れんげ「ひか姉の様子がおかしいのん....」ガヴリール「『最近の同級生の様子が少しおかしいんだが』ってスレ立てとこ」 作:開屋
「......えっ?」
ラフィの言葉の意味は理解しかねたが、どこか本能的な恐怖を感じた。
「ですから、ヴィーネさんの進路について貴方が書けることがあるか、と私は聞いてるんです」
そう言っていきなりラフィが距離を詰めて来る。待って、今までのラフィの中で一番怖い。柔和な表情の中に似つかわしくない底知れぬエグい何かが見えたような気がした。
「あの......えっと......」
思わず涙目になり歯切れの悪い言葉だけが口から出て来る。ラフィは元々近かった距離をさらに少しずつ詰めて来る。
「質問に答えて下さい。貴方はヴィーネさんに成り代わって一体何を企んでいるというのですか?」
成り代わる!? そんなもんこっちの与り知ったことじゃない!そもそも今の事態に陥っているのだって不可抗力である。こちとら朝起きたら気が付いたら赤の他人になっていて、その人として生活しなければならないという業を背負い込まされているというのに、今はどうして身に覚えのない罪を咎められているというのか。迫られる恐怖と理不尽さによるやり場のない怒りが頭の中を渦巻く。
ゼロ距離近くまで詰めて来ているラフィは激烈たる殺意のようなものを纏わせている。今までに見たことのない表情だ。とりあえず今はどうこれを切り抜ける? 緊張で頭が回らない今じゃ弁も立たない。腰が抜けて逃げることもできない。万一逃げたところで追いつかれそうだし、文字通り万事休すである。斯くなる上は......何も思いつかない。こんな『斯く』なんて想定外だ。強いて言うなら土下座くらいだ。でも正直そんな生温いもんで許してもらえるかも分からないけどやるだけやってみて——
「......フフッ」
幻聴だろうか。ラフィの笑い声が聞こえた。いや、これからの愉悦に心を震わせてるのかもしれない。そうだとすれば相当なドSである。私はこれからどんな目に遭わされると言うのだろうか。
「......なーんて、冗談ですよ」
......冗談? どこからどこまでが?私が別のモノに成り代わっているってところ? それともさっきの殺意? まだ頭がうまく回らない。何にも分かんない。
気が付くとラフィはの先程の殺意は形を潜め、またいつもの柔らかい表情に戻っている。背後に何か黒いオーラが見えなくもないが......
「へ?」
「だから別にそんなつもりはないって言ってるんですよ~」
とりあえず敵意が無いことが分かって心底安心した。正直その気になれば何の躊躇いもなく人殺したりしそうな顔してたもんさっき。
「じゃあ別のモノに成り代わってるって言ってたのもドッキリかぁ...... ビックリさせないでよ」
「あ、そこはマジですよ?」
へ?
「あなたがヴィーネさんじゃないと確信を持って分かったので、ちょーっとだけサプライズをしようと思ったんです。中々ドキドキしたんじゃないですか?」
そりゃあもうこの先3年分くらいドキドキしたよ。辞世の句さえ読もうと思ったもん。ここまで来るともはやサプライズと言うかドッキリ......さえも超えた別の何かである。......と、ここでふと疑問が一つ浮かんだ。
「......私がその、ヴィーネっていう悪魔じゃないって気づいたのはいつ頃なんですか?」
さっきの余韻がまだ冷めず、ついつい敬語になる。まぁ向こうのが年上だし不自然ではないんだろうけど。
「そうですねー......8割方感じ取ったのは私が貴方のことを『粗い気がする』って言った辺りでしょうか? 残りはその後のやり取りとかで」
いっちばん最初かよ!? それじゃあここまで素性を隠してきた苦労は一体何だったってんだ......ってことはハナからラフィは色々慌てふためく姿を見て楽しんでいたという事なのか? あの時にキャラ付けとか言ってたんもワザとこちらを泳がせるための発言だったというのか? やっぱりコイツ悪魔じゃねーか!
「まったく......いやもうホントに何だったんだよ......」
なんかもう、色々馬鹿馬鹿しくなってきた。
「まぁまぁ、みんな待ってますしもう帰りましょう」
「みんな待ってる?」
よく分からないがラフィに付いて来るよう言われたので、他にどうすることもできないし渋々それに従うことにした。
一方こちらは『待ってるみんな』サイドである。ガヴリール、サターニャはもちろん、タプリスとメイもいる。
「少し待ってろって言われても何なんだろうな。ラフィがなにか企んでるのはいつもと変わらんことだが」
「どうせロクなこと考えてないわよアイツ。それにヴィネットがいないっていうのも気がかりだわ。もしかすると二人で何か仕掛けて来るんじゃないでしょうね」
「そんなことはないと思う。お姉さん悪い天使じゃないから」
「そ、そうですよ!それに月乃瀬先輩はそんなことするような方じゃありません!」
「後者は悪魔にとって誉め言葉なのか? まぁ私もヴィーネの方はあんまり悪ノリしないとは思うが......あっ、ラフィ来た」
「どっ、どんな感じ?」
サターニャはガヴの後ろで身構える。
「さすがに怯えすぎだろ。特に何とも無さそうだけど......あっヴィーネもいる」
ラフィとひかげが四人の前まで来た。
「待たせちゃってすみません。えっと、それでは改めて自己紹介をどうぞ!」
そう言ってラフィがこちらにマイクを差し出す仕草をする。いきなり何だと言うのだろうか......付いて来るように言われて付いて来たんだけど、こんなことするとか一言も聞かされてないんだが。にしても自己紹介ねぇ......まぁ適当でいいよね。.
「えっと......ヴィーネ? さん改め宮内ひかげです......? 何なんですかこれ......」
当然辺りは変な空気に包まれる。向こうサイドも誰一人として状況を理解できていない。
「......何言ってんだ?」
そりゃそうだろうよ。そう返事するだろうさ。
「えっと......まだ気づいてないですか?」
ラフィが困惑する。その表情さえも芝居なのか素なのかが分からない。でも多分素の表情の気がする。
「ラフィエルさん、とりあえず状況の説明だけしてやってください」
ひかげがため息を吐いてラフィに促す。
「えぇ......私がやるんですか?」
だってもうなんか色々あって疲れたんだもん。そもそもアンタ一人楽しむためにこんなことしなけりゃ、こんな面倒な事態にはならなかったと言う訳だし。まぁバレたらバレたでどうなるかは知らんけど。
「しょうがないですね。それじゃあ最初に——」