れんげ「ひか姉の様子がおかしいのん....」ガヴリール「『最近の同級生の様子が少しおかしいんだが』ってスレ立てとこ」 作:開屋
最初は家に帰ってゆっくり考えるだけのつもりでいたが、さっきのガヴリールの話を聞いた後では少々事情が変わってくる。とりあえず今はガサ入れだガサ入れ。
まずは今朝も見たが生徒証を見てみる。当然っちゃ当然だが最初に見た時と何も変わった所はない、にしても『月乃瀬』はいいとして『ヴィネット=エイプリル』ってホントスゴい名前だな......帰国子女という可能性も浮かんできた。他のメンバーもサターニャにラフィエル、果てにガヴリールと来たもんだしそういう集まりで親しくなったのだろうか。
他に何か素性の分かりそうなものでもないだろうか....そう思って探していると思わぬものを見つけてしまった。
「......通帳?」
正直なところ、他人様の通帳を勝手に見るというのは大分気が引けた。こうなってしまえばガサ入れというか単なる空き巣である。いやでもあくまで今は自分が通帳の持ち主なんだから別におかしいことはないかも知れないんだけど。むしろ今は根本的なことがおかしいのである。
少々躊躇いはしたが中身を見てみる。どうやら仕送りで生活しているらしい。とはいえその額はあまり高くはないようで、経済的にとても豊かな生活をしていると言う訳ではなさそうである。
......と、ここまでは第三者から見た一般的な見解である。別段おかしなことはない。中身は。
「魔界銀行ってなんだよ......」
嫌でも真っ先に目に飛び込んでくる『魔界銀行』の文字にさすがにひかげもツッコミを入れる。いや、もしかしたら自分の好きにカスタマイズしているだけかもしれない。普通にゆ〇ちょとか、り〇なの通帳とかを本人の趣味とかで外面だけアレンジしているのかもしれない。そうでないと極力一番考えたくなかった仮説が信憑性を増してきてしまう。
通帳はとりあえずこのくらいにしておこう。あんまりじっくり見るのも、どこかこそばゆい気がするし......っと、机の上に日記がある。これまたプライバシーの侵害で訴えられそうな材料である。まぁ他人の日記というのに興味が無いわけでもないのだが。
「ま、まぁあくまで情報収集のためだから......うへへ......」
そう、今の目的はアイデンティティの特定なのである。そのためならこれも止むを得ない行動......といったような自分の中で都合のいい理由をつけて、下心のまま覗いてみる。かなり几帳面な雰囲気の文字だ。やましい気持ちで開いたのが少し恥ずかしい。
書かれているのはその日学校であったこと、献立のことなど、文字から読み取れる性格まんまの几帳面なものであった。同じくらいの歳にしちゃ人格形成がうまく出来過ぎてないかこれ?
あとガヴリールについて憂いている文面が多く見られた。まぁあんなのに誠実に向き合いでもするんなら、不満やストレスの一つ二つくらい抱えることになるのは想像に難くない。
これまたあんまり見ているのも気が引けるのでそろそろ見るのを止めようと思った時、思わず二度見してしまうような文があった。
「『今月も魔界からの仕送りが減った』......?」
確かにとある日の日記の一文には『魔界』と、そう書いてあった。これまでと変わらない丁寧な文字で......いやいやまさか。そうだ、厨二病ってやつの可能性がある。もしくは日本にだってそんな地名があるかもしれない。どこかの県に『龍神村』なる地名があるというのをどこかで見た。それなら国内のどこかに『魔界』なる地名があるかもしれない......いやねーよ。
「はぁぁぁぁ......これマジじゃん」
どうやら思いつき得る限りでは最も避けたかった『自分悪魔説』がほぼ立証されてしまった。なんてこった......見る分には楽しいが、自分がそうとなれば話は大きく変わってくる。そもそも悪魔らしい行動って何をすればいいんだ。さっぱり分からん。
ましてや魔界から仕送りを受けるイマドキ悪魔の自然体なんて知ったこっちゃない。サターニャのアレか? ......いやいや無い無い無い無い。というか仕送りが減ったというのは親の不景気か、もしくはこの頃から歩合給の概念が浸透しているという事なのか。後者だとすれば随分魔界というのはシビアなものである。
色々考えているうちに結構時間も経っていた。
「腹減ったなぁ......」
そう呟いてのそのそとキッチンの方へ行く。これまた随分とキレイに保たれていて、よくイメージされるような『一人暮らしの学生のキッチン』とは違う。今まであまり気に留めなかったがこの部屋、随分と隅々まで掃除が行き届いている。こりゃ自分も度の超えた怠惰な生活はできない。
「カップ麺とかもほとんど無い......自炊メインかこの人、じゃなくて悪魔か......」
バツ悪そうにひかげが苦笑いする。自炊なんてすることもそうそうないしこれはまた困ったものだ。その日はとりあえず今あるものをテキトーに調理して夕食は済ませた。
夕食を終えるとすぐにどっと眠気が来た。一日中気を立てていたせいかかなり消耗していたらしい。とりあえず今日は風呂入って早い時間に寝るとするか。
色々と済ませて、目覚ましも今朝と同じ時間にセットして電気を消そうとした時、ひかげはふとあることを思い出した。
「日記....一応ちょっとでもつけといたほうがいいかな」
大きなあくびをして机に向かう。日記とは言っても、そもそもどこから書けばいいのだろうか。何も無くて書けないという事はあるかもしれないが、あり過ぎて書き切れないというのも困ったものである。
「とりあえず『知らん奴になってた。ビックリした』と、少しは丁寧な字で書くか......」
程々に綴って寝ようとしたが、急にもう一度日記の中身が気になった。いざ目の前にするとこういうものは気になってしまう。とりあえず最後に見たところから一、二週間分くらいだけ遡って見たら寝よう。
......ん?
「『今日もガヴは相変わらず。いい加減自分が天使だという自覚を取り戻してほしい』?」
......ウッソでしょマジで?