れんげ「ひか姉の様子がおかしいのん....」ガヴリール「『最近の同級生の様子が少しおかしいんだが』ってスレ立てとこ」 作:開屋
ガラガラガラッ!と、勢いよく戸が開けられた宮内家の方に今度は視点を戻す。
「お邪魔しまーす」
また来客である。それも今までに聞き覚えのない声である。
「あっ、このみちゃんじゃん!」
「ひかげちゃんが帰って来たって聞いたからね。いつ帰るとかは聞いてないし、その前にせっかくだから顔を合わせときたくて」
「なんか今回のひか姉大人気なのん」
れんげの発言がホントなのだとすれば、どうして今回に限ってこうも来客が多いのか。同じ学校に通ってるあの三人(四人だけど)ならともかく、楓や今回のこのみのような『せっかくだから来た』のパターンがここまで頻発しているのはある種の神様の思し召しなのだろうか? そんな気まぐれ求めてないから......
このままずっと顔を出さない訳にもいかないし、自分に会いに来たという事なので不本意だが居間の方へ向かった。蛍もいる。いと気まずし。
「久しぶりだねひかげちゃん。最後に帰って来たのって2,3ヶ月くらい前だっけ?」
知らない知らない。
「えっとぉ......結構前だったよね。多分そのくらいじゃないかな?」
ボロは出せない。出来る限りの情報は向こうから聞き出しておきたい。なぜだろう、ラフィのような邪な感じではないが、この人もかなりの強敵に見えてくる。
「あれ?蛍ちゃんなんでそんなところにいるの?こっち来たらいいのに」
遠巻きに見ていた蛍をこのみが見つけた。なーんで気づいちゃうかなぁ......今お互いマトモに顔合わせられないよ。とはいえこのみにそう言われてそのままでいる訳にも行かず蛍はこちらへ来て座る。
「どうしたの? 何かソワソワしてるみたいだけど......」
「えっ? な、何でもないですよ?」
蛍は否定する。これまではこの感じでどうにか乗り越えることはできた。
「もー、蛍ちゃんは嘘が下手だなー。何か困ってることがあったら相談してくれたらいいのに?それともひかげちゃんの方がなにかやっちゃったりしたとか?」
「うえっ!?」
思わぬ飛び火がこちらに来た。なぜだ、特にそういうことを匂わせた訳でもないし来たのはあの会話よりも明らかに後だったはずなのに。
「そそ、そんなことないって!そもそもどうしてそんな風に......」
「だって蛍ちゃんとひかげちゃんお互い目が全然合ってないもん。というかお互い合わさないようにしてるように見えるし......」
やはりこれまでの人たちとは少し違う。旭丘のFBI捜査官このみの慧眼からは容易く逃れられない。どう取り繕えばいいだろうか。正直何を言っても見破られそうである。少し蛍の方に視線を移すがこちらと同じく切羽詰まっているらしく目を伏せている。
「まったく、せっかく久々に帰って来たんだからそんなギスギスした感じで終わったらダメでしょ? 何があったの?」
こちらに退く猶予を全く与えずこのみが訊いてくる。カツ丼でも出てようもんなら傍から見ればもう取り調べである。それももう相当に容疑者が追い詰められている段階で。
「えっと......実は......」
「なるほど、それでグイグイ来すぎちゃったわけかぁ。気持ちは分からなくもないけど......」
最後の部分を除いて大体のことを吐いた。うん、嘘はついていない。
「場合によってはそういう話もデリケートな問題になってくるからね、ひかげちゃんも気をつけないと」
ぐうの音も出ない。あの時は少し周りが見えていなかったのだろう。なんせガヴリールたちとそんな話をする機会は高校生活、いや、未来永劫訪れる気配も無かったわけだし、ついつい熱くなっていた。
ちなみにこの後、蛍にはしっかりと謝った。向こうも『気にしないでください』と笑って気を遣ってくれた。やっぱりこの子小学生じゃないのでは......隅に置かれているあのランドセルの持ち主はやっぱり小鞠なのでは......
「まぁでも彼氏とかの話は私も前に蛍ちゃんに訊いたんだけどね。小鞠ちゃんと一緒にいた時に」
蛍とこのみと小鞠の女子トーク......果たして小鞠はついて行けたのだろうか?まぁ恐らく無理だっただろうな。そう思いヴィーネは小さく笑う。
「にしてもひかげからそんな話をするなんて珍しいねー? もしかして向こうで誰か見つけたの?」
思わぬ掩護射撃によるカウンターである。どうしてこうも色恋沙汰に興味を示されるのか。それに関しては自分も言えたことではないんだけど......
「そ、そんなことないですよ!」
もう色々考える暇もなく否定してしまった。もし本物のひかげさんに彼氏さんがいるのだったらどう謝れば良いかわからない。いやでも夏海の発言からするにそんな風な質ではなさそうだし......いえ、何も失礼なことは考えてません、はい。何でもないです。
「ふーん、ならこの話はおしまいだねー......それとは別にちょっと気になることはあるんだけど、いいかな?」
そう言ってこのみはこちらを見てくる。もう自白したし疑いは晴れたはずなのだが。これ以上何だというのだろうか。冤罪なら当然お断りである。
「確かに彼氏がどうのってのは解決したんだけど、ひかげちゃんなんか雰囲気変わったね」
「そ、そう? 気のせいだとは思うけど......」
伝家の宝刀の切り返しである。『気のせい』はありとあらゆる疑問を跳ね除ける最大の免罪符なのだから。
「そうかなぁ? 今までのひかげちゃんはまだ染まり切ってない感じがしてたんだけど、今のひかげちゃんは何かに染まってるような......言い方が難しいなぁ。極端な言い方をしたら別人になっちゃってるみたいな感じがするんだよね。あっでも最後のはホントに極端な表現をしただけだからね。実際にそんなことはないとは——」
Oh......My Satan......とでも言えばいいのだろうか。もう途中から話が頭に入ってこなかった。というか染まるって何だろう。もしかして知らないうちに緊張で角とかが出てたりでもしたのだろうか。それとなく頭の部分を触ってみたが、別にそんなこともないわけで。
「そんなこと言われても......ねぇ」
何に染まっていて何に染まり切っていないのかが分からない時点で、このみの指摘に対応のしようがない。久々に会うとなればやはり他人の変化に敏感になるというのはあながち間違っていないものである。でもそれなら他の人たちは一体......
「お菓子持ってきたよー!」
急に廊下から声が聞こえてきた。夏海である。後から小鞠も来た。
「かず姉が持ってけって。ねぇ、今までどんな話してたの?」
夏海が訊いてくる。どんな話も何も、どうにもならない話である。
「別に大した話とかはしてないよ?」
「ふーん、そうなんだ......にしてはひかげの様子がおかしい気もするけど」
こちとらこのみに一気に攻め入れられた気分で冷や汗ダラダラである。そりゃ落ち着きもしないよ。
「まぁ......ね? せっかくだし夏海ちゃんも小鞠ちゃんも一緒にお話しようよ。おあつらえ向きといった感じでお菓子も出たんだしさ」
こっちからすれば地雷原にでもおあつらえられた気分である。もうお先は長くないかもしれない......