ゲーム少年はぐんちゃんと遊びたい。   作:あおい安室

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本当にお待たせしました。
まーた文章かさんだ……


ゲーム少年と「懐かしのゲーム」+

 10円ゲーム。筐体内に作られたコースに投入した10円玉をパチンコではじきながらゴールを目指すゲームで、仕組みとしては非常に古いアーケードゲームである。そして、目の前にある「新幹線ゲーム2」はかつて日本中──四国は省かれていた──を通っていた鉄道『新幹線』を題材として日本中を駆け巡るコースが描かれている筐体。10円ゲームを代表する元祖にして名機である。

 

「ただ、こうしてみるのは初めてだなぁ……郡さんは?」

 

「……私もそうよ。噂には聞いていたけど実在していたのね……!」

 

「あ、二人とも知らなかったんだ」

 

 駄菓子選びが終了して店の外に出ると、いい汗かいたー、な雰囲気の高嶋さんを発見。何をしていたのか聞いてみると腰を痛めた店員の代わりにゲームコーナーへ新しい筐体を運んでいたそうな。「困っている人を助けるのは勇者部のモットーだからね!」と胸を張る高嶋さん流石です。

 その新しい筐体がまさかこんな伝説の代物とは……結構ワクワクしてる。

 

「まだ時間はあるしちょっと遊んでいこうかな。郡さんと高嶋さんはどうする?」

 

「愚問ね。私もこれはゲーマーとしていつか遊んでみたかったのよ」

 

 ニヤリと笑みを浮かべた郡さんにある意味納得しつつ、返事がない高嶋さんの方へ向くと──なぜか、複雑そうな表情を浮かべながら。

 

「私もいてもいいかな?」

 

 高嶋さんの言葉に肯定を返したけれど、表情はどこか曇っていた。

 

 

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 硬貨を入れるとチャリン、といい音が鳴り筐体内に10円が侵入。そのまま絵の中をころころと転がって『東京』と書かれたところで止まった。

 

「このゲームお金が駒になるの?」

 

「そうだよ。10円玉をここにあるレバーでパチンってはじきながら一番下のゴールに向かって落とすんだけど……」

 

 試しに最初のレバーをぐいっと引っ張って力強くはじく。十円玉は下の段に落ちず、段差を飛び越えて勢いそのまま直進。黒い穴の中へと落ちていった。

 

「レバーの引っ張り方を工夫しないとこの通り穴に落ちるんだよ」

 

「なるほど……下の方に行くと段差や穴も多いし難易度が上がるんだね」

 

「ええ、高嶋さんの言うとおり。これをレバーの力加減一つで乗り越えられるかどうか……ゲーマーとしての腕の見せ所ね、腕が鳴るわ。変わりなさい、高橋君。次は私の番よ」

 

 席を郡さんに譲る。若干ワクワクしている郡さんは効果を入れて、僕の時よりもレバーの引き具合を落として……パチン。うまく下の段に落とした。高嶋さんと一緒に小さな拍手と「おおーっ」と歓声を上げる。パチン、チャリン。あ、失敗した。郡さんが微妙な表情で振り返った。

 

「……序盤で喜ばれるのはちょっと恥ずかしいんだけど」

 

「ぐんちゃんごめんね?」

 

「えっ、褒めたらだめ?」

 

「……高嶋さんは許すわ。高橋君はダメ」

 

 理不尽! 

 

「この状況じゃなかったら許してたわよ……」

 

 この状況? はて、言われてみれば騒がしいはずの駄菓子屋が少し静かになったような。周囲を見渡すと感じるのは視線視線視線視線。駄菓子を買ったり他のゲームで遊んでいた子供たちがこちらを見ていた。あれ、なんでぇ? 郡さんは呆れながらため息まじりに呟く。

 

「新しいゲームの前で騒いでたらこうなるでしょうに……バカなのかしら」

 

 否定できんとです。ごめんなさい。三人でそそくさと新幹線ゲームの前から離れて駄菓子を食べるスペースに移動する。見ていた子供たちがわっと群がって新幹線ゲームで遊び始めた。

 

「すごい……大人気だね」

 

「面白いゲームはどれだけの時を重ねても面白いということだね。ファミコンなんかもそうさ」

 

「そう思いたいところだけど、どうだが……ただの興味本位なんじゃないかしら? 駄菓子でも食べながらまた空くのを待ちましょう。感想も聞きたいんでしょう?」

 

 そうしようかな。テーブルの上に購入してきたお菓子をバラバラと並べる。元々今日の目的は子供受けする駄菓子の調査だったし、このままだとうっかり忘れて帰るところだった。10円の安いスナック菓子、カエルのマークが描かれたスナック菓子、プチドーナツのセット、小さなスティックゼリー、三角形のせんべい、銀紙で包まれたチョコなど色々な駄菓子が勢ぞろい。

 

「わぁ……こうしてみると懐かしいなぁ。学校のみんなで遠足に行ったのを思い出すよ」

 

「わかるなぁ。駄菓子ってたった300円以内でも本当にいっぱい買えるからね。買いすぎて食べきれずに持って帰ったり友達にあげて帰るのも恒例かな」

 

「あー、そういうことあるよね」

 

「そういう物なの……?」

 

 ほんの少し驚いている郡さんの手にはグミや包装されたチョコレート、ソフトキャンディーなどがちらほら。単価が高めのお菓子が多いから僕と高嶋さんに比べると買った量は少なかった。

 

「そういう物だけど。郡さんの学校って遠足がなかったの?」

 

「……そんなところね。さぁ、つまらない話はそこまでにして食べましょう」

 

「だね。いただきまーす」

 

 高嶋さんがばりっと袋包装の駄菓子を開く。それをみんなでつまみながら感想を言い合い、気になる駄菓子をどんどんメモしていく。その中でいろいろと雑談を交わす。

 

「ふと思ったのだけど、明らかに駄菓子の値段が違うのはどうしてるの?」

 

「高いやつは一個、安いやつは何個かまとめていいようにしてる。でないと割に合わないでしょ」

 

「なるほど。その方がいっぱいいろんな味が楽しめて楽しいよね」

 

「……僕、同じ味をたくさん買う派ー」

 

「えっ!?」

 

「……ごめんなさい、高嶋さん。私も彼に同意ね」

 

「えっ!?」

 

 珍しく高嶋さんがショックを受けたり。

 

「おや、郡さんペロペロキャンディー買ったんだ」

 

「ゲームで見た時から気になってたのよ。こういう機会でもないと買うことないだろうし……」

 

「ぐんちゃん、味はどう?」

 

「普通の飴ね。甘いだけの普通の飴よ。どこか懐かしさを感じるわね」

 

「……ねえ、郡さん。飽きない?」

 

「……ちょっと飽きてる。興味本位で買ったのは失敗だったわ……」

 

「余っても私がちゃんと食べるから安心して、ぐんちゃん」

 

「ありがとう、高嶋さん。できるだけ頑張ってみるわ」

 

 それって間接キスなんじゃ? と思わなくもない事態があったり。

 

「この駄菓子包装の裏に何か書いてるよ。あたり……?」

 

「あ、珍しい。くじ付きの駄菓子は当たったらもう一個もらえるんだよ。交換してもらってきなよ」

 

「うん、新しいのもらってくるね」

 

「……ねぇ、このお菓子の棒先端が赤いんだけど」

 

「きなこ棒の当たりだね。割と当たるんだよね、それ。おめでとう」

 

「やった! また当たったよー」

 

「……高嶋さんのお菓子はどうなの?」

 

「めっちゃ当たりにくかったような……」

 

 思わぬ幸運が発揮されたりと結構な面白い出来事が起きてゆき、時間が流れて新幹線ゲームも大分空いてきた。そろそろもう一回挑戦しようかな、なんて考えていると。

 

「ごめんなさい、ちょっと席を外すわね」

 

 郡さんが席を立って駄菓子屋の中へと向かってゆく。多分……トイレかな。その間に駄菓子のゴミを片付けるとしよう。高嶋さんも意図を察して手伝ってくれたけど……表情が少し暗かった。

 

「……調子悪いの?」

 

「えっ? そんなことないよ。私はいつでも元気だよ」

 

「……それならいいけど」

 

 多分、嘘なんじゃないかと思う。表情は元気がもらえるくらいに明るい笑顔に戻ったけれど、普段のそれとは何かが違うような気がしている。もしかしてあの東郷さんみたいな友奈マニアの素質が僕にあるんだろうか……東郷さんは見てる分には面白いんだけどあそこまではちょっと……

 東郷さんにはそのうち謝らないといけない気がしてきた。だけど、今は高嶋さんに突っ込んだことを聞いてみるべきかな。多少の思い切りも……必要かな。

 

「高嶋さん。ちょっと悩みがあるんだけどいいかな」

 

「いいよー。高嶋友奈のお悩み相談室! なんてね」

 

「実はさ。郡さんと一緒に遊んでるのはいけないことなんじゃないな、って思うことがあるんだよ」

 

「えっ?! ど、どうして?」

 

 高嶋さんが凄く驚いた。少し心が苦しくなるけど、言ってしまうべきか。

 

「高嶋さんが心配だからだよ。郡さんと遊ぶようになってからちょっとだけ高嶋さんが変な気がしてさ。今日はなんかそれが顕著な気がするんだよ。その原因が僕にあるんだったら郡さんと──」

 

 別れる。それを口にしようとした時、高嶋さんの人差し指が口へ当てられた。その言葉を言ってはならない。高嶋さんの瞳がそう言っていた。

 

「ダメだよ。高橋君はぐんちゃんと一緒にいた方がいいよ。だって、ぐんちゃんは高橋君と遊んでる時すごく楽しそうだもん。でも、楽しそうに笑ってるぐんちゃんを見てると──」

 

 

 高橋君が、少し羨ましいんだ。

 

 

 ・

 

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 羨ましい。思いのままにそう言った時、自分の中にあるしこりのようなものが取れた気がした。自分でも納得している。私は高橋君が羨ましかったんだ。

 

「ぐんちゃんは私と一緒にいる時もよく笑ってくれる。私と一緒にいることがぐんちゃんにとって嬉しいんだっていうことがわかる。だけど、君と一緒に遊んでいるときのぐんちゃんの笑顔は全然違うんだ。君といる時のぐんちゃんは楽しそうに笑ってる」

 

「一緒じゃないの?」

 

「ううん、違うよ。ぐんちゃんは私にちょっと遠慮してるけど君の前では気兼ねなく笑ってる、って言ったらわかりやすいかな。きっとぐんちゃんにとって私は『大切な人』で、君は『友達』なんだよ。だから──君みたいに隣に並んで気安く笑いあえる関係が羨ましいんだよ」

 

 そう。私は高橋君が羨ましい。私には見えないぐんちゃんを見ている君が羨ましい。

 

「だったら、僕はなおさら離れた方がいいよ。郡さんには秘密にしておいてほしいんだけどね……僕は郡さんのことが好きなんだ」

 

 郡さんのことが好き。ぐんちゃんのことが好き。なんだか胸が苦しくなった気がした。

 

「それって、もしかして……」

 

「恋……ではないかな。僕は笑ってる郡さんを見るのが好きなんだ。笑ってる郡さんはすごくきれいだから、それをもっともっと見てみたいって思ってる。それがきっかけで郡さんと遊ぶようになって一つ気付いたことがあるんだ。郡さんの中心には高嶋さんがいるんだな、って。

 高嶋さんの事を話してる時の郡さんはよく笑ってる。きっと高嶋さんは郡さんの笑顔の源なんだと思う。高嶋さんがいるからこそ、郡さんは笑顔になれる。そんな気がするんだよ」

 

 私が、ぐんちゃんの笑顔の源。心当たりがなくはなかった。出会ったばかりのぐんちゃんは暗くて、周りと比べるとちょっと浮いてる感じはあったけれど、今は大分笑顔を見せることが増えたし少し明るくなった。そのきっかけは──高橋君の言う通り、私だ。

 

「だからさ。高嶋さんが困ってたら郡さんも困るし、きっと笑わなくなる。それなら僕は郡さんと別れた方がいいんじゃないかな?」

 

 なるべく自然に別れられるように頑張るからさ。そういって笑う高橋君を見て、私は──

 

「っ!」

 

 バシン、と力強く頬を叩いた。鍛えているから叩いた時すごく痛かったけど、これくらいどうってことない。高橋君がぐんちゃんと別れる。関係が元に戻る。そうすれば私とぐんちゃんの関係も元には戻るかもしれない。それを喜んでいた自分を追い出すかのように、もう一度叩いた。

 突然の行動に驚いている高橋君に、私はにっこりと笑顔を見せた。

 

「大丈夫だよ、私もっと頑張るから。ぐんちゃんにも心配されないようにしっかりと笑うようにするから。だから、高橋君は別れなくても大丈夫。これからもぐんちゃんと遊んであげて、ね?」

 

「高嶋さん……」

 

「大丈夫。だって、私は勇者だから。みんながちゃんと笑えるように頑張らないといけないから。これくらいどうってことないよ!」

 

 だから、心配しないで。そんな私の思いを――

 

 

 

「……ふっ」

 

 

 

「えっ、どうして鼻で笑ったの!?」

 

 予想外の形で受け流された。

 

「高嶋さんが勇者はないなぁーと思って、つい。高嶋さんは勇者よりも武闘家でしょ」

 

「ぶ、武闘家……確かに格闘技はやってるけど……」

 

「ゲームの勇者って大抵剣持ってるし。格闘はやっててもそれがメインの勇者とかいたかなぁ……」

 

「そうなの?」

 

「うん」

 

 ちょっと衝撃。その話だと勇者部の勇者って若葉ちゃんと風さんと夏凜ちゃんの三人だけになるどころか、部員のほとんどが勇者じゃないことに。

 

「それに、高嶋さんが勇者なんだったら一個勘違いしてる。勇者って言うのは一人で頑張ったらダメなんだよ。大抵そういうときは負けたり捕まったり石にされたりとろくなことがないから。勇者はみんなで一緒に助け合えるからこそ勇者なんじゃないかって思うんだよ。

 高嶋さんが入ってる勇者部はそういうことのためにあるんじゃないの?」

 

「――あっ」

 

「僕もさ、本音言うと郡さんと別れたくはないわけで。出来れば助けてくれると助かるなぁ――」

 

 

 勇者さん。

 

 

 高橋君はちょっぴり恥ずかしそうに笑いながら手を伸ばしてきた。

 

 助け合える、か。勇者部のみんなはそうしてるし、勇者部に入る前もそうだった。こうして一人で悩んでばっかりいるのは勇者失格、だよね。私は高橋君の手をそっと握り返した。

 

「うん、助けるよ。その代わり高橋君も――」

 

「助けるさ。力になれる限り、だけどね。これからもよろしく、高嶋さん」

 

 ほんの少し暖かかった彼の手とこの時芽生えた小さな友情は、きっと忘れないだろう。

 

 

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 ・

 

 

 さて、そんな二人から少し離れた場所。郡千景は物陰に隠れて二人をじっと見ていた。不審に思った店員が声をかける。

 

「アンタ、なにやってんだい?」

 

「……友達が真剣な話をしてたから出るタイミングを無くしたのよ」

 

「ん?となるとその間にあのゲームで遊んでたのか?」

 

「一足先に攻略して驚かせようと思ってて……」

 

「なにやってんだか。ほら、クリア報酬の金券よこしな。これでも持っておいき」

 

「何これ?酸っぱい……?」

 

「三つのガムが入ってるんだけど、一個だけはずれで凄く酸っぱいのさ。三人で遊ぶのにはもってこいの駄菓子さね」

 

「なるほど……いただいていくわ。ちなみにどれが酸っぱいの?」

 

「左か真ん中だったはずだね。右はめったにないはずさ」

 

「……感謝するわ」

 

 黒髪の少女は駄菓子を手に友達の元へと向かい、会話に混ざってゆく。あの子が先にゲームしてたことで若干男の子が怒っていたが、あれくらいは許してあげなよ。だって――

 

「本当は一番酸っぱいの、右側が多いし」

 

 遠目からでも黒髪の少女が悶絶してるのが見えた。ま、うじうじしてる少女の尻蹴っ飛ばしても罰は当たらんだろう。店員さんはカラカラと笑っていたそうな。

 

 

 

 

 

 後日。

 

「すみません、金券の補充お願いします」

 

 にっこりと笑う黒髪の少女、郡千景は大量の金券を手に店員の元を訪れていた。

 

「……どうやったんだい?」

 

「攻略テクニックを友達と研究しました。元を取るのも手慣れたものです」

 

 後ろで先日怒っていた男の子がサムズアップしていた。ニヤリと笑った少女を含めて若干イラっと来たのでしばらく10円ゲーム禁止令を出したのは悪くないと思う店員であった。

 




 10円ゲーム
 昭和の駄菓子屋を代表すると言っても過言ではない名作ゲーム。実はほとんどの筐体が電気を必要とせずバネや重りといった動力で動いているため、整備こそ必要だが導入は比較的楽だったと言われている。

 10円の安いスナック菓子、カエルのマークが描かれたスナック菓子~
 ほとんど元ネタとなる駄菓子があります。ぜひ近場の駄菓子屋に言って探してみてください。美味しいですよ。









「勇者に、武闘家か。多人数プレイには向いてないけど……RPG、ありかな。」

 季節は流れ、春から夏へ。
 みんなで遊ぶゲームだけでなく、みんなで見るゲームも、いかがですか。

「ゲームもいいけどさー。みんなで遊びに行くのもどうだ? 海とか!」

「タマっち先輩、宿題はちゃんとやったの?」

 ゲーム少年の友達も少し増えて、やることできること広がります。


 次回、第二章『夏』編、はじまります。

 
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