れんげ「ひか姉の様子がおかしいのん....」ガヴリール「『最近の同級生の様子が少しおかしいんだが』ってスレ立てとこ」 作:開屋
「何よ、他人の顔見ていきなり『うげっ』なんて失礼なものね」
「そりゃお前の顔見りゃタプリスも心中穏やかじゃないだろ」
また新しいのが出てきた......多分天使だろうか?先輩と呼んでる辺りどうやらこの子、タプリスと呼ばれてるのは一年生のようだ。
「偶然ねタプちゃん。今ちょうど四人で学食行こうとしてたの。一緒にどうですか?」
ラフィがタプリスとやらを誘う。
「ご、ご一緒させてもらってもいいんですか?」
「もちろんですよ!ね?サターニャさん?」
「別にいいわよ。タプリスがその気ならばね」
そうサターニャが言うとタプリスは何か複雑な表情をする。この二人は喧嘩で仲間割れでもしたのだろうか?タプリスはサターニャの顔を見た後、ひかげを含めた三人の顔を見て
「ま、まぁ別にサターニャさんがいても皆さんがいるのなら......」
そう言って輪の中に入った。今の所の印象だと礼儀正しそうな一般人っぽいがまだ油断はできない。ここのメンツはこれまで色々な想像を上回ってきた。今置かれている自分の立場も含めて『常識』の枠内で物事を考えると、大抵手痛いしっぺ返しを食らってきた。ひかげは一層気を引き締める。
食堂に着いて各自が注文を済ませて席に着いた。特に変わった様子も無いし大丈夫そう......であってほしかった。
「えっと......サターニャ?」
目の前で行われているサターニャの行動に思わず声をかける。
「どうしたの?」
「いやそれ......多くない?」
サターニャの注文したうどんにはもうすでに十分すぎるほど麺に七味が絡みついている。
「そう?前もこうやって食べたけど美味しかったわよ?何故かガヴには不評だったけど......」
そりゃ激辛ハンターとかじゃない限り、んなもん食えたもんじゃないだろ......もしかして最初にガヴリールが学食に乗り気じゃなかったのってその一件が原因だったのでは?
「ヴィーネのにもかけてあげようか?」
「へっ?いやいや、大丈夫、私はこのままでいいって!」
普通の天丼を色だけ鉄火丼にされようもんならこちらもたまったもんじゃない。一番サターニャの様子を見て怪訝そうな顔をしているのはタプリスだった。こんなことしてるから警戒されてるのだろうか。
と、最初はそんなこともあったがその後は特に何事もなく、適当な話をしながらそれぞれが食事を終えた。空っぽになった食器を片付けようとしていると
「あの......すみません」
後ろから声がした。タプリスだ。
「どうしたの?」
そう尋ねると
「今日の月乃瀬先輩何かいつもと違いません?」
うおっ、また来たこの質問。だがもうこの質問には慣れたものである。
「そうかな?特にそんなことはないと思うけど......」
ラフィが勝手に勘繰ってるキャラ付けの設定を明かすメリットもないし、とりあえず平静を装うことにする。
「......いや、やっぱり今日の先輩おかしいです!」
おぉっ、意外とグイグイ来るんだなこの子......正直少し侮っていた。そう来るのなら一応こちらも探りを入れてみる。
「おかしいって、例えばどんなとこが?」
とりあえず軽ーく聞いてみる。これで向こうが何と言うかでこっちも対応が変わってきそうだし。
「いやもう色々とです。雰囲気とか喋り方も違いますし......あともし違ったらものすごく失礼かもしれないんですけど......いや、やっぱり多分そこは気のせいだと思いますけど......」
タプリスは結構的確に突いてきた。今まで出会った中で一番鋭いのかもしれない。そうなると最後に濁してきた部分が気になってくる。
「最後何か言いかけてなかった?」
「へっ?あ、いや、それは流石に気のせいだと思うので......それにさっき言った通りかなり失礼だと思いますし......」
「大丈夫だって。そこまで言われたらむしろ気になっちゃうし、別に怒ったりなんてしないから」
「......本当ですか?」
「うん、怒らない怒らない」
向こうの警戒心を解くために笑って聞き出そうとする。これまでに背が縮んだこととかも指摘されてるし、大体その辺りだろう。それに治せることなら聞いておけば後々の振る舞いの参考になるかもしれないし。
「えっと、何かちょっと顔がいつもと違う気がして......あっ、もしかしたらその、先輩寝不足とかでそのせいでそう見えてるだけかもしれないんですけど......その、ごめんなさい!」
頭の奥を鈍器で殴られたような気がした。あれ?気づいてもらえたのって喜ぶべきことなのかもしれないけど、ここまで来た以上は迂闊に本性表すわけにもいかないし、これどうするのが正解なの......?
なんのリアクションも出来ないままポカンとしているとマズいことを言ってしまったと思ったのか
「えっと、今のは忘れて下さい!ホントごめんなさいごめんなさい!」
そう言って逃げるように食堂を一人で出て行ってしまった。今度からどんな顔をして会えばいいんだ。私も元の世界に戻った後のヴィーネも。
「ふー......あれ?タプリスは?」
片付けが終わり四人で集まって、タプリスがいないのを不思議に思ったガヴリールが言う。
「確かヴィーネさんの方に行ってたのを見ましたが......」
ラフィが答える。少なくともさっきの時間でこちらはラフィを見た覚えはないが....野生動物並みの視野でも持っているというのかラフィは。
「えっと、さっき一人で戻って行ったよ。何か急ぎの用があったらしくてさ」
さっきの一件を話すのは流石に気が引けるので適当な理由をつけてはぐらかす。
「フン、私に恐れおののいて行ってしまったようね。まぁ天使がこの大悪魔としてのオーラに怯えるのも無理はないわね」
「(タプリス以外にも確実に一人、推定でもう一人微塵たりとも恐れていない天使がいるんだけどな......」
「途中から何か声出てるわよアンタめちゃくちゃ失礼ね......てか推定って何よ」
ついつい表情じゃなくて声にまで出してしまった。それにしてもあのタプリスって子には特に気をつけないと......いや何に気をつけたらいいんだ。ラフィ然りタプリス然り天使は観察眼に優れているのか?もしくはただのストーカーか......
というか今思い返せば現状打破のためには気づいてもらえた方が良かったはずなのに、自分がヴィーネでないという事をどうして言い出せなかったのだろうか。
未だにどの立ち居振る舞いが正解なのかが掴めないままその日は午後の授業に入ることになった。もう深く考えすぎるのはやめよう。大事な時っちゃ時だけど、たまには事なかれ主義でもいいよね。うん。