れんげ「ひか姉の様子がおかしいのん....」ガヴリール「『最近の同級生の様子が少しおかしいんだが』ってスレ立てとこ」 作:開屋
そしてこちらは、舞天高校の一年生の教室である。食堂から教室に戻って来たタプリスは、教室にいたメイと篠原に食堂での話をした。
「月乃瀬先輩って前に会った......」
「そうです、黒奈さんが前に本当に悪魔かどうかってテストしてた先輩です」
「そんなことしてたの......?」
いまいちイメージのつかない状況に篠原は呆れ気味に言う。
「まぁその時は色々ありまして......話は戻しますけど、それで今日は月乃瀬先輩の何か様子がおかしかったんです。なんかこう......言葉では言い表せないのですが」
「それなら気のせいじゃない? ほら、千咲って結構警戒心強い感じだし、なんかこう、小動物みたいな」
「小動物って何ですか......」
「ジョーダンだって。でもホントに気にしすぎてるだとは思うよ?他の先輩とかも普通にいたんでしょ?」
「そ、それはそうですけど......確かに私の気にしすぎなのでしょうか......」
「......」
メイは二人の会話を意味あり気に聞いていた。特に口を出すことはなかったが。
その日の放課後にひかげが家に帰ろうとすると、見覚えのあるのとそうでないシルエットが見えた。片方はタプリスである。
「あっ、月乃瀬先輩!」
タプリスが声を掛けてこちらに向かってくる。見覚えのないもう一人も後ろからついてくる。
「ど、どうしたの?」
「あの、たまたま帰ろうとしてたら、たまたま月乃瀬先輩に会ったので一緒に帰ろうかなって思ったんです。大丈夫でしょうか?」
やけにタプリスは『たまたま』を強調してくる。というか後ろの子はホントに誰だろうか?タプリスとは大分毛色の違ったタイプのようだが......その子はじっとこちらを見ている。正直見られてる立場としては気が気でない。タプリスの方だって油断ならない存在なわけだし。
「......確かに違うかも。雰囲気が前の時よりも悪魔っぽい」
「いきなり何言ってるんですか黒奈さん!?」
ホントにいきなり何言われたんだ自分......前の時より悪魔っぽい? じゃあもう本物のヴィーネは悪魔じゃないんだよきっと......それなら今の自分は何者なんだ。
「あ、あのホントにごめんなさい月乃瀬先輩!それではまた!」
そう言ってタプリスはメイを連れて逃げるように去って行った。メイの正体を知ることも出来ずに。いやまぁあの様子じゃ十中八九悪魔だろうけど。というか一緒に帰るんじゃなかったのか?何故か一人で廊下に取り残された空虚な気持ちを味わう羽目になってしまった。これひょっとしたらタプリスも悪魔なんじゃ......
「いきなり何言っちゃってるんですか黒奈さん!?」
「だってそう思っちゃったから......この前の抜き打ち診断ではよかったけど、それ込みにしてもやっぱりあの人悪魔っぽくないし」
「そうは言ってもそんなにストレートに言っちゃダメじゃないですか!」
「それなら別の聞き方してくる」
そう言ってメイはタプリスを置いて行ってしまった。
「えっ!? 黒奈さん!?」
すかさずタプリスは後を追った。
「ホントに何だったんだ......」
とりあえずさっきの一件は忘れよう。うん。アレだ。自分自身がピコやルーチェのような悪魔の近くによくいる分、そういった気のようなものに当てられているのかもしれない。いや、それなら元のヴィーネは——の無限ループに陥りかねないのでもう深く考えるのはやめやめ。今の一件は疲れが見せた幻か何かだろう。出来れば今の状況も全て幻であってほしいものなのだが。
まぁそんなムシの良い話がある訳もなく、物は試しにと軽く頬をつねってみたが案の定痛い。一つため息を吐いてひかげは昇降口に向かう。とりあえず今日は早く帰って......
「......待ってた」
いる。暫定最有力の悪魔の子がいる。後ろではタプリスが肩で息をしている。もういい加減釈放してくれ。てか釈放も何も、別に悪いことしてないし無罪放免で許してくれ。
「月乃瀬=ヴィネット=エイプリルさん......あなたに一つだけ質問します」
え?いきなり何が始まるの? 正直めちゃくちゃ怖いんだけど。質問? もしかしてさっき自分の所に来たのは、何か質問しようとしてたのだろうか? それなら去り際の言葉が謎過ぎる。
「あなたは食べてはいけないものと知らずに置いてあったお菓子を食べてしまった。それを食べてしまった後に『そのお菓子は食べてはいけないものだった』と知った時、あなたはどうする......?」
こちらが色々考えているのを他所にメイは質問してくる。てかなんだこの質問。身に覚えがあり過ぎて怖いのだが......月見の時の記憶が蘇ってくる。確かあの時は......
「......バレない様に偽装工作する」
この答えが正しいかどうかは知らない。
「......ファイナルアンサー?」
「......ファイナルアンサー」
おそらくこの質問に正解した所でミリオンの価値はない。ファイナルアンサーの重みとしては、これまであらゆる世界で交わされた中でも相当に軽い部類だろう。
「......なるほど」
それだけ言ってメイは去ってしまった。え?正解なの? それとも間違ってたの? せめて正解発表だけでもしてほしかったんだけど......タプリスも最後にこちらに一礼だけしてメイを追って行ってしまった。えぇ......何この虚無感。何のためのファイナルアンサーだったのか......?
「黒奈さん!なんで何も言わず行っちゃったんですか!? というかさっきの解答ってあれでよかったんですか?」
「......半分正解、半分不正解」
「どういうことなんですか......」
「バレないような振る舞いをするというのは合ってる。でも偽装工作をするっていうのは違う。」
「それなら模範解答って何なんですか?」
そうタプリスが尋ねると、メイは文字通り悪魔のような笑みを浮かべて答えた。
「......別の人に罪を押し付ける」
「うわぁ......ってそうじゃなくて!結局これで月乃瀬先輩について分かったんですか?」
「......これだけじゃ分からない。想定していた解答の中で一番判断に困るものだった」
「えぇ......」
あらゆる場所で謎はどんどん深まっていく。