れんげ「ひか姉の様子がおかしいのん....」ガヴリール「『最近の同級生の様子が少しおかしいんだが』ってスレ立てとこ」   作:開屋

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めんどうな誤解を受けた

「何だ、もう帰るの?」

 

「ああはい、元々ちょいと顔合わせたら帰るつもりでしたし」

 

「でもゆっくりひかげの顔見れなかったんじゃないの?」

 

「そ、そんなんじゃないですってば。あと今のひかげには少し優しくやってください」

 

 夏海の追い打ちのせいで引き篭もった可哀そうなヴィーネのいる部屋の方を楓は横目で見る。

 

「また何かあったんかい......まぁとりあえず分かったよ」

 

「それじゃ、失礼します」

 

 そう言って楓は去って行った。図らずもヴィーネに精神的な大きい傷を残して。

 

 

 

 

 どうしよう、どんな顔して戻ってくればいいんだ......きっとあの人たちは私が部屋から出てきたら何事もなかったかの如く振る舞うだろう。いっそネタにしてほしい。いやでもやっぱりそれはそれで勘弁してほしい。

 

 このクソ面倒くさいジレンマに苛まれながらヴィーネは顔を押さえて床の上を転げ回る。自分のあるあるをラフィに話して全く共感されなかったことを思い出した。二段階で恥をかいたという点では正直あの時より今の方がキツい。

 

 さすがにこの状況からこの部屋に入ってくる人はいないだろう。もう少し一人でいよう....あぁ私は砂にでもなりたい......

 

 

 

 

 

 ヴィーネが引き篭もるまでの一連の流れの当事者である夏海と、それを見ていた小鞠と蛍が三人で話し合っている。主にヴィーネのアフターケアをどうするかについてだ。

 

「全くもう何やってんのさ夏海」

 

「しゃーねぇじゃん。ウチはウチなりにひか姉のフォローしてあげようと思ったんだって」

 

「でもどうしましょう......ひかげさん出てくる様子ありませんよ」

 

「呻き声みたいなのは部屋から聞こえてくるんだけどね....」

 

「うーん、あん時は何も言わない方が良かったんかなぁ」

 

「そうだよ、あそこは声掛けるべき場面じゃなかったって」

 

「ああ、そういや文化祭の時の姉ちゃんの腹だい——」

 

「それ以上言うな!」

 

「あはは......とりあえず今はそっとしておきましょうか」

 

「......」

 

「そうだね。ってどうしたの夏海?」

 

 何か考えている様子の夏海を見て小鞠が尋ねる。

 

「いや、やっぱおかしいって」

 

「おかしいって、何がですか?」

 

「ひか姉だよ。いつものひか姉はここまで落ち込むことないと思うんだ」

 

「そうかなぁ、恥ずかしいことした後の他人のフォローって結構深く刺さるもんだよ?」

 

 経験者は語る。

 

「いや、それは分かってるよ何となく。だけどウチが思うにひか姉はここに帰ってくる『前』に何かあったんじゃないかなって思うんだ」

 

「何かって何さ?」

 

「さすがにそこまではウチにも分からないけど......その前に何かあったんならメンタルが弱くなっててもおかしくないじゃん?だからちょっとその辺りのことをひか姉から引き出そうと思うんだ」

 

「でもそれってかえって逆効果じゃ......」

 

「だーいじょうぶだって!ウチの話術でバッチリ解明させるって!内容は今から考える!多分もう少しは出てこないでしょ」

 

 

 

 

 

 

 ヴィーネが部屋に篭もってまぁまぁ時間が経った。当人もさすがにずっとこのままでいる訳にはいかないと思っているらしく、そろそろ出てこようとは考えていた。きっともう大丈夫、みんな優しいしこれまでと同じように振る舞ってくれるはず。

 

 そう決心したヴィーネは戸を開いてようやく部屋から出た。そして真っ先に人のシルエットが目に入った。

 

「あっ!え、えっと思ったより早かったねひか姉。その、さっきはごめん。気にしないでね」

 

 夏海である。何か相当動揺してる。この様子だと恐らくさっきの件で私だけじゃなくて夏海の方も動揺しているに違いない。

 

「え?ああ、うん。大丈夫だって。気にしないで」

 

 ヴィーネの方もぎこちない返事をしてしまう。間違いなく両者にとって悪手である。

 

「そ、そう?それなら良かったんだけど。あはは......」

 

 そう笑って夏海は向こうへ行ってしまった。どうしようこの空気!?何か物凄くいたたまれない雰囲気になってるんだけど!?呼び止めた方がいいのかな?いやでもその後に掛ける言葉も思いつかない、連敗中のチームの采配の如く何をやっても上手く行くビジョンが見えない。結局去っていく夏海の後ろ姿を眺めることしかできなかった。

 

 

 

 

 

「何やってんのさ夏海!自慢の話術とやらは何だったの!?結局何も分かんなかったじゃん!」

 

「しょ、しょーがねーだろ!あの状況で逆にどう切り出しゃ正解になるんだよ!?」

 

「ま、まぁまぁ二人とも一度落ち着いてください....とりあえず今だけはそっとしておきましょう」

 

「だね....今はほたるんの言う通りだ」

 

「三人で何話してるのん?」

 

 突然れんげが会議に入って来た。今れんげにこの状況を伝えるのは逆効果になり得ると考えた三人は『何もなかった』と、誤魔化す。下手に状況を知られようもんなら、れんげの無自覚精神ブレイクが始まってしまいかねないからである。のだが、

 

「そうだれんちょん、ちょっと頼みごとがあるんだけど」

 

 夏海がまた何か思いついたらしい。

 

「どうしたのん?なっつん」

 

「ちょっとひか姉にさ、『東京はどうだったか』ってもう一回聞いてみてくれない?」

 

「ちょっと夏海!? あんた今度は何企んでるのさ」

 

「考えてみ?最初にひか姉に向こうの様子を聞いた時は確かに『特に変わったことはなかった』って言ってたじゃん?でもまだあの時はひか姉がネタバラシをする前だった。でも今だったら話は変わってくるじゃん?」

 

「そう、かもしれないけど......」

 

「だから今聞いたらこれまで通りの返事が来ると思うんだよ。それでれんげはひか姉からの話を興味があるフリをして聞けばいい。そしたら多分ひか姉のテンションも上がるとは思うんだ」

 

「うーん、一理あるっちゃあるかもしれないけど......ホントにそんなんで大丈夫なの?」

 

「物は試しだ!てなわけでれんちょん、行って来い!」

 

「わ、わかったのん。これもひか姉のためだのん」

 

「本当に大丈夫ですかね......?」

 

「へーきだって、ひか姉向こうでの話をする時はすごいイキイキしてるからさ....でもこれで逆にさっきと同じ反応だったら向こうで何かがあったとも考えざるを得ないけど......」

 

 謀略を企てる策士のような凛とした顔で夏海は小さく笑った。明らかにシチュエーション錯誤である。

 

 

 

 

 

「ひか姉ひか姉!」

 

 色々考えていた矢先、突然れんげがこちらに向かってくる。

 

「わっ!?ビックリした......どうしたの?」

 

「向こうでのお話もっと聞きたいのん」

 

 また聞かれてしまった。最初聞かれた時は何もない、と返事したけど何かエピソードを求めているというのだろうか?だがどことも知れない場所の話をするのはあまりにも危険すぎる。かといって何もないと言うのもれんげに味気ない思いをさせてしまうのではないだろうか。

 

 安牌な話のタネが思いつかない。ゼロから何かを生み出すのはこんなにも難しいことなんだなぁ......現実逃避している場合じゃない。何か言わないと....向こうとここの違い......そうだ。この答えならば誰かを傷つけることもない。ヴィーネは優しく笑って言う。

 

「そうね、向こうもここもいいけど、やっぱりここみたいにゆったりした所はすごく気が休まって落ち着くわね」

 

 

 

 

 

 この瞬間三人は察した。向こうでひか姉に何かあったのだと。

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