ゲーム少年はぐんちゃんと遊びたい。   作:あおい安室

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お待たせしました。予想外に長引いてしまい、6000文字近い長編になりました。
短い話にしたかったんだけどなぁ。むぐぐ。


ゲーム少年と「尾行者」+

「高橋君。あなたの家って温泉らしいわね」

 

「一応そうですけど」

 

 放課後、寄宿舎の広間。

 今日も二人で一緒にゲームしていると、郡さんに質問された。ちなみに今日は協力プレイなので妨害はなし。郡さんには安心して背中を任せられるからある意味お気楽にプレイできる。

 

「今日遊びに行ってもいいかしら? 温泉といえば昔懐かしのアーケードゲームが定番じゃない。興味があるのよ」

 

「ああー、気持ちはわかります」

 

 珍しく郡さんがワクワクしている。が、申し訳ない。

 

「確かにうちにもゲームセンターはあるしそういうゲームもたくさん置いてたよ。だけど、今は稼働してる筐体がほとんどないから閉店中です」

 

「……えっ」

 

 ワクワク郡さんがたった一言でがっかり郡さんに進化した。させてしまった。その表情を見ているだけで心へ罪悪感がひしひしと……! 

 

「昔のゲーム筐体の修理パーツって作ってる工場が少なくて、香川県内で生産してるところは一か所だけだったんだよ。ところが、その工場が二年前の大橋の災害で大破。幸い人的被害は少なかったけどパーツなり金型なりが結構失われちゃったから工場は閉鎖。

 うちにおいてあった修理パーツでだましだまし回してたんだけど客が多いから壊れるのも早くて、去年の秋に筐体はほぼ全滅。そして、ゲームセンターは今も閉店中なんだよ」

 

「そんな……! 県外に工場はないの?」

 

「愛媛にも工場があるらしいよ。だけど今は事故で香川から愛媛への道も閉鎖中だからなぁ……そういえば高知もそんな感じで閉鎖中だっけ。実質今の香川って陸の孤島になってるなぁ」

 

「愛媛奪還作戦を早めるようにしないと……!」

 

「え?」

 

「何でもないわ、気にしないで」

 

 そういわれると気になるんだけど……まあいいか。

 

「もちろんその工場にパーツを発注してたんだけど、そこには四国中からパーツの注文が来るからパーツが届くのは僕が中学校卒業する頃になるんだってさ」

 

「そうなの。だけど、この時代でも昔のゲームが人気なのはゲーマーとして嬉しいわね」

 

「悲しいかな、工場が小さすぎるのが原因だから言うほど人気じゃないってさ。注文が多くてもパーツ製作費が結構かかったりするからあんまり儲けにはなってないって聞いたよ」

 

「せ、世知辛い……!」

 

「仕方ないよ。いくら面白くても300年位前の西暦時代に作られた骨董品レベルのゲームもあるし。そういうゲームはレプリカや改修品がなくはないけど制作費用は馬鹿にならないんだってさ。こういうのも悲しいけど時代の流れなのかな……」

 

「高橋君……」

 

 郡さんがポーズをかけてゲーム音が一時止まった。二人きりの広間に切ない空気が広がり、郡さんがじっと見つめてきた。思わず見返し、赤い瞳に見惚れていると郡さんは口を開いて──

 

「何か悪いものでも食べた? それとも足の痛みで脳に悪影響が出てるの?」

 

「郡さんの認識が地味に酷い!?」

 

 


 

 

「大人二枚、お願いします」

 

「はいはーい。男性一本と女性一本ね」

 

 購入した入浴券を馴染みの番台のおばちゃんに差し出す。ニヤニヤしながら男性用と女性用のロッカーのカギを一つずつ手渡し、こっそり耳打ちしてきた。

 

「坊ちゃん、久々に入浴しに来たと思ったら彼女連れかい?」

 

「彼女じゃないですって。からかわないでくださいよ」

 

「はいはい」

 

 これ絶対お母さんに密告されるやつだ。後々追及されるだろうけどどう誤魔化そうか。

 

 ここは実家の温泉施設こと、「讃州の湯」。香川でもかなりの規模を誇るスーパー銭湯で、平日休日問わずにいつも繁盛している自慢の店。小さい頃から番台や売店、レストランの人等うちで働いている人に遊んでもらったりしてたから「坊ちゃん」って呼ばれているのだ。

 なお、それが恥ずかしいのでここの温泉にはほとんど入っておらず、入浴は自宅のお風呂で済ませている。中学二年生になって坊ちゃんって呼ばれるのは恥ずかしいっての。

 ……経営者の家族割引とかないから入浴には普通にお金とられるのもあるけど。

 

 そんな讃州の湯に郡さんと二人でやってきたのだが。

 

「まさか本当についてくるとは思わなかった。ゲームはないけどよかったの?」

 

「別に構わないわ。寄宿舎にもお風呂はあるけど、そんなに大きくないからたまには広いお風呂に入りたいのよ。それに怪我を治すのには温泉が効くっていうのはゲームでもよくあるでしょう? あなたもしっかり浸かってその足を早く治しなさい」

 

「だからって一緒についてこなくてもいいのに……ちゃんと入るってば」

 

「本音は?」

 

「入浴費節約して新しいゲーム代にしたい……はっ!?」

 

「だと思った……後で入浴費出してあげるから安心しなさい」

 

「いやいや、いいって。流石に女の子に払わせるわけにはいかないかな」

 

「そう。じゃあこうしましょう。私が出したお金を使って新しいファミコン用のゲームを買う。それなら入浴費じゃないからいいでしょう?」

 

「むぐぅ……いやいや、それでも流石に……」

 

「マリオブラザーズは楽しいけれど、そろそろ新しいゲームをやりたくなる頃じゃないかしら?」

 

「ぐぅぅっ、ゲーマーとしてそれは同意するけども……!」

 

「強情ね……じゃあ、先輩としての命令よ。それならどうかしら」

 

 先輩……。

 

「ちょっと、なんで不思議そうな目で見るのよ」

 

「郡さんの先輩要素ってどこにあるんだろうなぁ、と」

 

「新しいゲームは対戦ゲームにしなさい。ボコボコにしてあげるから覚悟しておくことね」

 

 思いっきり地雷踏んでしまった……!

 

 


 

 

 讃州の湯は温泉の規模だけでなく、種類も香川屈指。その中には関節痛の治療に効く薬湯があるので、今日はじっくりそこに浸かることにする。

 

「はーっ……」

 

 肩まで使ってボーっと天井を眺めていると、変わった匂いがした。薬湯に使われる植物は花や果実系だとけっこういい匂いがするけど今日の薬湯は薬草系なので独特の苦い風味の匂いがする。こういうのを嫌がる人は多いんだけど、僕はこの匂いが大人みたいな感じで好きだ。

 

 しかし、対戦ゲームか。他のゲーム機ならともかくファミコンの場合地味に難しいジャンルだ。

 

 ファミコンはスペック的に厳しいからか大半のゲームが一人プレイ専用で、対戦できるゲームが意外とないのだ。探せばなくはないけど、言い換えれば探さないと見つからないくらいにソフトが少ない。元々の手持ちソフトにも二人対戦ソフトはほぼなかった。

 

 近場の店にも対戦格闘ゲームが一本あったと思うけど、あれって噂によるとキャラのバランスが悪いんだよなぁ……なんで飛び道具持ちが一人しかいないとかある意味ファミコンらしいけど。

 

「悩んでいるのかい?」

 

「あっ!お久しぶりです、三好さん」

 

 にぃっと笑って返した大人のお兄さんが近くに座った。彼は讃州の湯の常連である三好さんだ。

 

 小学生の頃、僕は成績が伸びなくて悩んでいた時期がある。その時、お母さんに頭がいい優等生の常連として三好さんを紹介されたのだ。三好さんから勉強の仕方や難しい部分を覚えるコツなどを教えてもらえたおかげで今でもそこそこ上位の成績を維持できている。

 

 そんな三好さんだけど、僕とは違ってすっかり社会人のお兄さん。二年位前から仕事が忙しいらしくてめったにここに来ていなかったから、こうして会うのも久しぶりだ。

 

「……ずいぶんお疲れみたいですね?」

 

 表情はかつての記憶と大差なかったけれど、微妙に疲れが見えた。三好さんはいわゆるポーカーフェイスの人だから疲れが目に見えるというのは彼にしては珍しいことだ。前にそんな表情を見せたのは……妹さんとの仲が悪くなった時だったか。あの時の疲れっぷりはすごかったなぁ。

 

「最近うちの職場が大規模な工事と人事異動のダブルブッキングでね。しばらくその状態が続くからうちの部署はてんてこまいさ。おかげで俺を含めて皆クタクタだよ」

 

「あらまぁ……お気の毒に」

 

「最悪なことに職場が保有している保養所――ここみたいな温泉施設も工事で閉鎖を食らったから疲労を取れる場所も職員各自で探さなきゃならない。僕は元々ここが行きつけだったからいいけど、新任でここに引っ越してきたばかりの職員はストレスが溜まってるんだよ。

 そのケアもしなくちゃならないんだが、慣れない仕事はうまくできないから苦労してるよ」

 

「だったらその職員にもここを紹介したらいいんじゃないですか?」

 

「職員が男だったら僕もそうしたさ。生憎と女性の職員だから温泉を紹介すると変な風に取られることがあるんだよ。生憎と僕はまだまだ独身でいたくてね。そういう付き合いは御免さ」

 

「……それが妹より先に結婚して変なストレスを与えたくない、っていう理由じゃなかったらちょっとはカッコいいんだけどなぁ」

 

「そんなことも言ったかなぁ。よく覚えてるね」

 

「三好さんに記憶方法を仕込まれましたからね」

 

 先程の三好さんのように笑って返す。三好さんとの雑談は大抵妹の話である。自分の妹がどれだけ可愛いか、今日はこんなことができるようになった、とか一種の成長日記のように語るのだ。三好さんどれだけ妹さんのこと好きなんだ……ある意味尊敬するよ。

 

「で、それはともかく何を悩んでるんだい?」

 

「あー……実は最近友達とファミコンやってるんですけどね。今度新しい対戦ゲームを調達することになったんですよ。ただ、何をするかの目途が立たないうえに、調達手段も同様です」

 

「ゲームが好きな君らしい悩みだな。ファミコンか……昔妹と一緒にやったことがあるね」

 

「マジですか!もしかして三好さんもゲーマーだったり?」

 

「いや、そんなにゲームはやらない方かな。妹との関係改善にならないかと思って祖父が持っていたファミコンを借りただけなんだけど、結局関係も改善しなかったのは残念だよ」

 

「あららー」

 

「妹とは対戦ゲームをやってたんだけど「手加減しないでよ」って言われたから本気でやったんだ。そうしたらすごく泣かれてねぇ……むしろ関係悪化したよ」

 

 それは手加減しなかった三好さんが悪いんじゃないかなぁ……

 

 その後も三好さんとはいろいろな話をした。最近の学校の出来事、職場の食堂のサラダが美味しくなった話とかとりとめのない話を、体がのぼせるまで、ずっと。

 

 

 そして、それを。

 

「……三好さん、か」

 

 郡さんが聞いているとは思わなかった。

 

 


 

 

 郡千景は高橋君と三好さんの会話を壁越しに入浴しながら聞いていた。偶然声が聞こえることに気づき、ふと気になってそのまま彼らの話を聞いていたのだ。二人の会話は聞いていて「友人同士」であることがわかる楽しそうな会話で、少しだけ羨ましかった。

 

「相手は夏凜の兄だろうな。以前対戦ゲームでぼろ負けしたことがあると聞いたことがある」

 

「……なるほどね。それで尾行していたことに何か反論はあるかしら――」

 

 乃木さん。乃木若葉さん。西暦時代から共に戦っている勇者。

 

「ない……本当にすまなかった」

 

 まとめているくずんだ金髪が湯につかるほどに乃木さんは頭を下げる。そう、高橋君を尾行していたのは彼女だったのだ。彼女の尾行に高橋君が気付いたのもある意味納得している。乃木さんは尾行がヘタなタイプだと思うから。多分サングラスとマスクで変装とかするようなタイプ。

 

「最近あなたが広間で彼と楽しく遊んでいたのを見たことがあった。それで私は少し……不安だったんだ。彼と千景の間に何か怪しい関係があるんじゃないか、と。だって、千景は――」

 

「昔の話をあまりしないから。今の私を見て話さない理由はわかるでしょう?」

 

 乃木さんは黙って頷いた。温泉は裸で入るもの。今の私は何一つ纏わない裸の姿を晒している。醜い傷跡が残る裸を、乃木さんに晒している。

 

「この傷跡はバーテックスとの戦闘によるものじゃないわ。幼い頃からずっと受けていたいじめの傷跡よ。そんな過去を好き好んで話せるわけ、ないじゃない……」

 

「……すまなかった。ここで見たことも聞いたことも全て忘れる。誰にも言わないと誓おう」

 

「そうしてちょうだい」

 

 会話が止まり私と乃木さんは視線を合わせることなく、向かい側にある見事な絵を見つめていた。温泉にはよくある富士の絵をなんとなく、見つめていた。

 

「……千景。一つ聞いてもいいだろうか」

 

「何よ」

 

「お前と高橋君はどんな関係なんだ?」

 

 どんな関係。そう言われた時に私は『友達』と答えようとしたけれど――言葉が出なかった。

 

 一緒にゲームしていて楽しいけれど。

 高嶋さんには彼が友達だと言ったけれど。

 彼が尾行されていると知った時は怒りが湧いたけれど。

 

 本当に私と彼は友達なんだろうか? 私が勝手にそう思っているだけじゃないのか?

 

「……わからないわ」

 

 悩む私の口から出たのは、曖昧な答えだった。

 

「彼との関係は友達……だと思うけれど。彼とは一緒にゲームしているだけなのよ。でも、たったそれだけの関係なのよ。一緒にゲームするだけしか彼とはつながりがない。

 そんな彼を私は友達って呼んでいいのかどうか。友達を知らない私にはわからないの」

 

 呟くように、絞り出すように。私が出した答えを聞いた乃木さんは――

 

「友達だろう」

 

 あっさりと言い切った。

 

「一緒に遊んで、家に遊びに行くだけじゃない。今日も彼と一緒に色々と話していたじゃないか。それに、千景があんなに優しい笑みを浮かべられる相手が友達じゃないわけがない」

 

「――あっ」

 

 その時、私は初めて気づいたのだ。彼の前ではいつも笑えていたことに。

 

「もっとも私も友達はよくわかっていないんだがな。小学生の頃は生真面目優等生だの鉄の女だの言われていたからひなた以外に友達と呼べる人はいなかったよ」

 

「一瞬でもあなたのことが凄いと思った私が馬鹿だったわ」

 

「……ここは笑うところじゃないのか?」

 

「可哀そうで笑えないわよ。他の人にその話はしない方がいいわ」

 

 難しいな、と呟いて乃木さんは首をひねる。その様子がなんだかおかしくて自然と笑っていた。

 

「ほら、そういう風に彼の前だと笑えているんだ。大丈夫、二人は友達だ。私が保証するよ」

 

「ええ、よくわかったわ。ありがとう、乃木さん」

 

「気にするな。私も千景の友達だからな」

 

 ……

 

「ど、どうして黙るんだ……!?」

 

「友達じゃなくて、仲間だと思っていたから」

 

「そ、そういうことか。嬉しいような、複雑なような……もしかして、千景がこっちの世界で一度もゲームに誘ってくれなかったのはそういうことだったのか?」

 

「あれは純粋のあなたの子孫がいるからよ」

 

「……本当にすまない」

 

 乃木若葉の子孫、乃木園子。趣味は小説を書くことなのだが、そのネタとして彼女の周りにいる人々が見せた恥ずかしい場面等をメモに書いて記録しているという書かれる人々にとっては悪い癖を持っている。当然彼女には高橋君のことは秘密にしている。もしも知られたらどうなることか。




色々と今回小ネタ仕込んでますが量が多いんでツイッターの方に乗っけます。
次回の更新ですが、そろそろリアルが磯岳氏なってくるのでだいぶ先になります……
ゆっくりお待ちいただけますと幸いです。

※感想で指摘がありましたが、若葉さんがぐんちゃんを呼ぶときは『千景』の方がこの時点では正解のようです。
 当初『千景さん』と表記しておりましたが、確認したところこの時点では『千景』呼びでした。ご迷惑をおかけしました……
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