった。まるで地の底を前後不覚で歩かされている不安感。こんなことならフローに任せておくべきだった。いや、フローのことだ、こうなる事を薄々察していたのかもしれない。下手に私を刺激するのを恐れてあの場では考えを言わなかったのだ。

 

 しかし、臥せていた老夫が薄らと開けた目と泳いでいた私の目が合ったその時、私はどうしようもない間違いを犯したのだと思い知った。

 

「「どうして」」

 

 双方が息を呑んだ、双方の顔が青ざめた。私が一歩後退り、男は身を起こす。

 

 男が私の顔を見て何を思い出したか、手に取るように分かった。なぜならその男は幼い私に刻み付けられた最も苦しい記憶の核を成す者。村の誰もからも見放された私を最も痛めつけた者。

 

「今更、何をしにきた!亡霊めが!」

 

 かつて何度も私を殴った手で私を指し、何度も私をなじった声で叫んだ。手も声も顔も、記憶のものより老けていたものの、違えるはずのないものだった。

 その男は、私の父だった。

 

「エルメア!そいつを殺せっ、魔性だっ」

 

 半狂乱は父か私か。狂ったように声を張り上げたのは父で、声にならぬ悲鳴をあげたのは私だった。

 もつれる足で踵を返した。逃げる姿はまさしく脱兎の如く。恐怖という牙に咬まれた脆弱な草食獣だった。

 

「殺せっ 殺せっ」

 

 老人の声が村中に響いていた。視線という視線が走り去る私を刺す。

 右肩に軽い衝撃、どこからか飛んできた矢が私の肩を射抜いていた。痛みで涙が滲み、傷口からは血が零れた。それでも走った。

 

「ディア!」

 

 村からそう離れた場所ではなかったが、私を何者かが抱きとめた。フローだった。私は全く気が付かなかったが、彼女はひっそりと私を尾けていたらしかった。

彼女の抱擁は、何よりも恐れていた過去との邂逅を果たした私にとってあまりに温かく、火傷してしまいそうなほどの優しい愛情にただ大声を上げて泣き続けた。

 

「帰ろう、私達の家に、帰ろう」

 

 それを言ったのは私か、フローか。どちらにせよ私は早くあの館へ戻りたかった。黒い外壁に、太陽や月の光を映すガラス窓。二人で食事を摂るリビング。二人で目覚める白いシーツのベッド。フローと共に過ごすあの場所へ、早く戻りたかった。

 家と呼べる家もなく、庇護してくれる人もいなかった忘れたかった過去を早くフローと過ごしたあの館ですっかりと塗りつぶしたかった。

 

なのにあのしゃがれた声がどこまでもつきまとっていた。殺せ、殺せ、と呪詛が私の耳朶にまとわり続けた。

 

 ◆ ◇ ◆

 

「あの村は……私の、父が……」

 

 泣き続けるラディアラは多くを語れなかった。それでもフローレイアは何が起きたかを大凡理解した。彼女を知る者がまだいて、愛の対極にある物を投げかけたのだと。彼女を行かせるべきでは無かったと深く悔みながら、ラディアラの傷に薬をつけて包帯を巻き、寝かせた。

次にするべき事は理解していた。これはラディアラの過去にまつわる事であったが彼女を関与させずに為すべきだとフローレイアは理解していた。

 

麓の村との邂逅は避けては通れない問題だと分かっていたけれど、何もこんな形でなくとも。

 

フローレイアが思い出すのはかつてレジェンダリアで見た景色。吸血鬼が人間を飼い、エルフや獣人などの他種族と手を取り合っている振りをしながらいかに相手を蹴落とそうかと腹の中を隠しあう、富と権力を求めて続ける終わらない闘争。あまりに醜い争いの形を許容できなくてフローレイアはレジェンダリアを抜け出したのだ。いつか、自分(吸血鬼)は他種族とも共存できるのだと信じたかった。

 フローレイアは麓の村と自分たち(吸血鬼)が、支配や排斥以外の形で関われると信じたかった。

 

 フローレイアはラディアラを寝かせたまま館を出た。あの村の人々がラディアラを追っているのは想像に難くなく、もし彼らが森深くにある館を見ればそれこそ暴動が止められないであろう事が予見できた。

 フローレイアはどうか血が流れずに済むようにと朱に染まる空を眺めながら、森の中を歩いて行った。

 

 やはりというべきか、館とはそう遠くない地点で一団と接触した。その大半はやっつけに槍を持たせただけの人々であったが、先頭を往くのは明らかに素人でない三人。

 彼らの目がフローレイアの紅い瞳と交錯する。

 

「お前、人間ではないな」

「これ以上近づかないで。彼女には関わらず、今すぐ帰って」

「そうはいかないな。村の人々は悪霊が出たと恐れている」「さては貴様のアンデッドか、【死霊術師(ネクロマンサー)】め」

「彼女は生きている。あなた達のように心がある一人の人間(ティアン)よ」

「皆、この【死霊術師】の声に耳を貸すな!」「誰もが無知で無力と思うなよ、術師」

 

 【弓手】の男が番えた矢が放たれた。

 日はまだ沈んでいないがやるしかない。矢を躱し、紅剣を創り出して低く構える。

 その隙にも【剣士】と【槍士】の二人が距離を詰めてきていたが、僅かに間合いの外。夜でないこの時、フローレイア(吸血鬼)にとって迂闊な攻めは命取りとなる。

 

 二本目の矢が空を駆け、場が動いた。胴を狙った矢を半身にして躱すが、その隙を突かんとばかりに剣士と槍士は動いていた。振るわれた剣を屈んで避け、突かれた槍先を剣で払う。返しに逆手に持ち替えた紅剣を槍士へ。胴を狙った一突きであったがしかし、退き気味であった槍士はそれを躱す。

 三本目。放たれた矢が無茶な攻め気で体勢の崩れた腿に突き立った。その一矢こそがこの連携の本命であり、それは僅かでは済まない隙を生む。

 膝をついたフローレイアに槍士が刃を叩きつけるように振り下ろす。紅剣で受けた彼女に槍士が顔を近づけ、小さく呟いた。

 

「今からでも逃げろ」

「なにっ?」

 

 気のせいに思えたが、武器の押し合いを続けながら槍士はあくまで静かに口を続けた。

 

「もう彼らは止まらない、あの娘を連れて逃げろ。闇に乗じれば不可能じゃない」

「彼女を追うあなたがそれを言うの」

「もう分かっているだろう。これ以上戦って平穏が勝ち取れると思っているのか」

「っ、爆ぜろ!」

 

 紅剣を炸裂させて破片を槍士に浴びせたが、彼は急所を庇って飛び退いた。

 

 再びフローレイアと前衛二人との距離が空いた。だが旗色は悪い。立ち上がろうとしたフローレイアの腿から濃い血臭が立ち昇り、片膝をついた。フローレイアが手痛い傷を負った一方で、狩人たちはかすり傷しか負っていない。この攻勢を逃すまいと剣士が剣を高く振り上げて叫ぶ。

 

「皆聞け!この女が死ねば、皆が見た死人(アンデッド)はただの屍へと返る!さすれば二度と死人の畏れは訪れまい!」

 

 野次馬と化していた村人らがどよめいた。恐怖と興奮の昂りの中、流れる私の血を見て殺せ、殺せと声が上がる。この術師を殺せ、あの死人を殺せ、殺せ、殺せ、殺せ。

 

「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」

 

 自分の大切なものをただ踏みにじらんとする激しい渦に、フローレイアは今一度激昂した。彼らが望むそれは本当に、己の守りたいものを守るための殺生なのか。恐怖について目を背け、耳を閉じ、ただ叫ぶだけの盲目な狂騒ではないのか!

 滴る血液からもう一振りの紅剣を振り翳し、力の限り叫ぶ。

 

「あなたが、彼女に何も与えなかったあなたたちが!私たちから奪う権利なんてないでしょう!」

 

 フローレイアの叫びを森が聞いた。山を響き、空まで届き、雲も聞いた。武器を手に取る男たちも聞いていた。

 しかし彼らは赦しを与えて人々を導く導師でなければ、命を摘み取る狩人でしかなかった。

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

□【宵闇狩人】ラディアラ・リベナリル

 

 血と、人の焼ける臭いを捉えた。それが何の匂いなのか、想像してしまった。どうか思い違いであってくれと願いながら匂いを辿る。それは村の中央から漂ってきていた。

 

 私が起きた時にフローの姿は無く、月光が差し込む寝室に私は一人で寝かされていた。不吉な予感を必死に抑えつけて、残されたフローの香りを追い、森の中で褐色になって乾きつつある血だまりを見つけ、十数人という数が歩いていっただろう轍を辿っていった。夜の森を走って、ステータスの限界を超えるほどに必死に走って、走って、ササーラに案内された村の入り口に着いた。

 

 息絶えた一つの躯が磔にされ、燃え盛る炎に焼かれていた。両腕は肘から先が無く、胸は深く袈裟に切れ裂かれていた。紅くきらめいていた瞳に光は無く、夜空を映したような黒髪と透き通るような白い肌は血と煤で余す所なく汚されていて、昇る火炎が舐めるように躯の脚を焦がしている。その周りには狩りの成功を祝う人々が炎を囲んでいた。

 フローだった。今まで共に過ごしてきた姿とは結び付かないほどに肉体を破壊され、生気を失った抜け殻がそこにあった。

 包帯を巻かれた右肩の傷の痛みを忘れさせるほどの冷たさが、氷柱となって心の奥深くに突き刺さる。拭いようのない絶望感、無力感、悲愴感。

 私の膝が折れて地に着かんとした時だ、火を囲む人々の中で最も火に近いところに立っていた数人の男が火を囲む人々へと向き直った。燃え盛る炎を背に一人が携えていた剣を掲げ、声高に叫ぶ。

 

「皆!人々を惑わす悪しき術師は倒した!二度と死人が現れるようなことは無く、この村で蔓延していた病もやがて消えるだろう!」

 

 熱狂の歓声があがった。ある者は諸手を上げて喜び、またある者は病に倒れている家族の安泰を知って胸をなでおろしていた。諸手を上げる者たちの中にはエルメアの姿もあり、またその遠くない所でササーラは父の背中をさすりながら暖かで穏やかな笑顔を浮かべていた。

 父と、ササーラと、エルメアと、何人もの大人たちが頭を垂れて感謝の言葉を並べていた。

 

 私の心を抑えつけるあらゆる留め金がはち切れた。全ての思考は彼方に追いやられ、ただ天を焦がさんばかりの怒りが燃え上がった。

 一跳びで群衆を飛び越えて、炎の前に降り立つ。高らかに叫んでいた男の胸を正面から掌で貫いた。五指が背中を突き抜けたが、そのまま腕を振るって明るく燃える篝火の中に放り捨てる。火に放り込まれるまで男は自分の身に何が起こっているかまるで分っていないようだった。呆気にとられた静寂に、木が燃え爆ぜる音だけが響く。

 誰も状況が飲み込めないうちに更に動く。側にいた男の首に手刀を打ち込み、もう一人の腹には足刀を叩き込んだ。頸椎を折られた男が私の背後で崩れ落ち、蹴られた男は子犬が蹴っ飛ばされるように緩やかな、高々とした軌道を描いて飛んでいく。大の大人がぐしゃりと地面に打ち捨てられるのを私は静かに見ていた。人々も黙って見ていた。ようやく彼らが狂乱に陥ったのは、息のあるままに焼かれる男の断末魔が響いてからだった。

  蹴り飛ばされた男の口は血の混じった泡を吐いて、その目は逃げ惑う人々を見た。そして私を見た。彼は最期に何かを伝えるつもりだったかもしれなかったが、無視した。全く興味が無かった。私の意識は次にすることにあった。鏖殺だ。

 一人も逃さなかった。膝をついて命乞いをした男の舌を引き抜き、背を見せて走り出した女の足を潰し、家に隠れて震える子どもには家ごと火をつけた。裂いて、潰して、焼いて、殺して、殺して、殺して。

 全てが潰えていった。全てが沈黙した。

 何人たりとも敵わぬ夜が広がっていた。

 

 最後に一人の男が残った。逃げもせず、隠れもせず、しかし戦いもしなかった男が一人。一番始めに命乞いをした男と一番始めに逃げ出した女の死体、二組の目玉の視線に射られながら、一つの村が終わるさまを小便を垂らして眺めていた。私の足音が近づいた時、男の顔がこちらを向いた。年を取っているものの、その顔はやはり記憶のものと易々と結び付く。そしてそれは男からしても然り。

 亡霊に怯える目は最期に何を思うのだろうか。

 

「お前があの時死んでいれば――」

 

 怨嗟の言葉を吐いた父の首を引きちぎった。目の高さまで持ち上げると、私と同じ群青の瞳が暗闇の中で燃える炎を映していた。私を、夜を、幾多の屍を炎が照らしていた。私の足から伸びる長い影が暗い森へと続いている。フローの躯と剣を掲げた男を焼いた炎はいよいよ激しく燃え上がり、二つの肉体を食い尽くさん勢いだった。そこに父の首を投げ込んだ。放物線を描いた父は火の中に飛び込み、鼻を衝く毛髪の焼ける匂いがまた一段と強くなった。炎は無感情に焼き、照らし、昇っていく。

 

 たった一人、私が残った。

 こんな事の為に、私はあの日選んだ訳ではないのに。私はただフローと生きる時のためにこの身を望んだのに、私の身体は余すところなく血に塗れていた。

 

 やがて雨が降り、燃え上がる何もかもを流していった。

 

 

 

 ◇

 

 窓から差し込む陽光で目が覚めた。遥か昔の追体験も、そこで終わった。フローを亡くしたあの時を夢で見たのはひどく久しぶりだったけれど、思い出す匂いは全て新鮮なままだった。

 そしてあの時の、もう二度と触れたくないと思った痛みは再び訪れた。また、独りになった。

 

 「あぁ…………」

 

 私はフォリウムを拒絶した。昨日まで当たり前のようにこの館に訪れていた温もりはもうこない。たとえ〈マスター〉たるフォリウムが本当に不死であろうと、関係ない。昨日までと同じ明日はこない。そして今まで私が独り繰り返してきた日常ももう来ない。

 〈マスター〉の不死性は恐らく事実だろう。それを語るフォリウムに嘘は無かった。きっと私が殺した〈マスター〉は数日もすればこの地を再び訪れるだろう。私が彼らを殺さなくてはいけないと思ったのと同じ程に、彼らは私を殺そうとしていた。果たして、不死身の狩人が一度(ひとたび)目を付けた獲物をそう易々と諦めるだろうか?

 何度殺しても甦り、何度も相対しなければいけない狩人の襲撃を一体何度耐えられるというのだろうか。

 一体何度、ここを守れるだろうか。

 

 だがどうしようもない。フローから唯一遺されたこの場所を失う選択肢などはじめから選べるわけがないのだから。

 

 

◆ ◇ ◆

 

■アルター王国南東部・リクヴィル村

 

「はぁ……」

 

大きなため息が煙草の白煙と共に吐き出された。その二つがさらに大気と混じりあい、目の前の風景に溶けて消えていく。目の前に広がるのは穏やかで慎ましい農村。点在する家屋に広がる畑。柵にもたれかかり、少し遠くに目をやれば草原が広がっている。それはともすれば大空よりも遥かに自由を感じさせる景色だ。

 

「平和だねぇ」

 

 右頬に狼の刺青が施された男が呟き、再び煙草に口をつける。

 揺らがぬ安寧を象徴するかのような景色に向けた言葉は、どうして不満の色で満ちていた。

 それもそのはず。彼、アイス・ブレイカーは殺意が飛び交う戦場を駆け抜け、刃をぶつけ合い、極限のリアリティの下の戦いを求めてデンドロの世界を訪れていたのだから。だが今はどうだろう?幾つもの失敗が重なり、生殺与奪権を握られ、あまつさえこんな平穏の中で放置される事を強要されていた。

 無意識の内に右頬に触れる。この皮膚を剥げば呪縛から逃れるのではないかと希望的観測を抱いては、不可避の炎が自らを貫く想像から逃れることができずに頭の隅に追いやっていた。堂々巡りだった。

 煙草を吹かしては無為の思索を続ける彼の下に男が歩いてきた。

 

「そんなに退屈か?」

 

「そりゃあな。お前らは討伐クランだろ?なのになんだってアルター王国に来てまでこんな辺鄙な村でのんびりやってんだ。お前だって退屈じゃねぇのか?」

「まず、『お前』じゃなくてラスティネイルだ、いい加減名前で呼んでくれ」

「長ぇだろ」

「ならラスティでいい」

 

 ラスティネイルは続けた。

 

「それにアイス、」

「アイスって呼ぶのだせぇからやめろ」

「……『お前らのクラン』って言うが仮とは言え自分だって入ってるんだぜ?今回の狩りが終わってセーブポイントまで着いたらオーナーも正式に加入させるだろうさ」

「ピクニックが趣味の討伐クランなんざ入ろうとは思えねぇけどな」

「それについては朗報だ。明日、ようやく仲間がこの村に合流する事になった。オーナーもギデオンからここまで来るから、そこから狩場に向かう」

「やっとか!」

 

 ようやく戦闘が自分を待ってる事を知らされたアイス・ブレイカーの顔に喜びが浮かび、そしてあのいけすかないオーナーとまた顔を合わせる事を遅れながら理解し、またため息をついた。

 

「ま、いいさ。数日振りの戦闘だ、俺は好きにやらせてもらう」

 

 短くなった煙草を惜しむようにとびきり深く吸った。デンドロでは煙が肺を満たすこの感覚さえも現実と全く相違ない。そしてそれは矢の唸り声、振るわれる刃、吹き出す血も然り。命がひりつく闘争を思い出し、煙を吐いた。今度はため息は共にいない。吸い殻を靴ですり潰しながら、心の中は戦いを臨む高揚感で満たされていた。

 

「それと、オーナーの前では煙草は吸うな。あの人は煙草嫌いだからな」

「はぁ!?あいつ炎キャラなのにか!」

「関係あるか?それ」

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