れんげ「ひか姉の様子がおかしいのん....」ガヴリール「『最近の同級生の様子が少しおかしいんだが』ってスレ立てとこ」 作:開屋
「えっと......色々気になるんですけどまずあなたは?」
このみがおずおずとした様子で訊く。一体どう説明すべきか......
「そうですね......えっと、まず皆さんも今ので分かったと思いますが私はひかげさんという方ではありません」
「じゃあ名前はなんていうのん?」
「えっと、『月乃瀬=ヴィネット=エイプリル』です」
「う゛ぃね......えいぷりる......? 外国から来たの?」
夏海は混乱している。
「外国......うーん、まぁ日本から来たってわけじゃないかなぁ」
ヴィーネも返答に困る。続けて小鞠が訊く。
「あと気になったんですけど......さっき何か角とかあと尻尾みたいなの生えてなかったですか?何かその......悪魔のみたいな」
「えっ!?そ、そそそ、そんな悪魔だなんてことないですよ!?」
「いや私は悪魔みたいなって言っただけだったんですけど......」
小鞠が苦笑いを浮かべる。
「......本物の悪魔だったりするんですか? もうこの際何言われても疑いませんよ。いきなり天使みたいな方が現れたりしたんですから」
確かに今この空間は通念的な常識を超越した場である。正体を隠すのも無駄に思えるほどに。
「そうですね。まぁ私は所謂悪魔です......」
一度そうカミングアウトしてしまえば一気に肩の荷が下りた気がする。いざそれを聞いた夏海たちはどこか怯えている様子だが。
「待ってよ......それじゃ昨日とか今日作った料理に何か盛ったとか......」
夏海が顔を青くして言う。
「そ、そんなことはしてないです!」
実際心外であるが悪魔というイメージ上、仕方のない風評被害ではある。だがそんなことは神に誓ってでもやっていないと言おう。崇拝先がおかしいのは気のせいである。
「でもすごく料理美味しかったのん!また食べたいのん!」
れんげは素性を明かした上でも料理は好評だったようである。最初会った時から思っていたがこのれんげという子はどこかズレているが、それを差し引きした上でもかわいい。思わず笑みが零れる。
「気をつけろれんちょん!その悪魔はれんちょんを狙ってるかもしれない!」
夏海はまだこちらに対する警戒心が解けていないようである。仕方ないことだが。
「月乃瀬さん、でしたっけ? でもホントに料理も上手だったし、勉強も教えてくれたし、何かすごい『お姉さん』って感じがしました!正直ちょっと羨ましいです」
小鞠に関してはこちらにほんの少しの嫉妬と、尊敬の眼差しを向けている。それでいいのか姉貴よ。ただ一番複雑に思ってそうなのは......
「え、えっと......月乃瀬さん、悪魔なんですか?」
蛍が苦笑いして訊いてくる。
「は、はい......なんかもう色々とすみませんでした......」
来年の事を言えば鬼が笑う。好きな人の事を言えば悪魔は戸惑う。果たしてそれを知ってしまった蛍の心中はどうなっているのだろうか。まぁお互い何も分かってないんだけど。
不意に廊下でこちらを見ている兄貴に目を向ける。相変わらずのポーカーフェイスである。結局この人についてはよく分からなかった。恐らく蛍がこの人のことを好いていること以外は。つまり客観的に言えば何も分かっていない。
ある程度経って気まずい静寂が訪れた頃、またさっきの眩しい光が襲い掛かった。どうやらラフィが戻ってきたらしい。そこにはもう一人誰かいるようだった。ラフィが誰かを背負っているようである。
「ん? ......ええ!?」
ラフィが背負っている『誰か』に最初に気づいた小鞠がそちらの方を指す。間もなくして他のみんなも気付く。
「ひか姉!?」
「ひかげ!?」
「ひかげちゃん!?」
呼び方はそれぞれであったが一斉に大声を上げる。
「あの....これめっちゃ恥ずかしいんでそろそろ下ろしてくれませんかね......妹におんぶされてるの見せる羽目にになっちゃったんですけど......」
「そうですか? 天使に運んでもらえるなんてまたとない機会じゃないですよ~?」
「今回の一件で天使の存在が自分の中で大分危ういもんになったし。そんな機会も減ったくれもねえよ......」
ここで思わずタメ口が出る。心からの気持ちだった。
「えっと、ラフィさんでしたっけ? 言ってることがホントならあなたが天使なんですか?」
このみが尋ねる。さすがの順応性だ。
「まぁそうですね。なのでヴィーネさんとは敵対関係って感じです」
「......ややこしくなることばっか言わないでくれるかなぁ。えっと、別に今の私達はそんな敵対している関係ではありません。天使と悪魔の言い分なんでどっちを信じるとなればこちらは自信はないですけど......」
「今までのヴィーネさんとラフィさんのやり取り見てたら何となく悪魔の方が正しい気もするけどね」
小鞠が苦笑いを浮かべる。それでもラフィはそんなことをお構いなしと言った表情である。
「いやぁ、それにしてもここはすごくいい雰囲気ですね。退屈しない天界って感じがしてこんな所に住んでみたいものです。どうですか? できれば一泊だけでも......そうしたら責任を持って私が皆さんを天国に......」
「ラフィ......またいい加減なことばっかり言って......ほら、もう帰るわよ。さっきのひかげさんみたいに私を乗せて元の所に戻れるでしょ?」
ヴィーネが呆れた風に言う。
「それが......短時間でちょっと力を使いすぎてしまったようで、一泊とまでは言わないんですけどちょっと休んでからじゃないと確実に戻れるか分からなくなってしまって......なので少しだけ休ませてほしいです」
まぁこの短時間でかなりの回数遠距離での神足通を使ったので仕方ないっちゃ仕方ないかも知れない。
「......まぁそれなら仕方ないわね。ちょっとラフィをここに置いてても大丈夫ですか?」
ヴィーネが人間組に訊く。
「別に大丈夫だと思うのん。多分ねえねえもいいって言うと思うのん。今昼寝してるけど」
れんげが一穂の寝ている部屋の方を見て言う。するとちょうどそのタイミングでそちらの方から物音がする。
「なんだなんだ......えらく騒がしいみたいだけど......」
一穂の声だ。そう言ってこちらの部屋に来る。
「んー? 見慣れないお客さんがいるね......ってひかげが二人いる!? ......何だまだ夢ん中か。それならもう一眠りっと......」
「夢じゃないのん!それに片っぽはひか姉じゃないのん!」
一穂が引き返そうとするのをれんげがクリーンヒットした膝カックンで止める。というか『片っぽ』って......
「うん......まぁこの様子だし別にいても大丈夫じゃないかな?」
半分呆れ顔で夏海が言う。(ラフィと相対的に)常識的な行動が伺える分、大分ヴィーネに対する警戒も解けてきているようだ。
「すみません。ほらラフィもお礼しなさい」
「(何かこっちの世界では尚更ヴィーネさんが保護者みたいですね......)」
そんなことを考えながらラフィはれんげ達に礼を述べた。