愛は薄明の中に刹那   作:沖 一

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大変お待たせいたしました。
更新再開に付随してのお知らせですが、この度今作全話書き直しました。
話の大筋は変わっていませんが、細かい描写・演出の変更の他矛盾点の整理など行っております。
細かい事は活動報告の方に載せてありので、よろしければご覧ください。
それではどうぞ




第八話 死に至らぬ死

■【盾巨人(シールド・ジャイアント)】アースクエイク

 

 〈エンブリオ〉たる剣を振るう【剛剣士(ストロング・ソードマン)】。

 第六形態のガーディアン(【ファフロツキーズ】)

 《獣心憑依》によってそのステータスの60%を自身に上乗せしてモーニングスターを振るう【鬼鉄(オニガネ)】。

 

 それらと相対するは一人の【白氷剣士(ヘイル・ソードマン)】。

 

「なびけ!」

 

 ソルティが裂帛の気合いと共に振るった剣はその形を変え、僅かに剣先を伸ばしながらひーを狙ったが狙いは当たらず。ひーは同士討ちを狙ってかファフロツキーズの懐へと飛び込む。

 

『れぃぃぃぃん』

 

 ファフロツキーズもトウモロコシの形をした拳を振るって応戦するが、いかんせんAGIの差を詰めきれないで拳は届かない。

 モーニングスターでは鎖が味方を絡め取ってしまいかねない為か、キングスバレイはカウンターに埋まっていた盾を掴んでは、スキルも無しにただSTR任せにぶん投げた。

 

 バオンッ。

 

 縁から衝撃波を発しながら飛んでいく盾をひーは反射的に避けて見せた。

 【冒険家】の《直感》によるものか、あるいは素で持っている戦闘勘のなせる技か。

 

 並の前衛超級職すら一撃で破壊しかねない盾の投擲は、暴力を象徴するように破壊と轟音を撒き散らしながら【冒険家】ギルドの中を駆け抜けて、俺の《シールド・ハンドラー》によってなんとか受け止められた。もし俺が受け止めていなければ、背後にいるオーナーとパッセンジャーがどうなっていた事やら。

 

「だからキングス!」

「いいじゃねぇかお前が止めれるんだから!」

 

 ただ、キングスバレイのなんちゃって《シールド・フライヤー》を放ってひしひしと実感するのはAGI不足だ。

 攻撃を氷属性魔法や冷気で行うAGI型の【白氷剣士】相手では、END寄りのソルティやSTR特化のキングスバレイ達では分が悪い。

 

 今もどこかに潜むダイキリに、奇襲狙いではなく共に前衛として戦ってもらった方が良いかと思った時。ソルティが大きく舌打ちし、己の長髪に手をかけた。

 

 必殺スキルの予備動作だ。ここで使えばこの後の狩りでは使えないだろうに、AGI不足を補う為であればやむを得ないと言ったところか。

 

「《勝利と栄(ベレ)——》」

 

 しかしその行為には一つの大きな過ちがある。

 彼の必殺スキルの発動に必要な『己の髪を断ち、剣に捧げる』という工程は、敵の目の前で行うには余りに無防備。普段であればその隙を、俺の〈エンブリオ〉である【メリッサ】が自在に小盾を飛ばして守ってくれるが——

 

「【メリッサ】は無いんだぞ!」

 

 距離は十分に離れていた。ひーは背を向けてファフロツキーズと斬り合っていた。それを隙と見ての必殺スキルの行使だったかもしれないが、彼はひーが用意した餌にまんまと釣られていた。

 即座にファフロツキーズに背を向けて駆け出したひーの、ソルティに向けられた左手には既に爆発的な冷気の前兆。【白氷術師】の奥義《ホワイト・フィールド》だ。

 

「《獣武一体》!」

 

 キングスバレイが【鬼鉄】の奥義を発動し、跳ね上がったSTRによってバズーカのように打ち出されたモーニングスターがひーを後から狙う。

 左後方からやってきた鉄球と鎖、それさえもひーは躱し、左手から《ホワイト・フィールド》が放たれる。

 

 その瞬間を()()()()()()鎖がひーの左腕を強かに打ちすえた。

 

 腕がへし折れ、《ホワイト・フィールド》はその射線をソルティから逸らした。

 しかし直撃は一秒にも満たなかったにも関わらず、【白氷術師】の奥義はソルティの半身を【凍結】させていた。

 

 だがひーの注意関心は既にソルティに向いておらず、尋常でない挙動で自身の腕を破壊した鎖へと向いていた。答え合わせのように鎖の先にある鉄球が啼いた。

 

『ジャ!ジャジャ!』

 

 先程までの鉄球ではなく、角を生やした蛇のような動物の頭がそこにあった。

 それこそが【鬼鉄】の奥義たる《獣武一体》。自身が装備する武器を意思とステータスを持つモンスターと化し、もう一体の《獣心憑依》の対象とするスキル。

 【獣戦士】は本来、素手、爪、牙以外の武器スキルを発動させられない。しかしそのルールを覆すのが【鬼鉄】。その固有スキル《武と獣》によりサブジョブにある剣士系統、槍士系統、棍棒士系統などの武器を扱うジョブのスキルを扱う事ができる。獣と共にある戦士でありながら武器を持つ矛盾を許されたジョブ、それが【鬼鉄】である。

 その【鬼鉄】が許すもう一つの矛盾こそ、同時二体への《獣心憑依》。

 奥義 《獣武一体》は伝説級特典武具の【ヒゲダンシャク】を武器モンスターと化し、そのステータスの60%をキングスバレイへと上乗せする。練度不足故に発動時間は90秒に限られるが、限定的に120%の上乗せによりステータスの理論値は【獣王】を超える。

 

「ウォォッ」

『ジャジャジャ!』

 

 24時間のクールタイムを必要とする切札はここに使われた。

 STRをさらに増強させ、AGIも上昇させたキングスバレイが【ヒゲダンシャク】と共に決定打を与えんと駆け出した刹那。

 

 【白氷剣士】もまた奥義を切った。

 

「《ペニテンテ》!」

 

 目の前に広がった絶景に、キングスバレイが息を呑んだ。

 

 ひーとキングスバレイまでの距離、数メテル。

 二人を繋ぐ地面にいくつもの氷柱が生えた。

 それは氷柱にして氷柱にあらず。複製された数十という“一花心”である。

 

 美しくもある氷剣達は、白い殺意の群れ。

 絶死領域だった。

 

「飛べ」

 

 短く呟いたひーに、キングスバレイが吼えた。

 

 地面から生えた“一花心”達が一斉にキングスバレイへと向かい、キングスバレイは【ヒゲダンシャク】を振るいその全てを叩き落とさんとする。

 首、足、腹、肩、腕、ありとあらゆる部位を狙い、音速を突破する白刃達をキングスバレイが振るう柄と角を持つ蛇の頭たる【ヒゲダンシャク】がへし折り、潰し、壊す。

 

 一つが首を狙い、柄で打ち払う。

 一つが頬を掠め、僅かな切り傷から凍傷が広がる。

 一つが腹に突き立ち、冷気が広がる前に【ヒゲダンシャク】の鎖が引き抜いて、折る。

 

 瞬く間に増える裂傷凍傷、しかしその全てがかすり傷。

 

 ぶつかる奥義と奥義。何人たりとも踏み入れぬ白銀の嵐。

 

 永遠にも思える絶技の応酬であったが、しかして終わりは必ず来る。

 

 展開していた幾多もの“一花心”の全てががへし折られ、地に散り空に舞う。

 亜音速の域まで高められたAGIにより、重力に従い自由落下する氷剣の欠片達がゆっくりと落ちるように感じる加速時間の中、キングスバレイはひーを見据えた。

 

 まだ《獣武一体》による強化は続いている。次は、お前だ。

 

『ジャジャジャジャジャ!』

 

 けたたましく啼く【ヒゲダンシャク】。そのAGIはひーに喰らいつくに能い、STRは噛み砕くに能う。

 

 【ヒゲダンシャク】の突進を躱し、突撃を選んだひーはその右手に残る“一花心”で決着をつける気か。

 

「いいだろう!」

 

 今この時ならばAGIは遅れを取らない。

 勝負時だった。

 

 【ヒゲダンシャク】の鎖をのたうちさせながら引き戻しつつも、ひーと激突してやろうと突進するキングスバレイ。

 

 ——その右腿を一つの“一花心”が薙いだ。

 

 それが正真正銘、《ペニテンテ》による最後の一振り。

 複製された数多の氷剣の中で唯一残った一振り。

 

 氷の欠片達に埋もれていた一つの“一花心”がキングスバレイの足を切りつけ、そこから氷が一気に広がる。

 

 右足の自由を失い、ガクリと膝をついてひーと対峙したキングスバレイは、果たして——

 

「——一手、先か」

 

 苦し紛れに柄を振るったキングスバレイの喉元に、“一花心”が突き立った。

 【ヒゲダンシャク】の軌道を読み切ったひーによる、その手に握った“一花心”による刺突だった。

 

 【凍結】が全身に回り氷像と化したキングスバレイ。“一花心”が引き抜かれると同時に像の首が落ち、【鬼鉄】とそのモンスター達は光の塵と化した。

 《ペニテンテ》により束の間の顕現を許された数多の“一花心”達もまた、彼らと共に塵となる。

 

 奥義の応酬の果ての決着。

 光と氷の粒子が織りなす、幻想的な景色が広がっていた。

 

 ——その煌めきを歪める存在が一つ。

 

 ひーの傍の空気が陽炎のように歪んだ。

 誰もいなかった空間に現れたのは【双鎌士】のダイキリ。彼女が見出した好機がここだった。《ペニテンテ》の絶死圏外から、一息にも満たぬ内に間合いへと飛び込んできたのだ。

 

 《隠蔽》をかなぐり捨てて振るう〈エンブリオ〉の薄刃が、ひーの右腕を切断した。

 溢れる血が即座に凍結して傷口にはりつく様を見ながら、ひーは後退り、ダイキリは体勢を整えた。

 

 腕から生やした刃を戻しつつ、至近距離で放った刃を伴うハイキックがひーの喉を突く。

 

 的確な急所攻撃が鎌士系統のスキルによって威力を跳ね上げ、確かにひーのブローチを砕く一撃となった。

 超級職でないダイキリの一撃は【ブローチ】を貫通することさえないものの、もとより【双鎌士】。第二の刃で剥き出しの命を刈り取ればいいだけだ。

 ハイキックの姿勢のまま、膝から伸びる刃がひーの心臓を目指して走る。

 

 ひーの左腕は鎖で砕かれ、右腕はダイキリによって切断された。

 もはや彼女に防ぐ手立てはない。

 

 【双鎌士】による、確実の致命撃たる凶刃が——

 

「《玄冬素雪は揺籃(レフュージア)》」

 

 ——何者かの手で掴まれた。

 

 その色は白藍。今宵見た如何なる氷よりも透き通るそれは、手だけではなく腕を持ち、胴を持ち、脚を持ち、ただ一つ頸だけを持たぬ氷像。

 半ばで断ち切られたかのような頸からは今にも先が生えてきそうだったが、顔を持たぬ氷像はそのまま掴んでいた刃を捩じり切ってダイキリを蹴り上げた。

 

 AGIに優れた彼女でさえ認識不可能な速度で蹴り抜かれ、天井に激突する。

 そこへ《シールド・フライヤー》を飛来させるも、氷像はこちらもただの片手で掴み取った。

 僅かな後退もない。特殊能力ではなく、ただステータスの卓越が故に。

 

 今もダイキリが天井から落下しゆく中、ひーは命令を下す。

 

「キーストーン、排除して」

 

 それが白藍の氷像の名前。ひーの必殺スキル(玄冬素雪は揺籃)により、《凍界の楽園》内で死んだ存在達のリソースを凝集させて生まれ落ちた絶対強者。

 二体のモンスター(ファフロツキーズ、ヒゲダンシャク)二人の上級職(ブラック&ホワイト、ハイランド)一人の準〈超級〉(キングスバレイ)。それらのリソースをキーストーンは一身に背負っていた。

 

 キーストーンは左手で盾を掴んだまま、ダイキリへと右手を翳す。

 その手に迸る空気を歪める程の冷気は、ひーの《ホワイト・フィールド》を上回る圧倒的な超々低温。

 

 キーストーンへと自由落下を続けるダイキリが己の必殺スキルを宣告した。

 

「《誰も捕まえられっこないさ(ジンジャーブレッドマン)》!!」

 

 もはやダイキリに次の戦いへの余裕など無かった。

 

 ここで殺し切る。

 

 その覚悟が聞こえるように、彼女が纏うゲル状の〈エンブリオ〉が隆起した。

 

 手を翳したキーストーンの射線から()()()()()離脱し、レーザーのような冷気の奔流をすんでの所で躱した。

 必殺スキルの使用により、ダイキリの〈エンブリオ〉は出力を数倍へと跳ね上げる。

 AGIは倍に。人工筋肉としての性能も向上。硬化して成す刃は鋭さそのままに強度はヒヒイロカネの如く。

 さらに必殺スキルの発動中、ダイキリは真空さえも足場にして世界を駆ける。

 

 避けた一蹴りで十数メテルを移動し、音速さえ置き去りにさる機動で【白氷剣士】の下へ。

 

 ここで。今、ここで殺し切らねば。

 

 ——そう駆け出そうとしたダイキリの周囲を白藍の刃が包囲した。

 

 それはキーストーンが発動した《ペニテンテ》。展開速度も展開密度も先程の比ではない。

 如何なる怪力も、如何なる堅牢も、いかなる韋駄天さえも殺す、まさしく氷獄。

 

 バツンと弾ける音は刃が放たれた衝撃波か、はたまた一人の〈マスター〉の命が潰える音か。

 ダイキリは塵に還った。

 

 キーストーンがこちらを向いた。

 今の今まで、ただ傍観するしかできなかった俺を咎めるように。

 城壁を破壊する一撃さえ防いでみせるという【盾巨人】の自負を砕くように、顔の無い貌《かお》がこちらを睥睨した。

 

 形勢は傾いた。

 ひーは両腕を失った上に大魔法を重ねて使ったことでMPは枯渇寸前だったが、キーストーンはまだ無傷でいる。ワールドの領域から出られない制限を負う代わりに顕現に時間制限を持たない凍界に生きる絶対者。それがキーストーンだった。

 

 低温領域による凍死を待つまでも無く、もはや俺たちになす術は無かった。

 

 だというのに。

 

「実に惜しかった」

 

 この男は一人、飄々と言うのだった。

 

 この状況で俺たちに何が出来ると言うのか。

その身の半分以上を凍てつかせた【剛剣士】が、紙切れほどにも役に立たない盾を持つ【盾巨人】が、一切の光明を見出せない【大予言者】が閉口する中、オーナーは荘厳な教会に踏み込んだ背信者のように口を開く。

 

「実に惜しかった。ダイキリを落とした今の瞬間にダイキリでなく僕たちを狙っていればデスペナになってたのは彼女じゃなく僕たちだった」

「今からでもしてあげるよ」

 

 俺たちを磔にしているのはいまだ身を刺す極寒によるものか、キーストーンの存在感(プレッシャー)によるものか。

 標本にされたように動けぬ俺たちを尻目に、オーナーはそれでも口を続ける。

 

「さよならだ」

 

 その一言で、終わった。

 

 ひーは身じろぎ一つしなかった。

 キーストーンも指一本動かさなかった。

 

 ただ——

 

 ——駆け抜けた超々音速の何かが両者に気付かせないままひーの身体を貫いて、有り余るエネルギーが彼女の身体を両断していた。

 

「——(イム)》」

 

 消えゆく極寒と絶対強者。

 その二つを見送るように、一人。さっきまでこの場にいなかった男が立っていた。

 

「さすがのPK(プレイヤーキル)と言うべきかな、アイス・ブレイカー」

()()()がいなけりゃ、この槍はお前に向けていたんだがな」

 

 レジェンダリア国境にて俺たちと共に来る選択をしたPK(プレイヤーキラー)、アイス・ブレイカーだった。

 

「尻ぬぐいをさせて悪いね」

「間に合うためにだいぶと無理はしたぞ。申し訳なく思うんならこのままセーブポイントまで行かせてくれないか」

「オーナー、くれぐれもしちゃダメですよ」

「心配しなくてもしないよ、ラスティ」

 

 また別の男がギルドの入り口に立っていた。ラスティネイルだ。

 この二人はギデオンより遠く南東にあるリクヴィル村で待機していた。しかし、早々にデスペナになったメンバーからのリアルを通した連絡により戦闘を知った彼らは駆けつけ、今、決着がついた。

 

 ひーは知る由も無かった。残る二人という内の一人が、ここまで強襲に特化した存在だとは。

 ここで俺たちを全滅させて三日間のデスペナを稼ぐ事が最善と考え、最後の最後までそのつもりで戦っていたようだったが、その企みは成就寸前で止められた。

 もしPKの存在を知っていれば、それこそオーナーが言ったように捨て身ででもオーナーやパッセンジャーと言った超級職の後衛達を狙ったのかもしれないが、無駄な仮定だった。

 

 ひーは斃れ、ここに六人の〈マスター〉が集結した。

 それだけが真実だった。

 

 ここに集った俺たちは、討伐クラン〈F・Shaker〉。

 いよいよ本懐の大物狩りへと動き出した。

 

 月が上ったばかりの宵だった。

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