ゲーム少年はぐんちゃんと遊びたい。   作:あおい安室

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夏編の最初はちょっぴり息抜きな感じからスタート。



ゲーム少年の夏の始まり。


 駄菓子屋の一件から数日が経った。僕と郡さん、そして高嶋さんの関係は最初に出会った頃みたいにぎくしゃくしておらず、気兼ねなしに遊べる関係に戻った。つまり、普段通りである。ただし、人間関係は普段通りでもそれ以外の物がちょっと違うようで……今日はそんなお話。

 

 

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「おはようございまーす……」

 

「おはよー、ってどうしたのその頭!?」

 

「大雨にやられた……」

 

 早朝の教室。いつも通り教室で一人待っていた高嶋さんに声をかけるとやっぱり驚かれた。登校中に突然大雨が降りだし、傘も用意してなかったので慌てて全力疾走して何とか学校についたけど荷物をかばったから頭と服がびしょびしょである。入り口である程度絞ったけどそれでもひどい。

 

「大変だったね……最近突然雨降ることが多いよね。ヒナちゃんも洗濯物が乾かないってぼやいてたよ」

 

「わかる。うちも温泉だから貸し出しタオルやら洗濯するものは多いんだけど、この時期は室内も湿気るから大変でね。エアコンの除湿を常に回さないとジトっとしちゃう」

 

「湿気対策はやっぱり大変だよ……あ、そうだ! 授業始まるまで時間はあるし寄宿舎に行ってドライヤーで乾かしてあげるよ。少し乾かすだけでも湿気が飛んで楽になると思うしね」

 

「助かるよ。こういう時は寄宿舎暮らしが羨ましいなぁ」

 

「あはは、なんだかごめんね」

 

 高嶋さんと二人寄宿舎へと向かう。窓の外は雨がザァーザァー降り注いでいて、しばらく晴れそうになかった。帰りはどうするか悩んでいると、ちらちらと高嶋さんの視線を感じる。

 

「そんなに髪型違うの珍しい?」

 

「うん。おーるばっく、っていうのかな。髪の毛を上げてる高橋君ってなんだか新鮮だよ」

 

「濡れた前髪がうざったいから上げただけなんだけどね」

 

 頭に触れると指先が湿った。タオルは何かがあった時用に持ち歩いてるけど、それでもふき取れないほどにびしょびしょヘアーである。なんだか髪が下りてきた気もするので、ちょうどいいし髪を上げなおしていると、高嶋さんがおおーっと歓声をあげた。なんでさ。

 

「そういうのってドラマの主人公みたいでカッコいいね」

 

「そうかなぁ? 自分で言うのもなんだけど、僕って平凡な顔つきだしカッコよくないと思う」

 

「カッコいいよ。私も周りからはほわほわしてるとか言われることがあるけど、勇者部の活動で部活動の手伝いとかやってる時はカッコいいって言われたことがあるし。こう……わーっ、て気合を入れたら誰でもかっこよくなると私は思うよ」

 

 ふーむ。高嶋さんに言われるとそんな気がする不思議。

 

「あっ、今の表情いいかも。ぐんちゃんにも見せてあげたいなぁ」

 

「嫌ですよ、恥ずかしいですって。絶対郡さんにいじられる未来しか見えない」

 

「そうかなぁ……あっ、そうだ!じゃあこんなのは――」

 

 

 

 高嶋さんの提案を受けてから少し後、寄宿舎の洗面台。偶然出会った上里さんにドライヤーを借りてそのままブオーッと髪の毛を乾かしていると。

 

「高嶋さんはどこ!?」

 

 予想通り郡さんが駆け込んできた。

 

「おはようございます、郡さん」

 

「ええ、おはよう高橋君。高嶋さんは?」

 

「ごゆっくりー、とか言いながらどっか行った。どこに行ったのかはわからないなぁ」

 

「……そう」

 

 見るからにしょげた。「こうすれば恥ずかしくないよね」って言いながらオールバックにした高嶋さんと一緒に撮影した写真を送ったら見事に食いついてくれた。郡さんのことだからある程度予想はしてたけど、そんなにオールバック高嶋さんを生で見たかったのか。

 

「一応何枚か高嶋さんの写真撮ったけど……いる?」

 

「後で送ってちょうだい」

 

「了解」

 

 機嫌を直してくれたようで何より。しかし今日の郡さんはちょっと体調が悪そうだ。心なしか視線が細いというか、くたびれてるというか。

 

「……久しぶりに徹夜でゲームしてたの。おかげで少し寝不足なのよ」

 

「なるほどなぁ……実は僕も昨日は徹夜でゲームしてたり。おかげでちょっと体だるくてだるくて、今日の授業眠らずに受けれるか不安だよ」

 

 すごい不思議そうな目で見られた。なんで?

 

「今日、全学年授業休みよ。知らないの?」

 

「えっ」

 

 上里さんが妙に首傾げてたのそれか!

 

 

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 なんでも昨日の夕方に事故で校舎が一部破損したらしく、その修繕工事で急遽一日休みになったそうな。連絡が来るのが遅かったので僕は聞いていなかった、というオチ。

 

「あれ、じゃあ高嶋さんは? 寄宿舎住まいならそういうの聞いてると思うんだけど」

 

「素で間違えてたんじゃないかしら。高嶋さんはそういうところがあるし」

 

「あはは……自分でも直そうとは思ってるんだけどね」

 

 高嶋さんは照れくさそうにしていて、郡さんは画面をじっと見ながらゲームに集中していた。僕はお茶を片手にぼんやりとその光景を眺めていた。画面の中では風が吹き抜ける荒れ果てた荒野を兵士が駆け抜けている。最近発売されたゲームが設置されているここは、郡さんの自室であった。

 間違えて学校に遊びに来たのは仕方がないし、今日は休日に遊びに来たと考えることにした。そこでいつも通り広間でファミコンを遊ぼうとしたら自室に連れ込まれて現在に至る。女の子の部屋に入るのは人生初なのでこう見えて結構緊張しておりますです。

 

「……ふむ」

 

 郡さんがコントローラーを置いて一旦考え込む。画面の中では兵士が崖の上からが敵の基地らしき建造物を見下ろしていた。この前買った駄菓子をつまみながら声をかける。

 

「襲撃しかけるの?」

 

「ええ。なんとか被害を少なく済ませたいところだけど……」

 

「見た感じ敵が多そうだね。ぐんちゃん大丈夫」

 

「一筋縄ではいきそうにないわ。作戦を練る必要があるわね」

 

「なるほど。ちょっと待っててね」

 

 持ってきた通学バッグからノートを取り出す。表紙には『自習用』と書いているが中身はいろいろなゲームの攻略法を記載している僕の相棒のような存在でもあるのだ。パラパラとめくって白紙のページに素早く画面の基地を模写する。

 

「おおーっ、高橋君上手だね」

 

「ゲームで鍛えられたから記憶力と速筆には自信があってね。どうかな、郡さん」

 

「なかなかに上手ね、見直したわ。だけどいくつか抜けがあるわね……ちょっと貸して」

 

 郡さんはシャーペン片手に模写した地図に書き込んでゆく。隠れている敵や罠、地形の注意点等プレイヤーならではの知識で地図の制度が増していくのは見ているだけで楽しい。むむぅ、僕もこのゲームが欲しくなってきたぞ……。

 

「結構敵が多いんだね……大変そうだよ」

 

「正面突破ははっきり言って無理ね。穴あきチーズか蜂の巣にされるのが関の山よ。こうして迂回ルートを通るのがいいんじゃないかと思ってるわ」

 

「確かに敵は少ないけど罠の数が多いよ。見張りもいるみたいだし、時間をかけて隠れた罠とかにも警戒しながら突破するのは厳しいかな」

 

「じゃあ、警戒するのを分担してみるのはどうかな。私が左側見るから、高橋君は右側を見て怪しいところがあったらぐんちゃんに教えるとかどうだろう」

 

「「採用」」

 

 声が被ってお互いに見つめ合う。珍しいこともあるものだと思っていたら高嶋さんがくすくす笑い始めて、郡さんと一緒につられて笑った。こうしていると本当に元の関係に戻れたんだな、ということを実感する。郡さんが操作する兵士が迂回ルートへ向かっていくのを眺めながらふと思う。

 

「……こういうの、ありかな」

 

「どういう意味?」

 

「一人プレイ用のゲームをみんなでワイワイ助言しながらプレイするのもいいなー、ってね。今まではなるべくみんなで遊べるゲームを中心にやってたけどこういう遊び方も良さそうだ」

 

「……そうね。ありといえばありね。昔のゲームって調べても攻略方法が出てこなかったりするからなおさらファミコンと相性がいいんじゃないかしら」

 

「私もいいと思うよ。私は二人とは違ってゲームはそんなにうまくないけれど、見てるだけで楽しいしアドバイスとかでぐんちゃんや高橋君の役に立てるんだったらなおさらだよ」

 

「ん、じゃあ今度お金たまったらそういう感じのゲーム買ってこようかな」

 

「難しいやつでいいわよ。ゲームできる時間はこれからたくさんあるんだから」

 

 郡さんが窓の外を指さす。雨の勢いは先程と変わらず強いままだった。

 

 

 春が過ぎて季節は夏へ。夏の始まりは土砂降りの梅雨から。外出や外遊びができない分家の中で過ごす時間が増えるこの時期に、僕らは新しいゲームの遊び方を始めることになった。

 

 

 

 

 

 そういえば、どうして広間で行こうとしたら止められたのか聞いてみる。

 

「この時間帯は園子ちゃんが広間にいるのよ。あなたの存在が知られたらどうなることか」

 

「園子ちゃん……? まさか、エキセントリック乃木園子?」

 

「何そのあだ名」

 

「勇者部って結構変わってる人が多いって話題でして。割と変わってる印象が強いとのことで転校したばかりなのに有名なんですよ、乃木園子さん」

 

「ある意味納得ね……」

 

「この前屋上でぼんやりしようと思ったら屋上で寝てたのを見たことが」

 

「園子ちゃんとは会ったばかりだけど、その光景が目に浮かぶよ」

 

 それが乃木園子さんの恐ろしいところなんですよ。まともに話したことないですけど。

 

「私、あなたと一緒に遊ぶのは楽しいけど勇者部にはあなたの存在をあまり知られたくないのよ」

 

「……僕みたいなゲーム好きと一緒にいるとなんか評判悪いとか?」

 

「ち、違うから! 高橋君、恋愛ゲームはやったことはある?」

 

「苦手なジャンルだけど、それなりには」

 

「主人公とヒロインの交際が周りにバレた時の反応はどんなかんじだったかしら」

 

「割と冷やかされてたっけ。お似合いだよー、だとかお熱いねぇ、だとか」

 

「そんな感じで、勇者部は女性が多いからそういう男友達の付き合いがバレると一気に拡散されて色々とからかわれそうな気がするのよ。あなたもそういうのは嫌でしょう?」

 

 ……ふむ。ちょっと想像してみる。

 

「割といいかも」

 

「私はよくないんだけど?」

 

 久しぶりに本気の視線と冷たい視線で怒られたので気を付けます。




 園子ちゃん
『鷲尾須美は勇者である』の方の乃木園子こと小学生の方のそのっち。
小学生組も寄宿舎住みみたいですけど、学校どうしてるのか割と謎。日直があるとか発言してるシーンはありますけども。
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