どうして5000文字をギリギリ超えたんだろう(遠い目)
最近また日常が変化した。
「おや? 坊ちゃん今日はお早いお帰りですね」
「坊ちゃんはやめてって何度言えば……!」
「でもあたしらからしてみれば坊ちゃんはいくつになっても坊ちゃんですよ」
番台のおばちゃんからしてみればそうでしょうよ。見た目40代くらいだけど僕のおばあちゃんと同い年くらいって聞いたことがあるし……この人には一生頭が上がらない気がする。
さて、何が変わったのかというと帰るのが一時間くらい早くなりました。その理由は郡さんがゲームに誘ってこなくなったからで……悲しいです。何もした記憶がないのにここ最近全く郡さんが誘ってこない。最初は勇者部が忙しいのかな? 程度に思ってたけどもそれにしては長すぎる。
理由を郡さんに聞けたらいいんだけど、相変わらず連絡先は知らないし、詳細を高嶋さんに聞く勇気はないしで打つ手なし。仕方なく空いた時間を実家の手伝いに回しているのだ。
「……失恋かい?」
「へっ?」
「最近の坊ちゃんはなんだか物足りなさそうな顔してるというか味気ないというかねぇ。ゲームとやらに全力で熱中してた頃と比べるとだいぶつまらない男に見えるよ」
「それは自分でもわかってますけども。なんでそれが失恋と結びつくんです?」
「坊ちゃんくらいの年頃の悩みと言ったら恋か勉強の二択さね」
決めつけが過ぎるのでは。
「現にあれ以来あの黒髪の子連れてこないじゃないか?」
「普通男が女の子を温泉に連れてきませんって」
「そんなことはないよ? アタシも若い頃はよく同級生の男子に誘われてこの温泉に遊びに来てたもんさ。湯上りにビリヤードやダーツやら遊んで男の目をくぎ付けにしてた日々が懐かしいねぇ」
何やってるんですか。でもその光景が連想できるのが何とも……今でもおばちゃん美人だし。
「黒髪の子も素質はあるんじゃないかねぇ。もっと笑うようになれば男を手玉にとれるだろうね」
「男を手玉にって。郡さんがそんなことは……」
しない、と言い切りたいけども。でも僕は郡さんが笑う姿をもっと見たくて一緒にゲームしたりしているんだから、この時点で僕は郡さんに手玉に取られてるんじゃないんだろうか?
「……真剣に考えこみすぎだね。水風呂にでも入って頭冷やしてきな」
でもそういう郡さんも悪くないような……? うーん……
頭冷やした。具体的に言うと30分程水風呂でひんやり。その結果そういう目で女の子を見てはいけないという結論に達しました。普段通り、いつも通りの郡さんが一番可愛い。
「……大丈夫?」
大丈夫大丈夫。何も問題はな──
「って、高嶋さんじゃないですか」
「さっきぶりだね、高橋君」
にっこり笑う高嶋さんは相変わらず制服姿。放課後に挨拶して別れた時のままの姿……いや、ちょっと違う。珍しく髪を降ろしていて、よく見ると少し湿ってるような。
「うちに入浴しに来たんですね。なんというか……毎度ありがとうございまーす」
「あはは、いいお湯いただきました。ここの温泉すごく気持ちよくてなんだか肌もちょっとすべすべになった気がするし、肩も足も軽くなった気がするよ。これで明日からも頑張れるよ」
「それはなにより。ところで見たところ高嶋さん一人だけど、一人で来たの?」
「うん、ちょっと高橋君に用事があったからね」
高嶋さんが僕に用事とは珍しい。高嶋さんはバッグからタオルにくるまれた何かを取り出し、それをほどくと見覚えがあるアレが出てきた。白と赤の夢のマシーンこと、アレ。
「ファミコンじゃないか。もしかしてこれって寄宿舎にあるやつ?」
「うん。ソフトもRFスイッチも持ってきちゃった」
さらに取り出したのは『熱血行進曲』に電源アダプターとRFスイッチ。一式揃ってる……!
「高橋君と一緒にこの運動会のゲームやりたくて持ってきたんだ。どうかな?」
「僕は構わないけど、郡さんは呼ばなくていいの? ゲームやるんだったら郡さんは欠かせないと思うんだけど」
「……置いてきちゃった?」
「なぜぇ!?」
部活や用事があったとかじゃなくて置いてきたってどういうことよ!?
閉店中のゲームセンター。そのすぐ隣の休憩室はかつて僕がファミコンを持ち込んで暇な時はプレイしていたことがあるのだ。今は本体がないけれど、プレイに使っていたブラウン管テレビは今も変わらずそこにある。なのでここで高嶋さんとゲームすることにした。
その準備中に何故郡さんを置いてきたのかを聞いてみる。
「最近のぐんちゃんは元気がなくて。一緒にゲームやろうって誘っても「今日はいいわ……ごめんなさい……」って何度も言われちゃうから連れてこれなかったんだ」
「つ、連れてこなかった理由はそれか……」
「……あのー、なんで笑ってるの?」
「郡さんの真似がちょっとツボに入ったというか、ね……」
「そんなに似てたの!? 今度みんなの前でもやってみようかなぁ」
それはやめておいた方がいいと思う。あんまり似てないというか、必死に真似する表情が面白かったというか。うーん、正直にそれを言う勇気がないのがもどかしい。
「配線完了っと。TV1よし、GAMEよし……」
画面をノイズまみれのチャンネル1に合わせて準備完了。ガシャッ、パチン。
「よーし、起動成功! やりますか!」
「やろうやろう! 負けないよー!」
遊ぶ前から楽しそうな高嶋さんにコントローラーを渡してパパっとルール選択。流石に最強のれいほうチームは使わず、僕は1番目のねっけつチーム、高嶋さんには2番目のはなぞのチームを使わせることにしたけれども……はて? 何か忘れているような。
なんだっけか。はなぞのチームの性能だっけ? 確か足は遅い分火力が高いチーム……って結構トリッキーすぎて使いにくいチームじゃん! 初心者に使わせるチームじゃない!
ハッとして気付くも時遅し。
「えいやーっ!」
「ちょっ、待って!?」
画面内で僕が操作しているキャラが高嶋さんのキャラにボコられてた。こ、これはもしや……ハメられてるのでは? 本気出さないと勝てないどころか最下位になりかねないぞこれ!!
この時「高嶋さんが格闘ゲームがすごく強い」と言われていることをようやく思い出すも、結果は言うまでもない。クロスカントリーと障害物部屋競争はルール勘違いして全員ボッコボコにするし、玉割り競争は妨害力が半端ないし、勝ち抜き格闘大会は場外にたたき出された。
ゲームやってない人にもわかりやすく言うと 高 嶋 さ ん 無 双 。相性が良すぎる!
「ちょっと休憩にしよっか。目が疲れてきた」
「そうだね……あの、手加減苦手でごめんね?」
謝らなくて大丈夫だから。むしろ久しぶりに歯ごたえがある相手と対戦出来て燃えてきた。郡さんとの勝負も楽しいけれどこれはこれであり。軽く指をマッサージしてコキコキと鳴らし、手の調子を整えていると高嶋さんがじっと見つめてき……てないな。
「どうかしたの?」
「なんか視線を感じるような気がする」
「き、気のせいじゃないかな?」
だよねぇ……。うーん、この前のストーカー騒ぎで視線に敏感になった気がしてたけど本当に気がするだけかもしれない。部屋の中には僕と高嶋さんしかいないし……
そう、部屋の中にはいない。中にはいないだけであり。
「高嶋さんと仲良すぎじゃないかしら……!!」
「気持ちはわかるが落ち着け千景」
外には二人の様子を盗み見している黒髪少女こと郡千景がいるのであった。なお、本日はそれを呆れ気味に眺める乃木若葉も一緒である。
何故二人がここにいるのかというと、勇者部の活動を終えた二人が寄宿舎に戻ると「ファミコン借ります」と高嶋が書き残した置手紙が待っていた。当然これを見た郡は高嶋を探しに行こうとするわけで。どうも心配になった乃木もそれに同行して現在に至る。
「最近千景は彼と一緒に遊んでいなかったじゃないか。ならその分彼と友奈の関係が縮まるのは自然なことだと思うが」
「それは! ……わからなくはないけども。でもどうしてあなたが彼と一緒に遊んでないことを知ってるのかしら? まさかまた尾行してたんじゃ……」
「してない。してないからな。そもそも私は友奈だけじゃなくて彼とも同じクラスだから、教室での彼を見ている機会が多いんだ。そして、彼は千景と遊ぶ予定がある時はいつもウキウキしているからわかりやすい。逆に予定がない時はどこかボーっとしているぞ」
「そういうことね。でも乃木さんにわかるレベルでウキウキしてるとか結構子供っぽいのね」
「純粋に遊び相手がいるのが楽しいんだろう。千景もそうなんじゃないか?」
「……否定はしないけど」
少しだけ笑みを浮かべながら顔を背けた郡を見て「素直じゃないなぁ」と乃木は内心苦笑する。
「しかしどうして急に遊ばなくなったんだ?それに最近は見るからに暗いぞ」
「最後に遊んだ時、つい怒りに任せて彼をビンタしてしまったの。そのことを怒ってるんじゃないかと思って誘いにくくて……最近は他のゲームしててもそのことを思い出すから楽しくないのよ」
「そういうことか……普通に誘えばいいだろうに」
「乃木さんは神経が図太いからそう言えるのよ」
「私はさっき彼は千景と遊ぶときはいつもウキウキしていると言ったぞ? そんなあいつがその程度で怒るわけがないだろう。誘えば喜んで遊んでくれるはずさ」
「……そうかしら?」
「そうとも。それでも疑問に思うのなら――聞いてみればいいじゃないか」
乃木が休憩室の扉に視線を向けると、引き戸が開く。現れたのは苦笑いしている高橋&高嶋。呆然とする郡の視線は高嶋の手にあるスマホに向けられる。そこに表示されているのは『通話中:若葉ちゃん』の文字。続いて乃木がポケットから通話中のスマホを取り出し、郡は全てを察した――
「ハメたわね乃木若葉っ!!」
「いや、私は仕掛け人だぞ!?提案したのは友奈だ!」
「高嶋さんがそんなことするわけないでしょう!?」
「ほ、本当に私がやったんだよ? ぐんちゃんと高橋君の仲が悪くなったんじゃないかと心配で……それでアンちゃんにも相談して今回の作戦を実行してみたんだけど……ダメだった?」
「うっ……ダ、ダメじゃないけど……」
おどおどする郡さん、申し訳なさそうにする高嶋さん、若干頭を抱える乃木さん。この場が混沌とし始めたのを見て僕はため息を吐きだした。どうした物かなぁ……うんざりした表情でいると、三人が見つめてきた。よし、もうこうしちゃえ。
「めんどくさいからみんなで一緒にゲームやろっか」
「は?」「えっ?」「ん?」
「今回の一件を高嶋さんがやってようが乃木さんがやってようがぶっちゃけどうでもいいし。僕がいて郡さんがいて、ゲーム機がここにあるんだったら一緒にゲームやろうよ」
「か、簡単に片づけるわね……でも……」
「郡さんが僕をビンタしたことは僕にも非があるし気にしてないって。正直僕もやりすぎたとは思ってるし。また一緒に遊ぼうよ、ね?」
「そう言うのなら……ありがとう」
郡さんの表情が不安そうな表情から、小さく安心した笑みに変わる。その光景を見た高嶋さんと乃木さんは視線で「一件落着だな」という感じに笑っていた。
「ところで皆でするのなら誰が先にやるのかしら?」
「私は後でいいよ。ぐんちゃんと高橋君が最初でいいんじゃないかな」
「このゲーム四人でもやれるしみんなで一緒にやろうよ」
「む? だが見たところコントローラーは二つしかないんだが……」
「大丈夫だ、問題ない。こんなこともあろうかと……」
休憩室のクローゼットを開いてくたびれた段ボール箱を取り出し、中から白い物体とファミコンのコントローラーを二つ取り出す。郡さんは見覚えがあるようでそれが何か気付いた。
「マルチタップとジョイカード!」
「正解。周辺機器は親戚の家に送ってなかったみたいで見つけた時はほっとしたよ」
マルチタップ。昔のゲーム機の周辺機器にはおなじみの代物で、四人プレイ用にコントローラー接続端子を増やす周辺機器。あまり知られてないけど実はファミコンにもあるんだよね。ジョイカードっていうのはそれに接続できる外付けコントローラーだと思ってくれれば。
「ほう……物持ちがいいんだな、高橋。見たところ新品みたいに綺麗だな」
「昔友達と一緒に遊ぶ用にピカピカのやつをお年玉で買ったからね。一緒に遊んでくれる友達は郡さんに出会うまで一人もいなかったけど」
「……今日はみんなでいっぱい遊ぼうね」
高嶋さんと乃木さんの優しい視線が身に染みる……!!
おまけ。
「あ、乃木さんは初心者だから最強のれいほう使っていいよ」
「お言葉に甘えるとしよう。ファミコンか……触るのは初めてだな」
「私ははなぞのにしようかなー。ちょっと使ってみたらタイプだったしね」
「なら私はねっけつね。シンプルなチームだからこそ腕が問われるというものよ」
「僕は残ったれんごうか。あ、郡さん良かったら乃木さんボッコボコにするから手貸して」
「わかったわ」
「!?」
郡さんは許したけど、乃木さんは尾行してたこと許してないので。
今回も小ネタ入れすぎた……ので解説は長くなります。
男を手玉に~
あんまり言いたくないしやりたくないけれどぐんちゃんの母親のあだ名がアレなので……
TV1よし、GAMEよし……
ファミコンの裏には小さいスイッチが二つあり、それを確認していました。
TV1:ファミコンの映像を映すチャンネルのスイッチ。1番(TV1)と2番(TV2)に変更可能。
GAME:ゲームの映像を映すか普通のチャンネルを映すか変更可能。ゲームを起動したままテレビ番組を見るとかできたのです。
アンちゃん
「これは園子先生のネタになる予感……!!」
「あ・ん・ず・さ・ん?」
作戦に若葉ちゃんが絡むと聞いてあの人が出動した模様。
マルチタップ
実はファミコン用はそこそこ種類がある。今でも連射コントローラーなどを制作している会社が作ったやつもあったり。
ジョイカード
ファミコンの外付けコントローラーとして有名な連射機能付きコントローラーのこと。
正式名称は『ジョイカードMk.2』。実はマルチタップはあってもそれ用の純正コントローラーはないので当時の子供たちはこういうのを使っていたそうな。
乃木さんは尾行してたこと許してないので
「この度はうちの若葉ちゃんがご迷惑をおかけしました……!」
「尾行の犯人乃木さんだったのか」
「えっ?」
乃木さんは事情がアレなので言いにくくまだ謝っていなかったそうな。
次回の更新ですがガチで時間がかかります。一か月超えるかも知れない……気長にお待ちください。