【
拳士+壊屋系統上級職。壊屋系統としてのスキルをほとんど習得でき、なおかつ拳士系統らしいスキルも多く習得する。
さらに壊屋系統らしく高いSTRに加え、高いAGIをはじめとした拳士系統らしいステータス成長をする。
これらの傾向により、オブジェクト破壊に特化した【
また素手、或いは籠手等の準素手判定の場合、メインジョブでなくとも固有スキルを全て使用できる。
□
というのが私のサブジョブの【砕拳士】だ。
【
なので【大冒険家】×【砕拳士】というジョブ構成と私の非戦闘系〈エンブリオ〉でマトモな戦闘をするのは難易度が高い。
だから一点特化により“脆さ”をもつ〈UBM〉なんて行幸という他ない。
「誰か仲間は……いらないか」
同行者を考えたが、そちらに特典武具をとられたり情報を流されたりしたらたまったものではない。
ただでさえこの前のカルチェラタンでの遺跡探索で
当面、狙うはソロ討伐だ。
□【
私がデスペナになってから四日が経過したデンドロ世界。もしかして“ラディアラ”が何か噂になっていないか、誰かに先手を打たれていないか不安になったが、耳に届く情報では特に動きは無かった。
あんな所に行く〈マスター〉がそもそも少ないから当然か。
そんな情報収集や装備も整った今、私は“ラディアラ”の元へこの前と同じルートを通って移動していた。ちなみに最寄の村では四日という
四日で頻繁ってどんだけ人が来ないんだ。確かに何にもないけど、自然豊かでいい場所だとおもうんだけどな。
2040年代に突入した今、文明が見当たらないような自然を見たいのなら電車もバスも電波も届かないような場所まで行かなければないのではないだろうか?
せっかくの大自然を楽しまないとはデンドロユーザーも勿体ないことをしている。
「とか言っときながら、私だって藪をぶち抜いてこの“獣道”作ったんだよね……」
獣道と呼ぶには程遠い、藪を押し退けてできている一本の道はこの前の私が『羅針盤』の指し示す方向へ真っ直ぐと突き進んだ為にできた物だ。
ごめんね、デンドロの大自然よ。
閑話休題。
相変わらず手元の『羅針盤』はこの前と同じ方向を指している。“ラディアラ”はあの館から動いていないようだ。
まだ早朝の時間、このペースなら朝のうちに館までたどり着けるはず。そこで観察の体制に移ろう。
確実に仕留める手を見つけてみせる。
しかし……いまだに気になるのは“ラディアラ”の生態だ。
私を襲ってきた【ナイトウルフ】は死体が消えなかった点と呪いの媒体になったことから“ラディアラ”が私に血を浴びせる為に放った召喚獣の類と検討をつけている。
つまり、狼系のモンスターは群れを成すのが定石なのに“ラディアラ”はただの一体だったという事になる。
これだけでも定石から外れているのに、あれだけ強い
さらに強大な〈UBM〉が近くをうろついてるとでも?でもそんな噂は無かったし、『羅針盤』の探知にも無いのだけれど……。
そうこうしている内にこの前デスペナになった地点の近くまできた。
念のため観察しても、“ラディアラ”が接近している様子は無い。『羅針盤』は昨日と同じ地点を指している。
館を発見した地点に立ち『羅針盤』の探知と記憶を頼りに見渡していると、見つけた。
「《直感》が発動する違和感はあそこか……」
きっとあそこに《看破》をかければこの前と同じように幻が消え館が現れるのだろう。
だがそうすれば昨日の二の舞だ。よって《看破》はせずに地図に場所を刻むのにとどめる。
そこに幻がかかっていると知っていれば、ある程度近づけば問題なくたどり着けるだろう。偵察をしておくためには、夜行性であろう“ラディアラ”が動き出す日中の間に近づく必要がある。
私は歩みを進めた。
◇
目的地に近づくにつれ、所々に妙な点が現れた。木の根元の土を掘り起こした後に埋めた跡や、熟れていない木の実を避けるように摘んだ跡。
「挙句にコレだもんなぁ」
獣用の罠。跳ね上げ式のスネアトラップ——ひもの輪の中に足を引っかけるとひもが締まり獲物を捕らえる仕組み——だ。
「《鑑定眼》……やっぱり毒か。荊棘状のひもが締まったときに毒が入るようになってる」
しかも殺すためではなく、衰弱させるための毒。
これは狩人系統のスキルによるものの特徴だ。
つまり、人がいるのだ。こんな辺境の山奥に。
加えて、さっきから誰かに見られている気配がしている。最初はそれこそ“ラディアラ”かと思ったが、『羅針盤』は依然として館がある地点を指している。
もっとも、直線ルートで接近されていた場合は気づかないのだが、日も落ちる前に最大限気配を殺している私の接近を気づいているのならもうゲームオーバーだ。
どうかそれだけはやめて欲しいと願ってその可能性は早々に捨てた。
とはいえ、私が接近に気づいたにも関わらず《直感》で方向を絞り切れないほどの隠密性には知性を感じる。
ただのモンスターではあるまい。
このままでは見つけれない。そう思った時だ。
《危険察知》が発動した。
咄嗟にスキルが教えた方向へ手に持っていた『羅針盤』を投げつける。
宙を舞った『羅針盤』は、気がつくと空中に現れた矢に銀色の文字盤を貫かれていた。
軌道を逸らされた矢が地面に刺さる頃には理解する。これは《隠密》持ちによる狙撃だ。
「ねぇ!こっちに敵意は――」
返答は第二矢。
ヒョウッ、と矢が飛んできたが今度は手の甲で払いのける。
【砕拳士】のSTRを持ってすればこの程度、スキルを使わずともグローブに穴が空くことすらない。
「私は【冒険家】のフォリウム!重ねて言うけど敵意はない!」
応じるか、戦闘続行か。
どちらに転んでもいいように身構えていたが、意外にも相手はどうやら応じてくれるらしい。
消されていた気配が現れ、足音が近づいてきた。
やがてその姿が現れた。
「突然射掛けてごめんなさい、こんな所に人が来るなんて滅多にないことだから」
声の主は女。
目深に被ったフードに加え、全身を覆う外套の森林迷彩は狩人系の服装だ。
左手の甲を見れば、そこに紋章は無い。
つまり、ティアンだ。
近寄って来た彼女は弓を持ったままだが、矢は番えられていない。
ここまでされて警戒し続けるのはさすがに失礼か。
構えを解いて私も話しかけた。
「この稼業じゃよくある事だから気にしなくていいよ。そういうあなたはどうしてこんな所に?」
「住んでるのよ」
「住んでる!?」
「えぇ。詫びの一つもしたいし、よければ家まで案内するわ」
そう言って彼女は歩き出した。
背を向けて歩む姿に、矢を射かけてきた時の敵意はもう無い。
とはいえ無警告で射ってきた人間にホイホイついて行くのは絶対に賢い選択ではない。
ないのだが……
「〈UBM〉のいる、人里離れた山に住むティアンか……流石に初めて、かな」
こういう面白いものに飛び込まずにいられる性分なら、元より冒険家などやっていない。
「フォリウム、だったわね。あなた、【冒険家】って言ったかしら」
「そうだよ、厳密には上級職の【大冒険家】だけど」
「へぇ」
前を歩く彼女からそんな言葉に返事を返しながら、サクサクと進む彼女の後ろを追いかける。
それとなく私に探りを入れる彼女は、まだ私を信用しきっていないからだろう。
だけどここで情報の出し惜しみをして警戒を強められても仕方が無いし、私は正直に答えることにしていた。
さて、【冒険家】というジョブだが、〈マスター〉の間ではピンとこない人が多い。『冒険者』という概念がフィクションで広く浸透し、デンドロでも汎用ギルドの名前が『冒険者ギルド』なものだから、【冒険家】と聞いて変に深読みをする人が多いのだ。
だがティアンにとって【冒険家】のジョブが持つ意味はそのままだ。
『冒険する人』であり、所謂トレジャーハンターのイメージのままで受けられている。
「さっき私の矢を軽くはじいていたけど、上級の戦闘職もあるんじゃないの?二つも上級職に就いてるなんて、もしかして名のある【冒険家】だったりする?」
「いやぁ、私は〈マスター〉だから。この程度普通だよ」
ほら、と言って左手に刻まれた羅針盤の紋章を見せた。
見せたのだが、フードから除く表情はあまりに怪訝そうだ。“しっくりきてない顔”という他にない。
「もしかして、〈マスター〉を知らない?」
「……えぇ、ごめんなさい」
なんと。
デンドロのリリースによって〈マスター〉が一般的になったのはデンドロ内で四年半も前になり、辺境の村にさえ〈マスター〉の事は一般教養として伝わっているというのに。
「物心ついた時からこの山で暮らしてるから世間知らずで……。実は街に行ったのなんてもう何年前のことかわからないぐらいなの」
これまたなんと。
見た所二十代半ばの彼女が言うからには、二十年近くこの大自然の中で生きてきたということではないか。
「すごいね……人里離れた所に住んでいるティアンに出くわすことはままあるけど、ここまで完全に浮世離れした生き方をしているのは初めて。
ともかく、〈マスター〉ってのは……人種みたいなものかな。〈エンブリオ〉の所持とか、あらゆるジョブに適正を持ったりだとか、色々違ったりするんだよ」
「あらゆるジョブに適正って……本当に同じ人間なの……?」
言われてみてなるほど、と思う。
ゲームのプレイヤーにとって就けるジョブに偏りがない事は不思議ではないが、これはティアンの人にとってみれば「私はその気になったら戦士でも学者でも料理人でも、あらゆる分野の職業を極めることができますよー」という事に他ならない。
今までティアンからその事について言われたことはないが、冷静に考えるとぶっ飛んだ性質である。
ここで更に不死性を持つなんて言ったら全部嘘だと思いそう……よし、黙っておこう。
「まぁジョブ適正以上に〈マスター〉を〈マスター〉たらしめるのは〈エンブリオ〉かな。私の場合は……」
歩いている内に再生のクールタイムが過ぎた『羅針盤』を紋章から呼び出した時、ふと違和感がよぎった。
地図を見れば、やっぱりだ。
彼女の興味深さ故に忘れかけていたが、そろそろ《隠蔽》か《幻惑》が掛けられた地帯に踏み込んでいるはず。そこに近づけば《直感》が働くはずだ。
だがそれがない。
まさか、解除されている?だとしたら、なぜ?
「着いたわ」
そう彼女が言って、私達は木々が開けた所に着いた。
そこにあったのは館。漆黒の煉瓦に、はめ込み窓のある二階建ての洋館。
それは昨日、幻のヴェールの向こう側で夕日に染められていた館と同じもの。
まさか。
手に取っていた羅羅針盤盤の蓋を開き、蓋を影にして『羅針盤』の動きが彼女に見えないようにし、起動する。
同時に彼女に対して《看破》を使った。
その時、唐突に吹いた風が彼女の目深のフードをはがし、疑惑は確信へと変わった。
フードの下の瞳は群青、髪は月も溶けそうな夜の黒。
『羅針盤』は目の前の一人の人間に秘められた膨大なリソースを示し、《看破》は彼女の名前を暴いた。
私の《看破》に対し、彼女はまだ自分の名前を教えていなかった事に気づいたようで照れ臭そうにはにかみ、言った。
「ごめんなさい、まだ名乗っていなかったわね。私は――」
【
「もてなすような物もないけれど、羽休めしていって」
相変わらずその表情に敵意はない。
だが彼女こそが、“ラディアラ”だった。