愛は薄明の中に刹那   作:沖 一

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第十四話 To Be Continued はいらない

□【大冒険家(グレイト・アドベンチャラー)】フォリウム

 

 私はSTRによって大地を踏み砕きながら、ラディアラはAGIによって風を置き去りにして飛び出した。

 東の空は僅かに青みを帯びてきている。夜が明ければ、ラディアラに掛かっている【夜興引】によるステータス強化が失われてしまう。それに私の《船はともにある(アルゴー)》にも、そう時間は残されていない。

 

 それまでに片をつける。

 

 私達が同時同方向に向かったのはアイス・ブレイカー。槍を構えて迎撃の形を取る彼だったが、それよりも先に私達を追うようにスレッジ・ハンマーの詠唱が響いた。

 

「《サザンクロス》」

 

 スキルが唱えられると同時に、上空の十字架が輝きだす。そこからはやはり、光線が降り注ぐのだろう。しかしそれだけで手を緩めるスレッジ・ハンマーではない。彼が乗るケンタウロスから矢と化した《ヒート・ジャベリン》が放たれている。それは私の右手に刻まれた狼の紋様に狙い違わず命中する魔弾の一撃だ。

 私のAGIでは振り切れず、かといって既に貫かれた《船はともにある(アルゴー)》の鎧で防げるとも思えない。

 私に防ぐ手立ては無かった。

 

「ラディアラ!」

 

——私には。

 

「えぇ!」

 

 《船はともにある(アルゴー)》の飛行機能によりラディアラの上を位置取り、影を作る。一拍遅れて十字架から落ちてくる光の柱は、確かな衝撃はあったものの私の《船はともにある(アルゴー)》によって遮られた。けれど《ヒート・ジャベリン》は《サザンクロス》の衝撃で動きが止まった私の眼前に現れていた。

 

 しかし裂帛一閃。

 《瞬間装備》で手にした【ブランチクリース】を振りぬき、《ヒート・ジャベリン》を叩き潰すラディアラがいた。

 

 《サザンクロス》の光が晴れて、けれど砕かれた《ヒート・ジャベリン》の火の粉も散って消えぬうちにラディアラへ飛び込まんとする影。アイス・ブレイカーだ。

 

 AGIのままに飛び込んだアイス・ブレイカーだったが、《危険察知》でも発動したのか槍を振るう前に上空を、私を見上げた。

 そこにいる私は流星。急降下しながら構えるは蹴り。無論、スキルの破壊力を秘めている。

 この一撃は、AGI型のHP程度ならば消し飛ばす。

 

「《破城槌》!」

 

 果たしてアイス・ブレイカーはすんでの所で立ち止まり、空隙と化した大地に私の脚が突き刺さった。

 轟く破砕音。

 ただの蹴りと呼ぶには破壊的すぎる一撃は地面を砕きながら捲り上げた。

 

 土塊が瓦礫のように舞ってアイス・ブレイカーに襲いかかるが、彼はなお冷静に青白い光を穂先に湛えた槍を振るった。

 青の残像が煌めいた中、刃が触れた土塊に光が伝播して一瞬、塵も残さず消滅。

 

「固定ダメージ……!?」

 

 攻撃の正体を察して呟いた私の声には、隠し切れない焦燥の色があった。

 光の伝播した領域に固定ダメージを流し込む。恐らくそういうスキルだ。もしあの切っ先が《船はともにある(アルゴー)》の装甲に掠りでもすれば、魔法耐性さえ無視して私ごと消し飛ばしかねない。

 

 けれど、肉薄する。

 ラディアラも退かず、私を援護する。

 肉薄こそが、唯一の活路だからだ。

 

 捲り上がった土塊のうち、ラディアラの方へ飛んできたものがアイス・ブレイカーへと蹴り飛ばされていた。

 一直線に飛ぶ土塊は戦闘態勢の私の動体視力でさえ残像としか捉えられないほどの高速だったが、彼のAGIはラディアラと同等——音速領域だ。

 振るわれた槍の石突きが土塊を叩いて逸らし、その上で近づく私に槍を向ける時間的余裕がアイス・ブレイカーにはあった。

 

 私のAGI差では、この状況からチャージを要するスキルを発動する暇は無い。

 

 けれど、この時に限りスキルは必要なかった。

 ただ、かざせばいい。

 

 アイス・ブレイカーの槍が《船はともにある(アルゴー)》の脚部を撫でた。すかさず光が鎧全体に伝播する。

 一方で私はただ、右手を彼の前にかざしていた。

 

 そこにあるのは、スレッジ・ハンマーの攻撃で刻まれた、狼の刻印。

 アイス・ブレイカーはそれを双眼でしかと捉えた。

 一瞬の静寂。

 

「敵の敵は味方。違う?」

 

 私の口から出た言葉は、いやに響いた。

 鎧に伝播した光が、破壊を齎さずにただ輝く。

 やがてアイス・ブレイカーは()()()()が入った右頬をにやりと歪めた。

 

「確かになァ」

 

 私の鎧から青の光が霧散して、元の輝きが戻った。

 ゆらりと動いた彼の視線が私たちの向こう、スレッジ・ハンマーへ刺さる。

 スレッジ・ハンマーも胡乱げな視線でアイス・ブレイカーを見つめ返し、再び静寂が訪れた。

 沈黙を破ったのは、アイス・ブレイカーの笑い声。

 

「ハハ、確かにそうだよな。ハハハ!」

「……どういうつもりだい?」

「スレハンよぉ——」

 

 返事も半ばに、動いた。

 超音速機動で駆け出したアイス・ブレイカーが、青い残光の尾を引いてスレッジ・ハンマーへ刃を向ける。この時、確かにスレッジ・ハンマーは今宵初めて驚愕の色を浮かべた。

 

「——よく考えたら《雌突雄撃》を決めてAGIを確保した今、てめぇをデスペナした方が話早ぇわ!」

 

——ラディアラとの戦いは、クランによる狩りの趣だと言っていた。しかしアイス・ブレイカーが参戦したのは、メンバーが壊滅してスレッジ・ハンマーが本体を晒してから。今思えば不自然だったが、彼の頬にある刺青の意味を理解した今ならその理由が分かる。

——彼は正式なメンバーではなかったのだ。それも、脅すような形で手駒にしていただけに過ぎない。

 

「裏切るのかい!」

「もとよりてめぇが俺の命を握ってただけだろうが!」

 

 ケンタウロスから《ヒート・ジャベリン》が放たれた。今度の《ヒート・ジャベリン》は私ではなくアイス・ブレイカーを狙ったものだったが、追尾する炎の槍はアイス・ブレイカーに追いつけない。

 今の彼のAGIは超音速機動を可能にしている。生半可な魔法では、届かない。

 

 アイス・ブレイカーがぐるりと円軌道を描いて《ヒート・ジャベリン》を振り切りながらスレッジ・ハンマーの背後を取る傍らで、私たちも駆け出している。

 挟み撃ちだ。

 

 形勢は逆転した。2対2から3対1へ。

 私達は数の利を得た。

 しかし、それでも忘れてはならない要素がある。

 

——私やアイス・ブレイカーと違いスレッジ・ハンマーはまだ、必殺スキルを使っていない。

 

「とことんやる気なんだな、君たちは……《無貌の巨人(ポロフィラックス)》」

 

 瞬間、彼が乗るケンタウロスが消えていた。空に輝く十字架も消えていた。

 代わりに、半透明の巨人がいた。

 

 スレッジ・ハンマーが握っていた槍の炎と、アイス・ブレイカーの青い光と、私の鎧の輝きに照らされた、首無しの巨人。5メテルを超える半透明の異形の人型の心臓部にスレッジ・ハンマーはいた。

 《無貌の巨人》のSTR、AGI、ENDはスレッジ・ハンマー本人の物をそれぞれ二倍に、HPは10倍となっている。ただのスキルではありえない強化幅。必殺スキルだろう。

 しかし必殺スキルにしては、味気ない。

 

 だが、その答えは既に出ている。スレッジ・ハンマーは自身の必殺スキルに対して『仲間がいない今ではあまり意味がない代物』だと言っていた。つまり——

 

「あれは味方の強化や援護を目的とした必殺スキル!単体では大したことない!」

「具の無ぇクラッカーみてぇなもんか!」

 

 スレッジ・ハンマーの後ろを取ったアイス・ブレイカーと、ツーマンセルを組んで今も距離を詰めている私とラディアラ。前後から接近する私たちが接近する最中でありながら、スレッジ・ハンマーに焦りの色は無かった。

 

 澱みなく続けられたスキル宣告こそが真髄だった。

 

「《——右に(デクシア)祭壇(アラ)》、左に(アリステラ)南十字(サザンクロス)》》、《ブレイズ・トルーパー》」

 

 その一言だった。巨人の右肩と左肩にそれぞれ祭壇と十字架の紋様が浮かび上がり、呼応するように変化が始まった。半透明だった肉体が焔に染まり、続けて火の粉が全方位に広がる。頬をチリチリと焦がす熱気が過ぎ去った後には、巨人はいつの間にか白銀の十字架を背に持っていた。

 5メテル余りの巨体の上から覗く十字架の交点が、一際に輝く。

 

「《サザンクロス》」

 

 刹那に迸った光線に身構える猶予も無かった。スキル宣告から反応して防げたさっきまでの一撃とは全く別の、高速発動の一撃。それがスレッジ・ハンマーの後ろを取っていたアイス・ブレイカーの顔面を貫いていた。狼の入れ墨がある右頬に寸分違わず吸い込まれるように命中した光線は致命傷足りえた故にアイス・ブレイカーの【ブローチ】を破壊した。

 

 ラディアラと同等のAGIを持つ彼でさえ、反応の余地が無かった。

 

 自他問わず〈エンブリオ〉の出力を強化する必殺スキル。それが《無貌の巨人》の能力。

 

 《サザンクロス》の衝撃で後方へ吹き飛ばれたアイス・ブレイカーに《無貌の巨人》が追撃せんと距離を詰めていた。その手に握るのは炎の刃を持つ薙刀。スレッジ・ハンマーが持っていた炎の槍の刀身を更に延長させた代物だった。焔そのものである刃が、振るわれる。

 それは炎の嵐だった。空気を焼き焦がす刃の舞。巨人の薙刀は刃だけでもアイス・ブレイカーの槍よりも長く、それでいて伝説級金属(オリハルコン)さえも瞬時に溶かすだろう熱量。先の光線で【ブローチ】を破壊されたアイス・ブレイカーは、まさしく窮地に立っていた。

 

「惜しいけど、僕と共に来ないなら君はここで終いだな!」

「クソ、やってみろよ……!」

 

 言葉とは裏腹に、もはやアイス・ブレイカーが振るう槍は、攻撃とも言えぬ儚い抵抗に過ぎなかった。ラディアラと同等のAGIを持っている彼でさえ、耐え凌ぐのが精一杯。

 そして《無貌の巨人》の背で輝く十字架は、だんだんと白銀の輝きを灯し始めていた。再びあの十字架から《サザンクロス》が放たれた時、形勢は完全に決する。

 けれど何ができるというのか。私の情けないAGIに、既に敗北を喫した装甲。攻撃に転用できる武具はもちろん、アイテムでさえ何もない。仮にあったとしても左腕はとうに無く、右手も火傷のせいで握りしめた状態で強張ったまま、動かすことはできない。

 スレッジ・ハンマーに対する優位点はラディアラとアイス・ブレイカーのAGIだった。なのに《無貌の巨人》はただ巨体によってAGIの差を埋めてしまった。

 だとするならば、何なら届くというのだろう。

 

「フォリウム、私達が初めて会った時のこと覚えてる?」

 

 隣でラディアラが言った。【ブランチクリース】を左手に持ち換え、右手の傷口から杯を満たすほどの血を地面に注ぎながら、目線は《無貌の巨人》から離さずに私に語りかけていた。

 藍色の瞳は微かに震えて彼女の恐れを映し出す。しかしその奥には、目の前の敵に立ち向かう覚悟が輝いている。

 ここにいる中で唯一、命を懸けているラディアラの瞳にのみ宿る熱い光。薄明の空の様に透き通る藍色でいて、明日を望む眩い意思。

 

「私では、奴の反応速度を越えられない。でもあなたなら……《ブラッディ・ファミリア》」

 

 死を拒む意思が沸騰し、溢れ出すように、地面に出来た血だまりから影が這い出て狼に形を変えた。【ナイトウルフ】だ。

 

「時間もない。余力もない。でもここで勝たなければ、明日はない」

「……わかった。派手なのいこう」

 

 私は拳に力を込めた。そうだ、私には(ハナ)からこれしかない。

 

「《破城槌》」

 

 その宣告で、《無貌の巨人》の中にいるスレッジ・ハンマーがこちらを見た。しかし六倍撃は何にも当たらずただ空を殴り、鞭を打ったような衝撃音だけが響いた。

 それを皮切りに私達は飛び出す。私とラディアラと一頭の【ナイトウルフ】がスレッジ・ハンマーの命を狙わんと駆け出した。

 しかしスレッジ・ハンマーは焦りではなく、むしろ余裕をもって言葉を投げかける。

 

「《ハート・ブレイカー》だろう、フォリウム!《破城槌》による六倍、その更に十倍撃を当てるつもりかい!僕に、そのAGIで!」

 

 【砕拳士(バウンド・ボクサー)】はそう有名なジョブではないが、スレッジ・ハンマーは奥義まで知っていたらしい。

 そして彼の推測は正しい。私は先の《破城槌》に《ハート・ブレイカー》を発動している。

 《ハート・ブレイカー》の対生物破壊性能は上級職の域を超えるものだ。事実、私は《削岩穿》を《ハート・ブレイカー》で十倍化することで〈UBM〉だった【スプリンガー】を倒している。《無貌の巨人》のENDを持ってしても、本体がいる心臓部に直撃させれば確実に《無貌の巨人》とスレッジ・ハンマーの【ブローチ】の両方を破壊するに足るだろう。

 しかし《ハート・ブレイカー》は代償として、空振りから十五秒以内に目標に攻撃を当てなければ十倍撃は私の心臓に向けて解放される。リバウンドの一撃は一切の防御系スキル・アイテムを無効化して発動者の命を確実に奪う仕様となっていて、私も例外ではない。

 だからスレッジ・ハンマーには余裕がある。十五秒だけ近づけさせなければいいのだから。

 

 そして私達の勝機はそこにある。

 

「近づかせないさ!」

 

 《無貌の巨人》が振るう薙刀から、炎の一部が剝離して高熱斬撃として飛来する。直撃すれば私の左腕を奪った時のように容易く肉体を両断するだろう。

 銘々が散開し、ラディアラは私と【ナイトウルフ】を置いて《無貌の巨人》の間合いへ飛び込んだ。一太刀で命を奪う薙刀の焔を躱し、ラディアラは【ブランチクリース】を《無貌の巨人》へと叩きつける。しかし彼女も限界が近かった。普段のラディアラの膂力は《ブラッド・アーツ》による血液操作の恩恵を強く受けてのものだ。《ブラッディ・ファミリア》への消費によってSPも底を尽きようとしている今、彼女にいつもの剛力はなく、ただ《無貌の巨人》の右腕に止められた。

 【ブランチクリース】が腕の肉に刺さったラディアラへ《無貌の巨人》の左手が伸びていた。羽虫を握りつぶそうとするようにラディアラへと進む左手は、彼女を掴めばまさしくその通りになるだろう。

 しかし巨人の左手に煌めく青の残光。アイス・ブレイカーの槍だった。一呼吸おいて指がぽろぽろと落ちる。

 その間にラディアラは【ブランチクリース】を巨人の腕から引き抜き、離脱した。しかし二人は依然、薙刀の間合いの内にある。

 

「感謝する!」

「もっと動けよ、もっと!」

 

 短い会話の二人に向けて薙刀が振るわれたが、二人は躱す。人数が増えたことでアイス・ブレイカーにも多少の余裕は生まれたようだったが、それでも二人の攻撃は心臓部には届かず身体の末端を槍と斧で微かに削っていくにとどまった。アイス・ブレイカーの固定ダメージも高すぎるHPの《無貌の巨人》相手では相性が悪いのだろう、急所に届かない攻撃では固定ダメージを使わずに温存しているようだった。

 そしてスレッジ・ハンマーは多少の手傷をも許容して私を見つめ、最大限の注意を払っていた。

 《ハート・ブレイカー》の十五秒。ここが彼の土壇場なのだから。

 

 もう数秒もなかった。

 

 それでいてスレッジ・ハンマーの立ち回りはあくまで堅実だった。自身の周囲から離れない二人に薙刀を振るいながらも、私が無理に近づこうとすれば直ちに反応を見せるだろう。

 到底、近づくことなどできなかった。

 

 しかしラディアラ達に薙刀を振るったその時、振るったが故に私と《無貌の巨人》の間に刃の炎はなかった。背を向けていないが故に十字架も無かった。ただ一つ、私と《無貌の巨人》の間にいたのは、一頭の【ナイトウルフ】だった。

 待ちわびた瞬間だった。

 大きく踏み込んだ足が大地を掴み、限界まで引き絞った右手が【ナイトウルフ】と《無貌の巨人》を一直線上に結ぶ。

 

「《ハート・ブレイカー》」

 

 私の右手が【ナイトウルフ】の頭に叩き込まれた。

 《破城槌》の空振りによって《ハート・ブレイカー》の対象と定めたのはスレッジ・ハンマーでも《無貌の巨人》でもなく、この【ナイトウルフ】だった。

 スキルにより六十倍撃と化した拳を受けた【ナイトウルフ】は一瞬で肉体が破壊された。そして飛び散るよりも早く、頭から尾までが馬鹿げた圧力によりただの一塊になるまで圧縮され、片手に収まるほどの大きさになった。血の塊になったそれは、振り抜かれた拳の面に押されて超音速の壁をも超えた。

 

 解き放たれる。

 それは紛れもなく、ただ一発の血の弾丸だった。

 

 真意に気づいたスレッジ・ハンマーが《無貌の巨人》の肉体を動かしたが、十字架で受けることも、薙刀の炎で蒸発させるのも到底間に合わなかった。到底間に合わないほどのスピードだった。

 ラディアラ達の動体視力さえ振り切った血の弾丸は《無貌の巨人》の腹に深々と突き刺さった。

 すかさずラディアラが発動する。

 

「《ブラッド・アレスト》!」

 

 本来は網の形を経由する呪法が、肉体そのものに埋まっていることにより即時発動した。《ブラッド・アレスト》の効果は【呪縛】。《無貌の巨人》はあくまでも巨体とそれに見合ったSTR、END、AGIを持つに過ぎない。高いMPを持たない肉体をそのままに拘束した。

 身体から力を失い膝を突いた巨人に私たちは群がっていた。

 

「かませ、シャウラァ!」

 

 巨人の心臓——スレッジ・ハンマーがいる急所めがけてアイス・ブレイカーが槍を突き立て、光が炸裂した。破壊をもたらす青は、彼の槍が放てる固定ダメージのストック全てを流し込んだのだ。

 一体どれほどの量だったのだろう。青はスレッジ・ハンマーと《無貌の巨人》を接続する組織を破壊し、残りが全てスレッジ・ハンマーへと流れ込んだ。膨大な固定ダメージの破壊力。はたしてそれは、確かに届いた。スレッジ・ハンマーの懐から【ブローチ】が砕けて落ちる。

 しかしスレッジ・ハンマーもカウンターを入れんとばかりに魔法を発動していた。

 

「はじけろ!」

 

 命令は薙刀の焔へ出されたものだった。刃と化していた炎は言われるがままに弾け、その大火力で周囲を焼き焦がしていた。一歩退いたアイス・ブレイカーを責めることはできないが、しかしスレッジ・ハンマーに隙を与えた。

 けれどここを逃してはならない。

 

「畳み掛けろォ!」

「言われるまでも——《ウィングド・ナックル》!」

 

 私の拳から放たれた、拳骨そのものの威力を孕んだ衝撃波。空気を殴り飛ばし、威力余って地面を削ぎながら突き進むそれをスレッジ・ハンマーは跳んで躱した。

 

 否、跳んで躱そうとした。

 しかし跳躍点には既にラディアラがいた。【ブランチクリース】を高く掲げるラディアラが。

 

「逃がさない」

 

 振り下ろされた【ブランチクリース】は、今度こそ確かに、彼女の圧倒的な剛力が込められていた。ラディアラのSPを一滴残さず込められた最後の一撃は確かにスレッジ・ハンマーに届いた。右肩から入った大斧の刃は鎖骨を砕いて肋骨を割り、振り抜かれてスレッジ・ハンマーを地面に捨てた。

 そしてひしゃげるように地面に叩きつけられたスレッジ・ハンマーは襲い掛かる《ウィングド・ナックル》に対処する術を持たなかった。

 風を伝わった私の拳が、彼の顔面を殴る——!

 

「がうッ」

 

 ——スレッジ・ハンマーの肉体が力無く、地面に倒れた。

 

 断末魔をあげたように思えた彼だったが、驚くべきことにまだ息があった。騎士系統というEND型超級職のステータス故に為し得たのだろう。

 しかし彼はもはや死に体だった。

 立ち上がろうとするスレッジ・ハンマーだったが右肩からは音を立てるように血が吹きでていて右腕は狂ったように痙攣していた。

 二本足でやっとの思いで立った時には身体はふらついて、目は焦点が定かになっていなかった。きっと彼のステータスには【酩酊】の状態異常が浮かんでいることだろう。

 

 私が彼の下に歩いて行くまでにたっぷりの時間があったが、彼はただ、何の抵抗を示す事もできていなかった。

 彼は、目の前に立った私に向けて口を何やら動かしていたたが、それがスキルとなることは無かった。肺か喉か舌か、連撃の中でどこかやったらしかった。

 

 私は今一度、焼けた拳を握りしめた。

 

「じゃあね」

 

——《破城槌》

 

 私の拳に殴られたスレッジ・ハンマーが空に高く舞った。黎明の空、まだ陽は私達を照らしていなかったが、高く打ち上げられたスレッジ・ハンマーの身体だけが一足早く朝日に照らされていた。

 数瞬の間だけ彼は照らされ、やがてHPが尽きて、光の塵になった。

 

「《羅針盤(パイシース)》」

 

 開かない右手の上に現れた『羅針盤』は周囲のリソースを探知し、今度こそ彼が本当にデスペナルティになったことを示した。

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