……なわけありませんね。普通に遅刻しました。申し訳ない。
今回はバレンタイン特別編ことオペレーション・ビターチョコレートの続編、お察しの通りホワイトデー編となっております、が。
シナリオテイストはゆゆゆいのイベントにおけるハードモード想定。
つまりギャグテイストマシマシです。日常っぽくなるように心がけてはいますがやっぱりそういう感じになりました。
これも全部そのっちって勇者の仕業なんだ……え、違う?
ホワイトデー。バレンタインデーにチョコレートをもらった男性が女性にお返しする日であるのだが、讃州中学の場合はちょっと違う。というか勇者部のチョコレート関連がおかしい。乃木さんが大量のチョコレートをもらっていたように女性からチョコをもらっている女性が多い。
今年はお返しする女性の数が多すぎて男性が埋もれつつある異常事態である。その方がお返しも渡しやすくていいと思っていたら……
「ふっふっふ~。どんなお返しをするのか、バッチリ見させてもらうんよ~」
エキセントリック乃木園子にロックオンされていました。土下座が恒例行事になってる某悪の科学者並みにしつこい女の子相手に何とかお返しを渡していく。今日はそんなお話。
早朝の教室。いつも通り教室に向かうと珍しく高嶋さんがいなくて、上里さんがいて。
「……ということで、園子さん達に私達からあなたがチョコをもらったことがバレました」
「隠す努力はしてなかったんですか」
「したところで最後のチョコ探しは小さい方の園子ちゃんが手伝ってましたよ?」
隠しようがありませんでしたね。乃木園子二人組に僕がチョコレートをもらっていることがバレているので、今日一日は尾行されたりメモを取られたりするかもしれないから気を付けてくださいね、とのことで。一応同姓同名そっくりさんの親戚という二人の乃木園子さんとは面識はある。
どっちも小説を書いていて色々とメモを取っていることは知ってる。で、ごくまれに僕と郡さんをネタにしてメモを取っているのも知ってる。正直恥ずかしいのでやめてください。
「なのでお返しを渡す際には十分にお気を付けください」
「気を付けておきます。で、その手はなんですか」
「人が少ないうちにお返しをくれた方が色々な意味で楽ですよ?」
「え、上里さんにはさっきホワイトチョコレートあげましたよね。まさか噂の三倍返ししてほしいと?ああ見えて一箱1500円と結構高い奴なんですけど……」
「そういう意味ではないんですが……若葉ちゃんの分のお返しを今のうちにいただければな、と」
……上里さん。まさか大好きな乃木さん宛てのお返しを全部処分する気じゃないですよね。
「何やら恐ろしい想像をされている気がしますけど、私は高橋さんのことを考慮して言っていますからね?私調べによりますと今年の若葉ちゃんが渡したチョコレートの内男性宛ては高橋さん宛ての友チョコのみです。逆に男性からもらったチョコは一つもありません」
「むしろチョコレートをバレンタインデーに男性が贈る方がおかしいのでは」
「そして、ご存じの通り若葉ちゃんはたくさんのチョコレートを女子生徒からもらっているので今日はお返しでてんてこ舞いになるのですが……さて、問題です。その中に混ざれます?」
「混ざれ……いや、混ざったら周りの女の子に殺される!?」
「お気づきになりましたか。では、そういうことですので」
ニコッ、と笑う上里さんに乃木さん宛てのお返しを渡す。流石に女の子に殺されるのは御免こうむりたい。ちゃんと乃木さんに渡してくれることを願います。
「……巾着入りのキャンディーですか。なるほどなるほど……そういう意味ですね?」
「どういう意味ですか!?その笑顔すごく怖いって!」
「……ああ。大体察しました。忘れてください。と、言いたいのですが……巾着の中に入ってたこれなんです?」
「あ、うちの温泉割引チケットです。入浴代100円引き+風呂上がりのドリンクサービス。上里さんのチョコにも入れてますよ」
「商魂たくましいと言いたいところですが、女の子にお風呂来ませんか?って誘う男の人って色んな意味でどうかと思います。そういう意味でも私に渡していて正解かと」
ダメかぁ。今のうちにお返しからチケットを抜いておかなくては。
「私がチケットをもらっておきますね。今晩皆さんを連れてそれとなく高橋さんの実家に入浴しに行きますから。あ、晩御飯もそちらでいただきましょうか」
「やったー、まいどあり」
「たまには晩御飯作るのを休んでもいいですよね……最近やたらと肩が凝りますし……」
苦笑しながら肩を揉む上里さん。寄宿舎に住んでいる人たちのご飯を分担作業で作っているとは聞いたことがあるけど、こういうところを見てると勇者部のお母さん的な感じに見える。
「……何か手伝えることがあったら言ってね」
「ふふっ。勇者部五か条、悩んだら相談、ですね」
郡さんのことで悩んだら高橋さんも相談してくださいね?前向きに検討します。上里さん達勇者部の人は郡さんとの付き合いは長いとは聞いたけど、流石に恥ずかしいです。
「うーん……園子先輩が登校する前に何かあるかなーと思ってたけどこれは……メモしない方がいいかな、うん。今日からひなた先輩のお手伝い頑張ろっと」
昼休みの時間。ここまでの休み時間でもお返しを送る同級生たちはもはや今日の名物状態だったけど、昼休みはもっと多くなっている。乃木さんも上里さんも今日は大忙し。
「4組の高野さん、先月はうちの若葉ちゃんに結構な物を頂きまして、こちらはお返しです♪」
「チョコレートは美味しかったぞ。このお礼はここ以外のどこかでも返すさ。もし何か悩みがあったら勇者部に来てくれ、相談に乗ろう」
若干恐怖を感じる笑顔の上里さんに素直に礼を述べる乃木さんの組み合わせは見ていてちょっと面白かったり。あ、乃木さんは隙を見てお返しをくれたことにお礼を言ってくれました。
「乃木さんってそういうところがイケメンなんじゃないかなーと思う」
「若葉ちゃんはすごい!強い!!かっこいい!!!の三拍子が揃った勇者部のエースだしね」
「おお、リズムいいね」
そんな二人を眺めつつ高嶋さんと会話しつつ、お返し入りのバッグを持つ。
「で、本当ならここで高嶋さんにはお返しを渡したいところですが」
ちらり。
「私もそれを受け取りたいところですがー」
ちらちらり。
「「やっぱりいるよね……」」
昼休みのチャイムが鳴ると同時に教室の外へ押し寄せた乃木さん目当ての女子生徒。その中を男子生徒が突っ切るのは難しくて動けてなかったんだけど、よーく見るとやっぱり混ざっていた。
「じーっ……」「じーっ……」
ダブル乃木園子。何もしなかったら普通に尾行してくると思われるので。
「あれだな」「あれですね」
視線と手振りで乃木さんと上里さんに合図。乃木園子をロックオンした二人に回収を任せるけど、これは乃木園子さんも想定していた模様で反撃に出る。
「わぁ、見つかった!どうしましょー園子先輩!」
「焦らないでそのっち。皆、わかちゃんにGO!」
「な、なんだとっ!?待つんだ皆、少し落ち着いてく……うわぁぁぁっ!」
「そんな、若葉ちゃーーん!?」
廊下に待機していた女子生徒たちが乃木さんにお返しを持って突撃していく。嘘だろ、人の波に乃木さんが飲まれて消えた……上里さんの悲鳴も聞こえたけど二人の姿はもはや確認できず。
「うわぁぁぁぁ、大惨事だよこれ!」
「とりあえずこれで廊下は通れるようになったしひとまず教室から離れたいけど……乃木さん達どうしよう……」
「私が二人を助けるよ、私もまだぐんちゃんにお返し渡せてないから後で合流しよう!」
「わかった。頑張って高嶋さん」
「おっと、ターゲット2移動開始なんよ。尾行開始だ……ひええっ、ご先祖様!?」
「乃木……お前だけでも、逃がさん!」
「くっ、やはり止められないか……そのっち、君の雄姿は忘れないよ!」
「うわーん、置いてかないで園子先輩ー!」
後ろの様子が気になるけど振り返らない。振り向いたら即ゲームオーバーな気がする……!
<乃木園子さんの妨害を乃木さんと上里さんがかばってくれたけど時間かかりそう
<ここは私に任せて先に行け的な感じです……その後応答ありません……
<ごめんなさい
郡さんとのチャットをいったん終了する。廊下を歩いて寄宿舎に向かって郡さんに合流しようとしていたけど予定変更。乃木園子さんの尾行が続いているこの状況で寄宿舎へ向かって目的地を知られたくはない。どうしたものかなと。
「そこは私に濃厚なイチャイチャを見せてくれたらなぁ~、なんて」
「本人目の前で言うセリフですかそれは。尾行しなくていいんですか」
廊下の片隅で休憩がてら今日のお昼の焼きそばパンをかじってたら「へいへーい、お1人様発見!私も混ぜて~」とか言いながら突然乃木園子さん参上。何やってんの。
「今尾行しても何もできないでしょ?だったら一緒にお昼でもどうかな~って。後で尾行しなおすことにはなるんだし、楽しい方がいいんよ。あ、アンパン一口いる?」
「撮影して郡さんに送ってまた厄介なことにしそうだからヤダ」
「……ほほう。その手があったか。メモメモ~」
げえっ、塩を送ったか。あんパンを咥えてメモを取ったりと普通にかわいい女の子なんだけど一挙一動が予想外すぎる不思議な女の子。誰が呼んだかエキセントリック乃木園子さんのことがちょっと苦手である。こう、外見の良さを内面が全部ぶっ壊してる感じ。
「でも、メモはするけど流石にちーちゃんが悲しむことはしないよ」
「……本当に?」
「あはは、信用ないなぁ。私は結果的にみんなが怒るようなことはするかもだけど悲しむようなことは絶対にしないから……本当だよ?」
乃木さんみたいに人を安心させる笑顔を浮かべてもちょい微妙です。良くも悪くも乃木園子さんとは接点が少ないから尾行したり奇行に出る姿が印象強くていまいち信用できない。
「ほ、ほら!この前のバレンタインもなんだかんだあったけどみんな楽しんでくれたし、高橋も最後は楽しかったでしょ?やっぱり楽しいことが一番なんよ。バッドエンド、ダメ絶対!」
「とか言いながら怖いもの見たさで普通にヒロインを振る選択肢を選びそう」
「いやいや、まさか……あの、高橋くん?目の色変わってないんだけど……」
信頼度ないです。好感度ないです。残念でした。
「そんなぁー」
「それどころか攻略ヒロインに入ってないまである。有志に攻略できないのはバグ扱いされそうな雰囲気はあるけど」
「まさかの名脇役ヒロインそのっち!?」
「メインヒロインのエンドで「あの子を幸せにしてあげてね」って寂しそうにほほ笑む姿がプレイヤーの心に突き刺さる感じの名脇役」
「ぐはぁっー!」
崩れ落ちた。心当たりでもあったんだろうか。さて、焼きそばパン完食っと。近くの流しで手を洗ってハンカチで手を拭く。一応寄宿舎に向かう前に乃木園子さんの様子を見に行ってみる。
「あ、あのー。大丈夫?」
まだ崩れ落ちていた。学校の隅っこの方だから誰も見に来ないけど、これが教室の中なら多分皆何があったのか見に来るレベルの凹み具合である。
「しばらく見ない間に親友がすっごい仲のいい友達作ってたことがあってね……心当たりがあるから自分を当てはめてショックを受けちゃった……」
「……なるほどね。一つ乃木園子さんについてわかったことがある」
「えっ、私について分かった事?何それ教えて」
「切り替え早い!?えーっとね……良くも悪くも裏表がないってことだよ。自分にいつだって正直に生きてるからちょっとうらやましいかな」
僕と違って、ね。正直に郡さんのことが好きですって言えたらどれだけ楽なのことか。
「そうかなぁ~。私が羨ましいってことはその分高橋くんは一杯考えてるってことなんだよね?」
「自分ではそう思ってる、かな。考えすぎてドツボにハマることもあるし」
シミュレーションゲームでよくあるけど、それだけじゃない。郡さんや高嶋さんとの関係で色々と考えすぎた結果一時期関係にひびが入ってたこともあるし。今思えばそういう生き方をしているのが羨ましいからこの人が、乃木園子さんが苦手なのかもしれない。
「ふーむ……私は別にそれでいいと思うな~。だって、いつも自分に正直に言ってたら本音をずーっとぶつけ合うことになっちゃう。それってすごく疲れちゃうと思うんだ」
「疲れる……?」
「そう、疲れちゃってわーってなって大好きなのに喧嘩したりする。それは誰にとってもすごく辛くて悲しいこと。皆それが嫌だから本音はそっと隠しておいてね……」
一歩、二歩、三歩、と。ゆっくりと距離を詰めて。胸を人差し指で突かれた。
「かわしようのない状況でグサーッて突き刺す。そしてこう言うんだ。
「私はあなたが必要です、そばにいてください」
って。そうしたらその人とずっと親友でいたり恋人でいられるんじゃないかなーって」
「……私はあなたが必要です、か」
「以上、乃木さんちの園子さんによる告白指導でしたー」
「……はい!?」
「ちーちゃんへ君が熱いラブをぶつける日、楽しみにしてるね!」
「あ、熱いラブ!?乃木園子さん何言ってるの!?」
「もちろんその時は物陰から見守ってメモするんよ。告白の邪魔はしないから頑張ってねー」
「あ、こら、逃げるなー!!」
君も早く帰らないと授業に遅刻するよー。呼び止める声に乃木園子さんは止まることなくそれだけ言うと人混みの中へ消えていった。授業に遅刻する。その言葉に腕時計を見た。もはや寄宿舎に立ち寄る余裕はなく、スマホが震えてチャットの着信を伝える。それは時間切れの通告で。
これは後でしっかり謝らないとなぁ。午後の授業前にすごく気が重くなった。
教室への道の途中、スマホがまた震える。
はて、何があったのやら。がらりと教室のドアを開ける。
「ただいまー、ってナニコレ地獄絵図!?」
教室に入ると目についたのは吊るされてごめんなさいと呟き続ける女子生徒で、中に小さい乃木園子さんが。そして、倒れている数人の女子生徒が何人かいて目の焦点が合わないし口から変な声が漏れている。その中にいた高嶋さんを乃木さんが介抱しているんだけど……どうなってるんだ。
「おかえり高橋。このような状況で済まないな」
「ふぇぇっ……?たきゃはりひゃん……?」
「ああ、おかえりなさいませ高橋さん」
「ただいま上里さん。でこの状況何?」
「状況を見かねて隣のクラスから結城と東郷が救援に来て、東郷が手当たり次第に吊った。そしてそのままひなたと一緒に説教を始めてこの状況で、降ろそうとしても……」
「どさくさに紛れた同じクラスの方しか吊っておりません。教師が来るまでこのままです」
上里さんの怖い笑顔と乃木さんがこういう訳だ、と冷や汗をかきながら返した。上里さんは笑顔で怒るくらいならいっそ普通に怒ってください。すごく怖いんです。
「じゃあこっちの腑抜け高嶋さん達はなんなんですか……」
「結城が私を取り囲んでいた人たちを引きはがす際に変なツボを突いてしまったらしく、呼び掛けても正気に戻らないんだ……友奈もその中で偶然……くっ!私にもっと力があれば……」
「まえが、まえが、こやぎさんになってる……」
「わっしぃ……きょうはあさごはんあり……」
勇者部の元祖友奈さん&東郷さん恐るべし。乃木さんが本気で悔しがってるけどこの状況じゃ何を言ってもギャグにしかならないよ。席についてる皆も笑いそうになってるし。
「皆さん、お待たせしまし……ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
あるいはホラー。教師が腰を抜かしちゃったよ。どうするんだこれ。
教員がなんとか持ち直して授業は行われて、時は流れること放課後になり。流石に若葉さん宛てのお返しを持ってくる人の数はだいぶ減ってはいたけど、やっぱり例の乃木園子さんがいる。
「まだいるんだけど……」
「悪いが、私はもう疲れたぞ……」
若葉さんをチラリと見るもギブアップ宣言。一日中もみくちゃにされてたらそりゃあなぁ。
「申し訳ありませんが若葉ちゃんはここでドクターストップならぬひなたちゃんストップです。小さい方の園子ちゃんはすっかり反省してますのでこれで勘弁してもらえませんか?」
「ごめんなさい高橋先輩~……あの、そろそろ降ろしてくれませんか~」
「ダメです。まだお話が残っていますから」
どの道あっちの園子ちゃんも後でお説教しますし。
ぼそっと言った一言を乃木園子さんも聞き逃さなかったようで、廊下から小さく悲鳴が聞こえた。今日のひなたさんは感情のブレーキが壊れているのかかなりの頻度で黒い面が出ている……。
「えーっと、高嶋さん、行こうか。行ける?」
「な、なんとか……あうっ」
ダメだこりゃ。腰が抜けてるみたいでまともに歩けそうにない。スマホを操作しつつ廊下に出ると座り込んでガクガク震えてた乃木さんちの園子さんの姿が。
「……まだやるの?」
「こ、ここで引いたらこれまでの苦労が水の泡なんよ……!」
はぁ。多分これ言っても聞かないやつだ。どうしたものかなと頭をかいた時、ふとバッグの中に入っていたあれを思い出す。
「乃木園子さん」
「なーに?ってわわっ!」
バッグの中のお菓子を放り投げる。慌てながらもキャッチ。
「それ、見ての通りマシュマロです。ホワイトデーのお返しを万が一無くした時の予備として買ってたんですけど、それあげるので勘弁してください」
「……あ、ありがとう?えーっと、そのー、一個聞いてもいい?」
何故か乃木園子さんが戸惑っている。首をかしげていると、ちょうど呼び出した人が来た。
「お待たせ、高橋くん……と、園子さん。高嶋さんはどこ?」
「教室の自分の席。流石に僕が動かしたら不味いしお願いしていいかな」
「任せて」
教室の中へ入っていく郡さんを見届けた園子さんがそっと耳打ちする。
「あの、あまり知られてないんだけど、ホワイトデーに送るお菓子って実は隠された意味があるの知ってる?」
「初めて聞いたんだけど」
「やっぱりそうだよね……ちなみにマシュマロの意味は『あなたが嫌い』なんだよ。口に入れるとすぐに溶けちゃうから、すぐに忘れたいとか付き合っても長続きしないとか……あの、大丈夫?」
「……ヤバい、かも。あ、もちろんさっき渡したのはそういう意味じゃないからね。あなたのことは苦手ではあるけど嫌いじゃないんだけど……ヤバいよこれ……!」
「あ、あわわ……ということはもしかして……」
郡さんへのお返しはマシュマロです。やってしまった。
「ちなみにたかしーへは何を買ったの?」
「キャンディーだけど。入れ替えた方がいいかな」
「入れ替えた方がいいけどキャンディーもヤバいよ。『あなたが好き』だからもしかしたらちーちゃんかたかしーが嫉妬するかも……」
「……終わった」
若葉さん宛てのお返しをひなたさんに送った時に怒ってた感じだったのはそういうことか。なるほど、謎は溶けたなーと現実逃避する。もういっそお返し忘れたことにしようか。
「諦めちゃダメだよ。代わりのお返し手配して持っていくから待ってて」
「ありがとう……!本当にありがとう……!」
「おまたせー……ぐんちゃんの肩を借りてやっとだよ。結城ちゃんのツボ押しってすごいね……」
ちょうど高嶋さんが郡さんにもたれながらなんとか歩いてきた。乃木園子さんはバッと飛びのいてそのままどこかへと走り去っていった。
「あれ、園ちゃん行っちゃった。どうしたんだろう」
「上里さんからのお仕置きが怖いから逃げるだってさ」
「逃げ切れるとは思えないけどね……まあ、あの子にはいい薬よ。高橋くん、悪いんだけど高嶋さんの荷物を持ってもらっていい?このまま寄宿舎へ行きましょう」
「わかった。それじゃあ行こうか」
二人分の荷物を背負うとなると、凄く重たいけど今日ばかりはそれだけでなくこれまでの関係をぶち壊しかねない不安が肩に重くのしかかっていた。
「そういえば高橋くん、知ってるかしら。ホワイトデーに送るお菓子には意味があるそうよ」
「えっ」
突然郡さんから話題を振られて固まる。珍しい事なんだけど、寄りにもよってその話題ですか。
「最近やってた野球のゲームに恋愛要素があったんだけど、その中でちょっとした豆知識として紹介されていたの。もっともあまり有名じゃないから迷信程度に捕らえる人が多いみたいだけど」
「そ、そうなんだ……」
「面白そうだから、他のお返しにはどんな意味があるのかちょっと調べたのよ。あなたのお返しにはどんな意味が秘められているのか、期待してるから」
退路塞がれました。大魔王からは逃げられないというやつですか。
いつも通り寄宿舎の広間に到着。高嶋さんもだいぶ体の調子は良くなっているけどまだ少しダルそうなので、広間でゆっくり待つことにした。
「ぐんちゃん、悪いんだけどぐんちゃんへのお返し取ってきてもらってもいいかな。私の部屋のテーブルの上に置いてる白い箱なんだけど……」
「わかったわ、すぐに持って来るから」
郡さんが高嶋さんの部屋へと向かっていく。乃木園子さんの手配がいつになったら終わるかは不明だけど時間を稼ぐに越したことはないだろう。ほっと一息つくと、高嶋さんと目が合った。
「何かあったの?さっきからちょっと様子がおかしいけど……」
「わかる?」
「わかるよ。だってこれまで何度も一緒に遊んだり悩んだりしてきた友達だからね。それで調子が悪そうな振りしてたんだけど、うまくごまかせたかな」
「え、もしかして教室からの一連は全部演技だったの!?」
「えへへ……実は結城ちゃんのツボ押しって最初は体中の力が抜けちゃうんだけど、おちついてくるとからだがすっごくかるくなんるんだよ。元気と勇気が百倍だ!」
「さすが勇者部、部員は皆ただ物じゃないんだな……それなら高嶋さんには正直に言っておくべきだね。時間がないからかいつまんで説明すると――」
ホワイトデーに送るお菓子が持っている意味。それに関して説明し終えると、高嶋さんの表情が引きつった。表情がコロコロ変わる高嶋さんだけどこんな表情初めて見た。
「そ、そういうことだったんだ……。中身を入れ替えても私のことが嫌いってことになるからぐんちゃんは心配するだろうし、ダメかもしれない。園ちゃんは今どんな感じなのかな」
「電話してみていいのかな。もしかしたら今お店に走ってるのかもしれないし……」
「……あっ、そうだ。もし間に合わなかったら私がキャンディーをもらって、ぐんちゃんには私のお返しを高橋くんで一緒に買ったことにしようよ」
「いいの?」
「緊急事態だし仕方ないよ。高橋くんは園ちゃんに連絡してて。それに私が買ったぐんちゃん宛てのお返しはちょっと大きいからなんとか行けるはず」
「何がいけるはずなの?」
ビクッ、と背筋を伸びる。郡さんが広間に戻ってきていた。その手には小さなホールケーキが入るくらいの白い箱が一つ。あれが高嶋さんが買ったお返しか。
「高橋くんとゲームの攻略法について話し合ってたんだよ。えーっと、今やってるゲームの……ブロックンだっけ。最近二人が苦戦してるボスだからどうすればいいのかなーって」
「いや、あれの名前ピコピコくんだけど」
「あれあんなに強いのにそんなにかわいい名前だったの?」
「ファミコン時代のボスのネーミングってそういうのが多いから……話し合った結果としてはメタルブレードを道中温存してから使えばいいんじゃないかって感じかな。せっかくだしやらない?」
「そうね。後でみんなでやりましょうか。でも今はお返しを先にいただきましょうか」
あ、ダメだ。珍しくゲーム以外のことを優先するモードだ。
「そ、そっかー。じゃあぐんちゃんが開けていいよ。私と高橋くんからのお返しは一緒に買うことにしたんだよね。それで、意味は意識してなかったから大丈夫かちょっと不安なんだけど……」
「そうだったの?」
こくこく、と頷く。郡さんは怪訝そうにしながらも箱を開けた。中身は――
「バームクーヘン……ふふっ、バームクーヘン、か……」
「あれ、どうしたのぐんちゃん。もしかして悪い意味だったの?」
くすくすと笑い始めた郡さんに不安になるけど、郡さんは首を横に振った。
「違うわ、すごくいい意味なの。バームクーヘンは木の年輪に見えるでしょう?だから年を重ねる、成長するっていう意味があるの。つまりバームクーヘンのお返しはこれからも一緒に年を重ねていこうっていう意味。だから……これからもずっと一緒にいようって意味なのよ」
「おおおーっ……意味は調べてなかったけど、私の考えてたことと同じだよ。こういうのって運命っていうのかな」
「ええ、きっとね。もしかしてあなたは意味を知ってたの?」
「まさか。予想外の結果にちょっと驚いてるよ」
高嶋さんも驚いてるけど、これは多分縁起じゃなくてガチだ。テーブルの上に大きなバームクーヘンを置いて、次に郡さんが小さなラッピングされた箱を取り出し、高嶋さんへ差し出す。
「次は私から高嶋さんへ。受け取ってくれるかしら」
「もちろん。ここで開けていいよね」
「ええ。私が買ったお菓子の意味は『安心』なの」
ラッピングを開いて現れたのは高級感あふれるキャラメル。並ばないと買えないと言われている人気店のロゴ入りで、見るだけでその甘さが伝わってきそうな気がした。
「キャラメルは柔らかくて優しい甘さのお菓子。だから安心するイメージがあって、私にとって高嶋さんはそういう人だったから選んだんだけど……どう?」
「ありがとうぐんちゃん!私キャラメル大好きだよ!大切に少しずつ食べるね!」
「せっかくだし写真撮ってもいいかな。この箱のデザイン好みだし」
「高嶋さんがいいのなら構わないわ」
意図を察した高嶋さんは頷き、高嶋さんも写真を撮ろうとする。さっきいきなり郡さんが入ってきたから乃木園子さんに連絡が取れなかったのだ。チャットアプリを立ち上げると高嶋さんから乃木園子さんの連絡先が送られてきた。それにお返しがどうにかなった旨を記載する。
そして、送信ボタンを押そうとしたところで――
「おまたせー!高橋くんのお返し買ってきたよ!」
「「あっ」」「えっ」
勢いよく扉を開いてお菓子片手に乃木園子さん参上。いきなりの登場に戸惑う僕らだけど、郡さんは何かを察したようで。
「そういうことね。大体わかったわ……園子さん」
「ひぇっ、ちーちゃんが凄くお怒りムードだ!?」
「――と、名前を呼ばれた高橋くん」
「あ、はい」
「何か隠してるってことよね。説明してくれるかしら」
「わ、わかりましたー……」
ちなみに高嶋さんは疑わないんですね。
「高嶋さんがそんなことするわけないじゃない」
ですよね。
乃木園子さんと並んで正座し、どうしてこうなったのかを説明する。ホワイトデーに送るお菓子の意味を知ってヤバかったことを知り。代わりのお菓子を買ってきてもらう間に高嶋さんと相談し。必死に誤魔化そうとして今に至るということで。
全てを知った郡さんは逆に頭を下げていた。
「ごめんなさい。今回の原因は私にもある」
「そんなことないってば、元々高橋くんに意味を教えたのは私だし!」
「もっと言えば誤魔化そうとしたのは僕だから郡さんは悪くないって!」
「二人から見ればそうかもしれないけど、元々知名度が低い情報を持ち出そうとした私に非があるから。ふふふっ、面白いことを知って自慢しようとして迷惑をかけるとか……私らしいわね」
両手で顔を隠し諦め交じりで笑う郡さんの姿は痛々しくて。何とか励ましの言葉をかけようとしていたら高嶋さんが郡さんの隣に座った。
「ぐーんーちゃん!」
「えっ。な、なに、高嶋さん」
「あーん」
その手には先程郡さんが渡したキャラメルが一つ。
「あーん」
「あ、あの。高嶋さん?」
郡さんは状況がわからず戸惑っているが、僕もそうだ。なお、メモを取ろうとしていた乃木園子さんからメモを奪い取るのを忘れない。
「あーん」
「……あーん」
観念した郡さんはキャラメルを食べる。しばらく口の中で舐めて溶け切った頃に高嶋さんは話を続けた。
「どう、ぐんちゃん。安心した?」
「……うん。ちょっと混乱してるけど、多分」
「今回のことはみんな悪くないよ。みんながみんなのことを心配して失敗しちゃったんだから。こういうこともあるんだって教訓にして次は失敗しないように頑張ろうよ、ね?」
「高嶋さん……ありがとう。皆もごめんなさい。少し焦りすぎてた」
「私も今回はちょっとやりすぎたかなーと今更ながら反省してます……」
「乃木園子さんに同じく。色々あったんだけど……これ、受け取ってもらえるかな」
バッグから取り出したのは最初に渡す予定だったマシュマロ。こっちもそれなりに有名なお店で買ったマシュマロで味は確かなはず。郡さんはそれをちゃんと受け取ってくれた。
「ありがとう。お返しの意味抜きに、いつもあなたとは一緒に遊んでもらってるから。それも含めてあなたが思っていることも……少しはわかってるつもりだから。大丈夫よ」
「そう言ってくれるとありがたいかな。それじゃ、せっかくだしお返しをつまんでゲームでもしよっかな。いいかな、郡さん」
「当然よ。それじゃあ準備しましょうか、手伝ってちょうだい」
「オッケー。配線やるから本体に色々繋いでて」
テレビの隣の段ボールからファミコンを取り出し、僕はコードをテレビに、郡さんはコードとカセットを本体に繋いでいく。その光景を眺める高嶋さんが微笑んでいた。
「……あははっ。やっぱり二人はこうでなくちゃね。園ちゃんもやる?」
「私は見てるだけでいいかなー。もうお腹いっぱいだし。あ、買ってきたマカロン皆でどうぞー」
「おおーっ、おいしそう!みんなで分けて食べよっか。ちなみに意味は何なの?」
「意味はね――」
大切な人、だよ。
電源を入れて流れ始めたBGMと共に聞こえたその乃木園子さんの言葉が妙に印象に残った。メモを片手にコントローラーを操作してゲームを再開するパスワードを入力している郡さんを見つめながら、マカロンをかじる。イチゴ味のそれはほんのり甘かった。
マカロンの意味が大切な人なら、ここで一緒にマカロンを食べているボクたちはきっとお互いに大切な人だと思いあってるんじゃないかな、なんて思うのはロマンチックだろうか。
「……何、マンゴー味が欲しいの?」
「ボーっとしてただけだよ、気にしないで」
マカロン片手に笑っている郡さんも同じことを考えてたらいいなぁ。
……なお、余談だけど。実は僕が買ってきたマシュマロでひと悶着起きてたりする。
「あら?ねえ高橋くん、このマシュマロチョコ入ってるんだけど」
「あっ、本当だ。これ……ビターチョコかな。苦いや」
「これチョコ入りマシュマロだったんだ。てっきり普通のマシュマロかと思ったけど間違えたのかな。ごめんね、苦手だった?」
「ううん、私は好きだよ。ぐんちゃんも前に食べてたよね」
「ええ。そうなんだけど……ねえ高橋くん。本当にマシュマロの意味知らなかったの?チョコ入りマシュマロだと別の意味になるんだけど、そっちを踏まえて買ったんじゃないの?」
「なにそれ初耳だよ?私も色々な本読んだりしてるけどチョコ入りマシュマロに別の意味があるっていうのは初めて聞いたんよ」
「同じく。乃木園子さんが知らないのなら僕も知ってるわけないって」
「そう……西暦時代に作られたゲームの話だから、神世紀に伝わってなかったのかしら」
「今さらっと凄い発言聞こえたんだけど。で、意味は何なの?ここまで来たら気になるよ」
「意味、ね。意味は――『バレンタインデーに君からもらったチョコレートを、僕の優しさで包んでお返しするよ』ってこと。この優しさはマシュマロのことね」
「ほっほーう……そのっちメモによると高橋くんがちーちゃんからもらったチョコはビターチョコですなぁ」
「おおおーっ……高橋くんだいたーん」
「ご、誤解だってば!?本当にそんな意味知らなかったからね!?」
「私のこれはゲームから得た知識で、あなたもゲーマーである。それを考えると可能性はゼロとは言えないか……あははっ、いずれにしろ、あなたにも可愛いところがあるのね」
「か、可愛いって何さ!?」
「いいお返しになったわ……ふふっ、優しさで包む、か」
「郡さーん!!」
しばらく郡さんは僕を見て思い出し笑いするようになっていた。まあ、笑う郡さんは綺麗だし僕も好きだから良しとする。役得役得。……なので、それを広めないでくださいよ、乃木園子さん。
Q:そのっちの謎って結局なんですか
A:元ネタでも結局謎なんてなかった
……強いて言うならずーっと教室に放置されてた吊るされそのっち(小)。
きっとそのうち史上最大の戦い!!の中でMs.Xを名乗って世界征服してきます(嘘)。