れんげ「ひか姉の様子がおかしいのん....」ガヴリール「『最近の同級生の様子が少しおかしいんだが』ってスレ立てとこ」 作:開屋
私の名前はいいんちょ、ではなくまち子。さっきほぼ言いかけたがクラスの委員長を務めている。(一部の)一癖二癖ある人達をまとめるという点では学級委員長はやりがいのある仕事だと思う。
さて、今日は期日の進路調査のプリントの提出日なんだけど......珍しく月乃瀬さんがそれを提出していない。天真さんが出していないのは別にいつものことなんだけど、ちょっと気になるし声を掛けてみようかな。ただあそこのグループって変な人たちばっかだから正直少し怖いなぁ......
「そういえば今日は進路調査のプリントの提出日ですけど、皆さんは出したんですか?」
「進路調査?」
身に覚えのないひかげが聞き返す。
「あれ? ヴィーネさん覚えてなかったんですか?今日あれ提出日でしたよ?」
マジかぁ......というか今の自分が赤の他人の進路なんかを決められるわけもないし、よくよく考えてみれば正直これって中々にヤバい事態なのでは?
「私はそんなもの配られた日に描き終えたわ。将来の私は当然全てを——」
「ガヴちゃんはなんて書いたんですか?」
「ちょっと聞きなさいよ!」
「進路? てかそんなプリントあったっけ?」
まぁハナから期待はしていなかったが。でもこれが首席で卒業したとなると、やっぱり天界のシステムはおかしいんじゃないだろうか。ここの学校でサターニャが卒業するようなレベルだと思えて来る。
「そういやヴィーネはなんて書いたの? 何となく見当はつくけど......」
ガヴリールが訊いてくる。気配を消したつもりではいたがさすがに無理があったか。というか心当たりがあるんなら別にこっちに話振ってこなくてもいいじゃん。少なくともその見当の範囲内がどのベクトルに向いたものなのかがこちらに分からない。下手な受け答えも出来ないし、かといって黙るのも違う気がするし、それなら......
「わ、私は......まぁ大体そっちの思っている通りだと思うし、そんな気にすることはないと思うな」
逃げの一手だ。逃げるは別に恥でもなんでもないし、それなりには役に立つ。
「ふーん......」
ガヴリールの返事はそれだけであった。解決したとは言え親しい中でこの反応も少し薄情な気もしなくはないが。
「そういえばこの様子だとガヴリールはともかくヴィネットまでプリントを持ってきていないってこと?」
「おい、私とはともかくとは何だ」
「アンタの日頃の行い考えたらそりゃそうなるわよ。でも今回はあのプリントで書いてることを元にして面談あるんでしょ? ......それもグラサンの。だから遅れるにしても早く出しといたほうがいいんじゃない?」
そう言ってサターニャは遠い目をする。てかグラサンの進路相談マジ?
「そういやそうじゃん。グラサンとの面談とか正直キツ過ぎるんだけど......」
あのグラサンとの面談とな? サシで? ......無理無理無理。
「まぁ提出するのはいいんちょの所だし、頼み込んだら猶予も生まれるよ。何だかんだ——」
「こらこら、聞こえてるわよ......まぁ明日までに出してくれるなら大丈夫だと思うけど」
いいんちょ本人が出てくる。そういえばこの子委員長だったな。こんなメチャクチャなモラトリアム要請呑んでくれるだけでもありがたいものだが。
「それにしても月乃瀬さんが提出物遅れるなんて珍しいね。もしかして何か悩んだりしてることでもあったりしたの?」
「ま、まぁちょっとね。これからのことを考えるってなったらどうしても色々とね......」
「ん?でも今さっき大体は......ムグググ......」
何か言おうとしたガヴリールの口を抑え込む。
「と、とりあえず明日になったら出すからさ!ちょっと待っててくれるかな?」
「まぁそれなら大丈夫だと思うけど......天真さんもそれでいいかな?」
「あーうん、まぁそんな感じで」
「どうしようもないほど信頼できないわね......まぁ明日よろしく」
「へーい」
やる気もへったくれもないガヴリールの返事を聞いていいんちょは戻っていった。
「進路かぁ、さっきはああ言ってたけどヴィーネも悩んでるのか?」
「え?えっとぉ......」
「まぁ大した力にはなれんと思うが相談には乗るよ」
さっきは薄情かと思ったがそう言うほどでもないのかもしれない。そもそもガヴリールは先に自分の将来考えた方がいいと思うが......
にしても進路かぁ......私も高校卒業したら東京で仕事するのかなぁ......それとも案外地元に戻ってたり......
うん、この現実逃避はさすがに露骨すぎる。もう自分で現実逃避をしている自覚さえもある。明晰夢みたいなものか? ......また何か考えていることが錯綜してきている。ついでに明日までと言ってしまった。借金取りからの取り立てを受けている気分だ......今回の場合はこっちの不手際っちゃ不手際なんだけどさ。元は自分の知ったこっちゃねーけど。
と言うかまずどこにプリントがあるか知らないんだよなぁ......せめてさっきの時に聞いておくべきだった。かといって今貰うってのも何か体裁が悪いし......カバンの中見ても無かったし家にあるはずあるはず。
いやあったところでだよ。見つけたところで何を書けと? そもそもこの進路調査は悪魔準拠なのか人間準拠なのか? そこの選択を見誤れば......いやでもこれはさすがに人間界の基準ってことだよな。あくまでサターニャが変なこと書いてるだけで......にしても何を書きゃいいんだ......
出したところで待っているのはあのグラサンの進路指導である。確かに悪い先生とかじゃないんだけどさ......見た目では人は判断しちゃいけないのは分かってるんだけど、あの人の前で下手なことは書けん。どっかに沈められそう。
X-Dayは明日である。もしかすると明後日には死んでいるかもしれない。せめて最後にれんげたちの顔を見ておきたかったものである。
「どうしたんですかヴィーネさん? もうみんな帰っちゃってますけど......」
「へっ?」
不意打ちにラフィに声を掛けられて周りを見回す。気がつくと眩しい陽が窓に突き刺さってきていて、その中にも翳を落としている教室の隅の一角は自分の未来を暗に示しているように見えてくる。柄にもなくセンチメンタルになっているのはきっと今の自分が精神衛生上で不安定なゾーンに置かれているからに違いない。
「ちょっと進路のこと考えててね。色々と......」
「なるほど......とはいっても今の時間で書けそうですか?」
「う、うーん......まだまとまりきって無いかなぁ」
とりあえずしばらくの間ラフィと帰るのは避けておきたい。『先帰ってていいよ~』的なオーラを出しておく。
「いや、そうじゃなくて......」
「まぁ最悪家に帰ってからも考えるから——」
「『貴方』がこれを書けるのか、と私は言っているんですよ?」