愛は薄明の中に刹那   作:沖 一

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第十三話 刻まれる世界

□【夜興引(ヴェスパー)】ラディアラ・リベナリル

 

「《ブラッド・アーツ》!」

「《狩人よ、死すべし(シャウラ)》ァ!」

 

 体外に出した血液を右手に纏わせた私に対し、槍の男——アイス・ブレイカーとフォリウムは言っていたか——はスキルを宣言し、その穂先を青白く光らせた。突きこまれた刃を硬化させた血液で受けた時、言葉にし難い悪寒をはっきりと感じた。

 悪寒の正体も分からぬままに、ただ素早く血を手から切り離しす。

 

 悪寒は、正しかった。空中に置き去りにされた血液は、光を発する穂先が軽く触れただけと言うのに、不吉に輝く青の光は血液を塵も残さず消し飛ばす。歯車を間違った方向に回してしまったような、不快な音が響いた。

 熱とは違う、しかし紛れもない破壊の力だった。

 

「勘がいいなァ!」

 

 突きの姿勢から体勢を崩さず二度、三度。振るわれる刃は速く正確。ほんの少し触れただけで招いた決定的な破壊を目の当たりにしたと言うのに、私は危なっかしく避けるので精いっぱいだった。

 

 彼のAGIは、私に肉薄している。

 先の戦いで私のAGIを超える速度で動いていた光を扱う男は、速くとも正確さに欠ける大雑把な動き故に一撃離脱を仕掛けてきていたが、彼は違う。得た速度に順応し、槍の一振り一振りが私の四肢を狙っている。

 何よりも厄介なのが彼の攻撃は急所を狙っているのではなく、私の身体のどこかにさえ当たればいいと言わんばかりに振るわれていた。

 

 青く光る刃の軌跡に目を取られた瞬間、彼の槍の柄が私の腿を殴った。既に負傷し血の滲む傷がある脚。

 HPを温存するために《バイタル・コンバージョン》による肉体再生を行っていなかったのは失策だった。

 重なる傷の痛みに、動きが鈍った。

 

「ッハァ!」

 

 縦に振り落とされた刃が、私の髪に触れた。

 青白い光が、伝導する——

 

 その事実を認識するよりも早く、私は手刀で己の髪を斬り飛ばした。

 空になびいた髪が光に侵され、再び(ひしゃ)げるような破壊音。

 やはり、消滅した。

 

 しかし振り下ろされた槍は止まらず、勢いよく跳ね上がる。逆袈裟で襲い掛かる刃。

 避けようにも左側から迫る刃から退くには、左脚で大地を蹴るしかない。

 負傷した左脚では強く蹴れないと踏んでのことだろう。

 

 周到なことだ。

 けれど、不十分。

 

 力の入らない筋肉に代わり、《ブラッド・アーツ》で血液を操作する。局所的な血圧の変化により肉は収縮と伸張の命令に従った。

 無傷の筋力さながらの出力を発揮した脚は私の身体を押し上げた。やや無茶な機動で崩れた体勢は、残された翼を広げることで回転と重心を制御。

 果たして光の軌跡は、私の去った空間をなぞった。

 穴の開いた翼にも、まだ役割はあるのだ。

 

 ヒュウ、と口笛を吹いたのは称えたつもりか。一度距離が空き、彼は槍を持ち直す。変わらず槍は穂先を輝かせており、刃が風を切る度にあの耳障りな破壊音が聞こえるようだった。

 出し惜しみをしている余裕はなく、少なくないHPを捧げて《バイタル・コンバージョン》で左脚だけを最低限治療する。

 そんな私に、彼は語り掛けてきた。

 

「察しの通り、《狩人よ、死すべし(シャウラ)》の攻撃は固定ダメージ。中途半端に残したHPなんざ丸ごと吹ッ飛ばす。脚とは言わず、羽まで治したほうがいいんじゃねぇの」

「親切なのね。生憎、あなたのお仲間が空に飛んだ私を逃がしそうにないから」

「お仲間ねぇ……」

 

 彼は皮肉げに頬を歪めた。そこには、狼の刺青が存在を主張している……。

 

「まぁいいや、これだけやりあえるのは久々なんだ。ついてきてくれよ!」

 

 触れられてはならぬ攻防が、続く——。

 

 

□【大冒険家(グレイト・アドベンチャラー)】フォリウム

 

 ケンタウロスの弓から放たれた《ヒート・ジャベリン》を横っ飛びで躱しながら、脚部の《50/100(フィフティ)装着(ジャケット)》にのみ飛行能力による上方向の推進力を発揮させる。不自然な勢いで脚が高く上がる私は側転のように腕で地面に手をつき、そのまま切り離していた右腕部分の《50/100(フィフティ)装着(ジャケット)》をなんとか拾い上げた。側転から立ち上がり、右腕に再び装着する頃にはスレッジ・ハンマーの杖先に浮かぶ《クリムゾン・スフィア》が尾を引いて飛び出している。

 彼のMPは19万だったか。私と長々と続けた会話がそのまま《詠唱》に組み込まれていたなら、上級職の奥義魔法に込められたMPは如何ほどか。いくら優れた魔法耐性を誇る《船はともにある(アルゴー)》と言えど、直撃したいものではない。

 

 避けるべく《50/100(フィフティ)装着(ジャケット)》の飛行機能で火球を飛び越えた時、目の前に新たな炎が大写しとなった。

 

 スレッジ・ハンマー。騎乗するケンタウロスごと炎の化身となり燃え盛る彼が、杖を高く掲げて目の前にいた。

 ケンタウロスに跳躍させたのか。こちらにピタリと矢を番えるケンタウロスに乗り、彼もまたスキルを宣告する。

 【砕拳士(バウンド・ボクサー)】に即応力の優れたスキルはない。ただ迎え撃つべく、拳を振りぬく。

 

「ッッラァ!」

「《クリムゾン・スフィア》」

 

 【蓄魔手甲 スプリンガー】による《身体強化》はまだ活きている。上昇幅は最大の一万。強化されたSTRによる攻撃力は、ENDに恵まれる【猛炎騎士(ナイト・オブ・ブレイズ)】であるスレッジ・ハンマーの防御力さえ上回っている。

 そのSTRが込められた私の左拳は、彼のスキルではなく騎乗するケンタウロスが放った炎の矢とかち合った。その矢もやはり、《ヒート・ジャベリン》だったが、上昇した攻撃力と《船はともにある(アルゴー)》の耐性の前に淡く散った。

 

 だが忘れてはならない。スレッジ・ハンマーが唱えたのは《クリムゾン・スフィア》。【紅蓮術師(パイロ・マンサー)】が誇る奥義である。

 

 杖先に現れた火球が空気を食らい、轟々と燃える。今にも放たれるかと思われた火球はしかし、逆に体積を小さくした。

 

 だが熱量は衰えず。むしろ圧縮されたことで炎の温度が急激に上昇する。

 融ける鉄のような眩さは【冒険家】が閃光に対する耐性を持っていなければ【盲目】を患うほどの輝き。

 輝きが杖先で形を為し、刃となる。

 

 それは紛れもなく、炎によって編まれた騎士の得物、槍だった。

 

 輝きは振り下ろされ、軌道上には左腕があった。

 炎に気圧(けお)された、ほんの一瞬の事だった。

 

 肘から先が、炎に呑まれて消えた。

 

 ピンと張った糸でスポンジケーキを斬るよりもあっさりと、垂らしたお湯が雪を溶かすよりも素早く。

 腕と鎧が、あまりに容易く溶断されてしまっていた。

 

 もちろん痛みはない。しかし膨大な熱が——断たれた左腕よりむしろその他の部位——顔、胴、腰、脚と、その近傍を過ぎ去っていくのを焦げ付く程の熱さで感じた。

 

 思わず退いた私に、既にスレッジ・ハンマーは槍を片手に持ち、空いた手を向けていた。

 

 彼のAGIは三千以上だったか。一千程度の私より三倍も高い。計算式の都合上、そのまま彼が三倍速で動く事を意味している訳ではないが、それでも彼の動きは明らかに私より早い。

 

「《ヒート・ジャベリン》」

 

 彼の手の平、それとケンタウロスが番えていた第二矢の両方が私に命中し、叩き落された。

 胴と右手。両方に直撃した《ヒート・ジャベリン》は《船はともにある(アルゴー)》によって防がれていた。しかしそれは傷痍系状態異常が発症しない程度に、という但し書きが付く。

 そう高くないHPは削られるし、装甲越しに伝わった熱と衝撃で身体が引き攣る。右手は特にダメージが酷く、もう少しで指が全く動かなくなる所だった。そうなれば、左腕を失った今、ポーチから全くアイテムを取り出せない事になる。

 

——回復するなら、今のうちにしなくては。

 

 そう考えてポーチ型の【アイテムボックス】に手を伸ばした時、右手に刻まれた()()が目に留まった。

 

——()の紋様。《50/100(フィフティ)装着(ジャケット)》にこんなのは無いはず。これは、なに?

 

 時間で数えるのも馬鹿らしいほどの、瞬きにも満たない時間だった。それでも私の停止は迂闊と言う他なかった。

 落ちた私の真上には、槍を構えるスレッジ・ハンマーと弓を構えるケンタウロスがいる。

 

 まだ、回復はできていないというのに……!

 

「クッ!」

 

 左腕を失ったことでバランスが取りづらいが、四肢の欠損は何も初めての経験ではない。残された肘で勢いをつけて半身に起き上がり、地面についた右腕で地面を押し出す。

 リアルならともかく、この肉体の筋力(STR)ならそれだけで高速離脱が可能となる。

 事実、私の身体はバネのように打ち出された。

 

 槍を空振(からぶ)って私を見送るスレッジ・ハンマーに対し、ケンタウロスは地面に降り立った無茶な体勢のまま、弓を構えた。

 射つつもりか、しかし(やじり)は私を向いておらず、放たれる矢は到底私を狙ったものとは思えなかった。

 

 ラディアラの方でもない。

 

 それだけを見切った私は、弓から《ヒート・ジャベリン》が放たれるのを見ながらポーチから【HP回復ポーション】を取り出した。

 

——その右手を《ヒート・ジャベリン》が精密に貫いていた。

 

「え?」

 

 おかしい、と口にするよりも早く、手の中の【ポーション】が砕けて、中身が熱で蒸発した。《ヒート・ジャベリン》のまさしく槍のように太い炎は手の甲から《50/100(フィフティ)装着(ジャケット)》と内側に装備した【スプリンガー】を貫通し、魔法耐性によって減衰されたものの、針のような一筋の炎として確かに右手を貫いていた。

 

 肉を焼き貫いた《ヒート・ジャベリン》が消えた時、残された右手にもはや感覚は残されていなかった。確かにそこにあるのに、手首から先が無くなってしまったかのようだった。

 筋肉が収縮したままで硬直した拳は、指一本さえピクリとも動かなかった。

 

 貫かれた《50/100(フィフティ)装着(ジャケット)》の孔に残る、()()()()——

 

「《ブレイズ・クロス》、《サザンクロス》」

 

 間髪入れずにスレッジ・ハンマーはスキルを唱えていた。

 どちらも、今宵まだ一度も耳にしてないスキルだ。

 

 瞬間、地面が赤熱する感覚。間違いなく、蠅の時に私の首を貫いた吹きあがるジェットの炎魔法。

 しかし、彼はもう一つスキルを使用していた。

 上空に光。

 光の筋が十字に交わり、その交点が一層に煌めく——

 

「くっ、【アルゴー!】」

 

 正体不明の輝きに、私の呼び声に応えた【アルゴー】が突撃した。その船体装甲は私がまとう輝く鎧と同じ《船はともにある(アルゴー)》による物だ。

 【アルゴー】が私の直上に辿り着いたのと、十字架から光線が迸ったのは同時だった。

 輝く十字架の交点から降り注いだ光は、その衝撃によって甲板を砕き、破砕音が確かに響いたが、【アルゴー】は防御力と魔法耐性をもって防ぎきった。

 【アルゴー】はただの一条も光線を徹さなかった。

 

 だが攻撃はそれだけではない。

 地面の熱が、爆墳する。

 

 必要なのは防御じゃない、攻撃力だ。

 【スプリンガー】の《身体強化》で底上げしたSTRそのままに《ウィングド・ナックル》で地面を殴りつける。

 焼けた拳でもスキルが発動するのかは博打だったが、賭けは私の勝ちだった。

 

 拳から放たれた衝撃波の塊がほんの少しだけジェット炎を遮った。星のように輝く青い炎が、秩序(ちつじょ)()ったジェット構造を崩されたことで酸素不足の赤を呈したのも一瞬、《ウィングド・ナックル》の衝撃波も全て吹き飛ばしてジェットは隆盛した。

 しかしその一瞬で、《ウィングド・ナックル》の反動と《50/100(フィフティ)装着(ジャケット)》の飛行能力で私は退避している。輝くジェットは空を焼いた。

 

 状況は不利。攻めなくては。

 守ったら負ける!

 

「【アルゴー】、吶喊!」

「行け、《アルゴー》」

 

 上空に浮かぶ、輝く私の帆船を落とそうと呼んだ時。彼もまた、船を呼んだ。

 

 それは〈エンブリオ〉の銘ではなく、スキルの一つ。上空に半透明の帆船が突如として現れ、私の【アルゴー】と激突した。

 片や宵闇を塗りつぶさんとする輝きをそなえ、片や闇を映す無色の船体。船首をぶつけあった両者は、銘々に森の中へ落ちていく。

 

 落ちゆく【アルゴー】と《アルゴー》を見送る私が真に見ていたのは、私の【アルゴー】ではなく、彼の《アルゴー》だった。

 

 蠅、隠密能力、ケンタウロス、狼、十字架、さらにアルゴー。

 多機能な〈エンブリオ〉だ。しかしこれだけ揃えば、モチーフが何かは分かった。

 もっとも、それで優位に立てる訳でもないのだが。

 

「南天の星座、か」 

「ほう!槍を持ってなかったら拍手してあげてた所だよ」

 

 白々しいが、彼はこの時に本当に手を止めた。彼が乗るケンタウロスも、空に浮かぶ十字架も、またいつでも攻撃を放てそうに見えたが、確かにすぐさま攻撃を始める様子は無かった。

 

「気づいたのは、君もアルゴーをモチーフにした〈エンブリオ〉だからかい?」

「えぇ。名前までは想像がつかないけど」

 

 余興を楽しむように彼は話す。

 

「【片天不在 ポロフィラックス】、気になったらあとでググってみるといい。数百年前に消えた星座さ。……あぁ、必殺スキルは気にしなくていいよ。みんなデスペナしちゃった今、あまり使う意味がない代物さ」

「その時点であなたも退いてればよかったものを」

「いやいや、まだ本体は無傷だったのにおめおめと逃げていってはオーナーの示しがつかないだろう。せめてもの成果さ、彼女を殺して君も倒して、大手を振ってログアウトするよ」

 

 会話の最中、遠くでアイス・ブレイカーと戦いを続けるラディアラへ一瞥くれた彼の目に、復讐の色はまるでない。あくまでもゲームの成果物を眺めるだけの、ただそれだけの視線。

 軽く口にしたティアンの殺害という言葉も、本当にNPCを殺すだけと考えているに過ぎない。

 

 炎に蹂躙された腕に、思わず力が入った。

 

 〈マスター〉のほとんどが遊戯派だという事ぐらい、私にも分かっている。私だってついこの前までは遊戯派だった。リアリティのあるゲームと言えど、所詮はゲームだと考えていた。

 しかしラディアラは生きていた。この世界で本当に生きている一人の人間だった。

 長い時間を生きて、亡くした人を想い、この森の奥で生きる事を選び、〈UBM〉という脅威が現れても思い出が続く家を捨てられずに戦う事を選び、孤独に怯える一人の人間だった。

 

 彼女を知って、私の考えは変わった。

 

 なのに、目の前の彼は、スレッジ・ハンマーは。

 多機能にして優れた〈エンブリオ〉はきっと第六形態だろう。ジョブだって、超級職に就いて合計レベル700という域に辿り着くまで多くの苦労があったはずだ。

 私よりも遥かに長い時間を〈Infinite Dendrogram〉で過ごしたはずだった。

 なのになぜ彼には分からないのだろう。生きたいと願うティアンの想いが。

 なぜ容易く踏みにじれるのだろう。一人のティアンの命を。

 

 今更ながらに再び怒りが沸きあがる。

 

 なぜそんなにも、この世界をただのゲームだと——!

 

「あなたは……あなたには分からないの!?本当にこの世界が、ティアンが、ただの作り物だと思ってるの!?」

「いや思っていないよ、馬鹿じゃないんだから」

「は……?」

 

 私の中で吹きあがった怒りの炎が、シャッターを切ったように動きを止めた。

 

()()()()()()であるはずが無いじゃないか。……究極のリアリティ、たかがゲームの売り文句では役不足なほどにこのゲームはリアルだ。ティアンなんて最たる例だ。どこからどうみてもただのプログラムの範疇じゃない、知性と情動を併せ持つ人間そのものじゃないか」

 

——人間そのもの。

 

「なら、どうして、そこまで分かって」

「これがゲームだからだよ!ティアン殺しの罪状がリアルで裁かれるかい?裁かれないだろう?それだけで十分だよ。どんなに歴史があって、物語があるティアンだろうが、ただその一点で所詮ゲームの出来事だよ。やってみるといいさ、『この人は私が大切にしていたゲームのキャラクターを殺しました!訴えてください!』ってね。そんなおままごとに付き合ってくれる弁護士を探すのは骨が折れそうだね」

 

 挑発でもなく、ただ彼がそう思っているというだけの事だった。

 

 〈Infinite Dendrogram〉を確かに存在する世界と考えている。ティアンを人間だと考えている。

 考えた上で、彼にとってこの世界は遊戯でしかないという。

 

 無邪気と呼ぶにはおぞましい悪意だった。

 

 けれどなぜか——途端に彼が携える武器が、安っぽく見えた。

 特典武具であろう杖も、〈エンブリオ〉であろうケンタウロスも空に輝く十字架も、彼が誇る【猛炎騎士】のレベルとステータスでさえも。

 子どもに与えられた玩具みたいだ。

 

 確かに彼の方が強い。その事実に間違いは無い。

 それでも彼の強さは、吹けば倒れる張り子に見えた。

 

「フォリウム!」

 

 私の名を叫ぶラディアラの声が聞こえた。そう、フォリウム。私の名前。

 (あがた)  譲羽(ゆずりは)とは違う、この世界の私の名前。ラディアラにとっての私。

 

 超音速機動特有の、速さにそぐわぬ静かさで、いつのまにかラディアラが右隣に立っていた。剣戟によるものだろう、長かった黒髪が肩のあたりでバッサリと斬られていた。

 連戦の疲労をおくびにも出さず隣に立つラディアラが顔を向けているのは私の後方。きっとまだアイス・ブレイカーがいるのだろう。

 それぞれ真反対を見ながら並び立つ私達だったが、ラディアラの視線は私の腕に落ちていた。

 

「あなた、その腕……」

 

 ついさっきまではボロボロのラディアラを私が心配していたのに、いつの間にか私のほうがずっと酷い有様になっていた。

 左腕は肘から先が無いうえに傷口は炭化した黒に染められ、右手は炎に焼き貫かれて火傷が酷く手は閉じたままで動かせない。

 

 【アルゴー】は落ちた。左腕を失った。右手ももう開かない。

 けれど、まだ私は立っている。

 

 私が生きている。

 

 ただそれだけで、十二分。

 

「別々の1vs1×2でなく、2vs2にする気かい?コンビネーションは中距離火力のある僕たちの方が有利だけどね」

「誤射んなよ」

「そんなに下手じゃない」

 

 私達を挟んでスレッジ・ハンマーと会話をするアイス・ブレイカーへ、ふと目を向けた。

 青白い輝きを穂先に備えた槍を携え、ゆっくりとこちらに歩みを進める、頬に()()()()を刻んだ男。

 ラディアラを見れば、彼女も私を見ていた。鋭い視線から察するに彼女も気づいたのだろう。

 この戦いの突破口。

 

「ラディアラ、アイス・ブレイカーから()()()()()

「えぇ、私もそれがいいと思う」

 

 バコン、と私の脚力により地面が砕ける音と同時に、ラディアラの重心が傾く。

 ラディアラは軽やかに、私は地面を踏み砕いて、二人して弾けたように飛び出した。

 

 




スレッジ・ハンマーの行いは「〈Infinite Dendrogram〉はゲームに過ぎないから虐殺に躊躇がないローガン」などと違い、〈Infinite Dendrogram〉そのものに対する見解はフランクリンと同程度の考えを持っています。もっとも「〈Infinite Dendrogram〉が世界だからこそ踏みにじる事を容赦しないフランクリン」とは違い、あくまでも〈Infinite Dendrogram〉をゲームとしてしか見てないので世界派とも言い難いです。
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